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姉の居ぬ間に
決闘・結
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「はじめてのキスを同性に捧げずに済んだわ。ありがとう、一君」
右まぶたを少し腫らした十鳥さんは体操着のままソファーに座っていた。彼女のフットワークを支えた白ベースのバスケットシューズは体操着と驚くくらいマッチしている。アッパーとアウトソールだけにさりげなく黒を配したデザインもシンプルでいい。そのカタチから察するにおそらくは以前に上四元クシナが履いていたのと同じシリーズだろう。
「キャンバスに倒れたとき、けっこう衝撃があったけれど、頭とか打っていない?」
「平気。むしろ彼女に組み敷かれたときに、肩を強く圧迫されたときの方がきつかった」
確かにあれは刺激的というか、異様な光景だった。どう見ても十鳥さんが上四元クシナに陵辱される一歩手前の図であった。そのあとの沈黙と息づかい。見つめあっているふたりの女子高生ファイターの間には入っていけないオーラが確実にあった。
最終ラウンドの時間は過ぎていた。それを理由に堂々とゴングを打ち鳴らし、リングに上がってブレイクを命じることもできたはずだった。
「見惚れていたのかしら、一君」
意地悪、とは別種の熱を孕んだ両眼がこちらを見据えていた。
「……ご、ごめん」
どう取り繕うとも言い訳はできない。あのとき固まっていたのは事実だ。
「最終ラウンドのあれはすごかったね。上四元さんのパンチを受けても退かないで、身体ごと押し込むようなあのパンチ」
ごまかすみたいなカタチになったけれど、実際にあの一撃はすさまじかった。
「私は素人だし、負けて当たり前の心積もりで挑んだ試合だから、とにかく思いついたことは全部やり切るって決めたの。無我夢中だったから狙っていたわけでもないのよ」
見間違えじゃなければあのときの一発は身体を浮かせたいわゆるジョルトだった。無意識のうちにあんな必殺パンチを打ち込むとか十鳥さんは隠れた拳闘の才能があるんじゃないだろうか。
「アッパーの連打も強烈だった。なんだか熟練ボクサーの動きだったよ」
「それは褒めているのかしら」
……もちろん。
「気を抜いたらあの近距離だもの、彼女の反撃を封じるにはあれしか思いつかなかった」
品よく閉じられた太ももの上にはさっきまで彼女の拳を守っていた10オンスがちょこんと乗っている。なんだか不思議な光景だ。
「一君は知っていたのかしら」
真っ赤な10オンスを愛おしそうになでる仕草からは母性を感じる。
「上四元さんがボクシング経験者というだけじゃなくてとても強いということ」
顔に身体に、それはもう嫌というほど思い知らされている。どう答えたものかと思案していると、十鳥さんは問い詰めるようなことをしてごめんなさいと謝った。
シャワールームから絶えず聞こえていた水音が止む。ほどなく着替えを済ませた上四元クシナがバスタオルで髪を拭きながら出てきた。
オフショルダーの大胆なフリルが目を引く白いカットソーにシフォンの黒いミニスカートを合わせていた。スカートの生地は透け気味で丈の短さといい二重の意味で見えそうだった。いい一発をもらったはずの彼女の相貌は目を腫らした十鳥さんとは対象的に腹立たしいくらいにきれいなままであった。
「シャワー、どうぞ」
十鳥さんはグローブを横に置くと、使わせて頂くわとエコバッグみたいなトートを手にシャワー室へ消えた。
上四元クシナはロッカーから編み上げサンダルを取り出して素足に装着していた。
「じゃあ、戸締りよろしく。鍵はイナダさんに返してね」
そういうと上四元クシナはこちらを見ることなく出て行こうとした。
「ま、待って。このあと用がないんだったら、十鳥さんと三人で食事に行こうよ」
ノブに手をかけたままじっとしている彼女の背中からは何も伝わってこない。
「僕なんかと一緒にいたくないだろうけど」
一瞬。ほんの一瞬、室内、というよりも、彼女と僕の周りの空気だけが――空調がもたらすものとは別種の――異様な冷気に変質した気がした。
「そうやって自分を卑下するのやめない?」
ドアと相対したまま上四元クシナの声が尖る。
「あなたにそういう態度を取らせている私がいちばん悪いんだけど、もう少し毅然としてもいいんじゃない」
彼女のいうことはもっともだと思う。ただ姉の顔色をうかがうような年少時代を過ごした結果、知らず知らずのうちに女性に苦手意識を持つようになってしまった身にはそうそう簡単に心構えを変えられるはずもなかった。
カツッカツッとフロアに小気味のいい音が響いた。気がつくと上四元クシナは目の前で蠱惑の眼差しを向けていた。
「行ってあげてもいいけど、条件があるわ」
口角をつり上げて放つ挑発的な言動はまさに彼女だった。
「私、不完全燃焼なのよ。満足させてくれない?」
有無をいわせない強制力には恐怖すら感じる。
「気の済むまで殴られればいいのかな」
「分かってるじゃない。あなたって反射神経は抜群だし、渾身の一発を打ち込んでもノックアウトせずに立ち上がる頑丈さもあるしでお世辞じゃなく相手のし甲斐があるのよ」
褒め言葉として受け取っておこう。
「それがいやなら」
両の瞳に情念が躍った。
「私と濃厚なキス」
その淫猥な振舞いはつい数ヶ月前まで毎日のように投げつけてきたものだ。なんだか懐かしささえ覚えつつ彼女に気圧されていると、人の気配を背後に感じた。
「邪魔が入っちゃったわね」
どこか楽しげな上四元クシナからは険悪さは霧散していた。人懐こさにはほど遠いけれど、人を寄せつけないようなオーラは漂っていない。
「邪魔をしてしまったようね」
於牟寺の夏服に着替えた十鳥さんが髪を拭きながら立っていた。制服に裸足なのが妙に新鮮で艶かしい。
「これから食事にどうって熱心に誘われていたところよ」
確かにそうなのだけれど、どこか誤解を招くようないい回しに聞こえるのは少し気にし過ぎだろうか。
十鳥さんは興味もなさげに靴下とローファーを履く。
「今日使ったグローブとシューズ、それから体操着一式。よかったら記念にどう?」
上四元クシナがさっきまで十鳥さんの拳と足首を保護していたそれらを差し出す。口を保護していたマウスピースは彼女に合わせて作ったものだし、返されても困るということですでに付属のケースに納めて進呈していた。
「靴はともかくボクシングのグローブなんて貰ってどうするのかしら」
「あの殺風景なお部屋のいいインテリアにはなるんじゃない?」
笑顔の上四元クシナに真っ赤な10オンスを押しつけられた十鳥さんは疑わしげにそれをじっと見つめていた。
「グローブはなんとかバッグに入るけれど靴は……無理ね」
「あとから取りにくればいいじゃない。なんならあなたの専用シューズとしてここに常駐させておいてもいいわよ」
「またここに来るのは御免被るわね」
「今日みたいな対戦はともかくストレスを解消する意味で汗をかきに来るだけでもいいんじゃない? 大歓迎よ」
「こういうところを利用しなければいけないほど解消しなくてはいけないストレスは今のところ溜まっていないし、溜まる予定もないわね。あえていうのなら、あなたと顔を合わせるたびにストレスが溜まるからせっかくここに来ても効果は相殺されることになるわ」
「私はいつもここにいるわけじゃないわよ。私のいない、あなたの都合のいいときにでも使えばいいじゃない。合い鍵は作っておくから」
「けっこうよ」
「そんなこといわないで、ね?」
十鳥さんは心底不愉快そうだったけれど、上四元クシナは心底楽しそうだった。そういえばさっき、部屋がどうとかいっていたけれど、いつの間にふたりはこういう関係を築いていたんだろう。
「じゃあ、こちらは買い取らせて貰うわ」
「いらない。あげるわよ」
