84 / 147
もう15歳
11
しおりを挟む
一定の距離を保って睨み合い、ジリジリと移動するクラウドとオニキス。
私は仲裁するのがなんだか面倒になって、そのままにして部屋を出ることにしました。建物に人が入ってきた気配がしたのもあります。
ひとつため息をついてから、何も言わずに背を向けました。
「お待ちくださっいっ?!」
慌ててついて来ようとするクラウドの頭を、オニキスが飛び上がって踏みつけてから、するんと私の影へ溶け込みました。
クラウドは一瞬、むっとしたような表情をしましたが、すぐにいつものすました顔へ戻ります。
精霊に重みはありませんからね。勢いをつけて蹴られたわけでもありませんし、物理的ダメージは皆無でしょう。精神的にはちょっときたかもしれませんけれども。
「下へ降りましょうか」
「はい。カーラ様」
再びクラウドにエスコートされながら、1階まで階段を下りていきます。玄関ホールには殿下の護衛を除く、先程置き去りにした面々が揃っていました。
「黙って先に行くなんて酷いな。カーラ嬢」
殿下がぷくっと頬を膨らませます。15歳になっても通用する可愛さが眩しくて、思わず目を細めました。どんなに可愛い系を装おうとも、中身が悪魔であることに変わりはないのですが。
「お邪魔をしてはいけないかと思いまして」
口元へ手を当てて、貴族の令嬢っぽく上品に笑って見せます。すると殿下がため息をつきました。
「君は表情を隠すことが上手くなったね。でも私たちだけの時は、以前のように接して欲しいな」
こんなやり取り、以前もあった気がしますね。
とりあえず「私たち」に含まれると思われるアレクシス様、レオン、ルーカスへ順に視線を向けました。3人とも頷き、アレクシス様は微かに、レオンとルーカスは満面の笑みを浮かべましたので、了承したとみなします。
私は笑みを消して、真顔で殿下に話しかけました。
「別館をご覧になって、ご満足いただけましたでしょうか?」
「懐かしいね! その「帰れ」って威圧」
やっぱり、テトラディル侯爵邸での帰れオーラも気付いていたのですね。
にこにこと機嫌よさげに笑う殿下を見るに、威圧の効果がない事は一目瞭然です。私は諦めて、談話室の扉を開けました。
「お時間があるようでしたら、お茶でもいかがですか?」
「ありがとう。遠慮なくいただくよ」
言葉通りに遠慮なく部屋へ入っていく殿下に、やや眉尻が下がっている遠慮がちなアレクシス様が続き、私にほわーっと微笑んでから弟のルーカスが入っていきます。かわゆす。
続いて入室しようとするレオンの手を掴んで廊下の、談話室から見えない位置へ引き寄せました。
「近い! 顔が近いよ!」
いつも平気で抱き着いてくるくせに、慌てて離れようとする、レオン。その顔を両掌で挟み、無理やり目を合わせます。
「そんなことより、大丈夫だったのですか?」
「ふぇっ?!・・・え? あ、さっきの? もちろん。何も話してないよ。カムのことに至っては、話そうとしても話せないし」
あぁ。そういえば私に関する事を許可なく他者に話せないように、闇魔法で制約がかけてありましたね。
ほっとしてレオンの頬から手を離すと、逆にレオンが私の腰に手を回してきました。
「なんだか逢引きしているみたいだね」
艶っぽく笑んで色気を振りまき始めたレオンが私を抱き寄せようとしたので、先程より近くなっていた鼻をつまみます。それでも腕の力が抜けなかったため、捻りを加えました。
「痛いっ!」
「ちゃんと相手に許可を求めてからにしなさいと言ったでしょう?」
力が抜けた腕から抜け出すと、鼻をさすりながらレオンが言いました。
「じゃあ、カム。ぎゅってしてもいい?」
「手伝います。クラウド」
手を広げたレオンを無視して、その後ろで紅茶のセットを持ってこちらを見ていたクラウドに近づきます。しかしクラウドは首を横に振ると、少し下がって私へ道を譲りました。
先に談話室へ入って欲しいという意味でしょう。
「待って!」
私の後を追ってきたレオンが私の腕に手を回しかけ・・・王族が部屋の中にいることを思い出したようです。仕方なさそうに離れて、私の後ろへ続きました。
正面にある暖炉の前、2脚ある3人掛けのソファの一方に殿下がすでに腰かけていらっしゃいます。その手前にアレクシス様が、ローテーブルをはさんだ向かい側でルーカスが立ったまま、私を待っていました。
「お待たせいたしました。どうぞおかけください」
