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第四章 皇女様の帰還
第2話―2 美少女VSゴリラ
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賽野目博士が提案した公開試験の内容はシンプルな物だった。
マスコミの前で会場入りした後、”とある試験”を行う。
この試験の内容は試験を受ける当事者にのみ開示され、軍やマスコミには極秘のまま開始された。
そして試験の当日。
会場に入ったマスコミが見たのは意外な光景だった。
そこには地元の小学生達数十人が招待されていたのだ。
ロボットが見られるというので(当時はまだロボットとアンドロイドの区別はあいまいで、差別的な言葉でもなかった)賑やかにはしゃぐ子供たちを見て、マスコミと関係者は驚いたという。
そんな中、公開試験が始まった。
最初に登場したのはSSTGだった。
身長二メートル。極度に筋肉質で、アメコミから抜け出して来たような巨漢。
メタルアクチュエータとカーボンナノチューブ製の人工筋肉のハイブリットで構成されたその肉体は、さらに正式採用後を見越した完全武装に包まれていた。
物々しい甲冑を思わせる装甲搭載型戦闘服と、腰に下げられた特殊鋼製大型グルカナイフ。
抱える小銃は専用に開発された12.7mmアサルトライフル。
そして頭部には角のような通信アンテナを備えたヘルメットと、SF映画に出てくる宇宙狩猟者を模したフェイスマスク。
SSTG開発スタッフは、異世界の敵対勢力に対する威圧効果を狙ったこの装備を、満を持してこの場に投入したのだ。
そして起こったのは子供たちの大号泣と悲鳴だった。
無理もなかった。
威圧効果に優れた姿だったのはその通りだが、控えめに言っても小学生には、いや、たとえ大人でも夜道で出会えば恐怖を感じずにはいられない装備だ。
恐慌をきたして母親を呼ぶ鳴き声で会場は溢れかえった。
だが、続いて入場してきたSSTLが、子供たちとSSTGの間に立ち、子供達に声を掛けると状況は変わった。
「大丈夫、お姉さんが守ってあげる」
そう声を掛けたSSTLは、現在の異世界派遣軍仕様と変わりない格好をしていた。
身長155cm。ほっそりとした十代女性程の体格は、アニメや漫画から抜け出して来たような可愛らしい物だった。
身体の可動をメタルアクチュエータのみに絞ったため、細身でありながらある程度の馬力と防弾性能を兼ね備えていた。
その体を包み込むのはノースリーブの迷彩服と、人間の歩兵と同じボディアーマー。下には同じく迷彩柄のミニスカート。
頭にはベレー帽を被り、金髪のショートカットと整った優し気な顔立ちがよく見えていた。
腕と足にはそれぞれ肘と膝までを覆う手袋とブーツが身に着けられており、手にするのは当時一般的な6.8mm自動小銃だった。
そして、声を掛けた子供たちにウインクすると、SSTLは堂々たる態度でSSTGの隣に並んだ。
その様子はどう見ても、悪役と漫画のヒロインだった。
この様子をみてSSTGの開発スタッフは憤慨したという。
自分たちに黙って小学生を会場に招いていた事を、フェアではないとその場で抗議したのだ。
しかし、賽野目博士は涼しい顔で反論した。
「威圧効果を狙った装備を身に着けて来たのは君たちではないか? そして、これから彼らアンドロイドが赴く場所にいるのは、アンドロイドの事を知った人間ではない。ここの子供達同様に何も知らない存在だ。君たちはSSTGの姿を見た異世界人が予期せぬ反応をしたとき、こういうのか?」
そうして賽野目博士は両手を上げておどけるように言った。
「SSTGを怪物と間違えるなんてふざけた住人だ、フェアじゃないってね」
完全な煽りであり、必ずしも正しいとは言えない反論ではあった。
しかし、この時創設される組織の目的はあくまで”調査”であった。
それを考えると、賽野目博士の言うことにも一理ある。
中継されていた大手動画サイト上の反応はそういった意見が大勢を占めた。
それを見たSSTG開発スタッフも一旦は抗議を収めた。
諦めたわけでは無い。
それは、彼らがこの後行われる公開試験に対して自信を持っていたからだ。
そうして試験は開始された。
二体のアンドロイドは試験のため、会場から数十メートル離れた防弾ガラスに囲まれたスペースに移動。
そして、会場にいる全員にイヤーパッドが配られた。
そうしてイヤーパッドが配られ、会場の人間が装着したことを確認したその時、試験が開始された。
二体のアンドロイドを、仕掛け爆弾の爆発が襲ったのだ。
この時使用された爆弾は、かつて中東やアフリカの反政府勢力が多用したものと同型のもので、釘や鉄球をまき散らし、戦車すら損傷させる高威力の物だった。
その上、今回の試験ではとある調整が施されていた。
爆発の炎と煙が収まると、そこにいた二体のアンドロイドは”両足”を損傷していた。
爆発の威力が脚部に集中するように調整されていたのだ。
それを見てどよめきと、子供たちの鳴き声に再び包まれる会場。
しかし、そんな声をかき消す放送がSSTGスタッフから伝えられた。
「ご安心ください皆さん。あれをご覧ください」
言葉と共に試験現場に現れたのは、一台の装甲車だった。
車体の後方がピックアップトラックの様に荷台になっており、小型のクレーンが取り付けられている。
「これはわが社が開発した専用のアンドロイド回収車です。今回の様な重大な損傷を負ったとしても、装甲化された本車両が直ちに現場に赴き、損傷機を回収します」
その説明の通り、直ちに向かった車両によってSSTGはすぐにクレーンによって荷台に乗せられる。
脚部の損傷こそ激しい物の、メタルアクチュエータとカーボンナノチューブによる頑強な身体は健在である。
ただ、半ば千切れかかり液状化したメタルアクチュエータや冷却液が流れ出す損傷部の修復にはさすがに時間がかかるだろうことは明白だった。
それでも、SSTG側のスタッフは自信をもって告げる。
「回収車によって後方に運ばれたわが社のアンドロイドは、専用設備のある施設でなら前線復帰まで八時間程度しかかかりません」
放送を聞いたマスコミや軍の関係者はどよめいた。
あのような激しい損傷を僅か数時間程度で修復できる。
この試験は図らずも、SSTGがSSTLの利点である運用面でも引けを取らないことを示したのだ。
そして会場の興味はある一転に集約された。
SSTLの方はどのような対処をするのか?
