姉はすべてを支配する。さればわれらも姉に従おう。

さいきごそ

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拳塔町に行くの巻

利己

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 生まれて初めて告白が受け入れられた余韻に浸る間もなく、俺はリングに上がるためにシャツを脱いで上半身裸になり、バンテージを手にした。
 それは俺の思いを微塵も訝ることなく受け止めてくれた女が待っているリングへ上がるためなのだが、上だけとはいえ肌を晒すというシチュエーションが欲情を無駄に駆り立て、挙句、桃姐が嘯いたあの日の言葉、
「ボクシングとセックスって似てるんだよ。普通ボクシングは同性でやりあうけどさ、異性同士でやり合うときに実感するんだ。汗を飛ばし合いながらのガチンコ勝負、どっちが先にイクかなんてまさにそうだろ。真剣勝負のときは付けない・・・・ってのもそうだ。だからあたしはやめられないんだよ、ボクシングもセックスも」
 が、ここぞとばかりに甦り、心臓以外のところまで爆発しそうになる始末だった。
「なんだよ、お前。桃姐と手合わせはいつも逃げるくせに」
「赤湖も大概だけど、青川、お前もなに考えてるんだよ」
 緑池の非難は当然だし、黄沼のため息も理解はできる。
 両手を固め終えると、赤湖自慢のコレクションの中から青いのをチョイスする。
「頼むわ」
 緑池に紐を委ねている間、リング上ではまたしてもニノマエナナミが連れの少女をなだめていた。
「こんなこと終わりにしてください。もうじゅうぶんじゃないですか」
 一難去ってまた一難を地でいく展開に翻弄され続け、さすがに気の毒だが、今は自分の思いを抑えられない。悪いな、お嬢さん。
 ぐぐっと幾分かの怒りを乗せた緑池の締めつけをむしろ心地よく感じながら、両手の武装が完了する。皮革特有の匂いを鼻先で楽しみながら、ぎゅっぎゅっぎゅっとバンテージ越しに伝わるグローブの感触を何度も確かめる。だが、今は久しぶりの高揚感に酔いしれる暇はあいにくない。ニノマエナナミは別に急かしていないし、むしろ焦らずゆっくりと準備をして構わないとかいうんだろう。たぶん彼女はそういう女だ。そう、俺の都合だ。はやくあの女と一戦交えたくてしょうがないんだ。
 俺の本気は足元を固めたミドルのリングシューズにも現われている。わずか1分とはいえ、ニノマエナナミがいうように後悔はしなくはない。どこに住んでいるか知らないが、一期一会、ふたたび会える保障はない。
 ボクシングを始めてからこんなにもリングに上がるのがうれしかったことはない。そんな日はきっと、たぶん、もう来ないだろう。
 階段を上がり切ると、フッと息を吐いて、ロープを割った。
 久しぶりのグローブ着用、そしてリングへの臨場。武者震いがとまらない。
「感謝するよ、ニノマエナナミさん。俺の馬鹿げた申し出を受けてくれて」
「青川さんは真剣でした。馬鹿げてなどいませんよ」
 本当にいい女だ。そして最高にムカつく。だからこそ俺の手でそのきれいな顔を壊してやりたくなる。赤湖には悪いが敵討ちなんて殊勝なことは考えちゃいない。あいつはやられるべくしてやられたんだ。そういうことをしたんだからな。俺はただ、心の底からこの女とやりたいんだ。
『ボクシングとセックスって似てるんだよ』
 ああ、本当にそう思うよ、桃姐。だからこそ、赤湖すら付けなかったノーファウルカップを俺は付けたんだ。じゃないとクロップドパンツの上から破廉恥な膨らみをお嬢さん方に披露するはめになっちまうからな。もしものときに備えたわけじゃない。
 武者震いに身を任せるようにきつく手を握り込むと、ぎゅっと革が悲鳴を上げた。
 手を前で組んで微笑むニノマエナナミはとても学生チャンピオンとして名を馳せた赤湖を一発で逝かせた女には見えない。腕も脚も筋肉質じゃないし、腹筋も特に割れてはいない。贅肉などにはまるで無縁な見事な体躯であることは間違いないが、スタイルだけならこういう女は今のシーズン、浜辺には掃いて捨てるくらいいるだろう。しかし、被弾もせずにプロの世界に足を突っ込んだ男を翻弄し、一撃で伸せる女に出会うなんてのは一等の宝くじに当たるよりむずかしいはずだ。そう、俺はついているんだ。
「そろそろいくぞ。覚悟はできてるか」
「はい。いつでもどうぞ」
 セリフのやり取りだけだと、本当にヤってるみたいで最高に興奮する。そして俺はもっと気持ちよくなるために、更なる快楽を手にするために、掲げた右腕を勢いよく振った。
 開始のゴングと共にキャンバスを蹴ると、リングに上がる前にアタマの中で組み立てたコンビネーションを実行に移すべく、左の拳に力を込める。探り針などは無用。時間は1分しかないのだ、思いつく限りのパンチを思いつく限りの連携でもってぶつかるしかない。
