風の音

月(ユエ)/久瀬まりか

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ある時、街に王様からの使者がやって来た。彼は広場に人を集め演説した。

「街の者に尋ねる。このペンダントに見覚えはないか。これを付けた十三歳くらいの少女がいたら名乗り出よ。このペンダントは行方不明になった王女の証である。髪の色は栗色、瞳は琥珀色。見つかり次第その者は王女として王宮に迎え入れる」

そのペンダントの絵を見たトマスは驚いた。レイラが付けている物と同じだったのだ。

(レイラは王女だったのか)

トマスは使者に名乗り出た。使者は大層喜び、明日迎えに行くと言った。

家に帰ったトマスは早速シモーヌに報告した。

「あんた、それならミラを代わりに行かせましょうよ」

「何でだ? 厄介払いも出来るし、レイラでいいじゃないか」

「だって、ミラとレイラは髪の色も目の色も同じなのよ? ペンダントさえ付けておけばバレないわ。ただ働きの下女として、今まで通りレイラは置いておけばいいじゃない。ミラが、私達の娘が王女になって贅沢三昧出来るのよ? あの子の幸せを考えたらそれが一番だわ」

「なるほどな。よし、ミラにも聞いてみよう」

ミラは勿論、二つ返事で受け入れた。

「何処かの王子様と結婚出来るかもしれないわ。まるでお伽話ね」

話は決まった。次の日の朝、夫婦はレイラを納屋に閉じ込め、ペンダントを奪った。

「やめて! お母様の形見なのに!」

「うるさいね。これが役に立つ時が来たんだよ。しばらく大人しくしてな」

レイラは猿ぐつわを噛まされ手足を縛られて納屋の柱に繋がれた。

「使者が来ている間は静かにしてろ。騒いだら後で折檻するからな」

母屋に戻った夫婦はミラを念入りに着飾り、王の使者を待った。使者はミラを見ると髪の色、目の色、そして首に掛けたペンダントを吟味した。

「間違いありません。レイラ王女様、よくぞご無事でいらっしゃいました」

使者達がひざまづき、ミラが本当の王女のように見えて夫婦はうっとりとしていた。

使者は、今まで育ててくれたお礼だ、と小袋に入った金貨を夫婦に渡した。

そしてミラは幸せそうに微笑み、王家の馬車に乗って去って行った。

「あんた、こんな幸運があるんだねえ」

「そうだな。あの日、俺らが親切にしたおかげだな」

二人は満足気にいつまでも馬車が去った方角を見つめていた。

「あらいけない。そろそろ夕方だよ。レイラを納屋から出して、仕事をやらせなきゃ」

納屋に入ると、レイラはグッタリとうなだれていた。トマスはレイラの肩を揺さぶり、

「おいレイラ起きろ。餌やりの時間だ」

その時、何かが空を切るような音がした。
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