会場の視線が倒れ込んだSSTLに向けられる。
先ほど優しかったお姉さんが倒れ込んでいる姿に子供達から再び悲鳴が聞こえる。
ただ、そんな鳴き声や悲鳴の中にも、「お姉ちゃん頑張って!」という健気な声が聞こえて来た。
だが、SSTL側に動きがある様子はない。
大重量故に脚部の損傷が命取りになる。
そう言った批判がSSTGにはかねてよりあったが、SSTGを製造した企業は新開発の回収車を突貫で作成し、見事にこれに答えて見せた。
弱点を突く試験を提案し、子供を会場に入れて印象操作をする。
SSTL側の酷な悪あがきに見事に対処し、結果SSTL側は狼狽えている。
会場にいるスタッフから動画を見る重役まで、そう考え始めていた。
「策士策に溺れるだ……」
「子供にトラウマを与えたと人権団体に訴訟を起こさせよう……」
「あのミニスカート姿もハラスメントとして攻撃材料に……」
会場のスタッフや重役はそんな追い込みを考え始めていた。
そんな中、会場がさらに激しくどよめいた。
硝煙の匂い香る試験現場に、賽野目博士が現れたからだ。
マスコミの前で会場入りした後、”とある試験”を行う。
この試験の内容は試験を受ける当事者にのみ開示され、軍やマスコミには極秘のまま開始された。
そして試験の当日。
会場に入ったマスコミが見たのは意外な光景だった。
そこには地元の小学生達数十人が招待されていたのだ。
ロボットが見られるというので(当時はまだロボットとアンドロイドの区別はあいまいで、差別的な言葉でもなかった)賑やかにはしゃぐ子供たちを見て、マスコミと関係者は驚いたという。
そんな中、公開試験が始まった。
最初に登場したのはSSTGだった。
身長二メートル。極度に筋肉質で、アメコミから抜け出して来たような巨漢。
メタルアクチュエータとカーボンナノチューブ製の人工筋肉のハイブリットで構成されたその肉体は、さらに正式採用後を見越した完全武装に包まれていた。
物々しい甲冑を思わせる装甲搭載型戦闘服と、腰に下げられた特殊鋼製大型グルカナイフ。
抱える小銃は専用に開発された12.7mmアサルトライフル。
そして頭部には角のような通信アンテナを備えたヘルメットと、SF映画に出てくる宇宙狩猟者を模したフェイスマスク。
SSTG開発スタッフは、異世界の敵対勢力に対する威圧効果を狙ったこの装備を、満を持してこの場に投入したのだ。
そして起こったのは子供たちの大号泣と悲鳴だった。
無理もなかった。
威圧効果に優れた姿だったのはその通りだが、控えめに言っても小学生には、いや、たとえ大人でも夜道で出会えば恐怖を感じずにはいられない装備だ。
恐慌をきたして母親を呼ぶ鳴き声で会場は溢れかえった。
だが、続いて入場してきたSSTLが、子供たちとSSTGの間に立ち、子供達に声を掛けると状況は変わった。
「大丈夫、お姉さんが守ってあげる」
そう声を掛けたSSTLは、現在の異世界派遣軍仕様と変わりない格好をしていた。
身長155cm。ほっそりとした十代女性程の体格は、アニメや漫画から抜け出して来たような可愛らしい物だった。
身体の可動をメタルアクチュエータのみに絞ったため、細身でありながらある程度の馬力と防弾性能を兼ね備えていた。
その体を包み込むのはノースリーブの迷彩服と、人間の歩兵と同じボディアーマー。下には同じく迷彩柄のミニスカート。
頭にはベレー帽を被り、金髪のショートカットと整った優し気な顔立ちがよく見えていた。
腕と足にはそれぞれ肘と膝までを覆う手袋とブーツが身に着けられており、手にするのは当時一般的な6.8mm自動小銃だった。
そして、声を掛けた子供たちにウインクすると、SSTLは堂々たる態度でSSTGの隣に並んだ。
その様子はどう見ても、悪役と漫画のヒロインだった。
この様子をみてSSTGの開発スタッフは憤慨したという。
自分たちに黙って小学生を会場に招いていた事を、フェアではないとその場で抗議したのだ。
しかし、賽野目博士は涼しい顔で反論した。
「威圧効果を狙った装備を身に着けて来たのは君たちではないか? そして、これから彼らアンドロイドが赴く場所にいるのは、アンドロイドの事を知った人間ではない。ここの子供達同様に何も知らない存在だ。君たちはSSTGの姿を見た異世界人が予期せぬ反応をしたとき、こういうのか?」