 ボディ目がけて左を放つ。もちろん、これで勝負がつくはずはない。ブロッキングによってボディを打ち損ねた左を戻しながら、どちら・・・に重きを置くのか自分に問いかける。
 右ストレートか左フックか。
 選択したのは前者。
 この連携は身体の軸が傾き、バランスが崩れた状態でパンチを繋げていくので赤湖はあまり好きではなかった。
 斜めという不安定な体勢のまま、フックの回転を利用した打ち下ろし気味のストレートを送り込む。渾身の右をいとも簡単にストッピングされるが、しかし今は、悲しんでいるときではない。大砲に乗せた体重を後方へ戻すと、返しの左をニノマエナナミの右へ向かって打ち込む。
 間合いを取ったのが功を奏したのか、俺のフックは確かにニノマエナナミの右頬を打ち抜いた。俺の選択は間違っていなかった。そう思った。しかし、手応えがまるでない。スリッピング・アウェーだと気がついたときには、眼前がピンクで覆われていた。
 脳天を揺さ振る衝撃と鼻腔を突き抜ける冷気が容赦なく俺の思考と視界に混乱を与える。
 それが腕の伸び切らないショートであること、腕の戻しに合わせて身体を後ろへ引いたことが次なる攻撃のサインだとぼやけたアタマの中でなんとか導き出し、俺はニノマエナナミの左フックをギリギリのタイミングでよけていた。長い時間の中で培った技術が考えをまとめる前にスウェーというカタチになり、今度はジャブを打たせる。上体を戻しながら左足にウエイトを乗せるタイミングで右を勢いよく打ち出した。無意識の中で飛び出したワン・ツーはしかし、ニノマエナナミのグローブの前に弾かれてしまったが、防御から攻撃への切り替えに成功した満足感の方が上回り、俺のフットワークは切れ味するどく、敵を的確に追尾する。
 位置も軌道も威力もバラバラの攻撃をどんどん仕掛けてゆく。緩急さまざまなパンチを臨機応変に打ち込んでゆくのは最高の気分だった。さらに俺を喜ばせるのは相手の老獪で手本にしたくなるような防御技術。最小限の動きで途切れることなく次の動作に繋げていく様は艶やかですらあった。まるで恋愛に不慣れな少年を手玉に取る年上の妖婦のように猛りまくった赤湖の攻撃を受け流すニノマエナナミは本当に美しかった。リングという舞台で愛憎劇でも観賞しているような錯覚。それこそが俺をリングに引き上げた原動力。そしてそれを俺は今、身をもって体験している。最高の気分だ。おかげでノーファウルカップの下が痛くてしょうがない。
 連携の合間、俺の右をパーリングで弾く。赤湖のとき見せたアウトサイドパリーではなくインサイドパリー。挑発行為など排した本気の証。
 ニノマエナナミが振った左を右目の端で捉える。スウェーでやり過ごし、攻撃に移ろうと空間を詰めようとした俺の右頬に衝撃が走る。左フックの連打とはな。面白い。
 右フックから左アッパーの、やはり連打で襲いかかってくるニノマエナナミは心底楽しそうだった。彼女の華麗なフットワークは間断なくキャンバスを鳴らし、ピンクのグローブは俺を仕留めようと、横から下から、そして正面から無邪気に迫ってくる。
 俺は顔も、スタイルも、そしてたぶん性格もトップクラスのこの女を自分のもち得る技術でもって弄び、拳でもって壊したかった。それは間違いない。だが、いざグローブを着け、リングに上がり、こうやって相対すると、別の欲望が沸き起こり、それがどんどん大きくなっていくのを感じていた。
 夏の日差しは室内の温度を容赦なく上げてゆく。ニノマエナナミの透き通るような肌には赤湖のときには見ることがなかった玉のような汗が浮かんでは流れ、彼女のしなやかな身体に光沢を与えていた。それは俺も同じ。上半身裸の男とシンプルながらも少ない生地の水着のゆえ肌の露出面積の多い女が半裸に近い状態で本気で汗を飛ばし合う。
 リングとベッド、ボクシングのグローブと性器の差はあれど、やってる内容は男女の秘めごとに違いない。
『だからあたしはやめられないんだよ、ボクシングもセックスも』
 桃姐の言葉は真理だ。今、こうやってニノマエナナミとやり合ってて実感する。
 どれくいらいの時間が経ったのか、どれくらいの時間が残されているのか、ニノマエナナミのたっぷり体重の乗ったパンチを肝を冷やしながらも僅差でかわしつづけているうちに、さっきから膨張し続けている不穏当な欲望が許容範囲を超え、破裂しようとしていた。
 ボディへの一撃は止められ、そのまま左へ身体ごと振られる。体勢を整える間もなく、打ち下ろしが降ってくる。肩でブロックし、死角から潜らせるように今度は右でボディを狙う。またもストッピングを食らい、今度は押し返される。
 隙のない完璧なディフェンス、連携の間に挟み込む常軌を逸したするどいパンチは焦りと絶望を蓄積させ、ともすれば戦闘力をごっそり殺いでしまいかねないはずなのに、俺はうれしくてしょうがなかった。それは気を緩めたら大声で泣き叫び出しそうなくらいのよろこびだった。
 ボクシングにはノーブル・アートだのノーブル・サイエンスだのご大層な呼び名があるらしいが、ニノマエナナミの動きを見ているとなるほど、嘲る気も失せて妙に腑に落ちる気がしてくるから不思議だ。
 サイドステップから相手の動向を窺う。作戦など練り上げている暇はない。
 もう何度目か分からないボディ狙いのアッパー。またストッピングから腕ごと弾き返されるか押し戻される、体勢を立て直すために、そうすると思っていた。しかし、ニノマエナナミはそれを受け止めることせずに、叩き落とした。
 はっきりしない予感めいたものが電流となって全身をつき抜ける。それは背中が粟立つ恐怖感となって俺を怯えさせた。
 左手で俺のローブローをインサイドパリーで叩き、その勢いを上体に乗せて右に振る。
 ニノマエナナミは俺をじっと見ていた。喜怒哀楽、どれにも属さない不思議な表情。本当にきれいだ。
 その斜め後方では猥らな曲線を描くピンク色が獲物に襲いかからんと牙を剥いていた。
 拳を握り込む際に生み出される、皮革特有のぎりぎりという小さな悲鳴は確かに聞こえた。聞き間違いじゃない。
 俺を殴るために、俺の顔面をぶち壊すために、ニノマエナナミはとっておきの殺人パンチを打ち込もうとしていた。
 ニノマエナナミと拳を交わし合っているうちに生まれ、次第に膨らんでいった例の欲望はもう破裂寸前だった。
 そうだ。
 おれがニノマエナナミとやりたかった本当の理由は彼女をKOすることでも、高度な打ち合いでもない。俺は味わってみたかったんだ。この女の一発を。悪友をたった一発で沈めた、最高にいい女の放つ、本気のパンチってのがどんなのか、どこまで強力なものなのか体験したかったんだ。
 俺はこの女の本気の一発を欲している。赤湖に食らわせたような強烈なのを。……いや、確かにあのストレートはすさまじいものではあったが、あれですらニノマエナナミは全力出し切っているとは俺には思えなかった。
 来いよ、ニノマエナナミ。俺を殺すつもりでぶち込め。もしこれで死んだって構わねえ。こんないい女にリング上で殴り殺されるなんて誰でもできるもんじゃないだろう?
 ピンク色の拳はすでに打ち出されている。防御は間に合わない。間に合ったとしてみすみすこんなチャンスを逃すなんて愚かなことはしない。わざわざ女に殴り殺されるとかバカの極みだと嘲笑されたっていい。それでも俺はこっちを選ぶんだ。
 ピンク色はもうすぐそこまできている。
 なぜだろう、時間がゆっくり流れている気がした。そして急にむかしのことが、陳腐な表現だが、走馬灯のように駆け巡った。これが死ぬ間際に見ることができる幻想ってやつか。いい経験をした。あとは強烈なストレートを堪能して逝くだけだ。
 インパクトの瞬間、俺の顔面は形容しようのない潰れ方をして派手に吹っ飛ぶ。首から上が爆発でもしたかのような衝撃と共に俺はリングを超えてフロアに叩きつけられ、意識が闇に飲まれる。ブラックアウト。
 それは俺の望む数秒後の未来のはずだった。
 ぶわっと風圧を鼻先で感じた。痛みはない。なにより俺は生きている。ひょっとするとあまりの破壊力に痛覚すら感じずに逝ってしまったのかもしれないと思ったが、目の前を覆っているピンク色から発せられている革の匂いはリアルだ。
 一気に汗が吹き出し、今頃になって膝や太ももがたがたと悲鳴を上げる。これも、リアル。
 突き出していた拳をそっと離すと、ニノマエナナミは笑顔のまま、コーナーに戻るところだった。大殿筋の谷間と足の動きによって生み出される微かに食い込んだビキニの皺がたまらなくエロティックだ。赤湖じゃなくても見惚れてしまう。皮肉なことにそんな情欲によって自分が今、置かれている立場がようやく理解できた。
「……なんで、止めたんだ」
 ニノマエナナミが足を止めた。静かに振り返る仕草はとても上品でさっきまで俺と一戦を交えていた殺人パンチャーには到底見えない。
「約束は1分間でしたから」
 その言葉に小槌を手にしたまま呆気に取られていた黄沼が我に返った。わりい、と気まずそうにストップウォッチを止める。しっかり身体で時間を計っていやがったのか。赤湖のときといい、器用な女だ。
「にしたって、ゴングは鳴っちゃいないんだ。あのまま打ち抜きゃよかっただろう」
 腹立ちまぎれに吐き捨てる。せっかくのチャンスを棒に振ったのだ、これくらいは別にいいだろう。しかし、ニノマエナナミは俺の真意を巧みに隠した理不尽な不満にもとてもいい笑顔で返すのだった。
「だってこれは試合、喧嘩じゃありません。ルールは守らないとダメですよ」
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