地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲

文字の大きさ
107 / 116
第四章 皇女様の帰還

第9話ー1 それぞれの夜

しおりを挟む
 ミラー大佐の説教が一段落した一木は、眠気に襲われながらもある場所を訪れていた。
 こちら側に引き入れるために招いていた、ルニ子爵領の騎士と衛兵たちの宴会場だ。
 一言あいさつでもしようかと思ったが、それは接待を任せていたシャルル大佐に止められた。

「一木司令が顔を出すと、宴会とお酒でのぼせた頭が冷えちゃいますからね。今は目一杯騒がせましょう」

 シャルル大佐の言う通り、宴会場の部屋からは男たちの騒がしい声と、それをはやし立てる福利課のSS達の黄色い声が聞こえて来た。
 生身の頃、上司に連れられて行ったキャバクラがこんな感じだったことを、一木は思い出した。

「よし、このまま接待を続けてくれ。念のため記録を取っておいて、反抗した時に備えるのも忘れずに。ハニートラップはどうだ?」

 一木の言葉に、シャルル大佐は首を横に振った。

「騎士の皆さんはだいたい奥さん思いで、そちらは難しそうですね。独身の方や、相手を選んで行います。一番年下の騎士の子は、ルキ少尉にお熱のようですから、うまく取り込めるかもしれません」

「任せた。申し訳ないけど、俺は休む……さすがに疲れたよ」

 一木がそう言うと、シャルル大佐はニコニコと笑顔を浮かべた。

「マナ大尉にも仕事を上がるように連絡しておきます。二人でゆっくり休んでください」

 一木はシャルル大佐の気遣いに感謝しつつ、その場を後にした。

 宴会場からは、調子はずれな酔っ払いの歌声が聞こえてくる。
 できれば脅迫の必要なく、うまく協力者に仕立て上げられれば。
 一木はそう願った。



「はぁ……はぁ……、で、殿下……もう限界です」 

 同時刻。
 宿営地の客室で、全裸で全身汗だくのミルシャが、あおむけになりベットの上で喘いでいた。
 その隣では、同じく全裸で上体を起こしたグーシュが、部屋にあったペットボトルの水を飲んでいた。

「なんだ……もうへばったのかミルシャ?」

 疲れ切った様子のミルシャに比べ、グーシュは元気そうだ。
 橋から落ちた後、一晩眠って会食、会談、パレード、演説と働きづめだったとは思えないタフさだ。

「殿下ほど、絶倫のお方を僕は知りませんよ……あ、ガズル様は除いてですが」

 女好きで有名な帝弟のガズルは、そちらの方面では有名な男だった。
 とはいえ、ミルシャとしては実際のところは、グーシュはそちらの方でもガズルと同じくらいの好き者だと思ってはいた。
 
 むろん、あの好色オヤジと大好きな殿下が同じだとは、口にはしなかったが。

「ふん、まあそんなことはいい。しかし、寝ている間に寝所に運ばれるとはな……すこし気を抜きすぎたかな?」

「殿下がよく言われる、”隙を見せる”という観点からはよろしいのではないですか? 気を許しているという証にもなるでしょう」

 ミルシャの言葉に、グーシュは少し考え込むような様子を見せた。
 そんな様子のグーシュの手を、ミルシャは指を絡ませるようにして握った。

「今日の交渉と演説は、うまく行ったとわらわは思っているが……正直言って一木達との距離感を掴みかねている部分もあるのだ。わらわは今まで、突拍子の無い行動で相手を驚かせ、その勢いで主導権を握るやり方をしてきたが……身分の無い世界の一木には、効果が薄いな」

 グーシュは、今日の会談で一木にやり込められた点をすでに考察し、ある程度掴んでいた。
 とはいえ、気が付いても変えるには難しいことではある。

 唐突、余裕、許容という、皇族らしからぬ三つの行動を駆使して今まで周囲と渡り合ってきたグーシュにとって、それらの前提である身分差から来るギャップが通じない一木との交渉は、難しいものがある。

 もし仮に、一木に交渉の才覚があれば、グーシュの現状は今とは違うものになっていただろう。
 協力者ではなく、完全な傀儡になっていてもおかしくは無かった。

「一木殿もですが……帝都の反応も気になります。時間的に、今朝には帝都に知らせが届いているはずです……兄上の一派の動きが気になります」

 ミルシャは心配そうに言うが、グーシュはそれを聞くと笑い飛ばした。

「ミルシャ、心配は無用だ。それとな、一つ違う点がある。イツシズ派と、兄上の一派だ。わらわが死んだとなれば、両者は対立するだろう」

 グーシュの言葉に、ミルシャは驚いて起き上がった。
 今までの事から自然と、皇太子派とイツシズの事を一体だと捉えていたからだ。

「そんなことがあり得るでしょうか? イツシズは兄上からの信頼の厚い派閥のトップ……それが対立などと……」

「正確には、イツシズとお前の先輩のセミックだ。両者は兄上を盛り立てるという共通の目的を持ってはいるが、あくまで自分本位のイツシズと、兄上を中心に考えるセミックは相いれないだろう。わらわという共通の敵がいなくなれば、早晩対立が始まるはずだ」

 セミックは皇太子のお付きを務めている事からも分かる通り、お付き達の代表とも言える立場の女だ。
 近衛騎士団の人事官という役職を持っているイツシズと違い、具体的な権限を持っている人物ではない。
 
 ただし、それだけにイツシズ得意の人事権や官吏への働きかけと言った攻撃手段が通じず、また皇太子のへの直接的な働きかけという武器がある。
 グーシュ亡き後、皇太子派の主導権を巡った争いが始まる事は十分にあり得ることだった。

「セミック先輩……確かに強い方です。僕も含めたお付きの中では別格の強さでした。剣も、まつりごとも、謀略も……」

「ミルシャ、お前ももう少し賢くなれ。剣術とわらわの護衛だけでは、これからわらわが目指す世にはついてこれないぞ?」

「……マナ殿にも言われました……お付きや皇女という関係性や身分に囚われていてはダメだと……」

「その割には、未だにわらわを”殿下”と呼ぶのだな」

 少し意地悪そうにグーシュが言うと、ミルシャは不意を打つようにグーシュに口づけした。
 驚いたように顔を赤らめるグーシュに、してやったような顔でミルシャは囁いた。

「もちろん、マナ殿の言う通り、僕も今までとは変わります。ただのお付きではない、より深い関係で殿下を支えます。でも、だからこそ……僕は、全てを変えてしまうあなたの、変わらぬ支えになりたいのです。ですから、変わらぬ僕である証として、僕にだけはこの呼び方を許してください」

 珍しく、自分から攻める様子を見せたミルシャに、グーシュは嬉しそうに笑みを浮かべた。
 そして、決して他には聞かせない、艶っぽい声で囁いた。

「いいだろう、わらわの騎士、ミルシャ」

「ありがとうございます……僕の殿下……」

 ミルシャがグーシュを押し倒す。
 この後、朝まで二人の声は絶えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...