俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
170 / 288
第十六章 強く激しく

第170話 チュートリアル:ギシギシ

しおりを挟む
「いやぁ怪我と縁が遠かったとは言え、現代の医療ってのは進んでんだなぁ」

 学園都市にあるホスピタル。人工島きっての大きな病院。ガラス張りの自動ドアから気分よく出てきた男がいた。

「スー、ハー。元気になると空気も美味しく感じるな」

 ヤマトサークル所属。西田 信彦。昼間の太陽を浴びながら深呼吸し堂々の登場。

 このホスピタルは多くの攻略者が通い詰める病院。保険適用から適用外、ダンジョンで負傷した怪我を扱うまでのホスピタル。

 ヤマトサークルメンバーも通う病院だが、今回西田が受けた治療は鼓膜再生手術。

 激闘を繰り広げたダンジョン――『氷結界の里』にて氷結界の轟龍との戦闘で負傷した耳だが、不幸中の幸いにも鼓膜に穴が空いただけで治療は比較的成功率が高く、国連のバックアップもあり日帰りで無事に治療できたのだった。

「いやぁ小鳥のさえずりがよく聞こえますわ~~」

 耳ざわりの良い確かな鼓膜の震え。気分を良くした西田は、この日の夜大人の街へと姿を消したのだった。

 その出来事は数日前の話。

 そして現在。

 ――ブオッ!!

「ッ!?」

 超至近距離でギリギリで避けた萌のパンチ。風を切る怒涛のパンチは再生したばかりの西田の鼓膜を震わすのだった。

(パンチの音が普通じゃない……! また鼓膜破れるって!! ッこの!!)

 ジワリと背中に汗が滲み出た西田。避けながらも雷で形成した雷槍らいそうを萌に押しつける様にぶつける。

「ッ!?」

 雷撃をくらい痺れを感じた萌は押しつけられた勢いのまま後退。左手を胸に当て痺れの具合を確認。右手でオーラ剣を生成した。

「――やっぱし強いな! トーナメントで解説してる場合じゃなかったか!」

「おだてないで下さい西田メンバー。俺って褒められると調子乗るタイプなんで……!」

 バトルをしているのにお互いに笑顔。

「行くぞ花房くん!!」

「はい!!」

 ――ブッピガン!!

 両者嬉しそうに武器を構えて再びぶつかり合う。何度も何度もぶつかり合うのはこれで幾度目。決定打は互いに受けなていない拮抗状態。最初は読み合いの腹探りだったが、次第に力と力のぶつけ合い、比べ合いに発展。

 そして。

「あ~あ。こりゃ決着つかないッスね」

 ブー、とタイムアップのブザーが鳴り響き、引き分けとなった。見物していたヤマトサークルのメンバーはまばらだがパチパチと拍手を二人に送る。

「クッソーーーー勝てんかった!!」

「何悔しがってんだ萌ちゃん。あの西田メンバーと渡り合ったんだぞ?」

「いやそうだけどぉ……」

「俺なんて負けたし……。悔しいのは俺の方だって」

 心底残念がる萌。その親友に肩を叩く大吾。青春ッスねぇ、と三井は半目で感想を言った。

「お疲れさん」

「西田メンバー! 対戦ありがとうございました」

 西田 信彦。乱れた髪を掻き上げる仕草をしながら歩いて登場。

「現役攻略者の力を思い知らさすつもりだったが、引き分けとわな。流石はトーナメント準優勝者だわ」

「俺も勝つつもりで挑んだんですけど、西田メンバーの調子を崩せませんでした……。ホント勉強になりました!」

「勉強になりました!!」

「いや頭上げて頭上げて」

 学生二人に感謝されタジタジな西田。

「よし! 二人の力は分かったし、軽いトレーニングしてから食堂のメシでも食うか! もちろん俺の奢りだ!」

「「ありがとうございます!!」」

「ノブさん、俺もついでに奢ってくださいッス!」

「ミッチーは自分で買え」

「ええ~~」

 ハハハと笑う萌と大吾。この日はトレーニングと明日潜る初心者用のダンジョンの説明講習を受け二人は帰宅した。

 夜。

「おじゃましまーす」

「いらっしゃい瀬那ちゃン☆」

 萌の家に黒ギャルが来訪。師匠である細目の仙人が出迎えた。

「あれ、萌は?」

「大哥ならお風呂だヨ☆ ほら」

 脱いだ靴を正してリャンリャンに問うた瀬那。仙人が親指で風呂場を指す。

「――キューンキューン、キューンキューン♪ 私の彼はパイロット~~♪――」

「ネ☆」

「あは、あはは……」

 聞こえてきたのは風呂場で熱唱する萌。そのご機嫌な歌声に二人は思わず苦笑い。

 二人はリビングに行き瀬那はテーブルに。リャンリャンはお茶をの入った急須を持って瀬那にお茶を入れた。

「大哥たちは明日からダンジョン潜りをするらしいけど、瀬那ちゃんはどうなんだイ☆」

「私たちの班は今朝から潜りましたよ。女性だけで構成されたサークルで、ダンジョンに自生した役に立つ薬草とか危ない植物を教えて貰いました!」

「そう☆」

「授業で習った草とか実際に見ると想像したより小さかったり、味も思ったより苦くなかったです!」

「実際に口に入れる経験をさせるのは良いサークルだネ☆」

「――ふぅ」

 お茶を飲み込んで一息つく瀬那。

「風呂上がったぞー。お。瀬那来てたんだ」

「おじゃま~」

 部屋着に着替え肩にバスタオルをかけた萌が風呂から出てきた。

「じゃあ私は自室に戻るヨ☆」

 二人をリビングに残してリャンリャンは自室へと戻る。

 深まる深夜。

「……」

 ライトを付けずに自室のベッドの上で瞑想するリャンリャン。

 左の掌の上に右手の甲を重ね、両手の親指の先を付くか付かないかに合わせる印――法界定印。細目をさらに細くさせるが目を閉じない。身に宿る仙気を循環し、整える。

 アンドロイドであるリャンリャンは睡眠を必要としない故、夜が明けるまではこうして己の力を少しずつ上げて行くのが日常。

 遮音性の高い良い物件で周りの音がほぼゼロ。騒音の中でも可能だが、意識を自分の中に集中させるには十二分な環境だった。

 しかし、仙人には慣れた事だが、ここ最近、明確な騒音が隣から聞こえてくるのも事実。

 ――ギシギシギシギシ

「……」

 時折聞こえる愛弟子の嬌声。その声が聞こえる度にリャンリャンはりゃんの頃のトラウマを思い浮かべ気分がブルーになるのだった。

 そっと細い片目を開けて声の方を見る。

 ――ギシギシギシギシ

(……瀬那ちゃんの仙気が高ぶってル。もう時間の問題カ)

 淡い霞を壁ごしに見るリャンリャン。

「アイヤー」

 繋がる二人を見て、トラウマから逃げる様に自分の中へと集中するのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...