俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第八章 VS嫉姫君主

第55話 チュートリアル:お前、弱くね?

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 触手の一つが地面を叩くと、サンゴで構成された地面の隆起が鋭利な攻撃となり、それが容赦なく俺を襲う。

 ウルアーラの触手をファントム・タッチで拘束しようとするが、俺から距離が遠いのかうまく作用しない。無数の影の手がもぞもぞと触手を這うだけに留まっている。

 ならば近づいて――

 と、容易な考えは既に捨て去っている。

 その要因は、ウルアーラの攻撃にあった。

「■■、■■■、■■■」

 何かを言っているウルアーラ。それと関係あるか分からないが、複数ある触手の先から高密度の水圧カッター、ジグザグに迫りくる雷撃、グミ玉の様に発射される球体。それらがほぼ同時に襲い来る。

 これがVR弾幕ゲーかと内心思えるあたりまだ俺は余裕だ。正直雷撃以外は物理攻撃だから全然怖くない。

 物理無効――

 これは一定以上の幻霊が持つで、君主にもなるとそこに「レベルの低い非物理型スキルも無効」がおまけで付いてくる。

 つまりはだいたいの攻撃は無効となる。

 え!? それってチートじゃない? せこくない? と思った視線を向けてくるそこの金色エルドラド。

 ぜんぜんチートじゃないしせこくもない。だってレベルの高いスキルなら効くって事だから。

 うちはマダラも言ってたろ? 止めてくれカカシ、その術はオレに効く……って。ちなみにコラだからこの文言。

「うお、痛ァ!  ちょ激しいっておい!?」

 エルドラドに攻撃が集中したこの瞬間、チャンスとばかりに俺はウルアーラを睨む。

 瞬時に突撃。俺の居た場所は爆発が起こった様に爆ぜ、泡が多量に生まれ、突き進む爆発力が後ろ後ろへと水の輪っかを生んだ。

「■■■■!!」

 悲鳴の様にも取れる金切り声。

 一瞬で近づいた俺に気づき、触手を使って暴れながら墨を吐いた。

 黒に染まる視界。

 ファントム・アイでも黒に見える墨。

 暴れる触手の一本を無我夢中でタッチで引っ張り、霧を纏った手刀で切断。

「■■■!?」

 トカゲのしっぽの様にのた打ち回る斬った触手。それに目を奪われた一瞬のスキを突かれ、雷撃の猛攻を見舞われて逃げるように距離をとった。

「ッ」

 チリジリとコートの端が雷撃によって焼かれた。俺は払う様にコートを靡かせ、傷を癒す。

「まずは一本!」

 斬れたのはサンゴを隆起させる触手のようだ。だがもう一本同じ攻撃ができる触手が残っているし、複数の遠距離攻撃もまだ残っている……。油断はできない。

「■■、■■■■」

 隙を伺いながら避けていると、タコ足を生やした上部の人型ウルアーラは静かに動いていた。あちらへ向いたりこちらへ向いたりと、体を使った表現はまるで歌っているかのようだ。

「……何だ?」

 漫画とかで言う詠唱をしてるのかと思ったが、断言はできないがどうも違うと思える。では何をしてるのかと考えるが答えが出ない。では知ってそうな奴に聞いてみようと思う。ちょうどすれ違うし。

「――あれ何やってんの?」

「知らん! ――」

 貰ってはいけない攻撃を避ける刹那の会話。こいつ何にも知らないなと思ったのは仕方ないだろう。

「……ッ」

 激しい猛攻に散り散りになる俺たち。常に襲い来る下からの攻撃、サンゴの隆起。その隆起が遠距離攻撃を避ける度に一部が欠け、粉砕。それを埋めるように更なる隆起が圧し掛かる。

 一本の触手を斬っただけで攻撃の圧が劇的に増している。

「あばばばばば――」

 息もつかない猛攻を避けていると、不意にエルドラドの悲鳴(?)が聞こえそちらを注目する。水のカッターを浴び、雷撃をくらい、グミ玉に撃たれる続け、サンゴにピンボールされていた。

「おいおい!」

 たまらず大きく迂回して助けに行く。

 雷撃を搔い潜り大きなファントム・アームを二つ生成。

「ッオラ!!」

 一つのアームで隆起し続けるサンゴを砕き、もう一つのアームでエルドラドをキャッチ。

「ッッッ!!」

 この瞬間分散されていた攻撃が俺に一点集中。さすがの俺も雷撃を浴びる事となった。

 エルドラドを握りながらなんとか被弾を最小限にとどめていると、脳裏に語り掛けてくるエルドラド。

「……!」

 ファントム・アームを被せる様に一回り大きいファントム・アームを纏わせる。それをロケットパンチみたいにウルアーラへと向かわせ、俺は不慣れなスキルを使った。

「ファントム・ミラージュ!!」

 俺とほぼ同じことができる分身を四体生成。同じ姿の分身が干渉しない様に分散。うまくウルアーラの攻撃を誘導してくれている。

 すぐさま方向転換しウルアーラのもとへ突撃。先を行くアームは攻撃によりボロボロ。布がほつれる様に中から黄金の存在が姿を現す。赤い眼の軌道を残し背後を爆ぜさせ突撃。

 比較的攻撃緩やかな今、急ぐ必要があった。

 俺が不慣れと言ったファントム・ミラージュ。これは俺と同等の力を有したスキルのよる影であり、制御というか、慣れというか、簡単に言うとスキルレベルが足りてなく、文字通り数秒間で蜃気楼が如く消えるからだ。

「■■■■、■■■■!!」

 パニック映画の様な咆哮。どうやらミラージュが消えた様でウルアーラが俺らを認識した。

 暴れる触手に加える墨。やっかいな墨だ、また闇雲に……! と思っていると、金色の輪っかが三本纏めて拘束していた。

「いヨイショ~!」

 拘束から逃げようとするが輪っかに連なる金色の縄。それを引っ張るエルドラドが許さない。

 伸びきる触手。

「オオオオオ!!」

 霧を纏った手刀を大きく振る。振り切ると触手の断面に切れ目が遅れて現れ、サンゴの隆起が触手と共に激しい音を立てて切断された。

「■■■ク! エリックゥウウウ!!」

 触手の先や切断面から無尽に雷撃が迸る。濃い黒の霧をタコ足のウルアーラに放ち、雨の様に襲ってくる雷撃を避けて距離をとった。

 ある程度距離をとると攻撃が止み、ウルアーラの悲鳴が聞こえてきた。

 振り向くと青い血を海に流して暴れている。

(うまくいったか!)

 タコ足の根元を覆うクラゲ状の膜が破れている。どうやら去り際にばら撒いたファントム・ニードルが上手い事炸裂した様だ。

「うわ! ちょ離れろ気持ち悪い!」

 横を見るとエルドラドが絡みつく触手に四苦八苦していた。

 結構被弾してるらしく、金色の甲冑が所々凹んでいる。

「まったく、一苦労だ。嫌だね~損な役割は」

「あ、あのさ、何かお前、弱くない……?」

「あ? 俺が弱い?」

 触手を金色の力で消滅させ、腰に手を置いて俺を見てきた。

君主ルーラーエアプとか俺に言ってる割にはなんか攻撃くらってばっかだし、弱いなぁって」

「はぁ。いいか萌くん。幻霊は聖なる力に弱い様に、俺にも弱点の一種がある。それがアレと――」

 ウルアーラを指さし――

「俺だ」

 自分を指した。

「ポケ○ン風に言うと、向こうのお嬢さんはみずタイプで、俺がじめんタイプ。しかも俺は複合タイプだから実質四倍だ。まぁ含みはまだあるが、おわかり? ドゥーユーアンダースタン?」

「……そ、そスか」

 日本人のゲーマーなら大体わかるタイプ相性の例え、ありがとうございます。

 つか相性最悪なのに余裕ぶっこいてイキり散らしてたのかと、俺は内心驚いた。俺の相性に関しては知識としてあるから置いておくが、このアル中イケオジときたら……。

 まぁ所詮例えであって、含みの部分が重要なんだろう。

「あ~あ。痛そうだ」

 身体に覆った黄金の力場を消すと、傷を治したエルドラドが両手を頭の後ろに置きリラックスしている。
 その言葉と共に暴れるウルアーラを見る。

「正気に戻すためとはいえ、仲間を攻撃するのは心が痛いねぇ。……マジで損な役割だよ」

「……」

 静かに呟いた愚痴だろうか。エルドラドのため息交じりの言葉が、攻撃に加担した俺の心をつつく。

 倒さなきゃいけない……、戦闘不能までもっていかなきゃいけないボスだと分かってはいるが、仲間――。アンブレイカブルの仲間だと思うと、確かにやりきれないかもな……。

「でもまっ、あのお嬢さん、君主ルーラー本来の力で暴れてないからまだマシだな」

「あの猛攻でマシなのかよ……」

「ウルアーラは嫉妬の姫だ。嫉妬してなかったろ? 目玉もギョロギョロしてないし」

「……まぁ」

 思い返すと、初対面はガチもんのホラーと思うエンカウントだった。長すぎる黒髪だし目もイッてたし。俺の事おかしいとかいろいろ言ってた……。もしかしたらあの時点でウルアーラは何か感づいてたのかも。

「■■■■■■■■」

「そろそろだな」

 エルドラドの言葉と共に墨がウルアーラを大きく大きく覆う。

「ッ!?」

 同時にサンゴの地面、岩壁、揺蕩う微生物、この空間そのものが強く脈動、魂の波長が眩い光となって劇的に主張してきた。

 だが俺のファントム・アイは光に惑わされず、墨から漏れ出す激しい光を見ずにはいられなかった。

「何か……出てくる……!?」

 驚愕する俺の肩に手を置き、エルドラドがサムズアップしてこう言ってきた。

「第二形態《だいにラウンド》、いってみようか」

 思わず片方の口元が吊り上がった。

(アンブレイカブルの時そんなの無かったが……?)

 俺たちが奮闘する側面で、外の世界にも動きがあった。
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