俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十一章 本戦

第106話 チュートリアル:月野VS西園寺L

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 ――攻略者の道を選んだのはどうしてですか?――

「みんなと同じ様にダンジョンに放り出されました。柔道でいい所まで行ったのに、ダンジョンで体感したのは今まで感じたことの無い痺れでした。アニメや漫画みたいな世界に変わったなら、同じく自分が変わるのはおかしくないと思います」

 ――第二試合への意気込みをお答えください――

「戦ってる動画見ましたけど、正直凄すぎて言葉にできないです。攻守ともに優れている三年最強格の西園寺先輩……。勝てる確率が自分の中で少しだけ、いや、少しもあるので、それを生かせる戦いにしたいです」

 ――あなたにとって強さとは何ですか?――

「え? ……そうですね。やっぱり、いつもそばにいたい好きな人を、愛してやまない人を守れる力が"強さ"だと思います」


 昨日のインタビューが今頃テレビで流れているはずだと、選手入場した進太郎は腕を組んで考えに耽っていた。

 ワーワーと昨日と勝るとも劣らない大歓声がビリビリと肌に感じ、更に思考した。

(今回の相手は昨日の比じゃない……)

 そう。Aブロック第二回戦一試合目。その初っ端スタートを飾るのに相応しい相手。取り巻く境遇に加え容姿端麗、成績優秀。更に加えて戦闘センスは抜群の一言。

 相手は三年最強。

 月野 進太郎は思う。

(敵に不足なし……! 俺は全力を出すだけだ……!!)

 そして先ほど控室で萌と交わしたセリフを思い出す。

「――俺、この試合が終わったら、まこと姉ちゃんに告白する」

「お前今それ言う!? 強敵相手に挑むのにそんなの言ったらマズイだろ!?」

「俗に言う死亡フラグなんだろ? だがそれを粉砕してこそ、俺は男だと思う……!!」

「進太郎……」

 そう言って鈍い音が出るほど拳を握った。

 ――ギギ。

 そして今も同様に拳を握っている。

 この拳の平の中に、必ず勝利の栄光を握りこむんだと。そう硬く信じて。

《選手入場ッうクゥ^~!!》

 遠い実況席から興奮したJ・カビラの声が不意に聞こえた進太郎。我に返ると、会場全体は赤い稲妻の演出が為され、睨みを利かせていた入場口に集約した。

 蒸気の向こうからスタスタと確かな足取りで歩いて来たのは――

《三年Aクラスッ!! 西園寺 L 颯ええええええクゥ^~~!!》

 中央スクリーンに大きく字幕されたのを叫ぶカビラ。

 進太郎と同じジャージ姿。流れるようなブロンドの髪はハーフの象徴。甘いマスクと自信がある表情。国内外問わず有名な財閥グループの次期当主の登場に、

 ――キャアアアアアワーワー

 活火山が大きく噴火した様に女性の声援が爆発。

《女性人気が圧倒的です!!》

《実力もありますからねぇ》

 実況のJ・カビラ、解説の西田メンバーがマイクに声を通す中、対峙する二人。

《いいバトルにしよう、握手を交しています!》

「西園寺先輩、こうして話すのは初めてですね。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく。昨日の活躍は見事だったよ」

「……ありがとうございます」

 礼儀正しく、優しい声色と男の進太郎でも見惚れる笑顔。天は二物を与えずとはよく言ったものだが、現実はそうでもない事を、進太郎は改めて知った。

「準備はいいな、二人とも」

 レフェリーの獅童が二人を交互に見る。

 その様子に二人は握手を解き、指定の位置に着こうと背中をむける時だった。

「……先輩」

「ん?」

 進太郎が呼び止めた。

 呼び止められた颯は身体を横向けて彼の目を見る。

「本気ぶつけるんで、覚悟してください」

 何か決意を抱いている目をしている。と楓は感じ、

「僕も容赦はしないよ。月野くん」

 二人の会話を目だけ動かして様子を見て、指定の位置に着いたことを確認した獅童。

「がんばれー!」

 友達の彼女の声援。

「進太郎おおおおおおッファイッ!!」

 ――押忍ッ!!

「ファイッ!!」

 ――押忍ッ!!

