【完結】 嘘と後悔、そして愛

月(ユエ)/久瀬まりか

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 暗い室内をランプがほんのりと照らす。大きなベッドに腰掛けた新妻ソニアは今日会ったばかりの夫・リカルドを待っていた。

 大人たちの事情により急遽決められた結婚。騎士団長として多忙な夫とは事前に一度も顔を合わさぬまま、王都から遠く離れたこの土地に嫁いできたソニア。何もかもが不安な船出。カタカタと窓を揺らす風の音が、ソニアの心もかき乱した。

 やがてドアがノックされた。はい、と震える声で返事をするとガチャリとドアが開き大きな影がすっと入ってくる。

「すまない。待たせたようだ」

 落ち着いた低い声が耳に心地いい。式の間撫で付けていた黒髪が額に下ろされて鋭い目が隠れているからか、昼間より少しだけ幼く見える。

 リカルド・ジラルディ。王国の辺境騎士団長であり現国王陛下の末の弟でもある。陛下に王子が二人誕生して王位継承権が下位となったことで侯爵の地位を賜り、ここステッラに領地を得た。辺境ではあるが豊かな土地であり、隣国からの侵入を防ぐ上でも彼がこの地にいることは適任であった。

 類まれな身体能力ゆえに早くから騎士として頭角を現したリカルド。王弟だから出世したのだと言われることを嫌い、志願して何度も危険な地域へと赴いた。そうすることで下の者たちにも認められていき、実力で騎士団長になったのである。

 そんな彼も気づけば25歳を過ぎ、世間では妻子がいて当然の年齢となっていた。それなのに浮いた噂の一つもない弟を心配した陛下が勝手に決めた結婚相手が、フィオレンツァ伯爵令嬢・ソニアなのである。

 ソニア・フィオレンツァは15歳。蜂蜜のように滑らかで豊かな金髪とアメシストのように輝く紫の瞳を持つ、美しい少女だ。しかし夢見がちなその表情はあまりにもいとけなく、妻と呼ぶには頼りない印象であった。
 幼い妻の隣に腰掛けその小さな肩を見下ろすと、微かに震えている。

「……私が、怖いか」
「いえ……そんなことは」
「王命とはいえ十も年上の男に嫁ぐことになったのだ。さぞ不安だと思う」

 するとソニアはその美しい瞳からぽろりと涙をこぼした。

「申し訳ございません……私……夜のお務めが……怖くて……」

 リカルドは頷いた。もとより、このような幼い少女を抱くなどと、自分でも納得がいかなかった。せめて、もう少し大人になってからでないと。

「そうだな。しかも君は昨日ここステッラに着いたばかり。休む間もなく式に臨み、疲れも溜まっているはずだ。今日はこのまま、別々に眠ろう」

 ソニアの手を取ってベッドから立ち上がらせると、掛布をめくり、横になるよう促した。

「リカルド様は……?」
「ここは夫婦の寝室だが、隣に私室がある。私はそちらで寝ることにしよう」
「よろしいのでしょうか……そんな」
「ああ。君にはまず、この街を知り、気に入ってもらいたい。そのために私も城の者たちも全力を尽くそう。そしてお互いを深く理解し、君がそうしたいと思うまで……部屋は別室でかまわない」
「リカルド様……ありがとうございます」

 夫を見上げるソニアの瞳は潤んでいた。

「では明日、朝食の席で待っている」

 そう言って部屋を出て行くリカルド。ドアが閉まるとソニアはランプの灯りを消し、ベッドに潜り込む。長旅の疲れ、一人ぼっちで初めての土地にいる緊張。すべてが襲い掛かり、急激にまぶたが重くなってきた。

「優しい方で良かったわ……ディーノ、私、純潔を守ることができてよ……」

 小さな声で呟いて、すぐに眠りの中に落ちて行った。





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