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28 目覚めないリンファ
しおりを挟むそれからリンファは高熱を出した。翌日になっても目覚めないリンファを、タイランは何度も訪ねてくる。
「ビンスイ、まだ目覚めないのか」
「はい、タイラン様。ずっとうなされておいでです」
寝床にそっと近寄ると、高熱で赤くなった顔がとても苦しそうだ。目覚めないから薬を飲ませることもできず、濡れた手巾で額を冷やすのみであった。
「もし目覚めたらすぐに知らせてくれ」
「はい、かしこまりました」
タイランは宮城へ戻るとケイカに言った。
「ケイカ、リンファの実家の者を呼んでくれ。聞きたいことがあるのだ」
ケイカの部下がすぐに部屋を出て行く。
タイランはケイカも下がらせると、天を仰いで目を閉じ考え込んだ。
(倒れる前、リンファは何と言った? チュンレイと言わなかったか? チュンレイとはあの時の少年の名前と同じ……)
少し前に、タイランはあの場所に石碑を建て、それにはこう刻ませた。『母孝行の少年チュンレイここに眠る』と。
(そうだ、少年の横には幼い妹がいた。『これは妹のスイランです』、そう言っていた。あの妹はどうなった? あの後どこへ行ったのか。リンファは、どこで拾われた子なのだ……?)
タイランの頭は混乱していた。だがどう考えても、最悪のことしか浮かばないのだった。
☆☆☆☆☆
「ガクさん、新年おめでとう。新しい店は随分と立派だねえ」
「ああ、ワンユンさん。新年おめでとうございます。広すぎて落ち着かないくらいですよ」
「ガクさんは幸せ者だよ。うちの娘じゃあこうはいかなかったさ。リンファちゃんだから王様の目に留まったんだろうねえ」
「いやあほんとに。まさかうちのリンファが王様の目に留まるとはねえ、思ってもみなかったよ」
嘘をつけ、狙ってたくせに、とワンユンは内心で毒づいた。可愛くて気立のいいリンファをうちの息子の嫁に欲しいとずっと頼んでいたのに、後宮に入れるんだと言って聞いてくれなかったのだから。
ガクにはタイランから多くの褒賞が出され、大通りのいい場所に店を構えることができた。店の裏には立派な屋敷も建ち、フォンファと子供たちはそこで過ごしている。番頭や使用人も雇えるようになったから、もうフォンファを働かせなくてもいいのだ。
(あの時、あの子を拾って本当に良かった)
リンファからの仕送りも毎月決まって届く。それをフォンファがしっかりと貯めているので、子供たちの結婚資金も充分過ぎるくらいの額になった。
(まあ、あのチビたちはまだまだ結婚なんて先だがなあ)
貧乏人ではなく、金持ちの家に嫁がせてやれる。苦労なんてさせなくて済むのだ。
(本当に、あの時の自分を褒めてやりたいぜ)
新年に家族にご馳走をたんと食べさせてやることができたガクは、ご機嫌で帳簿を眺めていた。
「へい、いらっしゃいませ」
扉が開く音がして顔を上げると、兵士が二人入って来ていた。
「これは兵士様。何を差し上げましょう」
「お前がこの店の主人のガクか?」
「はい、そうですが」
「王がお呼びだ。すぐに宮城へ来い」
「ええっ、王様が?」
なんだろう、もしやリンファが身籠ったとか? しかし兵士の顔は厳しい。いい話ではない気がする。
心配するフォンファをなだめながら、ガクは兵士と一緒に出発した。
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