俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
141 / 288
第十四章 氷結界

第141話 チュートリアル:スパイダー

しおりを挟む
「スラッシュ!!」

「カチカ――」

 戦闘班の攻撃がモンスターを一閃。水晶の様な体の通り、粉々に砕けて露と消えた。

「ぐあ!?」

 逃げたあげく追いつかれ、太ももを鋭利な節足で突き刺された調査班の一人。

『氷結の蜘蛛 アイススパイダー』

 振り向いた彼の目にはモンスターの名前が映し出される。

「――このッ」

「ッカ――」

 再び襲おうとしたモンスターが背後からの攻撃に粉砕。

「大丈夫か!」

「脚をやられたッ! 立てるが移動が困難――後ろだ!!」

「――おら!!」

 パリパリと砕けるモンスターの身体。

 ドロップアイテムは無く、溶ける様に消えていく。

「ほら、立てッヨシ」

「っぐ!」

 肩を組ませ、ゆっくりと歩いていく。

 野営地にテントを張ったヤマトサークル。そこには負傷者が座り、または横たわり、回復スキルで傷を癒していた。

 野営地の外では地面から湧き出るモンスターの駆逐が行われる中、調査を中断した調査班の面々が待機していた。

「三井さん、モンスターの出現ってどう思います?」

「知らないッスよ。安全圏である集落の外からの出現なら納得するっスけど、集落の中、地面から這い出てきたのは驚きッスね~」

 ダンジョンにも安全圏・安全地帯といった場所が存在する。

 『息吹く荒野 ウィンドウィルダネス』のオアシスがいい例だろう。

 国連やロシアの調査を踏まえつつも更に調査したの結果、この里の集落は安全だとなっていた。

 しかし安全なはずが、こうしてモンスターが這い出て襲ってくる事件。

 誰もが経験した事の無い安全圏からの奇襲。

「なんか変化があったんですかねぇ……」

「変化かぁ……」

 三井は一つだけ、杞憂かも知れないが、一つだけ心当たりがあった。

「ノブさんとファイブドラゴンが向かった東からの咆哮っスかねぇ」

 聞こえてきた反響した様な咆哮。それが聞こえてからモンスターが現れた。

「――おいみんな。一通り倒したらしいぞ。そろそろ再開だ」

「相変わらず仕事が早いことで……」

「三井さんも仕事早いじゃないですか」

「俺が早いんじゃないの。キミが遅いだけっス」

「それパワハラですよ?」

「その文句は逆パワハラッス」

 装備を確認しテントから出る三井たちは仕事に戻った。

 いつもの様に他愛無いやり取りをしつつ、家屋の家財や質の調査をしていた時だった。

「三井さん、ちょっと来てくれますか」

「ほーい」

 別の班の調査班が三井を訪ね、そう言われて後について行く。

 集落の外れにある林の奥。雪が積もった長い石階段、それを上った先に日本の寺の様な建造物が見えた。

 そこに土足で踏込み、渡り廊下を少し進んだ辺りに少しだけ開いた木製のドアがあった。

「ッシ」

 応援を要請した調査班が静かな行動で唇に指を当て仕草する。

(ッ!? 人だ……)

 中を覗くと、人らしき何かが正座の態勢で座り込んでいた。

「ここからだと自分のアナライズの練度じゃ分からないんです」

「見てみるッス」

 スキル・アナライズを使用。三井の瞳に対象の情報が映し出される。

 数秒後。

「――ふぅ」

 目を閉じ休ませる三井。

「入るっスよ。アレは既に亡くなってるッス」

 キィィと軋むドアを開け、ズカズカと入り込む三井。

 後に続く調査班たちと護衛の者。

 彼らを出迎えたのは木彫りの三体の龍。

 右には剛腕の龍が、左には胴長の龍。そして中央には、三つの頭を持つ龍が彫られ、この部屋が神殿の様だと思わせる。

「――触っちゃダメっスよ」

 警告を言ってから近づく三井。縮こまった後姿はどこか老人の様で、調査班は不気味だと冷や汗を流す。

 三井だけが座った者の前に回り込み、様子を観察する。

「……酷いな」

 自分と同じ人間の姿。高齢だと分かる老いによる頬の垂れ、皺。その顔は安らかに笑いつつ、とても満足そうな表情だった。

 胸部に穴を開けながら。

「――うぅ」

「……胸に」

 三井の一言に同じく回り込む調査班たち。

 惨い光景に嗚咽を我慢し、何故だと疑問を顔に出す。

「……この人、殺されてるッス」

 スキル・アナライズは、熟練度――レベルが高ければ高い程、対象の情報が明確になっていく。今回場合は、先に来た調査班では『人間』とメッセージ画面表示されるも、どういう状態なのかは明記されない。

 しかし三井のの場合は『人間:男:死亡してから七日間経つ――』といった風に続いていく。

「鋭い何か。剣か槍で一突きってところか」

「殺されてるって……。どっかにこの人を殺した者がいるのか。それとも殺人をした者は既に死んでいるのか……」

 憶測が憶測を呼ぶ中、三井は目を細めた。

「武器じゃない。この人は、文字通り何者かの手によって心臓を抉られているッス」

「「「な…なんだって――――!!!」」」

 驚きを隠せない調査班、護衛。

「このおじいちゃんは置いておいて、如何にも怪しい印を調べるッスよ」

 三体の龍。各々が牙を剥けるその中心部。青白く光る彫を指してそう言った三井。

「アナライズ――」

 ――――ギガッ

「ッ!?」

 後方へ後退んで目を抑える三井。どうしたんだと仲間が肩を支える。

「……この印はとても高度な物っス。見えないではなく否定される感覚……。サークル長を思い出すッスよ……」

 三井は他の追随を許さない程のアナライズレベルを所持し、それを買われてサークルに入った口であった。

(相変わらず学ばない自分が許せないッスね)

 他の調査班とは違うレベルだと自負していた三井だが、自分のレベルでも解析が出来ない物が現れる度に、驕りを再確認するのだった。

「……この部屋。特に龍の彫刻は入念に調べるッスよ~」

 ドタドタと歩き回り調査する調査班。軋む床や笑顔で死んだ老人を見る度に不気味さを味わう。

 一通り調べ終わり、この部屋を後にしようとしたその時だった。

「敵襲だああああああああああ――」

「!?」

 早足で部屋を出て外を確認する三井一行。

「キシャアアアアアアアア!!」

「うわあああああああ!!」

「クソ! クソ! ク――」

「オリャアアアアア!!」

 里の集落に現れたのは巨大な蜘蛛のモンスター。

『氷結の女郎蜘蛛 マミースパイダー』

 そのメッセージが視界に出る。

 大型犬程の大きさであったスパイダー。そのサイズをゆうに超える程のマザースパイダー。いったいどうやって出現したかは不明だが、現在進行形で攻略者が挑み蜘蛛の糸で縛られている。

「ヤバイだろ……!!」

 護衛役の戦闘班はヤマトサークル切手の戦力。魔法による爆破、剣技による攻撃。並の攻略者以上の威力、技を見せるも、マミースパイダーには傷一つついていない。

 むしろ溢れた蜘蛛の糸に縛られ捕縛される始末。

 ――この戦力では歯が立たない事は明白。

(どうするどうするどうするどうする――)

 この場に居れば少なからずまだ生き延びれる。現に攻略者と闘いながらもマミースパイダーは脚を使って蜘蛛の巣を作っている。

 しかし、逃げる選択肢は無い。

(みんなを置いて逃げるなんてできないッス! 助け出さないと!!)

 拳を握る三井。

(あの怪物相手に、俺は何ができる……!!)

 戦闘力に乏しい自分が行けば、みすみす捕縛されるのは目に見えている故の葛藤。

 こうしてる間にも被害は酷くなる一方。

「ッみんなは逃げてッス!」

「三井さんは!!」

「俺はテントに行って応援を呼ぶッス! 装置が壊れて無かったらッスけどね……」

 不安がるメンバー。危険へ飛び込む覚悟をした三井はそう言ってメンバーの肩を叩いた。

 その時だった。

「カリカリキョオオオオオオオ!! ――カリ」

 マミースパイダーの悲鳴が木霊する。

 なにが起きたんだと驚愕を浮かべる面々。

「――あ、あれは――!!」

 三井は見た。何者かの攻撃により、マミースパイダーが両断されるのを。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...