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第1章
第24話 【名津視点】抑えられない怒り
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「名津!」
体育館にユイが来た時点で、嫌な予感がした。すぐにバスケットボールを放り投げて、ユイが居る出入り口へ走る。
「どうしたの?」
「はぁ…はぁ…委員長を、見失ってしまって。さっきまで…追いかけてたんだけど…」
息を切らしているユイなんて、いつぶりに見ただろう。相当焦ってる。何があったか気になるけど、ゆっくり聞いている場合じゃなさそうだ。
「分かった、後は俺が探しに行く」
背後の方が騒がしい。男子に人気があるユイが体育館に来たことで、ちょっとした騒ぎになっている。
「委員長、かなり動揺してたから心配で。ごめんなさい、私のせい」
「大丈夫、知らせてくれてありがとう」
俺は急いで下駄箱を確認しに行った。
「靴は……まだある」
りょうのローファーがまだ下駄箱にある。学校のどこかにいるとは思うけど、ここは中高一貫校だ。広すぎる。
「んー…あれしかないかな」
俺は一直線に放送室に向かった。まずは放送でりょうを呼び出してみる。学級委員長の仕事があるとか、適当に言ってみるつもりだ。
放送室に着いた。が、ドアに鍵がかかっている。当然と言えば当然だけど、この状況ではかなりイラついた。
「くそっ」
職員室に鍵を取りに行くしかない。急いで職員室に向かってるけど、なんて言って鍵を借りる?
職員室に着くと、まだ何人かの教師は残っていた。
「あれ?1年の佐野か。どうした?」
高等部の教師の1人が、俺に気づいて話しかけてきた。ふと、担任がいないことが気になった。いつも帰宅時間は遅い方なのに、今日に限って早く帰ったのか。
「あの、担任の川中先生は……?」
「ああ、まだ荷物があるから教室にでもいるんじゃないか?」
「そう、ですか……」
残っている教師に言ったところで、放送室の鍵は渡してもらえないだろう。とりあえず教室に戻ってみよう。りょうのことで何か手がかりがあるかもしれないし。
俺は教室まで全力で疾走した。職員室と同じ階にある保健室前を通ったとき、違和感があった。
「ん……?」
微かだけど、りょうの甘いにおいを感じる。
「……りょう?」
保健室のドアに手をかけると、鍵がかかっていた。養護教諭が鍵をかけて帰ったのだろうか。でも、中に絶対りょうがいる。
「りょう!?いるの!?」
ドアを叩いて大声を張り上げても、保健室の中からは何も反応がない。
俺は迷いなくドアを蹴って壊し、中へ入った。
「……えっ……何してんだよ、先生」
目の前には、ありえない光景が広がっていた。
ベッドの上で手を縛り付けられ、テープで口を塞がれたりょうに、担任が伸し掛かっていた。
「さ、佐野!……これは…あの……」
その姿が目に入るのと同時に頭に血が上り、担任の服をつかんで持ち上げ、床に叩きつけた。
「っがはっ!な、何するんだっ…」
身体を床に強く打ち付けた痛みで、担任は身体を丸めて悶えている。その丸まった腹を思いっきり足蹴にした。
「っぐはっ!……佐野、も、もうやめてくれ…」
手を上げて俺をなだめようとする担任の下腹部が目に入った。まだいきり立っている。さらに怒りが込み上げ、その高まりも蹴り上げた。
「っう!………」
担任はダンゴムシのようにさらに丸まり、悶絶している。それでも俺の怒りは収まらない。左拳を振り上げたとき、りょうのうめき声が耳に入った。
「んーっ!」
りょうの表情を見ると、眉根を寄せて俺を睨みつけている。急いでりょうに駆け寄って、口を塞ぐテープを剥がした。
「っはぁ、はぁ…佐野、やりすぎだ」
「え、でも……」
りょうを見ると、ワイシャツが脱がされているだけで、下腹部は何もされていない様子だ。胸を撫で下ろし、りょうの手を縛っているロープも解く。
「でも、じゃない。ドアも破壊しているし、川中先生は気絶している。いくらなんでもやりすぎだ」
りょうの手首には、ロープの赤い痕が残っている。痛かったのだろうか、りょうは手首をさすった。
「ごめんなさい……」
「…………悪い、そういうことが言いたいんじゃないんだ。ありがとう」
そう言うと、りょうは俺の唇に口付けをして、抱きしめた。俺も抱きしめ返す。
りょうの口付けは優しく、甘く、かわいい。もう口付けを終えようとするりょうを強く抱きしめ、さらに深く唇を重ねる。
その後は、俺の方から優心さんに事情を話して、車で迎えに来てもらった。気絶していた担任は保健室に放置しておいた。
警察に連絡した方が良いのだろうが、りょうの気持ちもあることだから、後は優心さんに任せることにした。俺にできることはあまりにも少なくて、歯がゆさを感じた。
りょうを送った後、部室のロッカーに戻るとユイが待っていた。
「委員長は!?見つかった?」
「あ、ごめん。早く連絡すればよかった。うん、見つかった」
事の顛末を話すと、ユイは絶句していた。
「あの川中先生が、そんなことを……」
確かに、担任があんなことをするなんて、俺も今まで想像もしたことがなかった。
「こんなことしたら人生を棒に振ることくらい、川中先生は分かってるはずだわ」
「でも実際襲ってるんだから、そういう奴だったんだろ?」
「オメガのフェロモンが関係してるんじゃないかしら」
「…それって、どういう意味?」
「前に、そういう報告の論文を読んだことがあるの。私たちはあまりにもオメガに耐性がないから、一度オメガのフェロモンに接触してしまうと、正常な判断ができなくなるって」
ユイは、将来医者になりたいと昔から言っている。だからこういった知識は誰よりも豊富だ。だけど、それって…「りょうが悪いってこと…?」
「いえ、オメガを排除している私たちのせい」
「…んーよく分かんないけど、とにかく人前で発情するとやばいって事だよね。でも、俺はりょうのフェロモンに接触してるけど、大丈夫だよ」
「名津はいろいろとネジがぶっ飛んでるから」
「ええ…言い方…」
ユイが言ってることが正しいとすると、今後も気を抜けないということか。そして俺はオメガの知識が無さすぎることを痛感した。ユイを見習って勉強しないと、りょうを守れない。
「川中先生のことは、どうするの?委員長、警察に言わないんじゃないかしら。そうなると、今まで通りってことになるわよね。なんだか釈然としないわ」
ユイの言う通りだ。ユイ以上に俺の方が、担任を嫌悪する気持ちが強い。
「それは何とかしようと思ってる。親の力を借りることになっちゃうから嫌なんだけど、担任には学校を辞めてもらうつもり」
幸い、俺の両親は学校に多額の寄付をしているので、事情を話せば俺の希望は通ると踏んでいる。
「名津って…バカなのか、そうじゃないのか、分からない人ね」
「ねえ、さっきから俺への当たり強くない?」
俺はもっと強くなって、そしてりょうを理解しないといけない。りょうが俺と付き合ったことを後悔しないために。
体育館にユイが来た時点で、嫌な予感がした。すぐにバスケットボールを放り投げて、ユイが居る出入り口へ走る。
「どうしたの?」
「はぁ…はぁ…委員長を、見失ってしまって。さっきまで…追いかけてたんだけど…」
息を切らしているユイなんて、いつぶりに見ただろう。相当焦ってる。何があったか気になるけど、ゆっくり聞いている場合じゃなさそうだ。
「分かった、後は俺が探しに行く」
背後の方が騒がしい。男子に人気があるユイが体育館に来たことで、ちょっとした騒ぎになっている。
「委員長、かなり動揺してたから心配で。ごめんなさい、私のせい」
「大丈夫、知らせてくれてありがとう」
俺は急いで下駄箱を確認しに行った。
「靴は……まだある」
りょうのローファーがまだ下駄箱にある。学校のどこかにいるとは思うけど、ここは中高一貫校だ。広すぎる。
「んー…あれしかないかな」
俺は一直線に放送室に向かった。まずは放送でりょうを呼び出してみる。学級委員長の仕事があるとか、適当に言ってみるつもりだ。
放送室に着いた。が、ドアに鍵がかかっている。当然と言えば当然だけど、この状況ではかなりイラついた。
「くそっ」
職員室に鍵を取りに行くしかない。急いで職員室に向かってるけど、なんて言って鍵を借りる?
職員室に着くと、まだ何人かの教師は残っていた。
「あれ?1年の佐野か。どうした?」
高等部の教師の1人が、俺に気づいて話しかけてきた。ふと、担任がいないことが気になった。いつも帰宅時間は遅い方なのに、今日に限って早く帰ったのか。
「あの、担任の川中先生は……?」
「ああ、まだ荷物があるから教室にでもいるんじゃないか?」
「そう、ですか……」
残っている教師に言ったところで、放送室の鍵は渡してもらえないだろう。とりあえず教室に戻ってみよう。りょうのことで何か手がかりがあるかもしれないし。
俺は教室まで全力で疾走した。職員室と同じ階にある保健室前を通ったとき、違和感があった。
「ん……?」
微かだけど、りょうの甘いにおいを感じる。
「……りょう?」
保健室のドアに手をかけると、鍵がかかっていた。養護教諭が鍵をかけて帰ったのだろうか。でも、中に絶対りょうがいる。
「りょう!?いるの!?」
ドアを叩いて大声を張り上げても、保健室の中からは何も反応がない。
俺は迷いなくドアを蹴って壊し、中へ入った。
「……えっ……何してんだよ、先生」
目の前には、ありえない光景が広がっていた。
ベッドの上で手を縛り付けられ、テープで口を塞がれたりょうに、担任が伸し掛かっていた。
「さ、佐野!……これは…あの……」
その姿が目に入るのと同時に頭に血が上り、担任の服をつかんで持ち上げ、床に叩きつけた。
「っがはっ!な、何するんだっ…」
身体を床に強く打ち付けた痛みで、担任は身体を丸めて悶えている。その丸まった腹を思いっきり足蹴にした。
「っぐはっ!……佐野、も、もうやめてくれ…」
手を上げて俺をなだめようとする担任の下腹部が目に入った。まだいきり立っている。さらに怒りが込み上げ、その高まりも蹴り上げた。
「っう!………」
担任はダンゴムシのようにさらに丸まり、悶絶している。それでも俺の怒りは収まらない。左拳を振り上げたとき、りょうのうめき声が耳に入った。
「んーっ!」
りょうの表情を見ると、眉根を寄せて俺を睨みつけている。急いでりょうに駆け寄って、口を塞ぐテープを剥がした。
「っはぁ、はぁ…佐野、やりすぎだ」
「え、でも……」
りょうを見ると、ワイシャツが脱がされているだけで、下腹部は何もされていない様子だ。胸を撫で下ろし、りょうの手を縛っているロープも解く。
「でも、じゃない。ドアも破壊しているし、川中先生は気絶している。いくらなんでもやりすぎだ」
りょうの手首には、ロープの赤い痕が残っている。痛かったのだろうか、りょうは手首をさすった。
「ごめんなさい……」
「…………悪い、そういうことが言いたいんじゃないんだ。ありがとう」
そう言うと、りょうは俺の唇に口付けをして、抱きしめた。俺も抱きしめ返す。
りょうの口付けは優しく、甘く、かわいい。もう口付けを終えようとするりょうを強く抱きしめ、さらに深く唇を重ねる。
その後は、俺の方から優心さんに事情を話して、車で迎えに来てもらった。気絶していた担任は保健室に放置しておいた。
警察に連絡した方が良いのだろうが、りょうの気持ちもあることだから、後は優心さんに任せることにした。俺にできることはあまりにも少なくて、歯がゆさを感じた。
りょうを送った後、部室のロッカーに戻るとユイが待っていた。
「委員長は!?見つかった?」
「あ、ごめん。早く連絡すればよかった。うん、見つかった」
事の顛末を話すと、ユイは絶句していた。
「あの川中先生が、そんなことを……」
確かに、担任があんなことをするなんて、俺も今まで想像もしたことがなかった。
「こんなことしたら人生を棒に振ることくらい、川中先生は分かってるはずだわ」
「でも実際襲ってるんだから、そういう奴だったんだろ?」
「オメガのフェロモンが関係してるんじゃないかしら」
「…それって、どういう意味?」
「前に、そういう報告の論文を読んだことがあるの。私たちはあまりにもオメガに耐性がないから、一度オメガのフェロモンに接触してしまうと、正常な判断ができなくなるって」
ユイは、将来医者になりたいと昔から言っている。だからこういった知識は誰よりも豊富だ。だけど、それって…「りょうが悪いってこと…?」
「いえ、オメガを排除している私たちのせい」
「…んーよく分かんないけど、とにかく人前で発情するとやばいって事だよね。でも、俺はりょうのフェロモンに接触してるけど、大丈夫だよ」
「名津はいろいろとネジがぶっ飛んでるから」
「ええ…言い方…」
ユイが言ってることが正しいとすると、今後も気を抜けないということか。そして俺はオメガの知識が無さすぎることを痛感した。ユイを見習って勉強しないと、りょうを守れない。
「川中先生のことは、どうするの?委員長、警察に言わないんじゃないかしら。そうなると、今まで通りってことになるわよね。なんだか釈然としないわ」
ユイの言う通りだ。ユイ以上に俺の方が、担任を嫌悪する気持ちが強い。
「それは何とかしようと思ってる。親の力を借りることになっちゃうから嫌なんだけど、担任には学校を辞めてもらうつもり」
幸い、俺の両親は学校に多額の寄付をしているので、事情を話せば俺の希望は通ると踏んでいる。
「名津って…バカなのか、そうじゃないのか、分からない人ね」
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