異能専科の猫妖精

風見真中

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「ふわぁ~あ」
 目尻に涙をにじませ、大きな欠伸をする。
 まったく休めなかった日曜日が明け、月曜日の朝。俺は着替え、ネットを見ながらなんとかネクタイも締め、リルを連れて寮の部屋を出た。
「あっ」
「うおっ」
 ドアを開けた瞬間、今まさに俺の部屋の前に着いたばかりという感じのネコメと目が合った。
「お、おはよう、ネコメ」
「おはようございます、大地君。体は大丈夫ですか?」
 ネコメはぺこりと頭を下げ、眉をひそめて俺の体調を案じてきた。
 昨夜は烏丸先輩が俺を寮の部屋に運んでくれたらしく、あとのことは諏訪先輩に任せてネコメと東雲はそこで別れたらしい。ネコメのことだし、きっと心配をかけてしまったのだろう。
「全然平気だよ。東雲は?」
 俺は肩を回して万全をアピールしながら、ネコメの横に東雲がいないことについて聞いてみた。二人はいつも一緒にいるイメージだったので、何だか新鮮だ。
「八雲ちゃんは全然起きないので置いてきました。週の初めから遅刻したくないですし」
「寝てんのかよ」
 そんな話をしながら、俺たちは食堂に向かう。
 男子寮に女子のネコメがいるのはやはり目立つようで、時折辺りの男子たちから奇異の視線を向けられる。
 そんな視線に居心地の悪さを感じているのはどうやら俺だけらしく、ネコメは一切気にした様子もなく明るい。
 食堂に向かう道すがら、昨夜諏訪先輩からされた話をネコメにも話す。
「……やっぱり大地君は、私たちみたいな普通の異能混じりとは少し違うようですね」
「かもな。でもまぁ、考えたって仕方ないさ」
 自分の異能のことだし、もちろん気にはなる。しかし、俺が今それ以上に考えなければならないのは諏訪先輩からの借金のことだ。
 チョーカーによる封印と、寝てる間にサッとやってくれた俺とリルの歯の治療。言及されなかったが、借金に上乗せされている可能性は大いにあり得る。
 まだ完治していない左腕も、万が一のことがあればまた借金だ。
「腕のことも含めて、大地君はしばらく異能を使うのを控えた方がいいですね。異能の出力が変われば、普通に歩くだけでも思わぬ事故になりかねないですから」
「まぁその方がいいよな……」
 日野は明後日には異能具を完成させるとか言っていたし、本当は早く使ってみたいのだが、しばらくはお預けだ。
 話している間に食堂にたどり着き、人の波を乗り越え、なんとか席に着く。
 昨日の昼からまともに食べてないし、昨夜は異能も使ったので腹ペコだった俺は、朝から丼物を三つ頼んでしまった。
 テーブルの上に料理を並べていると、怨みがましい顔で俺たちを睨む東雲と、苦笑いを浮かべる里立が朝食のトレーを持って現れた。
「あはは、相席いいかな?」
 里立は乾いた笑い声を出しながらそう言い、東雲は返事をする前にネコメの隣に陣取った。
「もー、ヒドいよネコメちゃん! なんで起こしてくれないの⁉」
 わーわーと文句を言う東雲に、ネコメは呆れ顔で苦言を呈する。
「八雲ちゃんを起こしてたら大地君を迎えに行く時間がなくなってしまいます。自分で起きてください」
 ネコメの言葉に東雲はぷくーっと頰を膨らませ、俺を睨んできた。
「こっち見んなよ……」
 なんで俺が睨まれにゃならんのだ、と文句を言うと、東雲は不貞腐れながら恨み言を呟き始めた。
「だって最近のネコメちゃん、ずっと大神くんのことばっかりなんだもん。前はもっとかまってくれたのにぃ!」
 テーブルの下で駄々っ子のように足をバタバタさせる東雲を、困り顔のネコメが「お行儀悪いですよ」と叱りつける。
「大地君は私たちの直属の部下です。学校や霊官の仕事に慣れるまで、先輩の私たちが面倒を見るのは当然のことですよ?」
 ネコメのもっともな正論に、東雲は釈然としない様子でいじけてしまう。
「なんかあれだね、弟が産まれてお母さんがそっちにかかりっきりになっていじけてる子どもみたい」
 椅子に座りながら苦笑いを浮かべる里立のセリフに、俺は思わず吹き出した。