「ファイッ!!」

 Bクラス応援団の檄。

「西園寺グループのクソガキなんてぶっ飛ばせ月野くん!!」

「パパ口が悪いわよー」

 テレビ前で熱くなる声援。

「冷静に対処するんだ……」

 担任の呟いたアドバイス。

「……進太郎」

 友達の静かな応援。

 そして、

「進太郎ーーー! がんばれーーーー!!」

 聞き慣れた人の声が鼓膜を響かせる。

「すぅー――」

 深呼吸。

 手の甲から黄色い線が伸びて発光。そこからガチャガチャと装甲が展開していき、肘まで覆った銀色のガントレットが装着された。

 一方、西園寺 L 颯はこれまたオーソドックスな中世風のソードを生成。

 オーソドックスと言っても、体を横にし見せつける様に構えたソードは金色の装飾が施され、質も高ければ絢爛ささえ窺える。

(さて、キミの実力を確めさせてもらうよ……!)

 キリっとした颯の顔立ち。

(……勝つ!!)

 拳が強く握る進太郎。

 両者共に準備万端。

 それを良しとした獅童は息を大きく吸い。

「――はじめえええええ~おん^~~!!」

 ――ッド

《試合開始ですぅうおっとおおおおおおお!!!!》

 J・カビラの驚く声。

 歓声かワーワーと煩く湧く中、噴射音の一際大きな音が鳴った。

 真っ先に仕掛けたのはこの男。

 ドゴッ!!

「ック! いなされたか!!」

 振り切った拳で床を砕かせた男――月野 進太郎だ。

 開始と共に右腕を展開させジェット噴射の様に突撃。

 目を見開き刹那に驚いた三年颯だったが、胴を狙った拳をソードで迎え、巧みな分散操作でそのままいなした形となった。

《速攻の一撃ィイイイイイ! 無残にも砕けた床が月野の攻撃力を物語るうううう!! クゥ^~~!!》

 後方へ大きくジャンプし大きく距離をとった颯。

 攻撃を流したソードを持ち、身体を横にする構えは変わらない。余裕綽々、どこか涼し気な表情を見せた颯に、オーディエンスの女性たちは黄色の声を咲かせるのであった。

 しかし、彼は内心驚いていた。

(拳を飛ばすどころか自分自身を飛ばしてきたのは驚いたよ……!)

 ソードで受けたものの威力が予想よりも大きく、このままだと折れかねないと判断。瞬時ではあるが、スキル・身体強化(魔力)を使い何とか流したのだ。

(キモを冷やしたよ……! 舐めてはいなかったけど、改めて身を引き締めて挑むとしよう……!)

 その矢先だった。

 ――チュドッ!! と展開された左のガントレットが噴射。

「おおおおおおおおお!!」

 次は左腕だと言わんばかりに突き出したガントレット。

「二度は通用しない!!」

 当然同じくソードで攻撃を流された進太郎。そのまま地面に左拳が床に突き刺さる。

 だがこれで終わる進太郎ではなかった。

「――ッフ」

 全重心が床に刺さる左手に乗り宙で体がフリーな状態となったのを利用。予め装備した右脚のソルレットが展開し轟々と噴射。

 左腕を軸に、噴射した勢いのソルレットを攻撃を流した颯に目掛けて攻撃した。

 ガキィイイ!!

 見事命中。

「甘い!!」

 全体重を乗せたソルレットの攻撃は颯のソードに直撃。そのままカウンターの様に押し返され、進太郎は宙で無防備になってしまった。

 

 ――チュドッ!!

 宙に浮かぶ刹那の中、床から離れた左腕が展開されたままそのまま噴射。

「――あ゛あ゛あああああああああ!!」

 噴射した勢いで身体全体を回転し、轟々と噴射する威力の進太郎の一撃。

 ――弩ッ!!

 ピキィイイ!! と右肩のバリアにヒビが入る音。

「ッッグ!? ック!!」

 颯は驚愕した表情を見せながら受けた威力に従い吹き飛ばされ、空中で態勢を立て直した。

《渾身の一撃イイイイイイ!!》

《刹那の攻防だッ!!》

 月野を睨む目がチラとヒビの入ったバリアの具合を見た。

「ハア、ハア――」

 一撃を入れた進太郎はそのまま地面に落ち、今し方起き上がった。

 大きな悲鳴の後に続いた大きな歓声。

「んく、ハア、ハア」

 それを耳にしたのと、自分の攻撃が通じた現実に確かな感触を感じた。

 月野 進太郎。平々凡々な装甲スキルである彼のスキル、は泡沫事件の後にひっそりと進化を遂げていた。

「……装甲スキルでその機動力。キミのスキルは特別なのかな」

涅槃装甲ニルヴァーナ・アーマー……。俺が培ったスキルです……!!」

「……おもしろい」

 西園寺 L 颯。

 彼の雰囲気が変わったのはここからだった。
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