2 / 12
2
しおりを挟む
「おはようございます、リカルド様」
「おはようソニア。よく眠れたか?」
「はい、それはもう。ベッドがとてもふかふかで清潔で……夢のような寝心地でした」
リカルドは少し憐れむような顔をした。ソニアがフィオレンツァ家で邪魔者扱いされているという話を噂で聞いていたからだ。
先妻の子であるソニアは後妻に疎まれて育ったのだという。後妻が娘と息子を相次いで産みその地位を確立してからは、なおさら当たりがきつくなったとも。
今回の縁談も、王都を離れ辺境の地に嫁いでくれる適齢の高位令嬢がいなかったため、うちの娘はまだ若いがどうでしょうかとフィオレンツァ伯爵自ら手を挙げたのである。『邪魔者はいなくなるし王家に恩を売れるし一石二鳥』というところだろう。
ベッドの話で無邪気な笑顔を見せるソニアに、リカルドも微笑みを返してから侍女に合図を送る。
「それは良かった。では朝食を始めようか」
朝食はソニアにとって素晴らしいものだった。新鮮な野菜のサラダ、柔らかな白いパン、塩気の効いたベーコン。フルーツは何種類も用意されている。
「まあ……」
頬を赤くして喜び、次々と平らげていくソニア。伯爵令嬢としては少々はしたない姿かもしれないが、それよりも若い食欲が勝っていた。
満足げな表情で食後のお茶を飲むソニアに、リカルドは馬車で外に出ることを提案した。
「新婚だから一週間休みが取れた。旅行に行くことも考えたが、それよりも我が領地を見てもらいたい。毎日、場所を変えて案内しよう」
「はい! ありがとうございます」
外出着に着替えリカルドのエスコートで馬車へと向かった。隣に並ぶとソニアの頭はリカルドの肩よりも低い。目を見て話すにはかなり上を向かなければ難しい。分厚い胸、高い腰の位置。馬車に乗るときに手を乗せると、固く大きな手はびくともせずソニアをふわりと持ち上げた。華奢で小さな自分とは違う、大人の男の人なのだと感じた。
「今日はまず南のほうへ行こう。王都よりは北になるが、それでも我がステッラの中では暖かく豊かな地方だ。ここでは多くの作物が育つ」
金色に広がる麦畑を目を細めて眺めるリカルド。作業中の農民たちが帽子を取って彼に挨拶をする。
「領民たちに慕われていらっしゃるのですね」
「私の初めての領地だからな。皆を幸せにしたいと思ってやってきた。とはいえ、私は遠征に出ていることが多いから、留守を預かる家令が優秀なのだが」
「……優秀な家令が仕えているということは、リカルド様が素晴らしい方だからですわね」
リカルドは少し驚いた目をしたがすぐに笑みを浮かべた。意外に幼いだけではないと思ったようであった。
こうして一週間かけて二人はステッラのあちこちを見て回った。愛らしいソニアは領民たちに歓迎され、祝福の言葉を行く先々でかけられた。このように誉められ肯定されることはソニアにとって初めてのことだ。
「リカルド様、私、ここに来てから毎日が楽しいですわ」
実際、ソニアは幸せそうに見えた。美味しい食事、明るい太陽の光、優しい使用人たち。夫はいつも穏やかで、義母のように怒鳴ることもない。華奢だったソニアの身体は心持ちふっくらとし、頬は赤みを増して透き通る白肌にますます磨きがかかった。
それでも、ソニアはまだ寝室を共にしない。そしてリカルドもそれについて妻に何も言わなかった。
侍女頭や家令は二人がまだ真実の夫婦になっていないことに気がついていたが、何か考えがあってのことだろうと思い口をつぐんでいた。
「おはようソニア。よく眠れたか?」
「はい、それはもう。ベッドがとてもふかふかで清潔で……夢のような寝心地でした」
リカルドは少し憐れむような顔をした。ソニアがフィオレンツァ家で邪魔者扱いされているという話を噂で聞いていたからだ。
先妻の子であるソニアは後妻に疎まれて育ったのだという。後妻が娘と息子を相次いで産みその地位を確立してからは、なおさら当たりがきつくなったとも。
今回の縁談も、王都を離れ辺境の地に嫁いでくれる適齢の高位令嬢がいなかったため、うちの娘はまだ若いがどうでしょうかとフィオレンツァ伯爵自ら手を挙げたのである。『邪魔者はいなくなるし王家に恩を売れるし一石二鳥』というところだろう。
ベッドの話で無邪気な笑顔を見せるソニアに、リカルドも微笑みを返してから侍女に合図を送る。
「それは良かった。では朝食を始めようか」
朝食はソニアにとって素晴らしいものだった。新鮮な野菜のサラダ、柔らかな白いパン、塩気の効いたベーコン。フルーツは何種類も用意されている。
「まあ……」
頬を赤くして喜び、次々と平らげていくソニア。伯爵令嬢としては少々はしたない姿かもしれないが、それよりも若い食欲が勝っていた。
満足げな表情で食後のお茶を飲むソニアに、リカルドは馬車で外に出ることを提案した。
「新婚だから一週間休みが取れた。旅行に行くことも考えたが、それよりも我が領地を見てもらいたい。毎日、場所を変えて案内しよう」
「はい! ありがとうございます」
外出着に着替えリカルドのエスコートで馬車へと向かった。隣に並ぶとソニアの頭はリカルドの肩よりも低い。目を見て話すにはかなり上を向かなければ難しい。分厚い胸、高い腰の位置。馬車に乗るときに手を乗せると、固く大きな手はびくともせずソニアをふわりと持ち上げた。華奢で小さな自分とは違う、大人の男の人なのだと感じた。
「今日はまず南のほうへ行こう。王都よりは北になるが、それでも我がステッラの中では暖かく豊かな地方だ。ここでは多くの作物が育つ」
金色に広がる麦畑を目を細めて眺めるリカルド。作業中の農民たちが帽子を取って彼に挨拶をする。
「領民たちに慕われていらっしゃるのですね」
「私の初めての領地だからな。皆を幸せにしたいと思ってやってきた。とはいえ、私は遠征に出ていることが多いから、留守を預かる家令が優秀なのだが」
「……優秀な家令が仕えているということは、リカルド様が素晴らしい方だからですわね」
リカルドは少し驚いた目をしたがすぐに笑みを浮かべた。意外に幼いだけではないと思ったようであった。
こうして一週間かけて二人はステッラのあちこちを見て回った。愛らしいソニアは領民たちに歓迎され、祝福の言葉を行く先々でかけられた。このように誉められ肯定されることはソニアにとって初めてのことだ。
「リカルド様、私、ここに来てから毎日が楽しいですわ」
実際、ソニアは幸せそうに見えた。美味しい食事、明るい太陽の光、優しい使用人たち。夫はいつも穏やかで、義母のように怒鳴ることもない。華奢だったソニアの身体は心持ちふっくらとし、頬は赤みを増して透き通る白肌にますます磨きがかかった。
それでも、ソニアはまだ寝室を共にしない。そしてリカルドもそれについて妻に何も言わなかった。
侍女頭や家令は二人がまだ真実の夫婦になっていないことに気がついていたが、何か考えがあってのことだろうと思い口をつぐんでいた。
220
あなたにおすすめの小説
【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ
月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。
泣くのも違う。怒るのも違う。
ただ静かに消えよう。
そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。
画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。
相手に気付かれた? 見られた?
「未練ある」って思われる!?
恐怖でブロックボタンを連打した夜。
カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
夏の眼差し
通木遼平
恋愛
伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。
家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。
※他サイトにも掲載しています
実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
そして鳥は戻ってくる
青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。
同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。
3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。
そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。
その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。
*荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。
*他のサイトでも公開します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる