前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか

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現れない聖女

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「ところで君たち、新たな聖女が見つからないという話は聞いたことがあるかい?」

 王子に問われ、エドガーが答える。

「はい。アデリン様が亡くなってからこの三十年で現れた聖女はわずか二人。しかもこの十六年というもの、一人の聖女も見つかっていないとか」

「その通りだ。今いる聖女二人のうち一人は病を得て床に伏している。そのため今回の討伐には一人しか同行出来なかった」

「同行して下さった聖女様も、長い宿営がお辛そうでした。遠くから結界を張るということは出来ないのですか?」

 テオドアが眉間に皺を寄せ、首を振りながら話す。

「うむ、エドガー。普通の聖女は自分の周りにしか結界を張ることは出来ん。だから前線に出て騎士たちと共に戦わねばならんのだ。アデリン様が特別すぎたのだ。彼女の結界によって長いこと魔獣と戦うことのなかった我々騎士団は、戦い方をすっかり忘れてしまった。そのため現在の聖女たちにかなりの負担を掛けていることは間違いない。だからエドガーのような、一発で魔獣を倒せる騎士が増えてくれないと困るのだ」

「あの……今の聖女様はおいくつになられたのですか?」

 恐る恐る、テオドアに向かって尋ねてみる。アンドリュー王子の顔を見るのはなんだか怖いのだ。私の奥に潜むものを見透かすような鋭い目。

「療養中の聖女は四十五歳、もう一人は三十一歳だ。次の聖女が出てこないと体力的にももう厳しいだろう」

「どこかに聖女が隠れているなら出て来てほしいものだ」

 テオドアの言葉に被せるようにして強く厳しい声で王子が私に向かって言ったので、私は動揺を見せないよう背筋を伸ばし落ち着いて答えた。

「そうですわね。私もそのように願っております」




 帰りの馬車でエドガーは不思議そうにずっと首を捻っていた。

「どうしたの? エドガー」

「ああ、アイリス。テオドア団長が言っていたことが気になってね。私からアデリン様のオーラが漂っていたというのは本当なのだろうか」

「うーん、でも今日は何も感じないって言っていたじゃない? きっと、何かの勘違いよ。アデリン様が今も生きているわけないんだし。気にせず、結婚準備を始めましょ! お式は、予定通り私の誕生日でいいのかしら?」
 
 まだ納得のいかない表情のエドガーだったが気持ちを切り替え、微笑んでくれた。

「もちろん。あと八か月だね。もしかしたらその間にもう一回、魔物討伐に行かなきゃいけないかもしれないけど」

「そうね……結界が無いのなら魔物は次々と侵入してくるものね」

「でも私はもう弱気になったりしない。必ず無事に戻ってくる。決してアイリスを修道院に行かせたりしないから」

「あら。頼りにしてるわ、エドガー」

 私たちは顔を寄せて笑い合った。
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