俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
54 / 288
第八章 VS嫉姫君主

第54話 チュートリアル:深海の洗礼

しおりを挟む
 何も……何も聞こえない。

 目を開けていたのにも、いや、開けているにも関わらず、光の一筋すら見えない。

 暗闇なんて安っぽく聞こえる程に黒く、漆黒で、聞こえるはずの心臓の音すら聞こえない闇。

「――」

 俺は幻霊君主ファントムルーラーに顕現し、巨大なモンスターと化したウルアーラを相手取った。

 エルドラドの言葉を信じ暴れるウルアーラを何とか抑え込むと、突然眩い光が見え、それがブラックホールに成り、俺とウルアーラは瞬く間に吸い込まれた。

 これはそう、エルドラドが言っていた強制的にダンジョンに押し込まれた状態だろう。事が上手く運んでいればゲートが出現していて、手はず通り黄龍仙がゲートの門番になっているはずだ。

 つまり死んでしまった様に静かなこの空間は、深海……。

 『レイドダンジョン 漣人魚マーメイド哀唱サリーク

 真っ暗な視界に色のついたメッセージ画面にそう書かれてある。

 エルドラドの所業が真であったと言う事だ。

「……?」

 聞こえる。波が、海の中を何かが泳ぐ揺らいだ音。それはどんどん俺に近づいてきて、真下と真上に大きな揺らぎを感じた瞬間、脳天と足元から鋭い何かが俺の体を貫いた。

 だが俺は何てことない。傷どころかコートの繊維一つ千切れてはいない。だが、貫かれたという感覚が分ると言った方が正しいか。

 いったい何だと、幾度も強い揺らぎを感じ、縦にと横にと幾度も貫かれ通り過ぎていくこれは何なんだと。

「……フ!」

 貫かれた瞬間に手のひらから発射。黒霧の棘――ファントム・ニードルをランダムに爆破裂させると、肉と血が飛び散った感覚を受ける。

 それを貫かれる度に繰り返し、やがて静けさがまた支配した。

 何も見えないなりに考えついた答え。見立て通り、俺は何かしらのモンスターに捕食されていたのだろう。

 深海に居るから魚類か貝類、軟体生物あたりが妥当か。

 一寸先も見えない闇、ミンチになる水圧、体感での予測だが泳ぐ巨大なモンスター。

「なるほどなぁ」

 エルドラドが口を酸っぱくして絶対に入れるなと言う理由の一つがこれか。

 特別なスキルとかじゃなければ確かに入った瞬間詰みだな。

「……」

 マジで何も見えないが、下へ潜って(泳いではいない)行けば何か手がかりを掴めるかもしれない。

 そう思って闇の中を進んでいく。

 揺れる何かをすり抜け、固い何かを通り抜ける。

 しばらく真下に進み続けていくと、揺らぎが、何かが激しく動く揺らぎを感じ、またモンスターかと直立して止まった。

 しかし揺らぎが比較的小さく、真っ直ぐ俺に近づいて来る。

 そしてアクションをした。

「おいおいおい! まさかマジで何も見えなくて進んでるのか!?」

「!?」

 イケオジダンディボイスのエルドラドが勝負をしかけてきた!!

「早速洗礼受けてるなぁって酒飲みながら見てたらまったく動かねーし! 魚たち倒したと思ったら物理無効行使して断崖をすり抜けて移動するわでむちゃくちゃだな!?」

「いやまぁ……って言うかさ、エルドラドはこの深海の中見えてるのか?」

 真っ直ぐ迷いなく俺に近づいたって事はそうなんだろうか。

「見えている。とは少し語弊はあるが、俺の場合は……まぁいいや。萌《はじめ》くん、幻霊の眼があるのは知っているな?」

「え、うん」

 幻霊の眼――ファントム・アイ。もちろん知っていると言うか、眼球の色が反転してるから既にその眼になっている。だがこの眼の全てを使っているとは言えない。知識としては知っているが、いかんせん掴めていない。

「まったく、これだから君主ルーラーエアプは……」

「ルーラーエアプってなんだよ! 勝手に言葉作るな!」

 見えないのにエルドラドが首を振ってやれやれ感をしているのが分る。分かってしまう。こいつは愉快犯。リャンリャンと同類だ。

「先ず瞼を閉じろ」

「……」

 癪だが背に腹は代えられないと渋々いう通りにする。

「きっかけを掴むにはまず深呼吸しろ。肉眼で見る感覚と考えは一切捨て去れ」

 深呼吸。これは実際に呼吸しろと言う意味ではなく、落ち着けと言う意味。ルーラーになった俺は呼吸は必要ない。
 そして肉眼の感覚をシャットアウトしろと……。一般的に健常な存在がそんな事、できる訳が無い。