 ・・・

「へぇー、私の異能そんなに役に立ったんだ⁉」
 朝食を終え、登校時間になるまでお茶を飲みながら昨日の事のあらましを話していると、里立が目を丸くしながら驚嘆の声を漏らした。
「俺もそれは聞いてなかった……。ありがとうな、里立」
 どうやら俺の異能は本当に暴走寸前の危ういところだったらしく、里立の異能のおかげで最悪の事態が回避できたらしい。
「あはは、どういたしまして」
 里立は簡単に笑ってくれているが、里立は紛れもなく命の恩人だ。何か礼でもしたいな。
「あ、礼にリルのこと好きにモフっていいぞ」
『アウ⁉』
 足元にいたリルを抱え上げて里立の前に差し出す。
「リルさんものすごく驚いてますよ……」
 自分が人身(犬身?)御供にされたと気づいたリルは足をバタつかせて逃げようとするが、目を輝かせた里立は凄まじい勢いでリルを掻っ攫い、思いっきりその毛並みに顔を埋める。
「ほどほどにしてくださいね、アレルギー出るんですから……」
 ネコメの苦言など耳に入らない様子で、里立は「うふぉぉぉぉ!」とくぐもった雄叫びを上げながら全霊でリルのモフモフを味わっている。
 ジタバタと逃げようとするリルをリルを尻目に、俺はネコメにある提案をする。
「なぁ、もう一回里立に異能を掛けてもらってもいいかな?」
 話を聞く限り、里立の異能は死ぬほどの悪運さえも跳ね除ける強力な異能だ。
 霊官の仕事をするのに危険は付き物だし、ぜひもう一度かけておいてもらいたい。
「だ、ダメです! 座敷童の異能を二度使うと、一度目の幸福を帳消しにするほどの不幸に見舞われるんです!」
 俺の提案は、慌てたネコメの言葉により否定された。
「そ、そうなのか?」
「はい。座敷童は幸福と不幸の両方を兼ね備える異能なんです」
 確かにそれは、聞いたことがある。
 座敷童に居着かれるとその家には幸福がもたらされ、座敷童が出て行くと不幸になる。
 幸福と不幸の帳尻合わせがあるなら、もう今後里立の異能には頼れそうにないな。
「大神くんは死んじゃうほどの悪運から守ってもらったから、もう一度使ったらそれだけで死んじゃうかもしれないよー」
 軽く言ってくれるが、かなりの大事だぞ。
 冷や汗を垂らす俺を見て、東雲はケラケラ笑う。
 と、そんな俺たちの一団に、敵意を含んだ視線が向けられているのを感じた。
  チラリと横目で視線を探ると、食堂の出入り口に鎌倉、石崎、目黒の三人が居るのを捉えた。
「何か用か?」
 三人に向き直り、俺は声を張る。
「……ッ。行くぞ、テメーら」
 俺の叫びに気分を害したように鎌倉が舌打ちし、石崎と目黒を引き連れて食堂から出ていった。最後に俺のことををひと睨みすることも忘れない辺り、鎌倉の執念深さが伺える。
「面倒だな……」
 鎌倉達との関係は、先日の一件でより険悪なものになってしまった。
 俺としては腕や異能のこともあるし、土曜日のようなケンカ沙汰は避けたいのだが、あの様子ではもうひと悶着ありそうな予感がする。
「鎌倉君は、どうしてあんなに敵対してしまうんでしょうか……。もっとみんなで仲良くなれればいいのに」
 不安そうに呟くネコメには悪いが、あれはどうしようもない。
 鎌倉達のように周囲を威圧することに慣れてしまった人間は、その態度を崩すことを『負け』のように感じてしまうのだ。
 自分たちが一番だというプライドが邪魔をし、何をするにも周囲から一線を引いてしまう。
 アイツらを支えるプライドは、強い異能による自尊心。
 そのプライドが折られない限り、アイツらと仲良くなるなんてのは夢のまた夢だ。
「どうしようもねえさ、ああいうやつらは」
 吐き捨てるような俺の言葉に、ネコメは一層その顔を暗くしてしまった。