そうして賽野目博士は両手を上げておどけるように言った。
「SSTGを怪物と間違えるなんてふざけた住人だ、フェアじゃないってね」
完全な煽りであり、必ずしも正しいとは言えない反論ではあった。
しかし、この時創設される組織の目的はあくまで”調査”であった。
それを考えると、賽野目博士の言うことにも一理ある。
中継されていた大手動画サイト上の反応はそういった意見が大勢を占めた。
それを見たSSTG開発スタッフも一旦は抗議を収めた。
諦めたわけでは無い。
それは、彼らがこの後行われる公開試験に対して自信を持っていたからだ。
そうして試験は開始された。
二体のアンドロイドは試験のため、会場から数十メートル離れた防弾ガラスに囲まれたスペースに移動。
そして、会場にいる全員にイヤーパッドが配られた。
そうしてイヤーパッドが配られ、会場の人間が装着したことを確認したその時、試験が開始された。
二体のアンドロイドを、仕掛け爆弾の爆発が襲ったのだ。
この時使用された爆弾は、かつて中東やアフリカの反政府勢力が多用したものと同型のもので、釘や鉄球をまき散らし、戦車すら損傷させる高威力の物だった。
その上、今回の試験ではとある調整が施されていた。
爆発の炎と煙が収まると、そこにいた二体のアンドロイドは”両足”を損傷していた。
爆発の威力が脚部に集中するように調整されていたのだ。
それを見てどよめきと、子供たちの鳴き声に再び包まれる会場。
しかし、そんな声をかき消す放送がSSTGスタッフから伝えられた。
「ご安心ください皆さん。あれをご覧ください」
言葉と共に試験現場に現れたのは、一台の装甲車だった。
車体の後方がピックアップトラックの様に荷台になっており、小型のクレーンが取り付けられている。
「これはわが社が開発した専用のアンドロイド回収車です。今回の様な重大な損傷を負ったとしても、装甲化された本車両が直ちに現場に赴き、損傷機を回収します」
その説明の通り、直ちに向かった車両によってSSTGはすぐにクレーンによって荷台に乗せられる。
脚部の損傷こそ激しい物の、メタルアクチュエータとカーボンナノチューブによる頑強な身体は健在である。
ただ、半ば千切れかかり液状化したメタルアクチュエータや冷却液が流れ出す損傷部の修復にはさすがに時間がかかるだろうことは明白だった。
それでも、SSTG側のスタッフは自信をもって告げる。
「回収車によって後方に運ばれたわが社のアンドロイドは、専用設備のある施設でなら前線復帰まで八時間程度しかかかりません」
放送を聞いたマスコミや軍の関係者はどよめいた。
あのような激しい損傷を僅か数時間程度で修復できる。
この試験は図らずも、SSTGがSSTLの利点である運用面でも引けを取らないことを示したのだ。
そして会場の興味はある一転に集約された。
SSTLの方はどのような対処をするのか?
会場の視線が倒れ込んだSSTLに向けられる。
先ほど優しかったお姉さんが倒れ込んでいる姿に子供達から再び悲鳴が聞こえる。
ただ、そんな鳴き声や悲鳴の中にも、「お姉ちゃん頑張って!」という健気な声が聞こえて来た。
だが、SSTL側に動きがある様子はない。
大重量故に脚部の損傷が命取りになる。
そう言った批判がSSTGにはかねてよりあったが、SSTGを製造した企業は新開発の回収車を突貫で作成し、見事にこれに答えて見せた。
弱点を突く試験を提案し、子供を会場に入れて印象操作をする。
SSTL側の酷な悪あがきに見事に対処し、結果SSTL側は狼狽えている。
会場にいるスタッフから動画を見る重役まで、そう考え始めていた。
「策士策に溺れるだ……」
「子供にトラウマを与えたと人権団体に訴訟を起こさせよう……」
「あのミニスカート姿もハラスメントとして攻撃材料に……」
会場のスタッフや重役はそんな追い込みを考え始めていた。
そんな中、会場がさらに激しくどよめいた。
硝煙の匂い香る試験現場に、賽野目博士が現れたからだ。
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