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婚約
もうひとり
しおりを挟む騒ぎつつも食事を取っていく周りの中、未だ何も手に付けていないオリビアにラゼイヤは首を傾げていた。
「オリビア?どうかしたのかな?」
「い、いえ」
「?…もしかして、食べられないものがあったとか」
「いえ、そうではないのです。ただ……
あと一人、来られていないようですので」
オリビアの言葉に、姉妹達も公爵達も手を止める。姉妹達はオリビアの視線の先に注目した。
オリビアが見ているテーブルの上。其処には彩りのある食事と自分達に備えられたスープとパンの皿が二つずつ置かれていた。
その組みを一つずつ数えると……オリビアの言った通り、皿が一人分多い。
それは他の者とは対面にならない端の方に置かれており、未だスープから湯気が立っていた。
「公爵様、この城にはまだ誰かいらっしゃるのですか?」
昨日は使用人達としか出会っていない。この席の場に食事を置かれる存在とは、使用人以上の地位ある者のはず。もしくは
「ご家族の方でしょうか?」
オリビアがそう聞くと、ラゼイヤは苦笑いをして答えた。
「ああ……君達はまだ会っていないと思うが、私達は5人兄弟でね。其処に座るはずの弟はまだ仕事が終わらないそうで、遅れて来るらしいんだよ」
「お仕事……こんな朝早くから、弟様は一体どのような職務に就いておられるのですか?」
「それは……うぅん、そうだな……」
弟の仕事について聞こうとすると、ラゼイヤは見て取れるほどに動揺していた。このような姿を見るのは初めてなもので、オリビアは少し驚いた。
未だ躊躇いを見せるラゼイヤだったが、覚悟を決めたように息を吐くと、姉妹達に視線を向けた。
「……弟はね」
「指導官だ」
そう言ったのは、自己紹介以来一切口を開かなかったバルフレだった。
弟の仕事内容よりも、バルフレが声を出したことに姉妹達は驚いていたが、エレノアだけは違った。
「まあ、指導官ですの?指導は指導でも、何の指導をしていらしてるのかしら?」
「更生指導官だ」
「更生?そんな職務がベルフェナールにはありますの?」
「刑務官と同じだ。罪人の更生指導を行なっている」
「まあ!それは素敵なお仕事ですわね!」
そう言って笑うエレノアに対して、バルフレの冷たい目つきがより一層鋭くなった。
「何故素敵だと思う」
「あら?だって、罪人の更生指導ってことは、要は悪い人を良い人にするお仕事ってことでしょう?凄く素敵なお仕事じゃありませんか!」
「…………」
満面の笑みで語るエレノアだったが、バルフレは目を伏せるとそれ以上何も話さなくなった。
バルフレが長い時間……実際は短いがそれでも長いこと話したことにも驚きだが、エレノアの無頓着さにも呆れてしまう。
しかし、公爵家の令息である弟が何故そのような職務に就いているのかも気になった。
そして、彼がどのような姿をしているのかも。
しかし、その時は唐突に迎えた。
「ごめんごめん!遅れちゃった!」
若々しい青年の声と共に、ダイニングの扉が開かれる。
其処に現れた者の姿に、姉妹達は驚きを隠せなかった。
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