 ・・・

 午前中の授業は、チンプンカンプンだった。
 高校教育の一学期半ばまでというのは、中学までの勉強のおさらいのような部分が多い。義務教育も満足に受けていない俺からすると、ちょうどそのおさらいが終わった今の時期の授業内容は完全に置いてけぼりだ。
「まいったな……」
 曲がりなりにも異能専科は国立学校。異能の専門学校とはいえ、今日の授業の感じからしても決して学業のレベルが低いわけではない。
 きちんと勉強してこなかったツケがこんなところで回ってくるとは、今後は霊官のための勉強だけでなく学業の方もおろそかにできないな。
「暗い顔してますね、大地君」
 机の上で頭を抱えていると、ネコメが苦笑いを浮かべながら声をかけてきた。
「まあ、改めてここは高校なんだなって実感したよ……」
 高等学校の勉強、気合を入れて戦わなければいけない強敵に直面してしまった感じだ。
 そういえばネコメはわずか五年で人の十五年分の勉強をしてきたわけだし、成績もいいのではないだろうか?
「なあネコメ、お前成績いいの?」
 もし勉強ができるなら霊官の先輩としてだけでなく、クラスメイトとして勉強を教わりたい。そんなことを思って聞いてみたのだが、帰ってきたのは歯切れの悪い答えだった。
「その、実はあんまり……。中学までの勉強がいっぱいいっぱいで、今はついて行くのがやっとなんです」
 恥ずかしそうにはにかむネコメだが、考えてみれば当然だ。
 ネコメはすべての勉強で周りよりも遅れているし、それに加えて霊官としての仕事もある。勉強について行っているだけでも驚くべき努力だ。
「成績なら八雲ちゃんが学年二位ですよ」
「へえ、意外だな」
「そう思いますか?」
「ああ、ネコメでも冗談言うんだな」
 真面目なネコメがこんな荒唐無稽な話をするなんて、新たな一面を見た気分だ。
「え、あの、本当ですよ?」
「……またまた」
「本当ですって!」
「……マジかよ」
 東雲のやつ、あのふざけた感じで勉強できるのかよ。
 何だか負けた気分がするが、本当に勉強できるのならぜひ教えてもらいたい。
「人は見かけによらないな……」
「失礼ですよ!」
 貶しているつもりはないのだが、やはりどうにも釈然としない。
「で、その東雲はどこだ?」
 チラリと教室内を伺うが、東雲の姿は見えない。
「あれ? さっきまでいたんですけど……」
 ネコメも周囲を見回すが、やはり東雲はいない。一人で昼食を食べに行ってしまったのだろうか?
「とりあえず、昼飯食いに行くか」
 午後の授業に備えて腹ごしらえを、と思って席を立つが、ネコメは申し訳なさそうに首を振った。
「すいません、ちょっと会長に呼ばれてて……」
「諏訪先輩に?」
「はい」
 お昼休みに呼び出しとは、ずいぶん人使いの荒いことだ。
「午後の授業にも遅れるかもしれませんので、先生に伝えておいてください」
 そういってネコメはぺこっと頭を下げ、自分の荷物から箱入りのバランス栄養食を取り出し、封を開けながら教室を出て行った。
「ネコメのやつ、あれが昼飯かよ」
 異能混じりがあれっぽっちの食料で午後まで持つのかよ?
 あとでパンでも差し入れてやるかな、とか考えていると、ポンと背中を叩かれた。
「大神君、一人? ネコメちゃんや東雲さんは?」
「里立」
 振り向くとボブカットの女子、里立がいた。
「ネコメは諏訪先輩に呼ばれてて、東雲は知らん」
「じゃあ一緒にお昼しよっか」
 ニコッと笑いながら里立はお昼に誘ってくる。大方リルがお目当てだろう。
「ああ、いいよ。ホイ」
 寝ていたリルを抱えて渡してやると、やはり里立は喜び勇んでリルのお腹に顔を埋めた。
『ア、アウ⁉』
 叫んで逃げようとするリルには悪いが、里立は命の恩人だ。モフられるくらい甘んじて受けてくれ。

 ・・・

 上昇するエレベーターの中でバランス栄養食の最後の一欠片を頬張り、乱雑に咀嚼する。
 エレベーターを降り、ブレザーのポケットにオレンジ色の空箱を押し込んで、絨毯の敷かれた廊下を音もなく進む。
 ネコメ、猫柳瞳は秘匿された生徒会室の前に立ち、そのドアを控えめにノックした。
「どうぞ」
 部屋の主の応答に「失礼します」と答え、ドアを開けて中に入る。
「何の用、ネコメ?」
 生徒会室の主、諏訪彩芽は入室したネコメに一瞥をくれるも、忙しなく手を動かしてノートパソコンや資料を纏めている。
 纏めた荷物を鞄に放り込み、そこでようやくネコメは彩芽が帰り支度をしていることに気付いた。
「会長、どこか行かれるんですか?」
「昨日勝手に本家のヘリ飛ばしたから、家に呼び出されたのよ。用があるなら手短にしてくれる?」
 昨晩彩芽は自身の一存で自分の家が保有するヘリコプターを勝手に飛ばしている。
 大地の異能の暴走を防ぐ為とはいえ、その独断先行を咎められているらしい。
「……でしたら、単刀直入にお尋ねします」
 ネコメはそこまで言うと、彩芽のデスクに近づいてバン、と手を突く。
 彩芽はネコメの険しい表情に荷物を纏める手を止め、ゆっくりとネコメの顔を見据える。
「……大地君の混ざった異能、リルさんは一体何なんですか⁉ あのチョーカーの名前、あれは本当なんですか⁉」
 ネコメの言葉を予期していたかのように、彩芽はゆっくりと、冷静な様子で頷いた。
 そしてデスクの引き出しから、革製のチョーカー型異能具、『グレイプニール』を取り出す。
「名前を冠するということは、原典に類するということ。これはネコメに渡しておくわ」
 ネコメは手渡されたチョーカーの内側に刻まれた名前を確認し、あらん限りにその目を見開いた。
「そんな、じゃあ、本当に……⁉」
 動揺し、肩を震わせるネコメの手をそっと撫で、彩芽はポツポツと語り出した。
「スウェーデンのどこかに今も末裔が生きているって噂はあったんだけど、まさかあそこまで祖先の力をそのまま受け継いでいるとは思わなかったわ」
 含みを持たせた言い方をする彩芽は、未だ動揺が抜け切らないネコメの前にスッと木箱を差し出した。
 ネコメはおずおずとそれを持ってみると、ズシっとした重さに箱を取りこぼしそうになる。
「こ、これは?」
「アイツの『牙』よ。日野さん、興が乗ったとか言ってもう仕上げてきたの。午前中に届いたわ」
 そっと木箱の蓋を開けると、中には二本のナイフのような物が入っていた。
 柄も鍔も無い単一の金属で、色は闇のように深い漆黒。
 どうやら刃が入っている様子もなく、そっと触れてみても鈍い感触しかない。切れ味の無さそうな刀身だ。
 握りの部分は横幅が広く、掴んで使うのではなく、指を入れるための穴が空いている。
 ナイフとメリケンサックを合わせたような、不思議な異能具だった。
「体のことも、異能のこともある。渡すタイミングは貴女に任せるわ」
 そう言って彩芽は鞄を閉じ、ネコメを促して生徒会室を後にした。

 ・・・

 鎌倉光生は苛立っていた。
 二人の友人、石崎と目黒が腫れ物に触るように接するほどにピリピリしており、ちょっとしたきっかけで爆発しそうな程だった。
 その理由は単純明快、先日クラスにやって来た編入生の大神大地の存在だ。
 鎌鼬という妖怪の異能混じりとして、クラス中の生徒や担任の教師にも畏怖されていた鎌倉に真っ向から反発し、ケンカでは三対一にも関わらず鎌倉達は惨敗を喫した。
 異能を使って報復しようにも、大地の側には常に鎌倉を上回る異能混じり、霊官の猫柳瞳と東雲八雲が付いている。
 迂闊に手を出せば十中八九返り討ちに合うし、クラス内での立場も危うくなる。
 やり場のない怒りに、鎌倉は更に苛立ちを募らせていた。
「な、なぁ、光生君」
「あぁ?」
 遠慮気味に声を掛ける目黒に、鎌倉は苛立った声で乱暴に返事をする。
「あのさ、大神に絡むの、もう辞めねえ?」
 目黒の提案に鎌倉はまなじりをキッと鋭くし、怒鳴り散らすように反論する。
「ふざけんな‼ あんなザコにいいようにやられたまんま引き下がれってのかよ⁉」
 鎌倉の剣幕に目黒はヒッ、と肩を縮こませるが、目黒を擁護するように石崎も声を上げる。
「でもよ、光生君。アイツ妙にケンカ慣れしてるみたいだし、側にはいっつも霊官の二人が付いてるじゃん? それにアイツも霊官になるみたいなこと言ってたし、手ェ出さない方がいいと思うよ?」
 石崎のもっともな意見に、鎌倉はギリギリと歯を噛み締める。
 石崎の言う事が正しいのは、鎌倉にもよく分かっている。
 分かっているからこそ、自分達が負けたままでいるのが納得できないのだ。
(何か……何かねぇのかよ。アイツにやり返す手段は……⁉)
 敗北感と屈辱に苛まれ歯噛みする鎌倉の様子に、目黒と石崎は何と声をかければいいのか分からなかった。
 鎌倉の過去も、霊官への嫌悪の理由も二人は知っている。
 しかし、最初は単純な霊官への嫌悪からだった今回の件は、今や鎌倉の中で完全に暴走してしまっている。
 苛立つ鎌倉と、それを諌めようとする目黒と石崎。
 そんな三人に、声を掛ける影があった。
「そんなに仕返ししたい?」
 その人物はおどけた様子で、悪戯っ子のような笑みを浮かべてそこに立っていた。
「あたしが手ぇ貸してやろうか?」
「あ? 何言ってんだテメェ?」
 あまりにも予想外なその人物の物言いに、鎌倉達は怪訝な目を向ける。
 しかし、その人物はそれに怯んだ様子もなく、淡々と言葉を紡ぐ。
「アイツ潰すの、手伝ってやるよ」

 ・・・

 あくびを噛み殺しながら午後の授業を乗り切り、帰りのホームルームが終わりを告げる。
 放課後の開放感にクラス中の空気が弛緩し、一気にざわめき立つ。
(何してんだろうな、アイツら……)
 俺は自分の周りの空席、鎌倉達の席を見て嫌な予感を覚える。
 鎌倉達三人は、午後の授業に現れなかった。
 アイツらが授業をサボるのは珍しい事ではないらしく、教師達も特に気に留めた様子もなかった。
 しかし、俺にはどうにも気になった。
 アイツらが陰でよからぬことを考えているような気がして落ち着かない。
「あ、おいネコメー、東雲ー」
 俺は鎌倉達のことについて相談しようと、一番前のネコメの席で何か話している二人に声を掛けた。
「はい、どうしたんですか?」
 ネコメの席に近づくと、二人がさっさと帰り支度を済ましていることに気付いた。
「二人ともこの後何かあるのか?」
「何かって部活だよー」
 帰ってきた意外な答えに、俺は目を丸くする。
「ぶ、部活?」
 この異能専科にも部活動があるのか?
「二人とも部活やってるのか?」
「というか、うちは一応強制入部ですよ。全員何かしらの部活か委員会に所属しています」
 強制入部?
 今時そんな学校があるとは、意外だ。
「若い異能者なんて部活でもさせて色々発散させないと、何しでかすか分からないから、なんて理由があるって噂だけどね」
 なるほど、部活で生徒の時間をある程度拘束しておけば、鎌倉達みたいな輩も悪さをする暇がなくなるって訳か。
「二人は何の部活やってんだ?」
 強制入部だというなら、当然俺も何かしらの部に入ることになるだろう。
 特に入りたい部があるわけでもないし、顔見知りの二人がいる部に入っておけば、何かと気楽やれるかもしれない。
「あたしは料理部だよー」
 はいはーい、と手を挙げて答える東雲。
 東雲が料理とはこれまた意外だが、とても俺が入れる部活じゃないな。食べるの専門とかなら歓迎だけど。
「この学校って飲食はタダだろ? わざわざ自分で作る必要あるのか?」
「うーん、必要っていうか、趣味の延長線上みたいなものかな? 運動部とかでも、異能で結果を残しちゃいけないから大会に出ても必ず一回戦負けしなきゃいけないし」
 だから好きなことを軽い感じでやるんだよ、と東雲は言う。
 確かに、異能混じりの身体能力や異能術を駆使すれば運動部の全国優勝なんて簡単だからな。大会に出ても結果を残すわけにいかないか。
「異能者の国際大会出場は、もちろん秘密裏にですが世界的に禁止されています。異能混じりがオリンピックに出れば、すぐに世界記録更新ですから」
「そう言うネコメは何部なんだ?」
「私は体操部です。結構大雑把で、新体操とかもごっちゃにやってるんですけど」
 なるほど。大会に出ても結果を残すわけにいかないから、似たような部は一纏めになってる訳か。
 それにしても体操とは、ネコメには確かに似合いそうだが、俺には合わないな。
「大神くん、部活決めてないならウチに入る?」
 有難いことに東雲がそんな提案をしてくれるが、あいにく料理なんてしたこともない。
「いや、部活はそのうちどっかに入るよ」
 俺がやんわりと断ると、東雲はさして残念そうな様子もなく「そっか」とあっさり頷いた。
 しかし、これから部活だというなら鎌倉達なんかの事で時間を割かせる訳にはいかないな。
 鎌倉達の事を相談したかったが、夕食の時にでもするか。
「あの、なにか私達に用があったんじゃないですか?」
「あー、いや、大した事じゃないんだ。また後でいいよ」
 ネコメは不思議そうにしながらも「そうですか?」と納得してくれた。
 それから俺は部活に行く二人を見送り、他には一体どんな部活があるのかな、と考えを巡らす。
 体操部なんて中学の時には無かったと思うし、ひょっとしたら生徒の数が少ない割には部活の種類はバラエティに富んでいるのかもしれない。
「どうしたの大神くん、また一人?」
「人をボッチみたいに言うんじゃねぇよ」
 自分の席でボンヤリしていると、里立に声をかけられた。今日はやけにこいつと絡むな。
 まあ実際ネコメや東雲以外で知り合いと呼べるレベルなのは里立だけだし、ボッチってのもあながち間違いではないが。
「里立は何部なんだ?」
「私は茶道部だよ? 今日は部長が用事で早退しちゃったから部活休みなの」
 茶道部とは、これまた学校の部活としてはあまりメジャーでないところだな。
「茶道部……なんか堅苦しそうだな」
 ただお茶を飲むだけで作法だの何だのというのは、どう考えても性に合わない。
「そんな本格的な部活じゃないよ。キチンと抹茶を立てるなんてあんまりやらないし、実際は紅茶とかお菓子とか摘みながらおしゃべりする軽い部活だもん」
 里立は笑いながらそんな事を言ってくる。
「へえ、そんな感じなのか……」
 茶道部とは名ばかりのお茶会の部活とは、これといった部活が無ければ入ってもいいかもな。活動も緩そうだし。
「元々部長が紅茶好きで、自由にお茶会ができる部が欲しくて作っちゃった部だしね」
「……え?」
 部長が、紅茶好き?
 せっかく入ってもいいかなって部を見つけたが、それは嫌な予感がする。
 紅茶が好きで、自分で部を作るような権利を持った人間に心当たりがあるからだ。
「……ちなみに、その部長って、誰?」
「え? 生徒会長の、諏訪彩芽先輩だけど?」
「…………」
 ……サド部の間違いだろ?
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