オメガ学級委員長はド変態

明帆

文字の大きさ
54 / 54
第3章

第53話 名津と悠

しおりを挟む
 慕わしい唇が頬に触れて、はっとした。
「な、つ……?」
「あれ、起こしちゃった?ごめん、静かにしたつもりだったのに」
 懐かしいほのかな甘い匂いが全身を包み、眼前には名津が大学生の頃に買ってくれたダブルサイズのベッドがあった。

「…って、いうのは嘘。そろそろ起きないかなー、起きて欲しいなーって思ってキスしちゃった」
 ほころぶ名津の左手には、俺専用のマグカップが握られていた。その中には、俺の好きな温かいココアが入れられている。
 なつに促されるまま、マグカップを口元へ運んだ。
「……あったかい…」
「ふふ」
 そう言うと、名津は俺の額に口付けをした。春の温かな日に、日向ぼっこをしているかのような温もりを感じる。座っているベッドは眩しいくらいに白く、俺を優しく包み込んでいる。

「ねえ、俺にもちょっとちょうだい?」
 真っ白で温かいマグカップを、名津の方へ差し出す。
「口移しで欲しい……ダメ?」
 名津の眸子はいつも美しく、物乞いをする子犬のようだ。俺はこの視線から逃れられたことがない。
「えっ、口移し……?」
「うん、お願い!」

 気恥ずかしいので、断りたい。だが、逸らした視界の中に、また可愛らしい子犬が入ってきた。
 ため息を吐き、覚悟してココアを口に含む。そのまま喉を下降しないように、舌でココアを押さえながら、顔を名津の方へゆっくりと動かす。

 名津の口元を見続けていると、吸い込まれそうになる。程よく血色が良く、その縦皺は色気を醸し出す。

「んっ……」

 名津の唇に、ココアで湿った俺の唇を添え、舌で堰き止めていたココアを注ぎ込む。

 名津の口角を伝うココアが、首、鎖骨を濡らしていく。濡れた喉元がゴクっと鳴き、おかわりをせがむように口腔を舌が這い回る。甘ったるいココアで覆われた口腔を、丁寧に舐めとるように名津の舌が這い回る。

「んっ…な、つっ…」
 
 骨ばって大きい名津の手が、俺の身体に熱をもたらす。心臓を愛撫するように、中心の突起を何度もくすぐる。熟れた蕾から全身に熱が行き渡り、俺の頬が紅を潮した。

 もっと触れて欲しくて、自身の手が名津へ伸ばされたそのとき、玄関ドアのチャイムが部屋中に鳴り響いた。

 磁石のようにくっついていた唇が剥がされ、名津は吸い寄せられるように玄関へ向かった。

「え……な、名津!待ってくれ!」
 声を張り上げて叫んでみたが、名津は全く振り返ろうとしない。
「名津!行かないで!お願い!」
 俺は名津を追いかけようとしたが、何故か足に力が入らずこの場から離れられない。懸命に右手を伸ばしたが、名津はどんどん離れて行く。

「名津……、名津っ!」
 何故こんなに懸命に名津を呼んでいるのか、自分でも分からない。荷物を受け取ったら、こちらに戻ってくるだろうに。

 ……いや、名津は二度と戻ってこないのだった。俺は名津と、別れたんだった。俺は日本に居て、名津はアメリカにいる。もう二度と会えないから、こんなにも必死に名津を呼んでいるんじゃないのか。


ーー

 はっと目を開けると、心配そうに覗く人影が視界に入り心臓が跳ねた。
「うわっ!……あっ…しょ、所長……?」
「大丈夫……?うなされていたようだけど……」
 そうだ。今日は入社式で、途中で離席し休憩室で休んでいたのだった。目の前には、その休憩室に連れてきてくれた名津の兄、悠所長の心配そうな顔があった。

「もっ…申し訳ありません。ゆっくり休ませていただきました。もう大丈夫です」
 起き上がると頬に冷たさを感じ、触れるとかすかに濡れていた。所長に気づかれないように、慌てて拭い取った。

「……家まで送るよ」
「えっ……。いや本当に大丈夫です」
「大丈夫には見えないよ。ほら、行こう」
 所長は、サイドテーブルにまとめて置いてあった資料や俺のバッグをさっと持ち、そのまま部屋から出て行った。
しおりを挟む
感想 31

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(31件)

あや
2023.10.30 あや
ネタバレ含む
2023.11.01 明帆

あやさん、いつもコメントありがとうございます✨すみません、こちらこそ更新滞っています…。必ず再開しますので、たまに覗きにきていただけるとうれしいです☺️

解除
あや
2023.09.13 あや
ネタバレ含む
2023.09.13 明帆

あやさん、いつもありがとうございます😊免許取得、早すぎましたね笑 引き続きよろしくお願いします✨

解除
あや
2023.09.11 あや
ネタバレ含む
2023.09.11 明帆

あやさん、いつもありがとうございます😊佐野が表紙の雑誌、欲しいなと思ってしまいました…✨引き続きよろしくお願いします🙇‍♀️

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。