本当にインテリアにするつもりなのか、十鳥さんはボクシンググローブを礼をいって受け取ると、体操着一式と共にトートバッグの中へ仕舞い込んだ。
「運動着の方は洗って後日、返すわね」
「それもあげるわよ」
「活用のしようがないわ」
「部屋着として家の中で着たら? これからの季節は快適だと思うわよ」
古き良き時代の体操着を手に思案している十鳥さんに上四元クシナが奸知に長けた魔性の女みたいな笑みで囁いた。
「恋人ができたとき、それを着てエッチに励めばいいじゃない。きっと彼も喜ぶわよ」
「そんなものを作る予定はないけれど、セックスのときに服を着るのはおかしいじゃない。ふつうは脱いでするものでしょう」
「そういうプレイもあるのよ。ね、一君」
僕に振らないで欲しい。とはいえ、こういうのは羽二生さんも似合いそうかな、なんてちょっと想像する自分がいて嫌になる。
「……………」
「……………」
気がつくと、ふたりがじっと僕を見つめていた。脳内を支配していたブルマ姿の羽二生さんまで覗き見られた気がして顔から火が出そうになる。
「確かにこれは涼しげで動きやすそうだし、なにより丈夫そうね」
「でしょ?」
ふたりは何ごともなかったように会話をすすめていく。
「第一、名前も書いてしまった手前、突き返すわけにもいかないわね。こちらも買い取るということでいいかしら」
「だから、いらないってば」
どこか微笑ましいやり取りを傍観していると、その前時代的なウエアの入手元のことが気になった。確か十鳥さんがいうにはこのビルにテナントとして入っていたおもちゃ屋さんが残していったとかなんとか。コスプレ衣装も扱っていたのだろうか。
「ええ、扱っていたのよ。コスプレ衣装」
ここの主が意味あり気に口角を上げる。
「あなたも何か欲しい?」
上四元クシナは奥の部屋からひと抱えもあるダンボールを持ってきた。
「気に入ったものがあれば遠慮なく持って帰っていいわよ」
おそるおそる中を覗くと、絢爛でどこか如何わしい下着や衣装に混じって様々な種類の避妊具や子供には縁のないおもちゃが出てきた。
「ダンボールはまだまだあるからご入用ならいつでもどうぞ」
上四元クシナはすごくいい笑顔でそういった。
右まぶたを少し腫らした十鳥さんは体操着のままソファーに座っていた。彼女のフットワークを支えた白ベースのバスケットシューズは体操着と驚くくらいマッチしている。アッパーとアウトソールだけにさりげなく黒を配したデザインもシンプルでいい。そのカタチから察するにおそらくは以前に上四元クシナが履いていたのと同じシリーズだろう。
「キャンバスに倒れたとき、けっこう衝撃があったけれど、頭とか打っていない?」
「平気。むしろ彼女に組み敷かれたときに、肩を強く圧迫されたときの方がきつかった」
確かにあれは刺激的というか、異様な光景だった。どう見ても十鳥さんが上四元クシナに陵辱される一歩手前の図であった。そのあとの沈黙と息づかい。見つめあっているふたりの女子高生ファイターの間には入っていけないオーラが確実にあった。
最終ラウンドの時間は過ぎていた。それを理由に堂々とゴングを打ち鳴らし、リングに上がってブレイクを命じることもできたはずだった。
「見惚れていたのかしら、一君」
意地悪、とは別種の熱を孕んだ両眼がこちらを見据えていた。
「……ご、ごめん」
どう取り繕うとも言い訳はできない。あのとき固まっていたのは事実だ。
「最終ラウンドのあれはすごかったね。上四元さんのパンチを受けても退かないで、身体ごと押し込むようなあのパンチ」
ごまかすみたいなカタチになったけれど、実際にあの一撃はすさまじかった。
「私は素人だし、負けて当たり前の心積もりで挑んだ試合だから、とにかく思いついたことは全部やり切るって決めたの。無我夢中だったから狙っていたわけでもないのよ」
見間違えじゃなければあのときの一発は身体を浮かせたいわゆるジョルトだった。無意識のうちにあんな必殺パンチを打ち込むとか十鳥さんは隠れた拳闘の才能があるんじゃないだろうか。
「アッパーの連打も強烈だった。なんだか熟練ボクサーの動きだったよ」
「それは褒めているのかしら」
……もちろん。
「気を抜いたらあの近距離だもの、彼女の反撃を封じるにはあれしか思いつかなかった」
品よく閉じられた太ももの上にはさっきまで彼女の拳を守っていた10オンスがちょこんと乗っている。なんだか不思議な光景だ。
「一君は知っていたのかしら」
真っ赤な10オンスを愛おしそうになでる仕草からは母性を感じる。
「上四元さんがボクシング経験者というだけじゃなくてとても強いということ」
顔に身体に、それはもう嫌というほど思い知らされている。どう答えたものかと思案していると、十鳥さんは問い詰めるようなことをしてごめんなさいと謝った。
シャワールームから絶えず聞こえていた水音が止む。ほどなく着替えを済ませた上四元クシナがバスタオルで髪を拭きながら出てきた。
オフショルダーの大胆なフリルが目を引く白いカットソーにシフォンの黒いミニスカートを合わせていた。スカートの生地は透け気味で丈の短さといい二重の意味で見えそうだった。いい一発をもらったはずの彼女の相貌は目を腫らした十鳥さんとは対象的に腹立たしいくらいにきれいなままであった。
「シャワー、どうぞ」
十鳥さんはグローブを横に置くと、使わせて頂くわとエコバッグみたいなトートを手にシャワー室へ消えた。
上四元クシナはロッカーから編み上げサンダルを取り出して素足に装着していた。
「じゃあ、戸締りよろしく。鍵はイナダさんに返してね」
そういうと上四元クシナはこちらを見ることなく出て行こうとした。
「ま、待って。このあと用がないんだったら、十鳥さんと三人で食事に行こうよ」
ノブに手をかけたままじっとしている彼女の背中からは何も伝わってこない。
「僕なんかと一緒にいたくないだろうけど」
一瞬。ほんの一瞬、室内、というよりも、彼女と僕の周りの空気だけが――空調がもたらすものとは別種の――異様な冷気に変質した気がした。
「そうやって自分を卑下するのやめない?」
ドアと相対したまま上四元クシナの声が尖る。
「あなたにそういう態度を取らせている私がいちばん悪いんだけど、もう少し毅然としてもいいんじゃない」
彼女のいうことはもっともだと思う。ただ姉の顔色をうかがうような年少時代を過ごした結果、知らず知らずのうちに女性に苦手意識を持つようになってしまった身にはそうそう簡単に心構えを変えられるはずもなかった。
カツッカツッとフロアに小気味のいい音が響いた。気がつくと上四元クシナは目の前で蠱惑の眼差しを向けていた。
「行ってあげてもいいけど、条件があるわ」
口角をつり上げて放つ挑発的な言動はまさに彼女だった。
「私、不完全燃焼なのよ。満足させてくれない?」
有無をいわせない強制力には恐怖すら感じる。
「気の済むまで殴られればいいのかな」
「分かってるじゃない。あなたって反射神経は抜群だし、渾身の一発を打ち込んでもノックアウトせずに立ち上がる頑丈さもあるしでお世辞じゃなく相手のし甲斐があるのよ」
褒め言葉として受け取っておこう。
「それがいやなら」
両の瞳に情念が躍った。
「私と濃厚なキス」
その淫猥な振舞いはつい数ヶ月前まで毎日のように投げつけてきたものだ。なんだか懐かしささえ覚えつつ彼女に気圧されていると、人の気配を背後に感じた。
「邪魔が入っちゃったわね」
どこか楽しげな上四元クシナからは険悪さは霧散していた。人懐こさにはほど遠いけれど、人を寄せつけないようなオーラは漂っていない。
「邪魔をしてしまったようね」
於牟寺の夏服に着替えた十鳥さんが髪を拭きながら立っていた。制服に裸足なのが妙に新鮮で艶かしい。
「これから食事にどうって熱心に誘われていたところよ」
確かにそうなのだけれど、どこか誤解を招くようないい回しに聞こえるのは少し気にし過ぎだろうか。
十鳥さんは興味もなさげに靴下とローファーを履く。
