『白い診察室』

真田直樹

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「若き心の病院」

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東京の郊外。

丘の上に、その病院はあった。

高いフェンスもない。
鉄格子の窓もない。

白い建物の前には、小さな庭があり、ベンチが置かれている。

看板にはこう書かれていた。

「若葉メンタルセンター」

ここは――

10代専門の精神科病院。

藤川優斗は、病院の入り口で立ち止まっていた。

新しい白衣。

新しい職場。

だが、胸の奥には少し緊張があった。

受付の看護師が笑う。

「藤川先生ですね」

優斗がうなずく。

「今日からよろしくお願いします」

院内は静かだった。

廊下には若い患者の姿がある。

制服姿の少女。
スウェットの少年。

普通の病院とは少し違う空気だった。

ここは大人の精神科ではない。

若者の心の病院。

院長室。

院長の中村医師が優斗を迎える。

「よく来てくれました」

優斗が頭を下げる。

「よろしくお願いします」

院長が説明する。

「ここに来る患者は三つのタイプが多い」

ホワイトボードに書く。

不登校

自傷

摂食障害

院長が続ける。

「最近、急増しています」

優斗はうなずく。

都市の精神医療でも同じ傾向だった。

院長が言う。

「10代は特別な時期です」

「心がまだ発展途上」

「環境の影響が大きい」

その時。

看護師がノックする。

「先生」

院長が振り向く。

「新患です」

診察室。

優斗は初めての患者を迎えた。

少女だった。

十五歳。

制服を着ていない。

パーカー姿。

椅子に座ると腕を隠す。

優斗は気づく。

手首。

うっすらとした傷跡。

自傷。

優斗が静かに言う。

「こんにちは」

少女は小さく答える。

「…こんにちは」

カルテを見る。

名前。

小林結衣

中学三年生。

優斗が聞く。

「今日はどうしましたか」

少女は少し沈黙する。

そして言う。

「学校行ってない」

母親が隣で言う。

「半年です」

不登校だった。

優斗がゆっくり聞く。

「理由は?」

結衣は小さく言う。

「クラス」

また学校問題だった。

優斗は急がない。

沈黙を待つ。

結衣が言う。

「人が怖い」

その言葉は重かった。

十代の患者に多い症状。

対人恐怖。

優斗が聞く。

「腕の傷は?」

結衣は黙る。

母親が泣きそうな顔で言う。

「自分で切ってるんです」

自傷行為。

優斗は驚かない。

優しく言う。

「痛かった?」

結衣は少し考える。

「心よりは」

優斗はその言葉をメモした。

十代の患者がよく言う言葉だった。

診察が終わる。

結衣が帰る。

院長が言う。

「どう思いました」

優斗が答える。

「孤独」

院長がうなずく。

現代の若者の精神疾患。

多くは。

家庭でもない。

学校でもない。

社会でもない。

孤独。

優斗は窓の外を見る。

病院の庭。

若い患者たちが静かに座っている。

ここは。

壊れた心を治す場所ではない。

これから壊れる心を支える場所。

優斗の新しい医療が。

今。

静かに始まった。
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