姉はすべてを支配する。さればわれらも姉に従おう。

さいきごそ

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拳塔町に行くの巻

呼水

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 目的地である拳塔町に着いたのは昼前だった。
 何年ぶりかで見る海はとても新鮮で俺の目をいやというほど楽しませてくれた。始まったばかりの夏休みと相俟って、俺の気分は最高潮に達しようとしている。そしてナナミさんの水着姿。興奮するなという方がムリだ。
 宿泊するホテル・クインズベリーは数年前にできたばかりだそうで、海が見渡せる高台に建つ、なかなかに豪華なところだった。幹事であるアツミさんは格安で泊まれたといってはいたけれど、都合十名はけっこうなお値段だったのではないだろうか。
 部屋割りはアツミさん、ナナミさん、シギヤ、羽二生の四人部屋、左衛門三郎のお嬢様一行の三人部屋、俺たち野郎の三人部屋という、不本意かつ不満の残るものであった。
 もちろん、ナナミさんと同じ部屋に泊まれるとはチラッと想像はしてはみたけれど、実現するなんてさすがに思っちゃいない。キモヲタコンビってのがいけ好かない。せめてナギがいれば多少は違っただろう。いや、多少どころか、あいつがいれば姉弟なんだからナナミさんと同じ部屋になるだろうし、そうなればナナミさんの友人であるアツミさんとナギの友人である俺とが一緒の部屋に収まることになるわけで、ごく自然な流れで部屋割りは上手く完璧にいったはずである。
「そんなわけないでしょう」
 缶コーヒーショックからすっかり立ち直った羽二生が俺を睨む。
「うるせえな、ナナミさんと同じ部屋になったからっていい気になるなよ」
 羽二生は憎々しげに鼻を鳴らすと、先を行くナナミさんたちと合流した。
 俺たち野郎はすでに海パンに着替えていたが、女子は現地で着替えるようだった。唯一、三次だけはサファリルックというのか、ベージュの半袖シャツとぴちっとしたハーフパンツに着替えていた。
 近年はレジャーの多様化云々で海水浴場の利用は減っているとか聞くが、目の前に広がる情景を見る限りはそうは思えない。夏の浜辺を誰も彼も待ち焦がれていたんだろう。
 俺たちが向かったのは「おくしす・ひまんてす」という不思議な響きの海の家であった。もっと簡素な葦簀張りのものを連想していたけど、ちゃんとした店舗みたいだった。
 店内はファミレスほどの間取りでさらにオープンスタイルのスペースが店の横に取られていて、けっこうな人数は収容できそうだった。
 天井で優雅に回っているシーリングファンも夏の盛り場特有の開放的で優雅な雰囲気作りにひと役買っていた。
「いらっしゃいませ」
 髪を後ろで束ねた、活発そうなお姉さんが人懐っこい笑顔でこちらにやってきた。へそ出しのTシャツとハイレグ仕様なデニムのホットパンツが扇情的だ。……ほとんど、いや完璧に半ケツ状態だ。ローライズなデニム生地の上部からは紐パンがはみ出ている。
「めずらしいかい」
 ぴたーんと自分のお尻と叩いてみせる。
「浜辺にはこれ以上に露出してる子なんて、わんさかいるじゃないか」
 たしかにそうなんだけど、やはりTPOってのが関係してるのか、店の中でそういう露出が高いものは異様に目立つし、目のやり場に困る。
「若いんだから、こういうのは遠慮なく凝視してばんばん発情しな」
 などと開けっぴろげなセリフと共にウインクして見せた陽気を地で行くような半ケツお姉さんが一瞬、真顔になった。視線の先はナナミさんを捉えている。
「どうかしたんですか」
「ん、ああ、いや、あんまり美人さんだから見とれちゃってさ」
 初対面のお姉さんまで虜にするとか、さすがは俺のナナミさん。
