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第四章 皇女様の帰還
第5話―2 マナの話
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「先ほどは……作り物などと言ってすまなかった……」
そう言って軽く頭を下げるミルシャ。
「貴女の言葉と、手の温かさ、そして目を見れば、貴女が心の通った人である事が分かる。それなのに申し訳ないことを言った……」
「いいえ。異世界の人なら仕方ないことです」
マナがそう言うと、ミルシャは再びマナの目を見据えた。
その目には、怒りも困惑も無い。友人を見るような穏やかな目だ。
一流の剣士は目を見るだけで……などと言う時代小説の一節が一木の脳裏をよぎる。
それほどまでに、二人は心を通わせているように見えた。
「正直言って……身分やお付きとしての立場にこだわらない……などと言われても、頭の悪い私にはピンとこない……だが、殿下のなさろうとしている事が、私が盲目的に従ってきた理だけでは計れないことなのは分かる。だからこそ、私は先ほど叱責されたのだな」
「弘和君も私との関係では悩んでいたようです……グーシュ殿下も悩んでいるのかもしれません」
「そうだろうな……殿下にも……いろいろな事情が御有りなのだ」
「私は弘和君の悩みに寄り添えませんでした……だから、ミルシャさんはグーシュ殿下に寄り添ってあげてください」
ミルシャがこくりと頷くのを、一木は感動して眺めていた。
そして、感極まった一木はマナに無線通信で話しかけた。
『マナ、随分と立派になったな。いつの間に俺の気持ちが分かったんだ?』
マナはミルシャと話しながら、一木に返答した。
この辺りはさすがSSと言うところだ。並列思考などお手の物だ。
『私にも不思議なんです。ただ、会談や昼食会の最中……ミルシャさんの事を自分と重ね合わせていたら、不意に弘和君の事がすんなりと理解出来て……そう思ったらグーシュ殿下と弘和君の浮気とかどうでもよくなっちゃって……ただただ、ミルシャさんには私のような後悔はしてほしくない、と思って……』
今、やたらと重大な勘違いをしていたが、一木はこの感動的なマナの成長をぶち壊しにしかねない指摘を、この場では控えた。
そもそも、両者には恋愛感情が欠片も無いのだ。
周囲がいくら勘違いしようがどうにもなるまい。
一木はそう判断した。
『そうか……身分制度ってのは容易に覆るものじゃない……ミルシャに、マナも寄り添ってあげるんだ。グーシュといい関係を築けるように手伝ってやるといい』
『はい』
マナとの通信を終えると、一木は射撃練習をしているグーシュのところへと近づいた。
見ると、M65拳銃を連続射撃している所だ。
構えも様になっているが、的を見ると最初の数発はいいのだが、最後の24発目を撃つ頃には的の上部にギリギリあたるかどうかといった所だ。
「おお、一木。すごいなこの拳銃は。まず狙った所にあたるのがいい。それにだ、見ろ! 歩兵の鎧など鍋を追加しても簡単に打ち抜くぞ」
射撃を終えたグーシュは、遊びに夢中になった子供の様にカラカラと笑う。
「だが、撃っていると段々あたらなくなるのは頂けんな。銃の先が段々軽くなって、撃つときの跳ね上がりが酷くなるのだ」
それはM65拳銃特有の欠点だ。
5.5mmケースレス弾という、薬莢を用いない特殊な弾丸を使用するM65拳銃は、反動が少なく、命中精度が良く、貫通力に優れた良い拳銃なのだが、構造上の重大な欠陥があった。
ケースレス弾の特性上、弾丸を収めたマガジンを、銃身の下部に平行に取り付けることになる。
そのため、弾を撃つごとに銃身の先から弾が無くなっていき、軽くなってしまう。
当然、先だけが軽くなった分、発砲時の反動による跳ね上がりが強くなる。
特に連射すると跳ね上がりが酷くなり、連射は三発まで、というのが使用する際の決まりとなっている。
この構造は問題なのだが、SSが用いる分には問題ない。
そういう意識のせいで全く是正されていない。
「まあ、それはそういう仕組みだからしょうがないさ」
「そうか……そういえば、ミルシャを励ましてくれたようで……助かる」
銃を撃ちながら、マナとのやり取りを聞いていたことに一木は驚きを隠せない。
「聞いていたのか?」
「一木は本当に気持ちが目にでるな。まあ、口の動きでな。一木の妻の言っている事は分からないが、ミルシャの言っている事で、なんとなくはな」
「……身分ってのは難しいが……ましてやこれから皇太子一派と戦えば、否応なく帝国の騎士としての立場と、ミルシャ個人としての気持ちの板挟みになるぞ。マナや俺も手伝うから、きちんとしたほうがいい」
「まあ、そこはうまくやるつもりだ。ミルシャ一人御せんようでは皇帝にも大統領にもなれんだろう。それにだ……ミルシャは、その、あの……」
グーシュは、珍しくモゴモゴと言い淀んだ。
「わらわの……お付き……じゃなくて……こい、恋、恋人……だからな」
顔を真っ赤にして言うグーシュを、一木は盛大にクルクルと回転するモノアイで、ジッと見ていた。
「そうだな。うん、そうだ。お互いにいい恋人と妻に恵まれたな」
「うむ……」
そして、時間が来る。
『盛り上がっている所悪いけど、ルニの街への出発準備、完了したよ』
ジーク大佐の無線通信を受けて、一行は出発する。
皇太子一派への、戦いの狼煙を上げる場へと。
そう言って軽く頭を下げるミルシャ。
「貴女の言葉と、手の温かさ、そして目を見れば、貴女が心の通った人である事が分かる。それなのに申し訳ないことを言った……」
「いいえ。異世界の人なら仕方ないことです」
マナがそう言うと、ミルシャは再びマナの目を見据えた。
その目には、怒りも困惑も無い。友人を見るような穏やかな目だ。
一流の剣士は目を見るだけで……などと言う時代小説の一節が一木の脳裏をよぎる。
それほどまでに、二人は心を通わせているように見えた。
「正直言って……身分やお付きとしての立場にこだわらない……などと言われても、頭の悪い私にはピンとこない……だが、殿下のなさろうとしている事が、私が盲目的に従ってきた理だけでは計れないことなのは分かる。だからこそ、私は先ほど叱責されたのだな」
「弘和君も私との関係では悩んでいたようです……グーシュ殿下も悩んでいるのかもしれません」
「そうだろうな……殿下にも……いろいろな事情が御有りなのだ」
「私は弘和君の悩みに寄り添えませんでした……だから、ミルシャさんはグーシュ殿下に寄り添ってあげてください」
ミルシャがこくりと頷くのを、一木は感動して眺めていた。
そして、感極まった一木はマナに無線通信で話しかけた。
『マナ、随分と立派になったな。いつの間に俺の気持ちが分かったんだ?』
マナはミルシャと話しながら、一木に返答した。
この辺りはさすがSSと言うところだ。並列思考などお手の物だ。
『私にも不思議なんです。ただ、会談や昼食会の最中……ミルシャさんの事を自分と重ね合わせていたら、不意に弘和君の事がすんなりと理解出来て……そう思ったらグーシュ殿下と弘和君の浮気とかどうでもよくなっちゃって……ただただ、ミルシャさんには私のような後悔はしてほしくない、と思って……』
今、やたらと重大な勘違いをしていたが、一木はこの感動的なマナの成長をぶち壊しにしかねない指摘を、この場では控えた。
そもそも、両者には恋愛感情が欠片も無いのだ。
周囲がいくら勘違いしようがどうにもなるまい。
一木はそう判断した。
『そうか……身分制度ってのは容易に覆るものじゃない……ミルシャに、マナも寄り添ってあげるんだ。グーシュといい関係を築けるように手伝ってやるといい』
『はい』
マナとの通信を終えると、一木は射撃練習をしているグーシュのところへと近づいた。
見ると、M65拳銃を連続射撃している所だ。
構えも様になっているが、的を見ると最初の数発はいいのだが、最後の24発目を撃つ頃には的の上部にギリギリあたるかどうかといった所だ。
「おお、一木。すごいなこの拳銃は。まず狙った所にあたるのがいい。それにだ、見ろ! 歩兵の鎧など鍋を追加しても簡単に打ち抜くぞ」
射撃を終えたグーシュは、遊びに夢中になった子供の様にカラカラと笑う。
「だが、撃っていると段々あたらなくなるのは頂けんな。銃の先が段々軽くなって、撃つときの跳ね上がりが酷くなるのだ」
それはM65拳銃特有の欠点だ。
5.5mmケースレス弾という、薬莢を用いない特殊な弾丸を使用するM65拳銃は、反動が少なく、命中精度が良く、貫通力に優れた良い拳銃なのだが、構造上の重大な欠陥があった。
ケースレス弾の特性上、弾丸を収めたマガジンを、銃身の下部に平行に取り付けることになる。
そのため、弾を撃つごとに銃身の先から弾が無くなっていき、軽くなってしまう。
当然、先だけが軽くなった分、発砲時の反動による跳ね上がりが強くなる。
特に連射すると跳ね上がりが酷くなり、連射は三発まで、というのが使用する際の決まりとなっている。
この構造は問題なのだが、SSが用いる分には問題ない。
そういう意識のせいで全く是正されていない。
「まあ、それはそういう仕組みだからしょうがないさ」
「そうか……そういえば、ミルシャを励ましてくれたようで……助かる」
銃を撃ちながら、マナとのやり取りを聞いていたことに一木は驚きを隠せない。
「聞いていたのか?」
「一木は本当に気持ちが目にでるな。まあ、口の動きでな。一木の妻の言っている事は分からないが、ミルシャの言っている事で、なんとなくはな」
「……身分ってのは難しいが……ましてやこれから皇太子一派と戦えば、否応なく帝国の騎士としての立場と、ミルシャ個人としての気持ちの板挟みになるぞ。マナや俺も手伝うから、きちんとしたほうがいい」
「まあ、そこはうまくやるつもりだ。ミルシャ一人御せんようでは皇帝にも大統領にもなれんだろう。それにだ……ミルシャは、その、あの……」
グーシュは、珍しくモゴモゴと言い淀んだ。
「わらわの……お付き……じゃなくて……こい、恋、恋人……だからな」
顔を真っ赤にして言うグーシュを、一木は盛大にクルクルと回転するモノアイで、ジッと見ていた。
「そうだな。うん、そうだ。お互いにいい恋人と妻に恵まれたな」
「うむ……」
そして、時間が来る。
『盛り上がっている所悪いけど、ルニの街への出発準備、完了したよ』
ジーク大佐の無線通信を受けて、一行は出発する。
皇太子一派への、戦いの狼煙を上げる場へと。
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