四人の令嬢と公爵と

オゾン層

文字の大きさ
98 / 101
後日談

幸せは実る

しおりを挟む



 __昼下がり。



 陽に照らされた書斎には、二つの影がいた。





「オリビア、この書類を頼めるかい?」

「ええ。お任せ下さい」



 無数の目玉と触手を携えた男は、オリビアという女性に数枚の書類を渡すと、机にまだ置かれたままの大量の紙束に目を通していく。そして、そこからまた数枚抜くと、オリビアに手渡すを繰り返していた。
 オリビアはその書類を書棚に区分けし、時折目を通しては男の方へ歩み寄る。


「ラゼイヤ様、此方の書類に不備が御座いますわ」


 オリビアは、目の前で書類整理をしているラゼイヤに紙一枚を手渡した。


「ああ、すまないね。君がいると本当に助かるよ」


 ラゼイヤはそう言って微笑む。オリビアもそれに笑顔を返した。



 国の政務を務めるラゼイヤ。その妻となったオリビアは、彼の秘書としての役割も果たしていた。

 昔は一人でこなしていた作業も、彼女がいるおかげで予定の半刻前に終わらせることができるようになっている。

 一人では気付けなかったミスも、今では皆無に近かった。





「オリビア。一区切りつきそうだし、そろそろ休憩しようか」

「ええ、それもそうですね」


 二人は書斎の中を軽く片付けると、テラスへ向かう道を歩いて行く。

 手はしっかりと繋いでいた。





 テラスに置かれた円卓と二人分の椅子。真っ白なクロスが引かれた円卓には、やはり二人分のティーカップと菓子が乗った皿が置かれていた。

 それを時折摘んでは、他愛も無い話をオリビアとラゼイヤは続けていた。


「それでですね、この前クロエが血相を変えて走ってたのですけど、その後ゴトリル様が走ってきましてね。後でクロエに話を聞いたら、『抱っこされるのが嫌だから逃げていた』そうで」

「ゴトリル…彼奴という奴は、全く……そういえば、つい先日バルフレが時を止める道具を開発したらしいのだが、彼奴のことだ。どうせエレノアと長くいたいとかいう考えだろうに」

「フフ、バルフレ様らしいですね。ラトーニァ様も此処最近はルーナにずっと付きっきりだそうですよ。彼女は『甘えた』と言っていましたが」

「そうだな。ラトーニァが私達以外に甘えるのは初めてかもしれん」


 近々あった兄妹達の話だけでも、御茶会は盛り上がる。
 一年前だったらこんな風に楽しくは話せなかっただろう。



 あの婚約破棄からこの幸せを得られるとは、誰も予想できやしない。

 無理矢理嫁がされた隣国で公爵達と結ばれた自分達が、今もこうして最愛の人と笑顔でいられるのが、至高であった。



「オリビア。どうかしたのかい?」


 首を傾げているラゼイヤに、オリビアは微笑む。


「幸せだと、思っただけです」


 そう言うと、彼の触手が一瞬固まった。


「……そんな顔で言われたら、参ってしまうな」


 照れ臭そうに笑う彼が、とても愛しかった。

 そんな彼を、少しだけ驚かせようか。


「ラゼイヤ様」

「うん?どうしたんだい」


 きっと、これを言ったら彼は驚く筈だ。そんな悪戯をするような、ワクワク感が止まらない。

 一呼吸し、口を開く。





「私、今お腹に貴方様の子がいるんです」










 その後、ラゼイヤは椅子に座ったまま後ろへひっくり返り、顔面に勢いよく紅茶を溢すことになる。

 まさかそこまで驚くとは思わず、オリビアも動揺してしまうのである。



 その音に駆けつけた兄妹達がこれまた盛大に二人を祝ってくれるのだが、それはまた別の話。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠
恋愛
魔法や獣人などが混在する世界。 ハッピーエンドの裏側で苦しむ『悪役令嬢』はヒロインから人以下の証を貰う。 物として運ばれた先で出会う本筋とは相容れないハッピーエンドへの物語

【完結】愛する人が出来たと婚約破棄したくせに、やっぱり側妃になれ! と求められましたので。

Rohdea
恋愛
王太子でもあるエイダンの婚約者として長年過ごして来た公爵令嬢のフレイヤ。 未来の王となる彼に相応しくあろうと、厳しい教育にも耐え、 身分も教養も魔力も全てが未来の王妃に相応しい…… と誰もが納得するまでに成長した。 だけど─── 「私が愛しているのは、君ではない! ベリンダだ!」 なんと、待っていたのは公衆の面前での婚約破棄宣言。 それなのに…… エイダン様が正妃にしたい愛する彼女は、 身分が低くて魔力も少なく色々頼りない事から反発が凄いので私に側妃になれ……ですと? え? 私のこと舐めてるの? 馬鹿にしてます? キレたフレイヤが選んだ道は─── ※2023.5.28~番外編の更新、開始しています。 ですが(諸事情により)不定期での更新となっています。 番外編③デート編もありますので次の更新をお待ちくださいませ。

【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!

まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。 お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。 それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。 和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。 『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』 そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。 そんな…! ☆★ 書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。 国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。 読んでいただけたら嬉しいです。

皇帝陛下!私はただの専属給仕です!

mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。 戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。 ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。 胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

処理中です...