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23 愛される喜び
しおりを挟むそれから宮城でのタイランは変わった。呼ばれずとも会議に参加するようになったのだ。
「タイラン様⁉︎ どうなされたのですか」
「会議など、我ら臣下だけで充分でございます。タイラン様のお時間を取らせるなど」
慌てふためく大臣たちに、落ち着いた声でタイランは言う。
「私がいると困ることでもあるのか?」
ギクリ、と顔に書いてある。タイランはニヤリと笑った。これまでの会議の資料はこと細かく目を通してきた。コウカクがやってきたような悪事を、この者たちもやっているのだ。
「これからは私も必ず会議に出る。税の使い道も見直す。民から搾り取り過ぎてはならんのだ。民が栄えてこその我らなのだから」
元々頭の良いタイランであった。弁も立つしカリスマ性もある。官吏たちは無理難題を押しつけてくる上司よりもタイランを支持した。宮城内の者は皆、タイランを見直して讃えるようになった――ケイカを除いては。
ケイカは、タイランが政治に口出しを始めたことを苦々しく思っていた。
(せっかく私の思うようになり始めていたのに。来年には隣国へ攻め入り、国を拡げようと思っていた。そのためにもっと税を上げねばならんのに……余計なことばかりしてくれる)
またケイカはタイランが後宮の妃たちを放置していることにも腹立たしさを覚えていた。
(あの下女上がりを寵愛し始めてから三ケ月が過ぎたがいまだにその熱が冷めていない。その間捨て置かれた妃の実家からの恨み辛みがすべて私に向かってきている。だが、私の妹シャオリンだってまったくかえりみられていないのだ。恨み言を言いたいのは私とて同じ。あの下女に王子ができてしまったらきっと王は正妃にするだろう。それだけはなんとかして防がなければ……)
☆☆☆☆☆
今日もタイランはリンファの部屋に来ている。毎日政務に忙しくしているが、その後のリンファとの時間がかけがえのない癒しだ。
「今日のお食事はいかがなさいますか?」
「今日は食事はよい。酒を少しと……リンファ、そなたが欲しい」
リンファは頬を染めながら杯に酒を注いだ。タイランはクイと飲み干すと杯を差し出し、リンファに再び注がせる。
「リンファも飲むか?」
「はい、では少しだけ」
タイランは杯の酒を口に含むとリンファを抱き寄せ、口移しに飲ませた。
「あ……」
リンファの口の端から少し酒がこぼれたが、それを舌で舐め取ってもう一度酒を口に入れた。
「タイラン……そんなにたくさん飲まされたら私は酔ってしまいます」
タイランはかまわずリンファの唇を塞ぎ、酒を移していく。コク、コク……とリンファの喉が鳴った。タイランが口を離すとリンファはフウと甘いため息を漏らす。
「あまりお酒が強くないのを知ってらっしゃるくせに……また酔わせるおつもりですか?」
リンファが軽く睨みつける。タイランにとっては、子猫に睨まれているようなものだ。可愛いくて仕方がない。
「そなたは酒に酔うと甘えてくれるからな。もっともっと、私に甘えて欲しいのだ」
その後タイランに何度も口移しで酒を飲まされたリンファは頭がふわふわとしてきた。
「タイラン、もうクラクラしてきました……横になりたいです」
そう言うとタイランは嬉しそうに笑ってリンファを抱き上げ、寝床へ連れて行った。頬が赤く上気し、瞳がとろんと潤んでいるリンファはとても艶めかしい。タイランは顔じゅうに優しい口づけを浴びせる。
「リンファ、毎日毎日、今日のリンファが一番愛しいと思うのだ。今日のそなたも、今までで一番美しい」
タイランが夜着をそっと脱がしていく。最初の夜、痛みを伴うやり方でしてしまった反省から、その後のタイランはいつも優しく時間をかけてリンファをほぐしていく。それらのことはすべて、歳上の妃たちから習ったことだ。タイランは常にリンファが良くなるようにいろんなことを試したので、リンファは何度となく高みに上れるようになっていた。
「もっともっと、そなたを満足させてやる」
タイランの愛はとどまることを知らなかった。リンファは本当に身も心も愛されていると実感し、幸福感に包まれていた。
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