俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十六章 強く激しく

第171話 チュートリアル:三人

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 燦々と降り注ぐ太陽の光。否。疑似太陽の光。

 疑似なのは太陽だけではなく夜になると光る星々も同様、この世界の空はすべて作り物である。

 しかしながら、山から流れる川の水、虫が這う土、自生する植物、澄んだ空気。それらは作られたこの世界での本物である。

 純白の城を中心にした城下町。

「安いよ安いよー!」

「今朝獲れた新鮮なフィッシュだ! 軟体モンスターの脚もあるよー!」

「おいおい、朝から酒飲んでんのか?」

「ダンジョンから帰ってきたばかりだ。屋台で一杯ひっかけたのさ」

「焼き鳥はいかがですかー! おいしいよー!」

 朝から賑わう繁華街。野菜を売る八百屋、魚モンスターを捌いて売る魚屋、仕事終わりの一杯を楽しむ者やそれに付き合う者。女性も男性も、大人も子供も、皆等しく強く今を生きている。

 創られし世界――ホワイト・ディビジョン。

 虚無君主ヴァニティールーラーである白鎧が有する世界である。

 ――トン

「おっと失礼☆」

「こっちもよそ見してた。すまんな」

 中華風礼服を着こなすリャンリャン。人通りの多い道で思わず肩が当たり両者共に会釈すると、リャンリャンは人混みの流れに身を任せる。

 耳の長いエルフ、小人のホビット、小柄で髭もじゃなドワーフ、岩肌のロック、鱗の肌を持つリザードマン、獣人や鳥人、翼竜のワイバーンに至るまで、ここに生きる者は全員が心に傷を負っている。
 その事柄を記憶の端に思い出したリャンリャンは、少しだけ優しい気持ちになった。

 ――カランコロン♪

 リャンリャンが足を運んだのはいつかの大衆酒場。宿と並列しているここは朝なのにもかかわらず色んな種族で人がいっぱいだった。

「――よし。ここからダンジョンまで馬車で二日だ。そろそろ荷物を纏めるぞ」

「――だから右に進めば良かったんだって!」

「モンスターは居たが左に進んだからアイテムを手に入れたんだろ?」

「――おい酒だ! もっと酒を持ってこい!!」

「あいつ景気がいいな」

「ダンジョンで金貨を手に入れたんだとよ」

 エルフがチームをまとめ、反省会をする獣人の二人組。女性ホビットが酒を煽り、隣人の様子を伺うドワーフと鳥人。ここはこの世界のが集う酒場の一つ。

 明るい雰囲気の中を気配を消しながらカウンターに着いたリャンリャン。店員のふくよかな女性に声を掛ける。

「もし☆」

「あいよ、ってあんた! エルドラド様の連れじゃないかい!」

「你好☆ その節はどうモ☆ ミルクを一ツ☆」

「はいよ! あれ以来ぶりだね。今日は一人かい?」

「待ち合わせサ☆ もうすぐ来ると思うヨ☆」

 提供されたミルクを舌つづみ。騒がしくも活気あふれる酒場の雰囲気をしばらく一人で楽しんでいると、リャンリャンの隣に座る者がいた。

「――エールを一つ」

「はいよ!」

 青いマント、青い線が書かれた銀の鎧を着こむ男が酒を頼む。騒がしい酒場の中で一際異彩を放つ雰囲気を纏う男。顔を合わす事無く待ち人だと空気で感じ取ったリャンリャンはミルクを煽るのだった。

「……ちょっと遅くないかイ☆ ミルク飲み干しちゃったヨ☆」

 細い眼を男に向けて深めのコップを振るリャンリャン。何なんだと怪訝な顔をして男はリャンリャンを見た。

「はぁ……。おやじ、こいつにお代わりをくれてくれ。それとこいつのミルク代は俺が出す」

「はいよ!」

 ため息交じりで注文。

「ティアーウロングの家臣ヴァッサルだからまともな奴かと思ったが、まさか奢らされるとわな」

「私は何も言ってないヨ?☆ キミの――ブレイブくんの善意がそうしたんダ☆」

 リャンリャンの待ち人――藍嵐家臣タイフーンヴァッサルブレイブ。

 藍嵐君主タイフーンルーラーネクロスの唯一の家臣にして良き理解者である。

「で? ルーラー達の会議で一応は顔合わせしてるが、お前のことは黄龍仙と呼べばいいのか?」

「黄龍仙でもいいシ、リャンリャンでもいいヨ☆」

「じゃあリャンリャンだ。改めて、俺はブレイブだ」

「リャンリャンだヨ☆」

 握手を交わす二人。エールとミルクが配られる。

 手を離した二人は飲み物を口に含み飲み込んだ。

「プハー! やっぱ冷たいエールは体に染みるぜ~」

「こんな朝から飲むなんて良い事あったのかイ☆」

「朝だろうが昼だろうが夜だろうが酒はいつ飲んでも美味いんだよ。っと、こんな事言ってるとエルドラドの旦那になっちまうな」

「完全にエルドラドだったネ☆」

 仲の良い黄金の彼が笑顔でサムズアップしている風景を思い浮かべるリャンリャン。ブレイブの笑顔はエルドラドと同じだった。

「ふぅ。早速だが、忘れないうちにそっちの世界に派遣されてる宰相からの伝言を伝える。"今も調査中だが調べた結果、分からない事がわかった"……だとさ」

「……そウ」

 宰相からの伝言。それはこのホワイト・ディビジョンにて潜伏していた今は亡き同類の存在――雀王仙である紅の存在等々だった。

 何故彼女がここに居たのか、どうやってこの世界に入ったのか、当の本人ですら分からない事象。その調査を依頼した結果の報告をリャンリャンは伝えられた。

「……当然ながら、このホワイト・ディビジョンで起こった事はすべて白鎧が知る所だろウ。だってディビジョンの所有者だシ、こうして牛奶(ミルク)を飲んでる事も分かってるだろうシ」

「そうだろうな。この世界の全てを管理してる白鎧。知らない事を調べろって事がそもそも的外れ。管理してるか分からない草の根を探せと言ってるもんだ」

「私のわがままだったネ……」

 我儘。二人の会話だ通り、この世界は白鎧が管理している。故に何かしらのゲートが開けば白鎧が感ずくのは必須。

「異常がないって事は、滅ぶ世界を受け入れるどっかのタイミングでそいつの存在を否定せず受け入れていたって事だ」

「……」

 この世界は敗残者の拠り所。

 その数多の生命の一つとして、紅は受け入れられたと考えるしかないと行きつく。

「――ンク」

 しかし、ミルクを飲むリャンリャンの心は晴れない。まだ何か見落としていると勘ぐらずにはいられない。

「まぁとりあえずはまだ調査中だし、何かわかれば宰相が言ってくるだろ」

「そうだネ」

 同胞の犠牲に傷を負った仙人。

 同胞の運命に傷を負わせてしまった勇者。

 女難に苦しむのは必然なのだろうか。

 ――ッスト

 何とも重たい空気の中、リャンリャンの隣に座るもう一人が居た。

「すまない、果実のジュースを貰えるだろうか」

「はいよ!」

 リャンリャンの視線は右を向く。

 赤い鎧。長い先の兜を傍らに置いた彼は燃えるような赤い瞳だった。

「――これで揃ったかナ☆」

「またせたな」

 灼焔家臣フレイムヴァッサルシュバリエ。

 大衆酒場のカウンターに三人の家臣が揃った。
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