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12 観月祭へ向けて
しおりを挟む「観月祭?」
「そう。あなたたちも初めてよね。私もよ」
ジンリーがウキウキした様子で話す。
「何か特別な催しなんですか?」
「ええリンファ、他の宮の子に聞いたんだけど後宮の観月祭はそりゃあ豪華だそうよ。四つの宮に取り囲まれた庭の中央に高楼があるでしょ? あそこに王と四人の妃がお座りになって、地上の舞台で披露される舞を上からご覧になるんですって」
「まあ! ついに王様のお顔が見られるのね!」
皿を拭いていたメイユーが目を輝かせる。
「こーら、メイユー、手がお留守になってるわよ」
「ごめんごめん、リンファ。同時に二つのことって私にはなかなか難しくって」
しょうがないわねえ、とリンファはメイユーの分まで素早く拭きあげる。
「それでね、四つの宮の女官たちが舞を競い合って、一番良かった宮には王から褒賞があるんだそうよ。去年は……四ノ宮が勝ったらしいけど」
ジンリーは少し声を小さくした。
「去年の四ノ宮はシャオリン様とは違う方だったのよ。ほら、こないだ処刑されたコウカク様の娘、コウレイ様」
ああ……、とリンファもメイユーも頷いた。
シャオリンが最近入ったのには訳がある。摂政コウカクが処刑され、娘のコウレイも後宮の四ノ宮から追い出された。その空いた宮に入ったのが、宰相ケイカの妹シャオリンなのである。
ケイカはコウレイに仕えていた女官や下女もすべて処分し、新たに雇った者をシャオリンにつけた。だから四ノ宮の女官たちは後宮の行事をまだよく知らないのだ。
「去年の演目や詳しい様子を他の宮の子たち、教えてくれないのよね。ライバルだからって。だから女官長はあちこちに金子を配って情報を得ようと走り回ってるわ」
「ジンリーさま、私たちも舞うんですかぁ? 私、踊りなんてできないんですけど」
「やあね、メイユー。私たち下女は踊らないわよ。踊るのは女官だけ。私たちは衣装作りと当日の料理の準備なの。それだけでも目が回るほど忙しいらしいから覚悟してね」
「ああ、良かった。踊れって言われたらどうしようかと思ってました。リンファなら大丈夫だろうけど」
「あら、リンファ、あなた踊りができるの?」
「はい、少しですけど家の者に教わったので」
フォンファが娼館で身に付けた舞を、リンファに仕込んでくれていたのだ。後宮では踊りくらいできなくちゃ、と言って。楽器も唄もひと通りはできる。
「まあでも、披露する機会はないわね、残念だけど。今度、休憩中に踊ってみせて欲しいわ」
リンファはニコッと笑って、はい、と返事をした。
半月後の観月祭に向けて、各宮の女官たちは舞の練習に励んでいた。大勢の女官が楽団の音に合わせて舞い踊る。それぞれの宮の色で衣装を揃え、華やかに。
「素敵ねえ。後宮にいるのは見目麗しい方ばかりだから、ああして優雅に踊ってらっしゃるのをみると本当に目の保養だわ」
四ノ宮の庭で洗濯をしながらチラチラと練習風景を見つめるメイユー。相変わらず手はお留守だ。
リンファはちゃんと手を動かしながら舞を見ている。
(あそこでもう少し首を傾げたらもっと美しいのに……それに、指先までちゃんと意識しないと)
最下層の下女がそんなことを指摘するわけにもいかず、ウズウズしながらも黙って見るだけのリンファだった。
いよいよ観月祭を明日に控え、厨は大忙しだ。いろいろな準備に走り回る下女たち。
「今日頑張っておけば明日の舞は舞台の下からにはなるけどゆっくり見られるのよ。さあさあ、働きましょ」
その時、舞台の方から悲鳴が聞こえ、皆は手を止め顔を見合わせた。今の時間は四ノ宮の女官たちが舞台上で総練習をしているはずだ。
女官長チンリンが厨に入ってきて言った。
「あなたたち、手伝って。舞台から落ちて怪我をした女官がいるの。部屋へ運ばなくては」
下女たちは作業を放り出し舞台へ向かった。一人の女官が地面に横たわり、足を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。
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