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第四章 皇女様の帰還

第2話―1 美少女VSゴリラ

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 異世界派遣軍正式採用のServant Soldier Type L。
 通称SSTLは、頭部から鎖骨周辺までと、肩の付け根から二の腕のあたりまで、鼠径部から太もも上部のみ人工皮膚を用いて、残りは拳銃弾クラスまでを防ぐ黒色の防弾素材で覆う形態になっている。

 身長は155cmで基本型は統一され、現状ほとんどの機種が美少女の見た目でデザインされる。

 これらの事から、軍関係者などではレオタード、スク水などと呼ばれる特徴的な機種だ。
 ちなみに、”表向き”には肩と太ももだけが生身なのは、損傷時に戦闘能力と移動力に直接的影響が出る手足の交換を容易にするためと言われている。

 とはいえまるっきりの嘘ではない。
 防弾素材では困難な取り換え作業も、人工皮膚ならば簡単な工具やナイフで皮膚を切り裂くことで可能だ。
 高い防弾効果を誇るメタルアクチュエータも、交換される側が手足の付け根からメタルアクチュエータを移動させれば何の問題もない。

 この高い防弾性に加え、比較的損傷しやすい手足を簡単に交換できる構造により、高い継戦能力を誇るのがSSTLの特徴である。

「て、手足を交換ですか? 地球人はえげつないことをしますね……あんなに綺麗な子達に戦をさせる事自体が酷いのに……」

 一木の説明を聞いて、ミルシャが率直な感想を述べた。
 一木はこの意見に反論できなかった。
 と言うよりも、アンドロイド達の説明を受けて最初に抱いた感想は概ねミルシャと同じだった。
 
 と、思考がずれそうになり、一木は思考を戻した。
 まずは、グーシュ達にアンドロイドに関する基本的な事を知っておいてもらわなければならない。

「ちょっと待つのだ一木。今”表向き”と言ったか? アンドロイド達の見た目には……もしや重大な意味があるのか?」

 さすがにグーシュは鋭かった。
 そう、アンドロイド達の外見には意味がある。

「……きっかけは、異世界派遣軍創設の際に遡ります」

 第二次大粛清が終わりを告げ、火星への島流し同然の移民政策が始まった頃。

 地球連邦政府のエデン防衛の思惑から、空間湾曲ゲートの解放可能ポイントの探索と、ゲート先の探索を行うことが決まった。

 そうして、すでに創設されていた地球連邦軍とは別の組織。
 外宇宙派遣軍が創設されることになった。

 そしてその際、壮絶な対立が起こった。
 主力となるSSの選定である。

 米国系軍産複合体が開発した身長2m、重量320kgのServant Soldier Type Gorilla。通称SSTG
 日本の新興アンドロイドメーカーサガラ社と、アジア系メーカーが共同開発した身長155cm、重量80kgのServant Soldier Type Lightweigh。通称SSTL。

 この二機種による壮絶な選考と、それに伴う世論を巻き込んだ大規模な対立が起こったのだ。

 SSTGはゴリラの名にふさわしい、肥大した筋肉質の体躯と、それに見合ったパワーと跳躍力を持った怪物の様なアンドロイドだった。

 対するSSTLは小型軽量で輸送などに優れ、一体当たりのコストやメタルアクチュエータの使用量が少ないことから、生産性にも優れていた。
 そして何より、筋肉質で大柄な男性型であるSSTGと比べ、現地人への威圧感を軽減するためという事で見目麗しい美少女型としてデザインされていた。

 世間にこの二機種が発表されると、SSTLに大ブーイングが起きた。

 異世界の人に失礼。
 こんな見た目の子に戦わせるのはかわいそう。
 女性をバカにしている。
 児童性愛者が開発したに違いない。
 女性差別だ。
 等々、一部文化人や専門家、活動家からの大ブーイングだった。

 しかもそれに加えて、各種テストにおいてもSSTGの方が圧倒的にパフォーマンスに優れている事が証明されていた。
 
 格闘や力比べの様な分かり切ったテストに加え、銃器を使用した各種模擬戦などでもSSTGは圧倒的なパフォーマンスを見せた。

 勿論、SSTGに比べて生産性を重視したSSTLが性能で劣るのは当たり前ではあったが、一度ついた劣っているという印象は致命的だった。

 一部マスコミからのバッシングもあり、SSTLの採用は風前の灯火となりかけたころ……ある一人の男が、公開試験を軍に申し入れた。

 その男はSSTLの開発責任者で、サガラ社の幹部だった。

 男はただ一言言った。
 
「SSTLの有用性を一瞬で示して見せる」

 低性能で評判の悪い見た目をしたアンドロイドの有用性を、一瞬で示す……そんな誰もが無理だと思う提案をした人物の名は、賽野目羅符さいのめ らふ

 当時から老け顔だった、弱冠二十歳の天才アンドロイド開発者だった。
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