「……スゥ」

 だが俺はできてしまう。脳への伝達を切り、眼球という固体を感覚から無くす。

「幻霊……。お前が見えるのは無機物と有機物の色。それは幻霊だけが見れる魂の波長だそうだ」

 エルドラドの言葉と沿う様に、瞼を閉じた状態でも感じ取れる、俺を押し潰す程の全方向からの波長。

「っさ! 眼を開けてみろ。どうだ」

 瞼をゆっくりと開けると、そこには広がっていた。

「……わ~~~お」

 右を見れば優しく発光する黄緑色の岩肌。左を見れば、輪郭が強調されるクラゲ群れ。電気信号が体を駆け巡る様が見れる。

 下を見れば巨大な光る輪郭。俺を襲ったモンスターの類だろうか、尾ひれをゆっくり動かし泳いでいる。

 海中に漂う無数の小さな光。ここが満天の空の中心部と錯覚する程の綺麗さ。この光たちはプランクトンとかなんだろうか……。

 そして上を見ると、そこにはエルドラドが居――

「……。……」

 言葉が、出ない。

「おっと、俺の素顔を見て詰まるのは仕方ない。イケメン過ぎだし。極力その眼で見ない方が良いだろう……。惚れちまうからなぁ」

「お前――」

「多くを語るな。これでも美容には気を使ってんだよ」

 真っ先にお礼の一つも言えやしない。そんな自分が嫌になった。

 だがエルドラドから目を離す時につい言ってしまった。

「ハムナプトラに出てきそうだな」

「……なんだそれ」

 モンスターを倒しながら、俺たちは下へ下へと進んでいく。

 道すがら、疑問をエルドラドに投げかけた。

「聞きたい事が山ほどあるんだが、なんで池袋にあの人……ウルアーラはいた? 相変わらず様子はおかしかったけど」

「……そうだな」

 襲い来るモンスターを金色のガントレットで殴打。退かせてから口を開いた。

「ウルアーラがなぜ池袋に居たのか、なぜ狂乱して顕現したのか、それらすべては敵によって仕立てあげられた」

「敵……?」

 俺ら人類の敵はモンスターやルーラーズだが、エルドラドたちルーラーズにとって人類は何なのか。エルドラドは敵と言った。人類とは言っていない。それはつまり、俺の知らないエルドラドたちの敵がいるという事だろうか。

「お目付け役の俺が異変に気付いて見に行けば、ウルアーラは既に自分のディビジョンから失踪。自信の表れか、敵さんはご丁寧に痕跡を堂々と残していきやがった。俺が来たよってな」

 ファントム・アームで魚の顎を砕き、吹き飛ばす。

「そいつの得意分野は精神に干渉し操る事だ。あのバカは精神面に難ありだったし、いろいろあった。その隙を突かれて操られたんだろうさ。だからディビジョンにも簡単に侵入された」

「……っ」

 一瞬、脳裏にフラッシュバック。口元を歪ませる何者かの影が俺には見えた。

「じゃあなんだ、今のウルアーラは自分の意志で暴れてる訳じゃないって事か?」

「さぁ? 元がアレだったし、操られて言いようがいまいがどっちみち暴れてただろ。って言いたいが、十中八九操られてるだろうなぁ。なあ?」

「ま、まぁ、うん……」

 確かに情緒不安定だったし、バーサーカーを操って暴れさせましたって言われてもバーサーカーだしなぁってなる……よな……?

 そんなこんなで誘われる様に深海の崖に潜って行き、さらに深い深海へと進んでいく。モンスター以外の生物が姿を見せなくなった深度。サンゴで形作たれた丸い門が俺たちを待ち受け、心の準備をしてくださいと訴えている。

 深海の中、俺が意味のないストレッチをしていると、隣のエルドラドが忠告してきた。

「いいか、倒すってのは何も殺す事だけじゃない。俺の目的はあくまでウルアーラの正気を取り戻す事だ。戦闘不能や戦意喪失に持っていけばいろいろ事情を聞けるし、の情報が手に入る」

「……」

 俺のチュートリアルを知ってか知らずか、倒すの定義を説いてきた。普通にメッセージ画面でボスを倒そうと出ているのかも知れない。

「――って感じになるから……おい、話聞いてんのか?」

「ぉおお、聞いてる聞いてる」

「あそ。じゃあ入るとしますか~」

 サンゴの門を潜る。

 深い闇で普通は見えないが、ファントム・アイで見える光景はネオンライトに彩られた広い広い闘技場。

 深海世界に広がる人魚の国。その国を象徴する様な威厳ある闘技場。まるで海に沈んだ古代文明の跡みたいだと俺は思った。

 そう思っていると、奥から黒い霧――墨がブクブクと溢れ出し、その中を優雅に回転しながら奴は現れた。

「■■■■■■■■!!!!」

『警告:レイドボス出現』

嫉姫君主マーメイドルーラー ウルアーラ』

 池袋に居た時よりサイズは小さくなったが、その分力が増した印象を受ける。

「共同戦線と行こうじゃないかぁ、相棒あ~いぼう!」

「誰が相棒だ! パパっと片付けてここから出るぞ!」

 持たれた肩からエルドラドの手を退かせ、金のガントレットを手のひらで叩いて行けと催促した。

「はいはい。じゃ、いっちょお姫様の目を覚まさせてやりますか!」

「ッ!!」

 俺たちは同時に、勢いよく跳んだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...