俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
111 / 288
第十一章 本戦

第111話 チュートリアル:魔法の筒

しおりを挟む
 巨大魔法陣から枝分かれした眩い白色の光線が、大竜巻のサイクロンと衝突した。

 ガリガリと嵐が光線を削る音が響く。

《すべてを飲み込もうとしたサイクロンにビームが炸裂ううううううううう!!》

 少し太いビームがバチバチと細かく弾けさせるのは、同じく炎を弾かせるブレイズ・キャノンの連なる攻撃。

 小規模の爆発音が絶え間なく饗宴。

《火炎弾と極太ビームの拮抗勝負ッ!!》

 アルテミット・スレイズは魔法陣から絶え間なく生成される光の矢。ガトリングの様なブレイズ・キャノンの連射は無いが、初速は不規則に動いてから真っ直ぐターゲットを狙う。
 しかし東を狙うアルテミット・スレイズは、枝分かれしたビームが丁寧に丁寧に撃墜。負けじとスレイズもビームを圧す。

 それはスレイズが細かなミサイルと化した様に見えるオーディエンス。

《光の矢が光の光線とぶつかり合うううううううう!!》

 二つのサイクロン。

 四つのアルテミット・スレイズ。

 四つのブレイズ・キャノン。

 それらをまとめて相手取る巨大な魔法陣――ホーリージャッジメント。

 ガリガリガ■◆□◆――――

「「「――ッッッ~~~!?!?!?」」」

 竜巻とビームが削り合う音を皮切りにマイクはすべてを拾おうとし、ヘッドホンを装着した音声監督を含むスタッフの鼓膜を傷つける程の爆音に成長。

 それはJ・カビラの勢いのある実況にも影響し、会場にはカビラの声は響かず、辛うじてテレビへの実況提供が流れた。

 だがそれも辛《つら》く辛《から》く。テレビに映される映像は西サイドから始まり東サイド、北、南サイド、俯瞰視点から解説席後ろと順繰りに場面が変わった。

 しかしと映し出されるのはエフェクトバチバチのごった返した魔法の応戦。

 風が荒れ、炎が巻き、双方の光の欠片が空に舞い散る。

「ッスッゲエエエ!!」

「コレが見たかったんだよ!!」

「負けるな二人ともおおおおおお!!」

 益々盛り上がるオーディエンス。ドンパチが好きな人は手に汗握る光景。

《クゥ^~~!!》

 カビラも思わず首を捻ってクゥ^~。

(やっぱ魔法って凄いんだなぁ)

 西田メンバーは解説を一時期忘れ、自分ならどう動くのかと脳内シミュレーション。

「……フ、……フ」

 混沌とした中にいるレフェリーの獅童は、二人の一挙動一投足を見逃さんとし、自分に危害が及ぶ余波だけを手で掃う。

 そして同じく混沌の中にいる二人――この魔法合戦を生んだ両名は、必死に魔力を陣に回していた。

 ――訳も無かった。

「これで!!」

 巨大魔法陣の下端から細いビームが放たれる。

「♰その程度!!♰」

 ダーク=ノワールは魔法《マジック》を発動《エフェクト》。

 ダーク=ノワールが握った剣は光で形成されており、同じく光のビームを斬って相殺した。

「♰――魔法剣ソードオブライト♰」

「ッ!!」

 思わず下唇を噛む東。

(ま、魔法使いが覚える優秀な接近戦魔法……ソードオブライト!! 光特化の私ですらまだ会得してないスキル……)

 悔しいと内心奮起の炎を灯す東。そう思うのも無理はないことだった。

(火炎特化の魔法使いなら炎が優秀で、水特化なら水が優秀。光特化の私なら光が得意なように、尖った属性魔法が得意な魔法使いは優秀だと攻略者には一般的な常識……)

 これ見よがしに同じく光のビームを放つ東だったが、これも同様にソードオブライトにより攻撃は通らない。

(それなのに、あらゆる属性魔法を自在に操る戸島先輩は何なの……?)

 他属性を自在に操る戸島の存在は、彼が着ている独特な服装と共にあまりにも奇異。

 各属性に特化した魔法使いが一般的な世界で、同時展開できる魔法に加え、魔法の多様性を生かせる戸島の才能は、彼自身が思っている以上に宝石の原石だった。

 だがしかし、酔いに酔える承認欲求が強いのにも関わらず、中二病気質な性格が災いし、"自分が如何にダーク=ノワールとして酔えるか"でしか自身の欲求を見たせないでいた。

「♰フフフ。魔法は魔法同士で語っている……。然り! 我々も存分に語り合おうぞ!!♰」

「ッ!!」

 魔法剣ソードオブライトを引っ提げ東に駆け寄る戸島。

 額に汗を滲ませる彼女は、腰に提げていたショートソードを引き抜き構えた。

(ッム)

 ショートソードを構えたか細い彼女の姿は非常に弱弱しく戸島の目に映る。

(魔法ではない実体剣。魔法は恐ろしいがそれでも女子高生という事か……)

 せめぎ合う魔法の中を駆けながらそう思考したダーク=ノワール。

 ――手加減はしない。

 誰が相手だろう一切の手は抜かない。それが彼がもつ美学だ。

 そして接近。

「――」

 ショートソードを構える東は素人が見ても隙だらけ。

「♰もらったッ!!♰」

 東の肩目掛けて剣を突き立てたダーク=ノワール。

 ――――ブンッ!

「ッ!?」

 意識外からの突然の強打。打撃の勢いを殺しきれない戸島は地面に膝を着き減速した。

 ソードオブライトを振るっていた右腕にバリアのヒビを確認する戸島。次に目を向けたのは東 美玖の側を浮遊する謎の光だった。

「♰……近接戦は苦手だと思ったが、その光源が貴様を守護するのか♰」

「わ、私も足踏みしていられないんです!!」

「♰だからと言ってッ!!♰」

「ッくぅ!!」

 斬り掛かったソードオブライトに浮遊した光源が盾になり東を守った。

「♰近接戦が得意とはならんだろ!!♰」

「ッッ!!」

 光源がなんのそのと猛攻するダーク=ノワール。幾度と東に斬り掛かるがその度に光源が阻む形となる。

「はあああああッ!!」

「♰甘い!!♰」

 光源に守られてるだけじゃないんだと、宙に額の汗を飛ばしながらも東は不慣れながら斬り掛かる。だがそこは冷静のダーク=ノワール。ソードオブライトをもう一本生成し、両手の光の剣で相手した。

「はあああああああああ!!」

 ショートソードを火花が散る。

「♰こんなものかッ!!♰」

 光の欠片が舞う。

 舞うのは欠片だけではない。

 サイクロン、ブレイズ・キャノン、アルテミット・スレイズ、そしてホリージャッジメント。
 それらの魔法も魔力の欠片と成って、二人が接近しあう今でもしのぎを削っている。

 そしてその舞っている欠片を一身に受ける二人のバリアは徐々にダメージを受け共倒れ。このままだとバリアが砕けるのは時間の問題だった。

「「はあああああ!!」」

 辛うじて拮抗しているこの場面に汗の一滴がしたたる。

「ッはぁ! はぁ! ック!」

 元々魔法陣を複数展開するのは東の苦手な部類。それを無理して大出力の大魔法陣と未だ不慣れな光源を操っている。
 したがい、東の無理が現れるのは当然だった。

「♰フハハ! どうやら息が上がってきたようだな!!♰」

「うっさいバカ!!」

「バカぁ!?」

 突然の暴言にたじろする戸島。普段大人しい東も余裕がなくなってきた証拠だった。

(――後は無い……!)

 ここで東 美玖。仕掛ける。

「ライトッ!!」

「ッ――――!?」

 接近戦最中の強烈な光。

 眩しすぎて一瞬動きを止めてしまったダーク=ノワール。

 その隙に跳躍し距離をとった東は、暴言とライトの二段構えが成功したと内心ほくそ笑み、額の汗が一層滲み出る程目を瞑って叫ぶ。

「――光よ聖なる裁きを敵に下せ!!」

 視界が戻ったダーク=ノワールは自然と上を見た。

 光が舞い散る空の彼方に、魔法陣が出現していた。

 そして――

「――ホーリージャッジメント!!!!」

 下る聖なる光。

 色が消え。

 音も消え。

 暗黒を漆黒に染めるダーク=ノワールも光に飲まれ、消えた。


 床に水滴が落ちる。

 しだいに世界は色を取り戻し、歓声で音を憶えた。そして覚える。

 すべての魔法が消え去ったと。

「はあッはあッはあ――」

 今だせる全力を出した。手のひらを付いて息継ぎ。言う事を聞かない脚でもう立ち上がれない。

 なのに。

「フィナーレだ……」

 東に影を落とす彼は何故健在なのか。

「俺……♰我に奥の手を使わせたのは流石だと言っておこう♰」

「……ハハ。私、先輩に勝てるようになりますかね……」

「♰知らん。……精々、我の想像を上回る事だな♰」

 装飾された赤紫の筒が東の真上に鎮座していた。

 そして――

「♰マジック・シリンダー……♰」

 筒から光が溢れ出し、満足そうな東は光に飲まれ、バリアと共にこの場を後にした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...