俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第四章 嫉妬の抱擁

第23話 チュートリアル:ダブルデート

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 「ダブルデート」とは何なのか。俺は今、この言葉の意味を理解できないでいる。

 まず「デート」とは何なのかを考えなくてはいけない。

 「デート」は、男女が日時を決めて会う。おおまかだが合っているだろう。

 男女のどちらかが一方に好意を抱いている。だから相手に好意を抱いてもらうためにデートする。これも合っているだろう。

 そして付き合いはじめてもデートはもちろん成立する。互いの愛を育むためだ。

 それと「デート」の解釈は、仲のいい友人どうしでも成立する点だ。まぁ昨今の基準だが。

 では本題の「ダブルデート」はどうだろう。

 「ダブルデート」は付き合っている二組のペアが、同じ日時で、同じ場所で、パートナーとの愛を育む。それが「ダブルデート」。まぁ合っているだろう。

 そして今の現状は成立しないのだ。「ダブルデート」は成立しない。

 大吾と花田さんは何ら問題ない。付き合ってるから。でも俺と瀬那はそう言った間柄ではない。クラスメイトであり、信頼できるチームメンバーだ。とどのつまり、この時点で「ダブルデート」は破綻している。

 だが、別観点から見るとそうでもない。仲の良いどうしなら成立する。

 清楚系の花田さん。黒ギャルパリピな瀬那。対極的な二人が仲いいのは驚きだが、仲が良いのは俺と大吾も同じだ。

 それを踏まえるとこういった構図になる。

 ♡花田さん×瀬那♡

 ♡俺×大吾♡

 これだと「ダブルデート」が成立する。

 まぁ結局俺が言いたいのは――

「近寄ってくんなホモ野郎!!」

「それはこっちのセリフだホモ野郎!!」

 大吾が花田さんの後ろに隠れ、俺は瀬那の後ろに隠れる。どうやら大吾も俺と同じチンパンな思考回路だったらしい。

「あはは、仲いいね!」

「何やってんの二人とも……」

 四人で昼食を終え、複合施設の中を探索している。土曜日なだけあって客足は多い。

「あのさ萌、その服装暑くないの?」

「暑いよ普通に。今は冷房効いててマシだけど」

 びっしり黒スーツな俺と違って、瀬那は本当に涼しそうなファッションだ。露出が多いから少し心配だが、単純に目の毒だ。

「バカだろ萌ちゃん。夏日でそれはないな」

「俺は形から入るんだよ! 俺はそう、ジェントルマンだ」

「……やっぱバカだろ」

 大吾が辛辣すぎる。まぁ今回は全面的に俺が暴走したから何も言えないが。

「あ、コレ可愛い~!」

「こっちも可愛いかも~!」

 立ち寄ったアクセサリーショップで黄色い声をあげる女子二人。俺と大吾は店の前で静かに立っている。

「……で? いつから付き合ってんの」

 普通に疑問を投げかけた。

「二ヶ月前だ」

 盛り上がっている女子を瞳に映し、大吾が腕を組んだ。

「実家に用があって本土に帰った時にたまたまな。それから何回か会って、付き合った」

 大吾の横顔が凛々しく見える。これが一皮剥けた男の姿か。

「どう言って告ったんだよ。全校生徒の憧れの的だぞ。どうせクッサイセリフで言ったんだろ?」

 頭を掻く大吾。一間置いて、口を開いた。

「……蕾から告ってきた」

 気恥ずかしそうに頬を掻いて俺に言った。

 俺は大吾の言葉が一瞬分からなかったが、花田さんが大吾に好意を抱くのも、分からないでもなかった。

 男の俺から見ても、よくできた男だと思う。成績優秀で誰にでも声をかける。おまけにイケメンときたから、女子は放っておかないだろう。知らんけど。

 そんな事を考えていると、沸々と怒りが湧いてきた。

 大吾の肩に手を置いた。

「うん、死ね」

「笑顔で言ってんじゃねーよ!?」

 彼女ができても変わらないツッコミで安心した。

「男子ー! 女子に荷物持たせるのー?」

「「あいよー」」

 瀬那の声を聞き、花田さんのホクホク顔を見て返事した。

 それからというもの、ファッション雑貨やメイク売り場。ゲーセンで遊んだり、ペットショップを覗いたりもした。俺と大吾が女子二人にコーデされ爆笑されたり、何気ない会話で盛り上がったり。俺も自然と、顔が綻んだ。

「あのさ、提案あるんだけど」

 休憩がてらに寄ったカフェ。瀬那が笑顔で言ってきた。

「夏休みさ、みんなで海行かない?」

「学園都市のビーチか」

「そう! リンスタでも人気だし、絶対楽しいって!」

「うん楽しそう! 行こうよ!」

 三人が盛り上がってるなか、俺は少し、いや、めっちゃ嫌だった。

 海とか陽キャ御用達のコンテンツだろ。青い空、広い海、そして和気あいあいな陽キャたち。陰キャの入る場所は無い。完全にアウェーだ。

「……おい」

 嫌だ嫌だとコーヒーを啜る俺に、大吾が迫る。

「水着姿の蕾を想像して鼻の下伸ばしてんじゃねーよ。俺の彼女だぞ」

「お前だろ想像してんのは!?」

 俺の声にも反応があった。

「え、大吾くんも花房くんも私を? やだ、恥ずかしい……」

「むー……」

 恥じらう清楚系は大変よろしいが、黒ギャルが俺を睨んでいるのは何故なのか。

 気まずさ交じりに流し目で瀬那を見る。

「ちゅ~。ん」

 ちょうどストローから口を離した瞬間。唾液の糸がストローから途切れた光景は一秒も満たないが、俺は見てはいけない物を見た気持ちになった。

「んー、じゃあ休憩終わり! 早速水着見に行こ!」

 場所は移ってファッションフロア。男性用水着はあるにはあるが、この周辺は女性用の水着が大半を占めている。

 他の女性客もいる中、一応女性連れの俺たちは居心地が悪い。って言うか、目のやり場に困る。

「へぇ結構可愛いのいっぱいあるじゃん」

 居心地悪いの、俺だけだったわ……。

「蕾ぃ、これ試着してみてよ~」

「ええ! これはちょっと……」

 瀬那がいたずら顔で持って来た水着は、健全男子にはよろしくない危ない水着だ。上と下が一体化したやつで、なかなかにきわどい。つかよく売ってんなこんなの。

「い、い、いいんじゃないかな俺見てみたいなぁ蕾の水着姿~」

 興奮を抑えられないのか、早口で目が血走っている。鼻の下を伸ばしてるのは大吾だ。

「大吾くんの頼みでもこれはちょっと……」

「そ、そうか」

「でもね、可愛い水着を選んで、大吾くんに見せてあげるね!」

「うん、うんうん!」

 イチャつきやがってリア充爆発しろ! くっそー俺だって一回くらい言われたいっての!

「萌はさ、どんな水着好きなの……?」

「え、俺?」

 カップルが隣でラブラブしてる側で、瀬那が質問してきた。

「とりあえずソレはないかな。こっちが恥ずかしくなる」

「じゃ、じゃあどんなの?」

「うーん」

 水着かぁ。俺のものさしは某格ゲーのおっぱいバレーだけど、実に制作陣が変態極まっているからなぁ。危ないやつからスク水まである。

「絵に描いたような女性水着かなぁ」

「それ分からないって……」

「だって瀬那似合わない水着ないっての」

「っ!」

 素直な感想だ。瀬那ってモデル顔負けのスタイルだし、肌を露出する抵抗もないから、堂々と水着姿で遊べるだろうし。もう根っからの陽キャだな。

「ほ、褒めても何も出ないって!」

「少し褒めたられたからって何赤くなってんだよ」

 瀬那は褒められる事に慣れていないらしい。まぁ俺もだが、瀬那は顔に出てるぶん顕著だ。

「大人びてるところあるけど、素直に恥ずかしがるの、かわいいと思うわ」

「ッッ~~! これ戻しといて! 違うの探して来る!」

 俺に危ない水着を押しつけて早足で去って行く。忖度無い俺の感想、そんなに恥ずかしいか?

「……これどこにあったんだよ」

 水着を見てため息をつき、辺りを見渡すと、視界の端でカップルがニヤついていた。

「なんだよ」

「いやー萌ちゃんも言うねぇ~」

「瀬那かわいかった~」

 まったくこれだから恋愛脳なカップルはめんどくさい。何を期待してるんだか。

「瀬那に限ってないから。むこうギャル陽キャだぞ。陰キャな俺には眼中にないって」

「どうかな~」

「どうだろ~」

 お互いに目を見て感想を言い合っている。イチャイチャしていてとても腹が立つ。

「はぁ、あのさ花田さん。これどこにあったか分かる?」

 普通の質問をしたはずだが、大吾が迫ってきた。

「おい、エグイ水着を着た蕾を想像して鼻の下伸ばしてんじゃねーよ。俺の彼女だぞ」

 彼女が絡むとめんどくさいと再認識した。
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