「更衣室をお借りできますか。あとビーチパラソルのレンタルもお願いします」
 アツミさんが申し出ると、半ケツお姉さんは店内の奥を指し示した。
「男どもは着替え必要ないみたいだから、七人かい」
「私は着替えません」
 感情のかの字も感じられない声はもちろん、三次。海では水着にはならずサファリルックで通すらしい。らしいっちゃ、らしい。
「ロクちゃん、三次さんの水着見たかったの?」
 シギヤがとんでもないことをいい出す。引き合いに出された当の三次は怒りを混ぜた不快げな顔で俺を睨んでる。
「そうね。私も見たかったな、三次さんの水着姿」
 すごくいい笑顔でフォローを入れたのはナナミさん。
「わたくしも海では水着をお召しになられてはと申したのですが、あいにく効果はありませんでした」
 安定の瞑目あごツン。
「水着、持ってこなかったの?」
「……あ、の、いえ。すみません」
 ナナミさんの問いかけにしどろもどろになる。ここまで態度を軟化させる三次は激レアじゃないのか。できれば動画として保存しておきたいくらいだ。
「確かにもったいないな、君。若いんだしいいカラダしてんだから見せつけなきゃ」
 半ケツお姉さんにまで突っ込まれた三次は普段のSP然とした態度は見る影もなく、ただの恥ずかしがりな女子であった。
「じゃあ六名だね、利用料は一人500円だから3000円になるけど、何かウチで食べてくれたら、割引き適用で300円になるよ」
 なるほど商売上手だ。
「今、食べなきゃダメですか」
「ウチは食券制だし、先に買っておいてあとから来て食べてもいいよ」
 割引き対象も人数分じゃないそうで、その辺りは融通が利くみたいだ。
「じゃあ、何か食べます」
 今はまた腹は空いてないが、先に食券を買っておいた方が得だろう。
「オッケー。んじゃ、1800円。ビーチパラソルはサービスしとくよ」
「さすがにそこまでは」
 アツミさんの困惑に、半ケツお姉さんは代わりにたくさん食事してくださいよ、と笑って返していた。
 着替える必要のない野郎三人と三次はビーチパラソルを受け取ると、先に場所取りへと向かった。
 レジャーシートを敷き、穴を掘って今日の空と同じ青いビーチパラソルを突き刺す。
 まず黒地に白の水玉のタンキニ姿で現われたのはシギヤだった。胸元のリボンと腰に通してる浮き輪が、いかにもシギヤらしい。
 やや遅れて黒のワンピースに腰布を巻きつけた左衛門三郎のお嬢様と腰周りに申し訳程度のフリルが付いたオレンジのビキニの三苫ちゃんがやってくる。左衛門三郎のお嬢様のそれは、やはりお高いものなのだろうが、どうもおばちゃんっぽくていけない。むかしの婦女子がよく着ていた水着がこんな感じじゃなかっただろうか。麦わら帽子も見た目の年齢を上げている気がする。驚きは三苫ちゃんだ。オレンジのビキニってのもすごいが、生地の面積は意外に少ない。普段からミニスカを愛用していることもそうだが、大人しそうでいて大胆な一面こそが実は三苫ちゃんの本来の姿なのかもしれない。ミニマムボディに巨乳というのははっきりいって反則だ。やはりこれもナギに見せたかったんだろう。電車を待つ間、ナギが不参加というのを知ったときに見せた落胆の表情を俺は見逃さなかった。なんとも胸の痛むひとコマだった。
「ご苦労様」
 水着ではなく、ワンピースのような格好で現われたアツミさんが労わるような笑顔を見せた。
「水着だよ」
 代わりにシギヤが答える。なるほど、エスニック調の紐ビキニが薄い生地の下からほんのりと見える。なんでもこれはパレオで腰に巻けばスカートにもなるものなんだそうだ。
「もったいないですよ。せっかくの水着なんだし」
 アツミさんは照れ笑いを浮かべると、シートに座ってしまった。
 そういやナギもそうだが、妹の上四元クシナがこないのは意外だった。
「あの子は友達と遊ぶので忙しいみたい」
 やはり友人たちもああいう感じでキツいのだろうか。
「おっほー!」
 不愉快極まりない歓声にイラッと振り返ると、一眼を構えた五十棲がパステルピンクのビキニを身につけたとびきりの美女に食いつくように迫っていた。
「お美しい、お美しいですよ、ナナミ殿! もはや犯罪級の美しさ! あえて申しましょう、存在自体がアンルーリー!」
 いちいちムカつくいい回しだが、発言内容に関しては異議はない。
 上はトライアングルトップ、下はサイドが紐のシンプルないわゆるストリングビキニだが、余計なデザインを排した無地のそれはスタイル抜群のナナミさんだからこそ映えるものだと断言できる。足元のアンクレットも最高にセクシーだ。
「ワンダフォー! ビューティフォー! エキサイティンッッッッッ!」
 ………うるせえな。
 ナナミさんの周りを砂煙を巻き上げながらあっちへこっちへ転がりつつ、シャッターを切り続ける五十棲を思い切り蹴飛ばしたい衝動を必死に堪えて、ナナミさんに駆け寄る。
「すっごく似合ってますよ。ナナミさんはスタイルが最高だからシンプルな方がむしろいいと思います」
 いざとなると、気の利いた褒め言葉が出てこないのが歯がゆいが、ナナミさんのビキニ姿を前にしたら、もうそんなことはどうでもよくなってくる。
「ありがとう、六反園君」
 憧れの人の最高の笑顔を噛み締めていると、ナナミさんの肩越しから不遜さだけを抽出したかのような羽二生の顔が出てきた。……こいつはいらないんだがな。
「お揃いですね、おふたりともよくお似合いです」
 五百旗頭の言葉によくよく注視してみると、ナナミさんと同じタイプと思われる白の三角ビキニを着た羽二生はやはり、足元をアンクレットで飾っていた。なにからなにまでナナミさんの真似しやがって。
「羽二生さん、ヘアピンとお揃いなんだね」
 シギヤの発言に首を捻っていると、羽二生の花をあしらった髪留めとアンクレットに付いている花飾りがなるほど、同じものだった。こういうことに女子は目敏いと痛感する。
「ナナミさんが選んでくれたの」
 照れながらシギヤと話す羽二生は気のせいか、以前のようなナナミさん以外は興味がないといったニヒルさはなくなっていた。
「アツミはどうする?」
「私はここにいるから、みんな遊んできて」
 ナナミさんとアツミさんの会話をきっかけに各々、自由行動となった。左衛門三郎のお嬢様ご一行と五百旗頭はそのままアツミさんと残るようだった。
 シギヤは待ちかねたように海へと飛び出し、浮き輪で太平洋ひとりぼっち状態。
 俺はもちろんナナミさんと、
「海に来たのなら、海の家で食事をしないと始まりませんからなァ!」
 ナナミさんと羽二生を従え、五十棲はさっき入った「おくしす・ひまんてす」へとふたりを誘導しているところであった。
「お、おい!」
 慌てて追うと、店内は先ほどよりは若干、空きが見えた。
「いらっしゃいませ」
「食券、消化しにきました」
 半ケツお姉さん――あらためて見ると、たいへん素晴らしいヒップであった――に案内されて、四人テーブルへ腰を下ろす。
「六反園君はなにを買っていたの」
 ナナミさんに促されて、先ほど買い求めた食券をテーブルにオープンする。
「ラーメン、ペペロンチーノ、焼きそば、ピラフ、カレー、さしずめ炭水化物祭りといった顔ぶれですな」
 五十棲の皮肉たっぷりな物言いに羽二生のしかめっ面が追い打ちをかける。
「今なら二千円以上食事してくれたお客さんにはイベント参加資格が与えられるよ」
 どこか策略に満ちた声は半ケツお姉さん。
「……なんですか、それ」
「女性なら無料、挑戦してみるかい?」
 訝る俺に半ケツお姉さんはとてもいい笑顔でそういうのだった。
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