地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

文字の大きさ
105 / 116
第四章 皇女様の帰還

第8話―6 強制捜査とお見舞い

しおりを挟む
「今はどういう状態なんだ?」

 一木が兵員課のSSに尋ねる。
 兵員課のSSは、ミラー大佐に接続された端末を見ながら答えた。

「先ほど言ったように、負担となっているデータをまとめている状態です。通常のストレス軽減処理中……日常の睡眠時と同じ状態です。話しかけてみてください」

 一木は静かに近づくと、静かに目を閉じるミラー大佐に顔を近づけた。

「ミラー大佐、一木だ。大丈夫か?」

「……ん……あ……」

 わずかに反応を見せるミラー大佐。
 一木はさらに、ゆっくりと手をミラー大佐の額に近づけた。
 そして、額に静かに指先をあてた。

「ミラー大佐?」

「た……大佐?」

 呼びかけにオウム返しに答えるミラー大佐。
 だが、それは違った。

 目を開けたミラー大佐は、いつもの厳しい表情とは違う、子供が泣きじゃくるような表情を浮かべた。
 そして、勢いよく一木に抱き付いてきた。

「た、大佐! 無事だったんだ……大佐ぁ……」

 盛大に眼球洗浄液を流しながら泣きついてくるミラー大佐に、一木は困惑して殺大佐と兵員課のSSの方を見た。

 すかさず無線通信が入る。

『大丈夫です。先ほど言ったようにストレスの原因となるデータをまとめているせいで、記憶が混乱しているのでしょう。今回の場合は、おそらくハンス大佐と一木代将関連のデータが混じっているのでしょうね。直前の発砲騒動の件も合わせればその可能性が高いです』

 兵員課のSSの言葉に、殺大佐も頷く。
 正直複雑な気分の一木だったが、今はただゆっくりとミラー大佐の気が済む様にさせてやることにした。

 一木は、ゆっくりと両手をミラー大佐の背中に当てると、幼子をあやすようにポンポンと叩いてやる。

 そうしていると、だんだんと泣き声が収まっていった。
 そして、ポツリポツリとミラー大佐が話し始めた。

「よかった……大佐が死んじゃったかと思った……あの女が……自爆して……大佐が粉々になっちゃう夢を見たの……」

「ああ……」

「でも、私今度はちゃんと出来たよ……。あの女を拳銃で撃ちぬいてやったんだよ? だからもう大丈夫……大佐はもう、大丈夫……もう、いなくならないよ……」

「ああ……」

「大佐……私は……あれ、私は……ハンス大佐が死んで、あれ……あれは夢で……私大佐の事を忘れたくなくて、だからサリファ師団長にもカナード司令にも嫌われるように。あれ、でも、大佐は助かって……」

 最初は一木とハンス大佐の事を混同していたミラー大佐だが、結局はミラー大佐にとって近しい存在を精神的負担とデータの整理によって混在しているに過ぎない。

 覚醒して感情が活性化して、オンラインによる各種データのフィードバックが行われれば、すぐに混乱は収まる。

 収まってしまう。

 一通り涙と共に、幸せな勘違いを終えたミラー大佐は、静かに一木の胸元から顔を離した。

「落ち着いたか?」

 ポロポロというよりは、ダバダバと言った擬音が当てはまるような大量の涙を流しながら、しばし一木と見つめあっていたミラー大佐の顔は、涙が収まると同時に急速に赤くなっていった。

 顔色が変わるという事は、対人用の感情プログラムが活性化した証拠だ。
 正直先ほどのまま、戻らなかったらどうしようかと不安に思っていた一木は、ホッとした。

「一木司令……そうか……そうよね」

 真っ赤な顔のまま、取り繕うようにいつもの口調で話し始めるミラー大佐。
 内心は兎も角、誤魔化そうとする程度には思考も働いているようだ。
 ミラー大佐は一木から体を離すと、部屋を見渡した。

「さっきのは夢……ね。ああ……ああ、そうか。一木司令、先ほどの事は申し訳ありませんでした……殺にも、迷惑かけたわね。それに……皇女様に、怪我は?」

「無事だよ……シャルルにも礼言ってけよ」

 殺大佐がホッとしたような、そして少し怒ったような口調で伝えると、ミラー大佐は小さくうん、と呟いた。
 そして、一木の方を改めてみると、あきらめたような表情で自分の処分を聞いた。

「それで一木司令、私の処分はどうなりますか? 出来れば処分前に、部下と同僚たちに別れを……」

 やったことから言えばしょうがないのかもしれないが、自身の人格消去を前提とした物言いに、一木は少し慌てた。

「いやいやいや、処分って言ってもそこまでの事はしないよ。グーシュにも怪我は無かったし、グーシュもミラー大佐の事を心配していた。ただ、さすがに何もなしではない。外務副参謀への一時降格の上、外務参謀を兼務するクラレッタ内務参謀にミラー大佐の事を監督及び監視してもらう事になった」

「げ、クラレッタにーが……」

(ニー?)

 聞きなれない単語が聞こえたが、一木は仇名か何かと思って詳細は聞かなかった。
 クラレッタニー。あの縦ロール悪役令嬢参謀に、どのような由来でその仇名が付いたのだろうか?
 膝蹴りでもすごいのだろうか……。

 いつものように思考がずれて考え込んだ一木に、ミラー大佐はある種、予想通りの頼みをしてきた。

「そういう事でしたら、あえて反論いたしませんが、一つお願いがあります」

「あ、ああ。どうした?」

 聞き返す一木に、少しためらったような間を空けたミラー大佐は、意を決して答えた。

「殺から聞いているでしょうから詳細はいいませんが、私には精神的な欠陥があります。ハンス大佐という、最初の指揮官に対して、私は参謀型SSにふさわしくない感情を抱いております」

 真っすぐに一木のモノアイを見つめて、ミラー大佐は話し始めた。
 だが、口調も表情もいつもと同じ厳しい物なのに、目元にはジワリと涙が浮かんでいる。

「一木司令に対する無礼な態度も、その結果です……。そして今回の発砲事件もそうです。寛大な処分を頂きましたが、私がこの欠陥を抱える限り、今後も同様の事件を起こすリスクがあります」

 そこまで行った所で、とうとう目尻の眼球洗浄液が決壊して、頬を伝って流れ出した。

「ですから一木司令、兵員課のSSに命じて、私のハンス大佐に対する感情を消去していただけないでしょうか? これは処分ではなく、私への温情と思ってください。どうか、お願いします」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...