12 / 53
12 観月祭へ向けて
しおりを挟む「観月祭?」
「そう。あなたたちも初めてよね。私もよ」
ジンリーがウキウキした様子で話す。
「何か特別な催しなんですか?」
「ええリンファ、他の宮の子に聞いたんだけど後宮の観月祭はそりゃあ豪華だそうよ。四つの宮に取り囲まれた庭の中央に高楼があるでしょ? あそこに王と四人の妃がお座りになって、地上の舞台で披露される舞を上からご覧になるんですって」
「まあ! ついに王様のお顔が見られるのね!」
皿を拭いていたメイユーが目を輝かせる。
「こーら、メイユー、手がお留守になってるわよ」
「ごめんごめん、リンファ。同時に二つのことって私にはなかなか難しくって」
しょうがないわねえ、とリンファはメイユーの分まで素早く拭きあげる。
「それでね、四つの宮の女官たちが舞を競い合って、一番良かった宮には王から褒賞があるんだそうよ。去年は……四ノ宮が勝ったらしいけど」
ジンリーは少し声を小さくした。
「去年の四ノ宮はシャオリン様とは違う方だったのよ。ほら、こないだ処刑されたコウカク様の娘、コウレイ様」
ああ……、とリンファもメイユーも頷いた。
シャオリンが最近入ったのには訳がある。摂政コウカクが処刑され、娘のコウレイも後宮の四ノ宮から追い出された。その空いた宮に入ったのが、宰相ケイカの妹シャオリンなのである。
ケイカはコウレイに仕えていた女官や下女もすべて処分し、新たに雇った者をシャオリンにつけた。だから四ノ宮の女官たちは後宮の行事をまだよく知らないのだ。
「去年の演目や詳しい様子を他の宮の子たち、教えてくれないのよね。ライバルだからって。だから女官長はあちこちに金子を配って情報を得ようと走り回ってるわ」
「ジンリーさま、私たちも舞うんですかぁ? 私、踊りなんてできないんですけど」
「やあね、メイユー。私たち下女は踊らないわよ。踊るのは女官だけ。私たちは衣装作りと当日の料理の準備なの。それだけでも目が回るほど忙しいらしいから覚悟してね」
「ああ、良かった。踊れって言われたらどうしようかと思ってました。リンファなら大丈夫だろうけど」
「あら、リンファ、あなた踊りができるの?」
「はい、少しですけど家の者に教わったので」
フォンファが娼館で身に付けた舞を、リンファに仕込んでくれていたのだ。後宮では踊りくらいできなくちゃ、と言って。楽器も唄もひと通りはできる。
「まあでも、披露する機会はないわね、残念だけど。今度、休憩中に踊ってみせて欲しいわ」
リンファはニコッと笑って、はい、と返事をした。
半月後の観月祭に向けて、各宮の女官たちは舞の練習に励んでいた。大勢の女官が楽団の音に合わせて舞い踊る。それぞれの宮の色で衣装を揃え、華やかに。
「素敵ねえ。後宮にいるのは見目麗しい方ばかりだから、ああして優雅に踊ってらっしゃるのをみると本当に目の保養だわ」
四ノ宮の庭で洗濯をしながらチラチラと練習風景を見つめるメイユー。相変わらず手はお留守だ。
リンファはちゃんと手を動かしながら舞を見ている。
(あそこでもう少し首を傾げたらもっと美しいのに……それに、指先までちゃんと意識しないと)
最下層の下女がそんなことを指摘するわけにもいかず、ウズウズしながらも黙って見るだけのリンファだった。
いよいよ観月祭を明日に控え、厨は大忙しだ。いろいろな準備に走り回る下女たち。
「今日頑張っておけば明日の舞は舞台の下からにはなるけどゆっくり見られるのよ。さあさあ、働きましょ」
その時、舞台の方から悲鳴が聞こえ、皆は手を止め顔を見合わせた。今の時間は四ノ宮の女官たちが舞台上で総練習をしているはずだ。
女官長チンリンが厨に入ってきて言った。
「あなたたち、手伝って。舞台から落ちて怪我をした女官がいるの。部屋へ運ばなくては」
下女たちは作業を放り出し舞台へ向かった。一人の女官が地面に横たわり、足を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
『まて』をやめました【完結】
かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。
朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。
時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの?
超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌!
恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。
貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。
だから、もう縋って来ないでね。
本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます
※小説になろうさんにも、別名で載せています
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる