俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
7 / 288
第二章 萌と愉快な仲間たち

第7話 チュートリアル:転校

しおりを挟む
「花房 萌です。よろしくお願いします」

 翌日。

 俺はピカピカの転校生だ。今は朝のホームルーム。決して多くは無い視線が俺を見る。

「!」

 見知った顔が居た。あのニヤケ面は忘れもしない。

「っへへ」

 梶 大吾だ。

 昨日親に無事だとの連絡を入れ、ついでに大吾にお別れの電話をした。

《っま! 楽しみにしてなって!》

 また訳の分からない事言ってるなと思ったら、こういう事か。

「帰還して間もなく、わからない事も多々あるだろうから、みんな花房くんを助けてなー」

 半目でやる気ゼロ感オーラを出している隣の教師。このクラスの担当、阿久津あくつ けんだ。

「花房くんの席はあそこね」

 顎で指示された場所。一番後ろの窓際だ。

「さぁ座ったなー。はいじゃあタブレットの連絡事項見て―」

 席に座り、いそいそと支給されたタブレットを起動した。

 淡々と連絡事項を読んでいく阿久津先生。ここら辺は普通の学校と変わらないなと思っていると、隣の人がコソコソと話しかけてきた。

「ねえ、久しぶりだね、もえ

「まさかとは思ったけど、朝比奈さんもいたんだね」

 なんと奇遇なんだろうか。大吾に続いてクラスのギャル、朝比奈さんもいた。

「ウチらの学校からは梶と私、萌だけ。これからもよろしくね」

「よろしく、朝比奈さん」

 たぶんだけど、同じ学校の奴らをかためてできたクラスなのかもしれない。という事は、他の知らないメンバーは、俺らと同じ境遇なのかも。

 時計の長針がある程度動いた後。

「あー、花房くん。今日は顔見せ程度だから、予定通り身体検査を受けに行ってね。場所はタブレットに乗ってる」

「はい。では行ってきます」

 席を立ち部屋を出ていく。タブレットを確認すると、ここから検査場はそこまで遠くないようだ。

 広めな建物。中に入ると、係の人が待っていて、俺を誘導していく。

「いろいろ検査するから、今日は覚悟してね」

 笑顔で言う医師。たぶん医師。白衣を着ているのでたぶん医師。

『チュートリアル:身体検査しよう』

 俺も望むところだ。

 更衣室で検査のための衣類に着替える。

「はい背筋伸ばして顎引いてー」

 身長計に乗る。

「はいオッケー。次体重計ね」

 タブレットにすらすらと書いていく。

「……ん? ごめん、リセットするからもう一回乗ってみて」

「うす」

 また怪訝な顔をする医師。数秒考えたのち、次に行こうかと催促された。

 それからはもう学校ではやらないような検査ばかりされた。血も抜かれたし、バリウムなる白濁とした液体も飲んだ。味はうん、最悪。

 デンデデン♪

『クリア報酬:体力+』

 翌日。

『チュートリアル:体力テスト』

「ジャージが似合う男だね君は」

「あざす」

 褒めてんのか?

「すみません。握力計、壊しちゃいました……」

「え」

 握力テスト。

「あのー、飛び越えた場合って、どうなりますう?」

「え?」

 立ち幅跳び。

「ボール……向こうのコンクリに埋まっちゃいました」

「え??」

 ボール投げ。

《♪♪♪》

「あのー、もうかれこれ同じペースで音なってますけど、これ以上上がらないならもういいスか?」

「え???」

 シャトルラン。

 その他にもたくさんテストした。

「はいご苦労様。これでテスト終了だよ」

 デンデデン♪

『クリア報酬:体力+』

 午前で終わったので、昼飯は学園の食堂で取ろう。

 腹減った~。

「ふぃ~」

「俺と同じ反応で笑える」

 机にダウンする俺。その姿が面白いのか、どんぶりを持って来た大吾がケラケラと笑う。

「疲れたろ」

「気疲れだ。昼からカウンセリングが待ってるわ」

 体力的にはまったく問題ないが、検査官? 医師? がずっと怪訝な顔をしていて、あまりいい気分じゃ無かった。

「飯だ飯。腹いっぱいになれば気分が良くなる! つってももえちゃん。そんなに大食漢だっけ……」

 超大盛の定食を見た大吾。少し引き気味だ。

「しかたないだろー腹減ったんだからぁ」

「それでも食い過ぎだって……」

 ちょっとした近況を交換し合い、ご飯は食べ終えた。

「ふぅ。ごちそうさま」

 はい。ごちそうさま。

「で? 萌ちゃんはどっち?」

 何の脈絡もない質問。大吾が言いたいのは、"攻略者"か、"一般者"か、だ。

 この学園に通う大半の人間は大きく二つの進路がある。それが攻略者と一般者。

 攻略者とは、この世界に出現したダンジョンを攻略、モンスターの掃討、研究、そして、ダンジョンの謎を解き明かす者たちの事を指す。

 そして一般者。一般者は、今の社会で働き、生活をする者たちだ。まぁようは一般人だな。攻略者になったからといって、ダンジョン攻略に強制できない。そもそも一般者はそれを望んでいない。そういう人が進む道だ。

 大吾の質問に答えるとする。

「俺は攻略者だ」

「だろーな。もちろん俺も攻略者!」

「だろーな」

 知ってた。こいつが一般者の道を選ぶはずない。

「って事で、アタシ達三人でチーム組むか!」

「朝比奈さん……」

 俺の隣に座ってきたのは、ギャルの朝比奈さんだ。既に食べ終えたのか、デザートの紙パックジュースをその手に持っている。

「初級ダンジョンから帰ってこない萌ちゃんも、攻略者候補だって聞かされてたから俺ら待ってたんだよ」

 うんうんとストローを吸う朝比奈さんが首を振る。

「つかなに? あんなクソ簡単な初級ダンジョンで足止めくらってたのか?」

「……簡単?」

「おうよ! みんな同じとは言わないが、俺なんてダンジョンクリアするのに三十分もかからんかったぞー」

「……」

 頭の芯が冷える。俺は焦ることなく冷静になった。

 レイドボス、クリア不可要素、君主ルーラー。繰り返される生と死。

 あの所業をいとも簡単にクリア。

 無理だ。あれは無理だ。『至高の肉体』を持ってしても簡単ではない。むしろ、『至高の肉体』がなければ到底不可能。単独クリアなど不可能。

 なのに二人は、他のみんなは容易にクリアしたと?

「俺の場合はスライムだったけど、棒で小突いただけで目を×にして消滅したぜ」

「アタシは変な芋虫だった。デフォルメされてて可愛かったけど、触れただけで目が×になって倒した」

「そ、そうなんだ……」

 違う。俺と違う。そもそもスライムや芋虫などいなかった。てか何だ目が×て。コミカルか。

「ボスとか苦労したろ」

「え、萌ちゃんの所はボスいたの? まぁボスがいたってのはある話だが、萌ちゃんみたいに月単位で時間はかからんて」

 なるほど……。大吾の言葉をうのみにすると、大体はその日、または一日程度でクリアできた事になる。そうなると国連の対応は的確かつ迅速に行われたのだろう。

 ……含みを混じらせてみるか。

「俺が時間かかったのは、モンスターがやっかいだったからだ」

「どんなやつ? ミミズ? それともゴキ○リとか?」

「梶やめてよ! 気持ち悪いってば!」

 顔を青くする朝比奈さん。

「それも厄介だが、俺の場合はそうだなぁ。……幽霊」

「ッ!?」

 更に青くなる朝比奈さん。

「ガチもんのおばけで、にしては最悪だったな」

「チュートリアルかぁ。言い得て妙だな。それならそれで、システムのメッセージにでも書いといて欲しかった思うわ。いきなり出てきて『ダンジョンをクリアしよう』だからなぁ」

「私もそれは思った」

 嘘はついていない。誤魔化してもいない。二人の反応でそう取れる。

 って事はだ。俺に課せられる毎日のチュートリアル。このメッセージは、今のところ俺だけという事になる。

「っしゃー。じゃあ食堂出ようぜー」

 なぜ、俺だけチュートリアルなのか……。

 いづれは紐解いていくことになるだろう。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...