【完結】 嘘と後悔、そして愛

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
7 / 12

7

しおりを挟む
 だがどうだろう。あれほどに焦がれたディーノはソニアを利用価値のないものとして切り捨てるような人間だったのだ。 

 呆然とするソニアの耳に、女性の甲高い声が響いた。

「ディーノ! こんな所にいたの? 探したのよ」
「ああエルダ、すまない。ちょっと野暮用でね」

 ソニアが顔を上げると黒髪の美しい令嬢がディーノの隣に立っていた。20歳くらいだろうか、ソニアよりも豊かな曲線を持ち大人の魅力に溢れている。

「あら、どうしたの。もしかして浮気していたの?」

 きつい口調でディーノを睨みつける。ディーノは慌てて顔の前で手を振った。

「まさか! 前にも話しただろう? 幼馴染のソニアだよ」

 するとエルダはにやりと笑い、ディーノの腕を取った。

「ああ、あの夢見る勘違いお嬢様ね。ディーノから話は聞いていたわ。私はエルダ・ザネッティ。ディーノとは学園からのお付き合いよ」
「学園からの……」
「ええそうよ。あなたが送ってくる手紙を毎週、ディーノと一緒に笑いながら読ませてもらっていたわ。世間知らずで馬鹿な恋文をね」

 コロコロと楽しそうな声を上げるエルダ。

「学園を卒業したらあなたの顔を見てやろうと楽しみにしていたのよ。それなのに結婚して辺境に行ってしまっていたから会えなくてがっかりしていたの」

 かがみ込んでじろじろと楽しそうにソニアの顔を見つめる。

「でもやっぱり、諦めきれてなかったのね? 人妻になってまでディーノを追いかけてくるなんて呆れたものだわ。ジラルディ侯爵も面目丸潰れね」

 ソニアはその言葉にハッとした。自分の愚かな行動がリカルドの評判を落としてしまうことになぜ気づかなかったのか。

「あ……あの、お願いです、どうかこのことは誰にも言わないで下さい……」

 するとエルダの目がキラリと光った。意地の悪い、義母と同じ目。

「そうねえ。地面に頭を擦り付けて頼むなら、黙っていてあげてもいいわ。元伯爵令嬢、現侯爵夫人が頭を下げる姿が見れるなんて滅多にないもの」
「……わかりました」

 ソニアはきちんと座り直し、地面に手を付いて頭を下げようとした。が、その時。

「その必要はない」

 突然低い声が響く。見上げるとディーノとエルダの後ろにリカルドが立っていた。

「……リカルド様……」
「えっ、あっ、ジラルディ侯爵殿」

 ディーノはさっと道を開け、恭しく礼をする。臣下に降りたとはいえ王弟であることは変わらず、尊い身分には違いないのだ。

「私の妻に頭を下げさせようとしているのか」

 リカルドの声は怒気を孕んでいる。こんな声をソニアは聞いたことがない。

「い、いえ、違います、ただの冗談で……」

 ツカツカと近寄ってきたリカルドはソニアの腕を取り立ち上がらせる。いつもの優しい手つきと違い少し荒々しいことが、リカルドの怒りを感じさせた。

「地面に打ち倒し嘲笑し、なおかつ頭を下げさせようとしたことが冗談だというのか。卑怯な加害者の言いそうなことだな」

 リカルドがギリっと睨みつけると、普段そのような目に遭ったことのない二人は震え上がった。

「も、申し訳ございません!」
「我が妻を侮辱することは私を、ひいてはジラルディ侯爵家を敵に回すことだがそれをわかってのことか」
「と、とんでもございません! そんなつもりは少しも……いえ、全くありませんでした! どうか、どうかお許しを……」
「ならばさっさと立ち去れ。今後一切、妻に近寄ることを禁じる」
「は、はい、わかりました、申し訳ございません……! 失礼いたします……!!」

 二人は競うようにもつれ合って走りだした。大広間には戻らず、そのまま馬車のほうへ向かったようだ。よほどリカルドを恐れたのだろう。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ

月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。 泣くのも違う。怒るのも違う。 ただ静かに消えよう。 そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。 画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。 相手に気付かれた? 見られた? 「未練ある」って思われる!? 恐怖でブロックボタンを連打した夜。 カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

幼なじみの王子には、既に婚約者がいまして

mkrn
恋愛
幼なじみの王子の婚約者の女性は美しく、私はーー。

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

そして鳥は戻ってくる

青波鳩子
恋愛
リネットの幼馴染ジョディーの家に、ジョディーより7か月だけ年下のクレイグという義理の弟がやってきた。 同じ伯爵家同士で家も隣、リネットはクレイグに恋をする。 3人での交流を重ねているうちに、クレイグがジョディーに向ける視線が熱を帯びていることにリネットは気づく。 そんな頃、ジョディーの誕生会の場でトラブルがあり、リネットはクレイグから自分へのマイナス感情を立ち聞きしてしまう。 その晩リネットは、裁ちばさみを握りしめて——。 *荒唐無稽の世界観で書いていますので、そのようにお読みいただければと思います。 *他のサイトでも公開します

処理中です...