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ソニアが目を覚ました時、暖かい部屋の中で暖炉の火がパチパチと音を立てていた。
「目が覚めたか、ソニア」
「リカルド様……」
リカルドはベッドに腰掛け、ソニアの頭を撫でた。
「よく頑張ってくれた、ソニア。君が時間を稼いでくれたから戦闘の準備ができたのだ。おかげで、死人は出ていない」
「本当ですか? 良かった……」
リカルドたちは雪が降りそうだったので出発を早めて帰って来ていたらしい。城の近くまで戻った時、緊急用の狼煙が上がっており、急いで馬を走らせた騎士団に傭兵たちは手も足も出ず全員あっという間に捕えられたという。
「一人だけ死んだのはソニアを襲おうとしていた男だ。俺が、感情を抑えきれず殺してしまった……後悔はしていないが」
リカルドがそっとソニアの頬を撫でる。頬に触れられたのは初めてのことだ。優しい指の動きに、ソニアの頬から甘い疼きが全身に拡がっていく。
「君が酷い目に遭わされたのではないかと気が気ではなかった……本当に、無事で良かった」
ソニアは頬を撫でるリカルドの手をそっと握り、愛しい気持ちを込めて頬ずりした。大きくて硬い手のひら。この手で救ってくれたのだ。
「私も、あの時死ぬことを覚悟しました……まだ何も、リカルド様にお伝えしていないのに。私がリカルド様をお慕いしていることも、あなたに抱かれたいと心から思っていることも……」
二人の視線が絡み合った。お互いの瞳の中に、欲情の光を確かに感じ合う。リカルドは静かに顔を近づけ、ソニアの震える唇にキスをした。
「君を抱きたいと思っていたのは俺も同じだ。いや、君よりももっと前からそう思っていた。だが、君がかつての嘘の負い目から私に身を差し出すことだけは避けたかった。だからもっと時間をかけて、君の気持ちが私に向いたならその時に……と考えていた」
リカルドはソニアの肩を抱き寄せその逞しい胸に包み込んだ。
「しかしそれは卑怯なことだったと気づいたよ。歳上のくせに自分の気持ちを隠して愛されることばかり求めるだなんて……君が、あの男に襲われそうになっている時、身体中の血が沸騰したような気がした。そして後悔が押し寄せたんだ。そう、私も君を愛していると伝えていなかったのだから……」
リカルドの低い声がすぐそばで聞こえる。今までにないほど近い距離で。厚い胸からはドクンドクンと心臓の音が伝わって、その安心感に涙がこぼれそうだった。
「リカルド様……私を愛してくださっていたのですね。嬉しい……」
リカルドの手がソニアの髪を撫でる。だがそれは以前の撫で方とは違い、髪の一筋すらも大切に想う愛しさが込められていた。それを感じ取ったソニアは甘いため息を漏らし、その甘さがリカルドをさらに滾らせていく。
「リカルドと呼べ、ソニア」
「リカルド……」
長い遠回りをした二人はようやく自分の気持ちに素直になることができたのだった。
それから月日は流れ、二人の間には五人の子供が生まれた。強い侯爵と賢い侯爵夫人に導かれ、ステッラは辺境にも関わらず大いに栄えていったという。
「目が覚めたか、ソニア」
「リカルド様……」
リカルドはベッドに腰掛け、ソニアの頭を撫でた。
「よく頑張ってくれた、ソニア。君が時間を稼いでくれたから戦闘の準備ができたのだ。おかげで、死人は出ていない」
「本当ですか? 良かった……」
リカルドたちは雪が降りそうだったので出発を早めて帰って来ていたらしい。城の近くまで戻った時、緊急用の狼煙が上がっており、急いで馬を走らせた騎士団に傭兵たちは手も足も出ず全員あっという間に捕えられたという。
「一人だけ死んだのはソニアを襲おうとしていた男だ。俺が、感情を抑えきれず殺してしまった……後悔はしていないが」
リカルドがそっとソニアの頬を撫でる。頬に触れられたのは初めてのことだ。優しい指の動きに、ソニアの頬から甘い疼きが全身に拡がっていく。
「君が酷い目に遭わされたのではないかと気が気ではなかった……本当に、無事で良かった」
ソニアは頬を撫でるリカルドの手をそっと握り、愛しい気持ちを込めて頬ずりした。大きくて硬い手のひら。この手で救ってくれたのだ。
「私も、あの時死ぬことを覚悟しました……まだ何も、リカルド様にお伝えしていないのに。私がリカルド様をお慕いしていることも、あなたに抱かれたいと心から思っていることも……」
二人の視線が絡み合った。お互いの瞳の中に、欲情の光を確かに感じ合う。リカルドは静かに顔を近づけ、ソニアの震える唇にキスをした。
「君を抱きたいと思っていたのは俺も同じだ。いや、君よりももっと前からそう思っていた。だが、君がかつての嘘の負い目から私に身を差し出すことだけは避けたかった。だからもっと時間をかけて、君の気持ちが私に向いたならその時に……と考えていた」
リカルドはソニアの肩を抱き寄せその逞しい胸に包み込んだ。
「しかしそれは卑怯なことだったと気づいたよ。歳上のくせに自分の気持ちを隠して愛されることばかり求めるだなんて……君が、あの男に襲われそうになっている時、身体中の血が沸騰したような気がした。そして後悔が押し寄せたんだ。そう、私も君を愛していると伝えていなかったのだから……」
リカルドの低い声がすぐそばで聞こえる。今までにないほど近い距離で。厚い胸からはドクンドクンと心臓の音が伝わって、その安心感に涙がこぼれそうだった。
「リカルド様……私を愛してくださっていたのですね。嬉しい……」
リカルドの手がソニアの髪を撫でる。だがそれは以前の撫で方とは違い、髪の一筋すらも大切に想う愛しさが込められていた。それを感じ取ったソニアは甘いため息を漏らし、その甘さがリカルドをさらに滾らせていく。
「リカルドと呼べ、ソニア」
「リカルド……」
長い遠回りをした二人はようやく自分の気持ちに素直になることができたのだった。
それから月日は流れ、二人の間には五人の子供が生まれた。強い侯爵と賢い侯爵夫人に導かれ、ステッラは辺境にも関わらず大いに栄えていったという。
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サラリと書かれていてとても読み易かったです。
素敵な物語を有難うございました。
hiyo様
感想ありがとうございます!
読み易かったと言っていただきとても嬉しいです😊
最初についた嘘によってずいぶんと長い遠回りをしたソニアですが、ようやく幸せになることができました。
ずいぶん前に書いたお話を見つけて読んでいただきとても嬉しかったです✨
ありがとうございました🥰💕