「今日使ったグローブとシューズ、それから体操着一式。よかったら記念にどう?」
上四元クシナがさっきまで十鳥さんの拳と足首を保護していたそれらを差し出す。口を保護していたマウスピースは彼女に合わせて作ったものだし、返されても困るということですでに付属のケースに納めて進呈していた。
「靴はともかくボクシングのグローブなんて貰ってどうするのかしら」
「あの殺風景なお部屋のいいインテリアにはなるんじゃない?」
笑顔の上四元クシナに真っ赤な10オンスを押しつけられた十鳥さんは疑わしげにそれをじっと見つめていた。
「グローブはなんとかバッグに入るけれど靴は……無理ね」
「あとから取りにくればいいじゃない。なんならあなたの専用シューズとしてここに常駐させておいてもいいわよ」
「またここに来るのは御免被るわね」
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「こういうところを利用しなければいけないほど解消しなくてはいけないストレスは今のところ溜まっていないし、溜まる予定もないわね。あえていうのなら、あなたと顔を合わせるたびにストレスが溜まるからせっかくここに来ても効果は相殺されることになるわ」
「私はいつもここにいるわけじゃないわよ。私のいない、あなたの都合のいいときにでも使えばいいじゃない。合い鍵は作っておくから」
「けっこうよ」
「そんなこといわないで、ね?」
十鳥さんは心底不愉快そうだったけれど、上四元クシナは心底楽しそうだった。そういえばさっき、部屋がどうとかいっていたけれど、いつの間にふたりはこういう関係を築いていたんだろう。
「じゃあ、こちらは買い取らせて貰うわ」
「いらない。あげるわよ」
本当にインテリアにするつもりなのか、十鳥さんはボクシンググローブを礼をいって受け取ると、体操着一式と共にトートバッグの中へ仕舞い込んだ。
「運動着の方は洗って後日、返すわね」
「それもあげるわよ」
「活用のしようがないわ」
「部屋着として家の中で着たら? これからの季節は快適だと思うわよ」
古き良き時代の体操着を手に思案している十鳥さんに上四元クシナが奸知に長けた魔性の女みたいな笑みで囁いた。
「恋人ができたとき、それを着てエッチに励めばいいじゃない。きっと彼も喜ぶわよ」
「そんなものを作る予定はないけれど、セックスのときに服を着るのはおかしいじゃない。ふつうは脱いでするものでしょう」
「そういうプレイもあるのよ。ね、一君」
僕に振らないで欲しい。とはいえ、こういうのは羽二生さんも似合いそうかな、なんてちょっと想像する自分がいて嫌になる。
「……………」
「……………」
気がつくと、ふたりがじっと僕を見つめていた。脳内を支配していたブルマ姿の羽二生さんまで覗き見られた気がして顔から火が出そうになる。
「確かにこれは涼しげで動きやすそうだし、なにより丈夫そうね」
「でしょ?」
ふたりは何ごともなかったように会話をすすめていく。
「第一、名前も書いてしまった手前、突き返すわけにもいかないわね。こちらも買い取るということでいいかしら」
「だから、いらないってば」
どこか微笑ましいやり取りを傍観していると、その前時代的なウエアの入手元のことが気になった。確か十鳥さんがいうにはこのビルにテナントとして入っていたおもちゃ屋さんが残していったとかなんとか。コスプレ衣装も扱っていたのだろうか。
「ええ、扱っていたのよ。コスプレ衣装」
ここの主が意味あり気に口角を上げる。
「あなたも何か欲しい?」
上四元クシナは奥の部屋からひと抱えもあるダンボールを持ってきた。
「気に入ったものがあれば遠慮なく持って帰っていいわよ」
おそるおそる中を覗くと、絢爛でどこか如何わしい下着や衣装に混じって様々な種類の避妊具や子供には縁のないおもちゃが出てきた。
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