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15 観月祭の始まり
しおりを挟むコウカクの失脚という政変以降、めっきり後宮に来ることが減ったタイラン。若い盛りの妃たちには不満がくすぶっている。
しかし、こうして盛装のタイランを見るとその恨み節もどこかへ行ってしまった。
(やはり美しい方……最近は身体もますます逞しくなり、男性としての魅力にあふれていらっしゃる。それになんだか憂いを帯びた表情は悩まし過ぎて、あの腕に抱かれることを思うと身体が熱くなるわ)
多少の温度差はあれど、四人の妃はタイランに恋心を抱いているのである。
「待たせたな」
銀色の襦裙の上に濃い紫色の上衣を羽織り目の前を通り過ぎていくタイラン。束ねずに下ろした銀色の髪がサラサラと揺れる。その後ろを一ノ宮妃から順に四人付き従って後宮へ向かって行った。
王の訪れを知らせる鈴の音が鳴った。
後宮の中で待っていた者たちは一斉に頭を垂れた。リンファも舞の準備をして舞台脇の板の上でひざまづいていた。メイユーやジンリーはもう少し外側の、土の上で頭を下げている。下女は、王と同じ高さで顔を見ることは許されないのだ。
後宮の正門が開き、たくさんの衣擦れの音と共にしずしずと回廊を進む一行は高楼に入って行った。
しばらくして王が二階の欄干へと顔を出すと、四ノ宮の下女たちからハッと息をのむ音が聞こえた。このように美しい男性は見たことがないと思ったのだろう。
リンファの座っている所からはちょうど王の顔が見えなかった。それにリンファは舞のことで頭がいっぱいでそれどころではなかったのである。
各宮の女官たちが酒や料理を持って上がって行く。王たちは月を眺め、美味しいものを食べたり酒を楽しみながら舞を見るのだ。
楽団が音を奏で始め一ノ宮の演目が始まった。月に住む天女が舞い降りてくるという舞だ。十人の動きは一糸乱れず、さすが最古参の一ノ宮である。
二ノ宮は十二人で迫力ある舞を舞った。キレのある振り付けは良かったのだが、大人数が災いして手や足がぶつかってしまっていたのが残念だった。
三ノ宮は八人で、円形に並んで花のついた枝を両手に持って踊っていた。シアユンがあまり勝負にこだわっていないせいか、他の宮に比べて振りが揃っていなかったが楽しそうであった。
高楼の欄干では舞台がよく見える場所に椅子を置き、タイランの左右に二人ずつ妃が並んでいた。タイランを挟んで座っているのはホアシャとチンディエ。二人はタイランに酌をし、自分の宮の舞に拍手をしたり、感想を話しかけたりしていた。しかし彼はつまらなそうに酒を飲むばかりであり、そのせいで欄干の雰囲気は凍えるように冷たいものであった。
そして、最後に四ノ宮の番になった。シャオリンは、我が宮の舞が少しでも王の気を引いてくれたら、と思っていた。王から褒賞をもらえたら……もしかしたら王の訪れがあるかもしれない。
笛の音が響き、舞が始まった。踊り手は手首に小さな鈴を付け、踊るたびにシャランと美しい音が聞こえてくる。
一番前で踊るリンファは、すぐに人々の目を引いた。背が高く手足は長く、茶色い髪と翠の瞳が西方の風を感じさせた。彼女の舞はとても見事なもので、その美しさは明らかに他の女官たちと違っていた。まるでそこにだけ光が当たっているように、リンファから目が離せない。
(なんだ、騒がしいな……)
タイランはそれまで舞をしっかりと見ていなかったが、下にいる女官たちがザワザワし始めたのでふと、舞台上に目をやった。
そしてその目は美しい舞を舞っている一人の少女に――釘づけになった。
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