14 / 18
14 朝の叫び声
しおりを挟むパーティー前日、ようやくすべての支度が整った。急いで仕立てたとは思えない素晴らしい仕上がりのドレス。輸入物のお高いレースがふんだんに使われている。エイネは、ユリウスの正装も一緒に仕立てていたのだけれど。
「おや? エイネ、この服は少し小さいぞ? 背中が入らない」
ユリウスがきつそうにもぞもぞしている。彼の背中の盛り上がった部分が、入らないようなのだ。
「いつもちゃんとサイズぴったりに作ってくれるのに……」
「ああ、それは気にしないでいいです。サイズが変わった時に着られるように作っただけですから」
「そ、そうなのか? 太った時のために大きくするのはわかるが、小さいサイズを作るって……」
しきりに首を捻るユリウス。私も不思議に思う。けれどエイネはあっけらかんとしている。
「明日の衣装はタウンハウスに置いてあったもので充分でしょう。この衣装は、念のための予備ですから」
まだ首を捻っているユリウスに、トピアスが声を掛けた。
「旦那さま、奥さまのご実家のことでちょっと小耳に挟んだのですが」
私の実家? なんだろう。私はユリウスと顔を見合せた。
「トピアス。聞かせてくれ」
「はい。奥さまの妹、カイヤ様はどうやらご懐妊のようです」
私は腰がぬけるほどびっくりした。
「ええ! カイヤが?」
あの子の誕生日は来月だ。そこでやっと法的に結婚できる年齢になる。だから今はまだ十五歳だ。
「幸いつわりもないとのことで、明日のパーティーにも出席する予定だそうです。結婚式は誕生日に、大聖堂を予約しております」
トピアスの情報網おそるべし。けっこうプライベートなことなのに、どこから聞いたのだろう。
「ご本人が嬉し気に吹聴していますので」
「なるほど。恥ずかしいという気持ちはないのだな」
ユリウスは心配そうな顔で私の背を抱いた。
「リューディア、パーティーに出席しても大丈夫か? あの妹と顔を合わせるのは嫌ではないのか? もし嫌だったら……」
私は人差し指を彼の唇にあて、そのあとの言葉を言わせないようにした。
「大丈夫よ、ユリウス。私はもうあの子に何を言われても傷つかないし、怒ったりもしない。心を乱されることはないわ。だって、私は今、こんなに幸せなんだもの。案山子が何かわめいてる、ぐらいに思っておくわ」
「そうだな。誰がなんといおうと、私たちが幸せならそれでいい」
ユリウスは優しく抱きしめてくれた。ヘルガとミルカが、壁際でまた泣いているのが見える。私たちはみんなに見守られ支えられて、こんなに幸福だ。そして……月のものは昨日、終わった。今日から私は、主寝室で休むことになる。
(大好きなユリウスと、本当の夫婦になって……明日は最高の笑顔でパーティーに向かうの)
そして今……私は大きなベッドでユリウスと向かい合わせに座っている。
「リューディア。本当に私でいいんだね」
「ええ、ユリウス。あなただからいいの」
ぎこちないキス、そして優しく押し倒されて……私たちは結ばれ、心も身体もひとつになった。
☆☆☆
カーテン越しに朝日が降り注ぐ。いつもより、寝坊してしまったみたい。ユリウスは隣でまだ寝息をたてている。
(ふふ、お寝坊さんね)
頬にキスして起こしちゃおうかな、と顔を近づけた時、ユリウスは寝返りをうった。そして。
「きゃ――――――!!!」
私は大声で叫び、シーツをひっぺがして自分の体に巻き付けるとベッドから飛び降り、部屋の隅まで後ずさりした。
「どうした? リューディア、大丈夫か!」
がばっと起き上がって私に近づいてくるその人は、声は確かにユリウスなのだけど、姿が違うのだ!
「あなた、誰? 私のユリウスをどこへやったの?」
「何言ってるんだ、リューディア! 私だよ、ユリウスだ! どうしてそんなに怯えるんだ……」
悲しそうに眉を寄せるその人に、私は鏡を指差した。
「だって、あなた、ユリウスじゃないもの! 声はユリウスなのに」
その人は振り返り鏡を見た。そして、私と同じように叫んだ。
「はあ????? なんだ、これは!!!!!」
その時、ノックの音がしてヘルガやミルカ、トピアスが部屋になだれ込んできた。
「ヘルガ!! ユリウスがいないの!!」
「トピアス!! 私はいったい……!!」
すると、三人が一斉に拍手を始めた。
「「なっ……!」」
私も、その人も、わけがわからない。なぜ、拍手されているのか。
「おめでとうございます、ユリウス様! ようやく、本当のお姿になられて…………」
そして全員泣きだしてしまった。よくはわからないがどうやら、この人はユリウスで間違いないらしい。
「あの、あなた……ユリウスなの?」
ユリウスらしき人は何度も何度も頷く。そしてベッドから降りて私に近づいてきた。
「僕のリューディア、怯えないで……なぜだかはわからないけど、僕はユリウスに間違いないんだ」
近くに立って、そっと顔を見上げる。瘤も痣もなくなり、違う顔になっているけれど、赤い瞳の優しい光は変わらない。これは、私のユリウスだ。
「ユリウス、あなたなのね……? 私、ユリウスが消えてしまったんじゃないかと思って怖かった……」
「リューディア……」
そっと私を抱きしめるその手は、いつものユリウス。私は安心して体を預けた。
「あー、コホン。お取込み中申し訳ないけど、ユリウスはとりあえず服を着ようか?」
ハッと気がつくと丸裸のユリウスとシーツ一枚の私。トピアスとミルカはこちらを見ないように壁のほうを向いていて、ヘルガがガウンをもって走ってきた。
「とりあえず、服を着てからお話をいたしましょう」
105
あなたにおすすめの小説
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに溺愛されて成り上がり、夫を追い出します
深山きらら
恋愛
政略結婚でレンフォード伯爵家に嫁いだセシリア。しかし初夜、夫のルパートから「君を愛するつもりはない」と告げられる。さらに義母から残酷な命令が。「愛人ロザリンドの子を、あなたの子として育てなさい」。屈辱に耐える日々の中、偶然再会した幼なじみの商人リオンが、セシリアの才能を信じて事業を支援してくれる。
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。
木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。
色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。
それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。
王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。
しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。
ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。
たいした苦悩じゃないのよね?
ぽんぽこ狸
恋愛
シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。
潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。
それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。
けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。
彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。
冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様
さくたろう
恋愛
役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。
ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。
恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
完結 やっぱり貴方は、そちらを選ぶのですね
ポチ
恋愛
卒業式も終わり
卒業のお祝い。。
パーティーの時にソレは起こった
やっぱり。。そうだったのですね、、
また、愛する人は
離れて行く
また?婚約者は、1人目だけど。。。
【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。
朝日みらい
恋愛
魔物を討伐し国を救った若き魔術師アリア・フェルディナンド。
国王から「望むものを何でも与える」と言われた彼女が選んだ褒美は――
「国一番の美男子を、夫にください」
という前代未聞のひと言だった。
急遽開かれた婿候補サロンで、アリアが一目で心を奪われたのは、
“夜の街の帝王”と呼ばれる美貌の青年ルシアン・クロード。
女たらし、金遣いが荒い、家の恥――
そんな悪評だらけの彼を、アリアは迷わず指名する。
「顔が好きだからです」
直球すぎる理由に戸惑うルシアン。
だが彼には、誰にも言えない孤独と過去があった。
これは、
顔だけで選んだはずの英雄と、
誰にも本気で愛されたことのない美貌の青年が、
“契約婚”から始める恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる