236 / 288
第十八章 VS傀儡君主
第236話 チュートリアル:同情の余地なし
しおりを挟む
「――はあ? なんだよソレ」
「……」
一歩踏みしめると、圧されて噴出す様に靴の底から水の泡が昇る。
「ソレってさぁ、あの魚類の力ぁ?」
「……」
一歩踏み出すと、俺の服を撫でる様に空間の水が出現。体のラインを沿って後ろへと流れる。
「それにさぁオバケかよソレ」
「……」
顔の無い水の人魚が微笑む。
「何とか言えよ人間ッ!!」
――ッド!!
背中の束ねた糸から衝撃波が発生し、目にも止まらぬ速さで俺に迫った。
振りかざす剣。
弧月を描く剣の先端はチリチリと空間を裂き、刀身を俺の首を定めた。
――ッガキン!!
「ぬうう!!」
空間が歪み刃が発生。先ほどと同じように攻撃が阻まれたカルールは苛立ちを隠せないで唸った。
右から、斜めから、上下からの刃一斉攻撃。水面に一滴がポタポタと落ちた様に空間が歪む。それを認識したカルールは一部の刃を斬りはらい、大きく跳躍して後退。
「これでも――」
背後の複数の束が駆動。先端を俺に向け砲身を見せた。
「――喰らえ!!」
――ッド!! ッドド!!
一瞬チャージされた砲身。光が見えた途端幾つもの砲身から光の弾丸が。
異常に発達した俺の動体視力によって目視すると、光の弾丸は乱回転する渦を巻いていて殺傷能力に長けた印象。当たればまず軽傷では済まない。
だけどそんな弾丸も――
「――俺たちには効かない」
弾丸は俺に当たる前にバチンとすべて破裂した。空間が歪み、刃が相殺したからだ。
破裂した弾丸の残滓が俺の頬を撫でる。
「――ッツ」
切られたような痛み。頬を撫でた残滓に少しだけ頬から血が流れた。
相殺した弾丸の残滓だったとしても、危険なエネルギーだという事だ。
そう思っていると、ゆるりと泳ぐ表情の無い彼女が指を近づけ、掬い取る様にそっと血を撫で傷口まで指を覆う。
俺の血が彼女の指から水に交わり、指が離されると切り傷が薄い皮膜で塞がれている。
「……な゛るほどね♪ キミが調子に乗れるのはその魚類のおかげって事か!」
手をポンと叩いてひらめいたと言わんばかりのカルール。声に隠しきれていない怒気を孕ませながらも笑顔を向けてくる。
「……」
「あれれー図星かなぁ? って事で遠慮なく!! それッ!!」
かざされた右手の五本指から、この空間と同じ蛍光色の糸がしなって伸びた。真っ直ぐ伸びてくる糸に対し空間が歪んで刃で迎えるも、刃に沿う様に糸が曲がり勢いは止まらない。
「ッ」
ギャリギャリと削られづづける糸が止まらず少しだけ驚いた。そうこうしているうちに五本の糸が人魚の水の体を貫通。
波紋を作る彼女の体。
すると糸の腹から別の糸が勢いよく隆起。水の体内から幾つもの尖った糸が激しく貫通した。
「――――」
波紋を作る水体。ニヤリとカルールは笑い人魚の消滅を確信した。
「――ん?」
ここでカルールののっぺりな表情が曇る。感じたんだろう。伸ばした糸から何かが伝ってくると。
そしてそれは起こった。
一向に消滅する気配が無い人魚。それどころか波紋が激しくなり、糸に艶を持たせた。その艶の正体は水。弾丸の様な速さで糸を伝って移動した水がカルールの指先に触れる。
――ッバッシャ!!
瞬間、大きく破裂。
「!?!?」
一滴触れただけで大爆発。爆破された指からは糸の様な血が流れて空間を汚す。そして驚愕を隠せないカルールに影が落とされた。
一滴から破裂した水が増量し、津波の様にカルールを飲み込んだ。
全身を覆われたカルール。
津波は彼を包む様にうねりを上げる。
水の中は幾つもの気泡が発生。小さな爆発が巻き起こっている。
「◆■◆◆■◆◆■◆!!!!!!」
水中から叫ばれた声が俺には聞こえた。きっと中の爆発に悲鳴をあげているのだろう。
そんな事を思いながらジト目で見ていた俺。
ふと、隣の彼女を見ると。
「――ッ! ――ッ!!」
目と鼻と口が無いのに、口元を手で押さえて笑っていた。
今は亡き彼女の最後に見せた面影が、少しだけ垣間見れた気がした。
瞬間――
――ッドバ!!
「!?」
カルールを包んでいた渦巻く水が飛沫を上げて大爆発。
びちゃびちゃと辺りを汚した。
当然中にはカルールが。
俺の意志で破裂させた訳じゃない……。つまりはカルールの奴がうねりを爆ぜさせた。
「はあ、はあ、っく!!」
膝を着き肩で息をし絶え絶え。ペプ〇マン見たいな全身タイツがダメージジーンズみたいに解け、カルールが着ている派手な服が見えていた。
そして俺を睨む破れたタイツから覗く眼。笑う愉快犯の様に涙袋を作っていたカルールの眼は、今では殺意を込めて俺たちを見ていた。
「ックク……。いやホント、ボクって今負けそうな感じ?」
「……勝つのは俺たちだ」
「まぁキミたちならそう言うよね……ふぅ♪」
ゆっくりと立ち上がった。
「この力なく歪んだ空間。強すぎるボクの欲を分別し、制御していたオライオンも倒され、戦闘形態のこのボクも、見ての通りボロボロだ……。客観的に自分で言ってたら、負ける要素しかなくて笑っちゃうよ……」
戦闘形態の全身タイツを解きながら、やれやれと首を振った。
「さぁてどうしようかなぁ……。心からお願いしたら見逃してくれたりする?」
「……」
「そう睨むなってー。キミの世界を襲ったし、キミやエルドラドも殺そうとした。あ、その魚類は殺しちゃったけどね♪ 許されるわけ無いってのも分かってる♪」
よくもまぁつらつらと……。
「キミの隣に居るその魚類……の残滓。こっちから攻撃しても無意味だし、空間歪ませて攻撃してくるし爆発させてくるしでチートすぎるだろ?」
「黙れ。それに魚類なんて名前じゃない」
「はいはいウルアーラだっけ? いい加減鬱陶しいんだよねぇそれ」
「……は?」
鬱陶しい?
「最初は心が壊れそうで操りやすかったから良かったものの、意識取り戻すわ力をキミに与えるわ……。それになんだい、死んだ後でも今度はそうやってボクの前に姿を現わした……。あ! これってさぁ、もうボクの事好きなんじゃない? ップ!」
「――」
俺は握り拳を作った。
「いやぁ燃えるよねぇ略奪愛……。棘がある攻撃的な女を堕とすのってマジで最高だよねぇ~。久しぶりにあそこが漲ってきたよぉ♪」
恍惚とした表情。グググと、奴のズボンが盛り上がる。
「ほんともったいないことしたなぁー。あの綺麗なカラダ……。汚したかったなぁーボクの直搾り精――」
「黙れ!!」
俺は我慢できなかった。
「例えお前に操られ様とも、ウルアーラさんはお前になんて屈しない!! 彼女には愛する……! 愛した人が居たんだ!!」
――キミに助けられたのは二度目だね。ボクは――
「愛する仲間が居たんだ!!」
――ウルアーラどこに行くつもりだ? トルトン様がまたまたお怒りになるぞ――
――また人間に会いに行くの~――
「好奇心旺盛で人に恋してさ、その人に会いたい一心で危険に飛び込める女性だ。確かに我儘娘な人魚で手を付けられない……。でもな、そんなウルアーラさんにも、彼女にも愛する者が居たんだ!! それだけじゃない!! お前が遊び半分で殺した人々もだ!! カルール!! お前と違ってな……!!」
俺は言い切った。お前が穢そうとしても心までは思い通りにはならない。お前と違って思ってくれる人が居るんだと。言った。
でもそれは、言い切った俺に、俺自身が心の中で否定した。
――カルールにも、愛した人がいたのでは、と。
そしてそれは。
「――ボクにも居たよ、愛した人」
優しい表情の彼の口から言われた。
「一人はそう、幼馴染だった。綺麗な水色の髪をしていてね、笑顔がチャーミングなんだ」
俺に聞かせるように、優しい口調だ。
「そんな彼女の事がボクは好きだった。でもね、残念なことにボクの恋は散っちゃったけどね……」
自分のことを鼻で笑う。
「そして二人目にして最後に愛した人……。夕暮れ色と同じ瞳の色ので、鈴の音の様な綺麗な声だった……」
「……」
「初めてのキス、重なる肌、雷のような鼓動……。今でも昨日のことのように思い出せる……。ボクたちは愛し合っていたんだ。本当だよ」
思い出す様に懐かしむカルール。その表情は笑っているけど、どこか悲しみが見て取れる。
失言だった。俺は怒りに任せてカルールの事を考えもしなかった。ウルアーラさんはウルアーラさんの過去があり、彼は彼の過去がある。それを考慮しない発言に、俺自身が反省すべき点だ。
「そしてさ」
だけども俺の失言は。
「みんなぶっ殺した♪」
取り消すことは無い。
「……少しでも同情したのは間違いだった。お前はクズだ。クソ野郎だ!!」
「だって仕方ないじゃん!! みんなボクの思い通りにならないんだからぁ♪」
優しかった表情が一変し、愉快犯を顔に出したカルール。モメンタム。
「お話は終わり……こっからは本気でイクよ……」
――お菓子の双子。
徐々に姿を現わした一振りの刃。
右手に握られたのは金と銀が螺旋を作る尖った剣だった。
「――」
それを見た瞬間、俺は理解した。あれはファントムルーラーが持つ次元を絶つ剣――ファントム・フォグ・ソードと同種だと。
――俺には対抗する術がない。
そう思っていると、彼女が俺の前に泳いできた。
――――大丈夫。
表情が窺えないのに、そう言われた気がした。
そして彼女はゆっくりと近づき、俺の額にそっと口付けをした。
俺を守る様に尾ひれから水が崩れ、包んでくれる。
やがて彼女は水となり、消えた。
(いや、消えてない……)
心から口にして唱えた。
「漣歌姫の嫋々たる刃――」
明度の高い剣をそのまま表した変哲の無い綺麗な剣。
ウルアーラさんが俺に託した、理を超越する剣を握りこんだ。
「……」
一歩踏みしめると、圧されて噴出す様に靴の底から水の泡が昇る。
「ソレってさぁ、あの魚類の力ぁ?」
「……」
一歩踏み出すと、俺の服を撫でる様に空間の水が出現。体のラインを沿って後ろへと流れる。
「それにさぁオバケかよソレ」
「……」
顔の無い水の人魚が微笑む。
「何とか言えよ人間ッ!!」
――ッド!!
背中の束ねた糸から衝撃波が発生し、目にも止まらぬ速さで俺に迫った。
振りかざす剣。
弧月を描く剣の先端はチリチリと空間を裂き、刀身を俺の首を定めた。
――ッガキン!!
「ぬうう!!」
空間が歪み刃が発生。先ほどと同じように攻撃が阻まれたカルールは苛立ちを隠せないで唸った。
右から、斜めから、上下からの刃一斉攻撃。水面に一滴がポタポタと落ちた様に空間が歪む。それを認識したカルールは一部の刃を斬りはらい、大きく跳躍して後退。
「これでも――」
背後の複数の束が駆動。先端を俺に向け砲身を見せた。
「――喰らえ!!」
――ッド!! ッドド!!