普段通りルーカスの隣に座ろうと近づきかけ、そうすると決まって私の反対側の隣へレオンが座ってくることを思い出します。殿下の前ではレオンとある程度の距離を置いた方がよさそうなので、先に着席を勧めました。
「どうぞ。レオンハルト様」
「うえっ?! あ、はい。ありがとうございます」
急に対外用の笑顔を向けた私に焦りつつ、こちらも対外用の返答をしたレオンは、案の定、ルーカスから1人分間を空けて3人掛けのソファへ腰かけます。私はその隙間を見なかったことにして、3脚ある1人掛けのソファの1脚に腰かけました。
「失礼します」
タイミングよく、クラウドが紅茶を置いていきます。お茶菓子も並べ終えて、いつも通り壁際へ下がろうとするクラウドを呼び止めました。
「ありがとう。クラウドもこちらへお掛けなさい」
「は・・・いえ。しかし・・・」
クラウドは困ったように視線を彷徨わせます。私は殿下に向かってにっこり微笑みました。
「よろしいですか? 殿下」
「・・・断れば、君が出て行くんだろう? その手には乗らないよ」
ちっ。バレましたか。
やれやれといった様に肩をすくめた殿下が、軽く頷いてクラウドの着席を認めます。それを受けて、クラウドが困惑した表情のまま私の隣、入り口に最も近いソファに座りました。
身分に捕らわれることを嫌った賢者ジウ・ヴァイスセットにより、「学園内では貴賤を問わず皆平等に学ぶこと」とされていますので、身分を笠に着た振る舞いは禁止されています。
クラウドの同席を断るようなら、私も部屋へ下がろうと思ったのですが察知されてしまったようですね。
そういえば、ここまで自分の屋敷のように振舞ってきましたが、よかったのでしょうか。居心地悪そうに座るクラウドに問いかけます。
「この別館に部屋を与えられたのは、私だけなのですか?」
「いいえ。ルーカス様と私はこちらの2階に部屋を与えられています」
おお。身内とはいえ、二人とも異性なのですけど、そこは問題ないのかな。・・・いや。私は同性愛者だという事になっているのですから、寧ろ当然なのか。私1人だけを住まわせるのでは、予算的な面でも勿体無い感じですし。
「ぼく・・・私も志願したのですが、流石に外聞が悪いと断られてしまいました」
レオンが髪を撫でつけながら言いました。
当たり前だ。
そんな要望を受け入れたとしたら、学園事務の人間はどうかしています。私の何とも言えない表情をどうとったのか、レオンがにっこり笑って胸を張りました。
「大丈夫! この別館に近い寮の東端の部屋を確保したから、何かあったらすぐ駆け付けられるよ! あの程度の距離なら普段通りの声量でも、カムの声なら聞き分けられる・・・ます」
怖いっ! なんて聴力をしているのですか?! しかも語尾だけ丁寧にしても遅いですよ!
殿下がジト目でこちらを見ています。せっかく距離を置いて接していたというのに、無駄になってしまったではないですか。
「・・・もしかしなくても、カーラ嬢に懐柔されているのだろう? レオ」
「いっ・・・あ。あー。申し訳ございません。話せません」
どうやら制約に触れるようで、否定さえできないようですね。
まあ、いいか。この学園内であれば、そう簡単にレオン以外の監視を付けることもできないでしょうし。白状するとしましょう。
「懐柔とは少し違います、殿下。レオンには私の意に反して、私に関することを口にすることができないよう、呪いがかけてあるのです」
あくまで二重スパイではなく、私に従わざるをえない状態であるという態を装ってみます。すると殿下が悪魔の笑みを浮かべました。
「王家の監視が君の支配下にあるって、黙っていてあげてもいいよ。そもそも君に監視を付けること自体が、私は無駄だと思っていたからね。しかしこうも懐いてもらうと、隠し辛いなぁ」
にやにやしながら腕を組み、ついでに長い脚も組んでソファにふんぞり返る、悪魔。こういう時の殿下は、すでに欲しいものが決まっていたりします。つまり交換条件という事ですね。
「・・・何をお望みですか?」
「私にも君を愛称で呼ばせてもらおうか。そうすればレオの懐きようも、私の影に隠れて緩和されるだろう?」
そんな簡単なことでいいのか。と思いましたが、嫌そうな顔をして勿体ぶって見せます。
「・・・わかりました。どうぞ、カムとお呼びください」
愛称で呼ぶことは構いませんが、そういくつもつけられたくはないので指定してみます。にやにやを満足そうな笑顔に変えて、殿下が言いました。
「では、カム。私のこともヘンリーと呼んでくれるかな?」
「そんな恐れ多いことはできかねます」
間を置かず、きっぱりはっきり断ります。眉根を寄せかけた殿下が組んでいた腕を解き、ひじ掛けに頬杖をついてから苦笑しました。
「・・・まあ、いいよ。今回はここまでにしておくさ」
悪魔め。また何か企んでいるようですね。内容が予測できない以上、悩んでも無駄なので考えることを放棄します。
そうだ。毒を食らわば皿まで。もう一人、隠れ蓑になっていただきましょう。
「アレクシス様」
アレクシス様がそれまで殿下に向けていた、標準で鋭い視線をこちらへ向けます。彼を怖がらせないよう、私はできる限り優し気ににっこり微笑みました。
「よろしければ、アレクシス様もカムとお呼びください」
「えっ?! は?! 私もよろしいのですか?!」
優美な眉を微かに跳ね上げて動揺しているような、アレクシス様。はくはくと浅い呼吸を繰り返しています。笑顔が嘘くさかったみたいですね。怯えているようです。大丈夫でしょうか。
「なぜ?! なんでアレクは無条件で許可するんだ?!」
殿下が腰を浮かせて抗議してきます。私は真顔へ戻して、殿下に言いました。
「だって、殿下だけでは逆に私が目立ちますでしょう? 妙な噂が立つのは御免です」
交換条件でもないのに、自ら悪魔に愛称を売る真似などしません。
茫然としたように少し口を開たままゆっくり腰かける殿下から、胸を押さえて深呼吸を繰り返すアレクシス様へ視線を移します。彼には逃げ道を与えた方がよさそうですね。
「アレクシス様、無理にとは言いませんよ」
「い、いいえ! そんな!! わ、わかりました。・・・・・・カム。私の事はアレクとお呼びください」
私の愛称を呼びながら、目を逸らされました。嫌々、自分の愛称も差し出さなくてもいいのに。
「いいえ、アレクシス様。身分は弁えますわ」
再び優しく見えるつもりでアレクシス様へ微笑んで見せましたが、やはり嘘くさかったようで、また視線を逸らされてしまいました。
私は仲裁するのがなんだか面倒になって、そのままにして部屋を出ることにしました。建物に人が入ってきた気配がしたのもあります。
ひとつため息をついてから、何も言わずに背を向けました。
「お待ちくださっいっ?!」
慌ててついて来ようとするクラウドの頭を、オニキスが飛び上がって踏みつけてから、するんと私の影へ溶け込みました。
クラウドは一瞬、むっとしたような表情をしましたが、すぐにいつものすました顔へ戻ります。
精霊に重みはありませんからね。勢いをつけて蹴られたわけでもありませんし、物理的ダメージは皆無でしょう。精神的にはちょっときたかもしれませんけれども。
「下へ降りましょうか」
「はい。カーラ様」
再びクラウドにエスコートされながら、1階まで階段を下りていきます。玄関ホールには殿下の護衛を除く、先程置き去りにした面々が揃っていました。
「黙って先に行くなんて酷いな。カーラ嬢」
殿下がぷくっと頬を膨らませます。15歳になっても通用する可愛さが眩しくて、思わず目を細めました。どんなに可愛い系を装おうとも、中身が悪魔であることに変わりはないのですが。
「お邪魔をしてはいけないかと思いまして」
口元へ手を当てて、貴族の令嬢っぽく上品に笑って見せます。すると殿下がため息をつきました。
「君は表情を隠すことが上手くなったね。でも私たちだけの時は、以前のように接して欲しいな」
こんなやり取り、以前もあった気がしますね。
とりあえず「私たち」に含まれると思われるアレクシス様、レオン、ルーカスへ順に視線を向けました。3人とも頷き、アレクシス様は微かに、レオンとルーカスは満面の笑みを浮かべましたので、了承したとみなします。
私は笑みを消して、真顔で殿下に話しかけました。
「別館をご覧になって、ご満足いただけましたでしょうか?」
「懐かしいね! その「帰れ」って威圧」
やっぱり、テトラディル侯爵邸での帰れオーラも気付いていたのですね。
にこにこと機嫌よさげに笑う殿下を見るに、威圧の効果がない事は一目瞭然です。私は諦めて、談話室の扉を開けました。
「お時間があるようでしたら、お茶でもいかがですか?」
「ありがとう。遠慮なくいただくよ」
言葉通りに遠慮なく部屋へ入っていく殿下に、やや眉尻が下がっている遠慮がちなアレクシス様が続き、私にほわーっと微笑んでから弟のルーカスが入っていきます。かわゆす。
続いて入室しようとするレオンの手を掴んで廊下の、談話室から見えない位置へ引き寄せました。
「近い! 顔が近いよ!」
いつも平気で抱き着いてくるくせに、慌てて離れようとする、レオン。その顔を両掌で挟み、無理やり目を合わせます。
「そんなことより、大丈夫だったのですか?」
「ふぇっ?!・・・え? あ、さっきの? もちろん。何も話してないよ。カムのことに至っては、話そうとしても話せないし」
あぁ。そういえば私に関する事を許可なく他者に話せないように、闇魔法で制約がかけてありましたね。
ほっとしてレオンの頬から手を離すと、逆にレオンが私の腰に手を回してきました。
「なんだか逢引きしているみたいだね」
艶っぽく笑んで色気を振りまき始めたレオンが私を抱き寄せようとしたので、先程より近くなっていた鼻をつまみます。それでも腕の力が抜けなかったため、捻りを加えました。
「痛いっ!」
「ちゃんと相手に許可を求めてからにしなさいと言ったでしょう?」
力が抜けた腕から抜け出すと、鼻をさすりながらレオンが言いました。
「じゃあ、カム。ぎゅってしてもいい?」
「手伝います。クラウド」
手を広げたレオンを無視して、その後ろで紅茶のセットを持ってこちらを見ていたクラウドに近づきます。しかしクラウドは首を横に振ると、少し下がって私へ道を譲りました。
先に談話室へ入って欲しいという意味でしょう。
「待って!」
私の後を追ってきたレオンが私の腕に手を回しかけ・・・王族が部屋の中にいることを思い出したようです。仕方なさそうに離れて、私の後ろへ続きました。
正面にある暖炉の前、2脚ある3人掛けのソファの一方に殿下がすでに腰かけていらっしゃいます。その手前にアレクシス様が、ローテーブルをはさんだ向かい側でルーカスが立ったまま、私を待っていました。
「お待たせいたしました。どうぞおかけください」
普段通りルーカスの隣に座ろうと近づきかけ、そうすると決まって私の反対側の隣へレオンが座ってくることを思い出します。殿下の前ではレオンとある程度の距離を置いた方がよさそうなので、先に着席を勧めました。
「どうぞ。レオンハルト様」
「うえっ?! あ、はい。ありがとうございます」
急に対外用の笑顔を向けた私に焦りつつ、こちらも対外用の返答をしたレオンは、案の定、ルーカスから1人分間を空けて3人掛けのソファへ腰かけます。私はその隙間を見なかったことにして、3脚ある1人掛けのソファの1脚に腰かけました。
「失礼します」
タイミングよく、クラウドが紅茶を置いていきます。お茶菓子も並べ終えて、いつも通り壁際へ下がろうとするクラウドを呼び止めました。
「ありがとう。クラウドもこちらへお掛けなさい」
「は・・・いえ。しかし・・・」
クラウドは困ったように視線を彷徨わせます。私は殿下に向かってにっこり微笑みました。
「よろしいですか? 殿下」
「・・・断れば、君が出て行くんだろう? その手には乗らないよ」
ちっ。バレましたか。
やれやれといった様に肩をすくめた殿下が、軽く頷いてクラウドの着席を認めます。それを受けて、クラウドが困惑した表情のまま私の隣、入り口に最も近いソファに座りました。
身分に捕らわれることを嫌った賢者ジウ・ヴァイスセットにより、「学園内では貴賤を問わず皆平等に学ぶこと」とされていますので、身分を笠に着た振る舞いは禁止されています。
クラウドの同席を断るようなら、私も部屋へ下がろうと思ったのですが察知されてしまったようですね。
そういえば、ここまで自分の屋敷のように振舞ってきましたが、よかったのでしょうか。居心地悪そうに座るクラウドに問いかけます。
「この別館に部屋を与えられたのは、私だけなのですか?」
「いいえ。ルーカス様と私はこちらの2階に部屋を与えられています」
おお。身内とはいえ、二人とも異性なのですけど、そこは問題ないのかな。・・・いや。私は同性愛者だという事になっているのですから、寧ろ当然なのか。私1人だけを住まわせるのでは、予算的な面でも勿体無い感じですし。
「ぼく・・・私も志願したのですが、流石に外聞が悪いと断られてしまいました」
レオンが髪を撫でつけながら言いました。
当たり前だ。
そんな要望を受け入れたとしたら、学園事務の人間はどうかしています。私の何とも言えない表情をどうとったのか、レオンがにっこり笑って胸を張りました。
「大丈夫! この別館に近い寮の東端の部屋を確保したから、何かあったらすぐ駆け付けられるよ! あの程度の距離なら普段通りの声量でも、カムの声なら聞き分けられる・・・ます」
怖いっ! なんて聴力をしているのですか?! しかも語尾だけ丁寧にしても遅いですよ!
殿下がジト目でこちらを見ています。せっかく距離を置いて接していたというのに、無駄になってしまったではないですか。
「・・・もしかしなくても、カーラ嬢に懐柔されているのだろう? レオ」
「いっ・・・あ。あー。申し訳ございません。話せません」
どうやら制約に触れるようで、否定さえできないようですね。
まあ、いいか。この学園内であれば、そう簡単にレオン以外の監視を付けることもできないでしょうし。白状するとしましょう。
「懐柔とは少し違います、殿下。レオンには私の意に反して、私に関することを口にすることができないよう、呪いがかけてあるのです」
あくまで二重スパイではなく、私に従わざるをえない状態であるという態を装ってみます。すると殿下が悪魔の笑みを浮かべました。
「王家の監視が君の支配下にあるって、黙っていてあげてもいいよ。そもそも君に監視を付けること自体が、私は無駄だと思っていたからね。しかしこうも懐いてもらうと、隠し辛いなぁ」
にやにやしながら腕を組み、ついでに長い脚も組んでソファにふんぞり返る、悪魔。こういう時の殿下は、すでに欲しいものが決まっていたりします。つまり交換条件という事ですね。
「・・・何をお望みですか?」
「私にも君を愛称で呼ばせてもらおうか。そうすればレオの懐きようも、私の影に隠れて緩和されるだろう?」
そんな簡単なことでいいのか。と思いましたが、嫌そうな顔をして勿体ぶって見せます。
「・・・わかりました。どうぞ、カムとお呼びください」
愛称で呼ぶことは構いませんが、そういくつもつけられたくはないので指定してみます。にやにやを満足そうな笑顔に変えて、殿下が言いました。
「では、カム。私のこともヘンリーと呼んでくれるかな?」
「そんな恐れ多いことはできかねます」
間を置かず、きっぱりはっきり断ります。眉根を寄せかけた殿下が組んでいた腕を解き、ひじ掛けに頬杖をついてから苦笑しました。
「・・・まあ、いいよ。今回はここまでにしておくさ」
悪魔め。また何か企んでいるようですね。内容が予測できない以上、悩んでも無駄なので考えることを放棄します。
そうだ。毒を食らわば皿まで。もう一人、隠れ蓑になっていただきましょう。
「アレクシス様」
アレクシス様がそれまで殿下に向けていた、標準で鋭い視線をこちらへ向けます。彼を怖がらせないよう、私はできる限り優し気ににっこり微笑みました。
「よろしければ、アレクシス様もカムとお呼びください」
「えっ?! は?! 私もよろしいのですか?!」
優美な眉を微かに跳ね上げて動揺しているような、アレクシス様。はくはくと浅い呼吸を繰り返しています。笑顔が嘘くさかったみたいですね。怯えているようです。大丈夫でしょうか。
「なぜ?! なんでアレクは無条件で許可するんだ?!」
殿下が腰を浮かせて抗議してきます。私は真顔へ戻して、殿下に言いました。
「だって、殿下だけでは逆に私が目立ちますでしょう? 妙な噂が立つのは御免です」
交換条件でもないのに、自ら悪魔に愛称を売る真似などしません。
茫然としたように少し口を開たままゆっくり腰かける殿下から、胸を押さえて深呼吸を繰り返すアレクシス様へ視線を移します。彼には逃げ道を与えた方がよさそうですね。
「アレクシス様、無理にとは言いませんよ」
「い、いいえ! そんな!! わ、わかりました。・・・・・・カム。私の事はアレクとお呼びください」
私の愛称を呼びながら、目を逸らされました。嫌々、自分の愛称も差し出さなくてもいいのに。
「いいえ、アレクシス様。身分は弁えますわ」
再び優しく見えるつもりでアレクシス様へ微笑んで見せましたが、やはり嘘くさかったようで、また視線を逸らされてしまいました。
70
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる