オメガ学級委員長はド変態

明帆

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第1章

第18話 始まりの予感

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 目を開けると、天井がすぐ目に入った。辺りを見回すと、どうやら俺は保健室にいるようだと分かった。俺はベッドに横になっている。

「うっ、うわっ」
 身体が非常に重く、起き上がれない。頭上の時計を見ると、すでに夕方5時を過ぎていた。

「まずい!」
 予想以上に時間が過ぎていたので、驚きとともに飛び起きた。今日の午後は体育祭の予行練習だったはずだ。学級委員長の俺がいなくて、皆は困ったんじゃないのか。

 ただ今急いで校庭に向かったところで、もう終わっているだろう。というか、俺はどうやって保健室に来たんだ?佐野が運んでくれたのか…?

 ベッドに腰を下ろしていると、扉が開く音がして振り返った。
「佐野!?」
「え…いや、違うけど。目、覚めたんだ?」
 佐野かと思って振り返ったが、予想外の人物が立っていた。

井沢いざわくん……?どうしてここに…?」
 同じクラスの井沢春久はるくが、保健室の入り口に居る。佐野と同じ陽キャの部類だが、バスケ部ではないので佐野と一緒に居るところをあまり見たことがない。

「体育祭の予行練習、委員長の代わりにいろいろとやっておいたんだけど。俺、副委員長だし、一応」
「そうだったのか。悪い、迷惑かけた」
 副委員長の存在をすっかり忘れていたが、俺の代わりにクラスをまとめてくれていたとは、ありがたい。

「いや、今までサボらせてもらってたし。副委員長って、マジやることないし。たまには良いけど」
「あ、ああ。ありがとう」
 井沢は、茶色く染めた髪を触りながら、気だるく「別に」と言った。

 井沢は帰宅部だが、特に勉学に励むわけでもなく、普段はいわゆる陽キャと呼ばれる人たちとつるんでいる。副委員長になったのも、「楽そうだから」といった理由だろう。ただ、佐野のように身長が高いので、女子に割と好かれていると聞いたことがある。

「……委員長って、オメガだったのか?」
「なっ!」
 そうだ。すっかり忘れていたが、俺は教室で発情したのだった。クラス中に、俺がオメガであることがバレてしまったのだろうか。恐れていたことが、とうとう起こってしまった。

「………実は、隠していたがそうなんだ。いきなり発情して悪かった。皆は戸惑っていたんじゃないか?」
「まあ、最初は皆戸惑ってた。オメガの人が周りにいないから、発情期を目の当たりにしたのも初めてだったし。

 でも、その後佐野が教室に戻ってきて、『委員長はただの体調不良』って言ったんだ。それで、そうかと納得した奴もいたけど、気づいた奴もいたと思う。特にアルファは気づいたかもな」

 そうか。発情後、佐野と卑猥な行為に打ち興じてしまっていたが、その後に佐野は教室に戻ってフォローしてくれていたのか。

「りょう!よかった、目覚めたんだね」
「さ、佐野…」
 噂をすれば影がさすで、佐野は勢い良く扉を開けて保健室に入ってきた。そしてそのまま、何のためらいもなく俺を抱きしめた。
「お、おい!人が居るから…」
 井沢をチラリと見ると、特に動揺することもなく佐野を見ている。

「ああ、春久か。お前何でここにいんの?」
 佐野は俺を抱きしめながら振り返り、井沢に冷たい視線を向けてた。
「居ちゃ悪いかよ」
「そうだな、悪いよ。お前がここに居る理由はない。出てけよ」

 なんだ、この今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな険悪なムードは。佐野がこんなに怒っているのを初めて見た。

「佐野、井沢くんは副委員長として体育祭の予行練習のことを報告しにきてくれて…」
「聞こえなかったのか?出ていけ」
 佐野は俺の話を全く聞かず、井沢から目を逸らさずに凄んでいる。

「はぁ…」
 井沢はため息を付いて、そのまま保健室から出て行った。喧嘩が始まらなくてほっとしたが、佐野の言い方や態度に疑問が残る。

「佐野、井沢と何かあったのか?」
「いや……何もないよ」
 佐野と目が合わない。過去に何かあったに違いないが、これ以上聞かない方が良さそうだ。
「そうだとしても、佐野のさっきの態度は良くない」
「…ごめん。あ、俺が聞くのも何だけど、体調大丈夫…?」
「そうだな、佐野が聞いてくるのはおかしい」
「うっ…言い返す言葉もないよ…本当にごめんなさい…」
 佐野が卑猥な行為を始めたせいで、俺の体調は確実に悪化した。だが、受け入れていた俺も大概だ。

 それに、しょんぼりしている佐野の姿はやはりかわいいと思ってしまう。だから全く怒る気になれない。俺が佐野に対して甘過ぎるのだろうか。とはいえ、俺は素直な人間ではないので、いつも佐野の前ではかわいげのない態度になってしまう。

「それに、今までどこ行ってたんだ?」
「え、もしかして寂しかった?りょうは本当にかわいいな。ごめんね、1人にして」
 佐野はそう言うと、俺の唇に口付けをしてきた。この口付け1回だけで、気持ち良くてとろけそうになるのは、俺の身体が佐野を求めているからだろう。

「今まで優心さんと電話してた。担任からも連絡があったみたいで、学校まで迎えに来るってさ」
「そうか…。ん?優心の連絡先、知っているのか?」
「うん。この間りょうの家にお邪魔した時、連絡先交換した。だって、りょうがスマホ持たないんだもん」
「スマートフォンは勉学の邪魔になるだけだ」
「えーそんなことないと思うけどなー」

 スマートフォンのことより、佐野が先ほどから俺のことを「りょう」と下の名前で呼んでいるのが気になる。俺は、佐野を下の名前で呼ぶなんて、羞恥心で無理だ。佐野は自然すぎる、これが陽キャの力か。

「優心さん来るまで、イチャイチャしよう」
 佐野は何のためらいもなく抱きついてきた。だが、いつ優心が来るか分からない中での淫猥な行為は控えたい。話題を変えて、佐野から離れよう。

「その前に、確認したいことがある。教室で発情した後のことなんだが…」
 佐野から数cm距離を取った瞬間、佐野の腕に力が入り、強く抱きしめられた。

「りょうは何も心配しなくていいよ。俺が何とかする」
 そのまま佐野の唇が首に触れ、首筋を辿って上へ上へと、何度も口付けしてきた。
「あっ…」
 唇が触れた所から熱くなり、佐野の想いが少しずつ身体に埋め込まれていくようだ。佐野の唇が自身の唇に辿り着いたとき、全身が火照り力が抜けていく。

「はっぁあっ…んっ…」
 優心が来てしまう。でももう少し、もう少しだけ、このまま——

「おっと、やってるねー」
「はっ!さ、佐野!優心きたってっ…おい、しつこい!」
 優心が保健室に来ても、佐野の唇はなかなか離れない。
「いてっ、りょうに殴られちゃった」
「佐野がしつこすぎるせいだっ」
 くすくすと、優心が笑っている。

 クラスメイトに、俺がオメガであることを知られてしまったら、人生終わりだと思っていた。でも実際はそうではなく、予想以上に穏やかで、新しい生活が始まるような期待感も感じていた。
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