一瞬チャージされた砲身。光が見えた途端幾つもの砲身から光の弾丸が。
異常に発達した俺の動体視力によって目視すると、光の弾丸は乱回転する渦を巻いていて殺傷能力に長けた印象。当たればまず軽傷では済まない。
だけどそんな弾丸も――
「――俺たちには効かない」
弾丸は俺に当たる前にバチンとすべて破裂した。空間が歪み、刃が相殺したからだ。
破裂した弾丸の残滓が俺の頬を撫でる。
「――ッツ」
切られたような痛み。頬を撫でた残滓に少しだけ頬から血が流れた。
相殺した弾丸の残滓だったとしても、危険なエネルギーだという事だ。
そう思っていると、ゆるりと泳ぐ表情の無い彼女が指を近づけ、掬い取る様にそっと血を撫で傷口まで指を覆う。
俺の血が彼女の指から水に交わり、指が離されると切り傷が薄い皮膜で塞がれている。
「……な゛るほどね♪ キミが調子に乗れるのはその魚類のおかげって事か!」
手をポンと叩いてひらめいたと言わんばかりのカルール。声に隠しきれていない怒気を孕ませながらも笑顔を向けてくる。
「……」
「あれれー図星かなぁ? って事で遠慮なく!! それッ!!」
かざされた右手の五本指から、この空間と同じ蛍光色の糸がしなって伸びた。真っ直ぐ伸びてくる糸に対し空間が歪んで刃で迎えるも、刃に沿う様に糸が曲がり勢いは止まらない。
「ッ」
ギャリギャリと削られづづける糸が止まらず少しだけ驚いた。そうこうしているうちに五本の糸が人魚の水の体を貫通。
波紋を作る彼女の体。
すると糸の腹から別の糸が勢いよく隆起。水の体内から幾つもの尖った糸が激しく貫通した。
「――――」
波紋を作る水体。ニヤリとカルールは笑い人魚の消滅を確信した。
「――ん?」
ここでカルールののっぺりな表情が曇る。感じたんだろう。伸ばした糸から何かが伝ってくると。
そしてそれは起こった。
一向に消滅する気配が無い人魚。それどころか波紋が激しくなり、糸に艶を持たせた。その艶の正体は水。弾丸の様な速さで糸を伝って移動した水がカルールの指先に触れる。
――ッバッシャ!!
瞬間、大きく破裂。
「!?!?」
一滴触れただけで大爆発。爆破された指からは糸の様な血が流れて空間を汚す。そして驚愕を隠せないカルールに影が落とされた。
一滴から破裂した水が増量し、津波の様にカルールを飲み込んだ。
全身を覆われたカルール。
津波は彼を包む様にうねりを上げる。
水の中は幾つもの気泡が発生。小さな爆発が巻き起こっている。
「◆■◆◆■◆◆■◆!!!!!!」
水中から叫ばれた声が俺には聞こえた。きっと中の爆発に悲鳴をあげているのだろう。
そんな事を思いながらジト目で見ていた俺。
ふと、隣の彼女を見ると。
「――ッ! ――ッ!!」
目と鼻と口が無いのに、口元を手で押さえて笑っていた。
今は亡き彼女の最後に見せた面影が、少しだけ垣間見れた気がした。
瞬間――
――ッドバ!!
「!?」
カルールを包んでいた渦巻く水が飛沫を上げて大爆発。
びちゃびちゃと辺りを汚した。
当然中にはカルールが。
俺の意志で破裂させた訳じゃない……。つまりはカルールの奴がうねりを爆ぜさせた。
「はあ、はあ、っく!!」
膝を着き肩で息をし絶え絶え。ペプ〇マン見たいな全身タイツがダメージジーンズみたいに解け、カルールが着ている派手な服が見えていた。
そして俺を睨む破れたタイツから覗く眼。笑う愉快犯の様に涙袋を作っていたカルールの眼は、今では殺意を込めて俺たちを見ていた。
「ックク……。いやホント、ボクって今負けそうな感じ?」
「……勝つのは俺たちだ」
「まぁキミたちならそう言うよね……ふぅ♪」
ゆっくりと立ち上がった。
「この力なく歪んだ空間。強すぎるボクの欲を分別し、制御していたオライオンも倒され、戦闘形態のこのボクも、見ての通りボロボロだ……。客観的に自分で言ってたら、負ける要素しかなくて笑っちゃうよ……」
戦闘形態の全身タイツを解きながら、やれやれと首を振った。
「さぁてどうしようかなぁ……。心からお願いしたら見逃してくれたりする?」
「……」
「そう睨むなってー。キミの世界を襲ったし、キミやエルドラドも殺そうとした。あ、その魚類は殺しちゃったけどね♪ 許されるわけ無いってのも分かってる♪」
よくもまぁつらつらと……。
「キミの隣に居るその魚類……の残滓。こっちから攻撃しても無意味だし、空間歪ませて攻撃してくるし爆発させてくるしでチートすぎるだろ?」
「黙れ。それに魚類なんて名前じゃない」
「はいはいウルアーラだっけ? いい加減鬱陶しいんだよねぇそれ」
「……は?」
鬱陶しい?
「最初は心が壊れそうで操りやすかったから良かったものの、意識取り戻すわ力をキミに与えるわ……。それになんだい、死んだ後でも今度はそうやってボクの前に姿を現わした……。あ! これってさぁ、もうボクの事好きなんじゃない? ップ!」
「――」
俺は握り拳を作った。
「いやぁ燃えるよねぇ略奪愛……。棘がある攻撃的な女を堕とすのってマジで最高だよねぇ~。久しぶりにあそこが漲ってきたよぉ♪」
恍惚とした表情。グググと、奴のズボンが盛り上がる。
「ほんともったいないことしたなぁー。あの綺麗なカラダ……。汚したかったなぁーボクの直搾り精――」
「黙れ!!」
俺は我慢できなかった。
「例えお前に操られ様とも、ウルアーラさんはお前になんて屈しない!! 彼女には愛する……! 愛した人が居たんだ!!」
――キミに助けられたのは二度目だね。ボクは――
「愛する仲間が居たんだ!!」
――ウルアーラどこに行くつもりだ? トルトン様がまたまたお怒りになるぞ――
――また人間に会いに行くの~――
「好奇心旺盛で人に恋してさ、その人に会いたい一心で危険に飛び込める女性だ。確かに我儘娘な人魚で手を付けられない……。でもな、そんなウルアーラさんにも、彼女にも愛する者が居たんだ!! それだけじゃない!! お前が遊び半分で殺した人々もだ!! カルール!! お前と違ってな……!!」
俺は言い切った。お前が穢そうとしても心までは思い通りにはならない。お前と違って思ってくれる人が居るんだと。言った。
でもそれは、言い切った俺に、俺自身が心の中で否定した。
――カルールにも、愛した人がいたのでは、と。
そしてそれは。
「――ボクにも居たよ、愛した人」
優しい表情の彼の口から言われた。
「一人はそう、幼馴染だった。綺麗な水色の髪をしていてね、笑顔がチャーミングなんだ」
俺に聞かせるように、優しい口調だ。
「そんな彼女の事がボクは好きだった。でもね、残念なことにボクの恋は散っちゃったけどね……」
自分のことを鼻で笑う。
「そして二人目にして最後に愛した人……。夕暮れ色と同じ瞳の色ので、鈴の音の様な綺麗な声だった……」
「……」
「初めてのキス、重なる肌、雷のような鼓動……。今でも昨日のことのように思い出せる……。ボクたちは愛し合っていたんだ。本当だよ」
思い出す様に懐かしむカルール。その表情は笑っているけど、どこか悲しみが見て取れる。
失言だった。俺は怒りに任せてカルールの事を考えもしなかった。ウルアーラさんはウルアーラさんの過去があり、彼は彼の過去がある。それを考慮しない発言に、俺自身が反省すべき点だ。
「そしてさ」
だけども俺の失言は。
「みんなぶっ殺した♪」
取り消すことは無い。
「……少しでも同情したのは間違いだった。お前はクズだ。クソ野郎だ!!」
「だって仕方ないじゃん!! みんなボクの思い通りにならないんだからぁ♪」
優しかった表情が一変し、愉快犯を顔に出したカルール。モメンタム。
「お話は終わり……こっからは本気でイクよ……」
――お菓子の双子。
徐々に姿を現わした一振りの刃。
右手に握られたのは金と銀が螺旋を作る尖った剣だった。
「――」
それを見た瞬間、俺は理解した。あれはファントムルーラーが持つ次元を絶つ剣――ファントム・フォグ・ソードと同種だと。
――俺には対抗する術がない。
そう思っていると、彼女が俺の前に泳いできた。
――――大丈夫。
表情が窺えないのに、そう言われた気がした。
そして彼女はゆっくりと近づき、俺の額にそっと口付けをした。
俺を守る様に尾ひれから水が崩れ、包んでくれる。
やがて彼女は水となり、消えた。
(いや、消えてない……)
心から口にして唱えた。
「漣歌姫の嫋々たる刃――」
明度の高い剣をそのまま表した変哲の無い綺麗な剣。
ウルアーラさんが俺に託した、理を超越する剣を握りこんだ。
74
あなたにおすすめの小説
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる