悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ

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もう15歳

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 私が自ら首を突っ込もうとすることが余程お気に召したのか、ニヤニヤしている殿下は、カトラリーを置いて完全に食事の手を止めています。すっかり食欲を無くした私も、最後の抵抗とばかりに握ったままでいたフォークを置いて、殿下の言葉を待ちました。

「このモノクロード国と南のガンガーラとの和平条約が締結されて、帝国は焦ったんだろうね。あちらの第1帝位継承者を差し出すと打診してきたのだよ。留学という名目で」

 腕を組んで背もたれに背を預けた殿下が、真顔で面倒くさそうに吐き捨てました。

 ふむ。それでこちらも、王族を差し出さざるを得なくなったということみたいですね。勝手にあちらが差し出してきたのだから、放っておけばいいのに、と思ってしまうのは少々好戦的すぎますでしょうか。
 そう思いつつも黙ったまま聞いている私へ、殿下がため息をひとつついてから言いました。

「グレイジャーランド帝国は新しい皇帝が立ったものの、まだ若いし、中央が落ち着いてもいない。そこを南の心配がなくなったモノクロード国に、攻められでもしたら堪らないからね。実際、これを機にって愚者も湧いたし」

 心底嫌そうな顔をする、殿下。美人がその顔をすると、凄絶な威圧感にぞっとしますね。
 腹黒い殿下にしては、戦争をしたくないなんて平和的な考えだなと思いながら、疑問をそのまま口にします。

「殿下は、戦争に反対なのですか?」
「まあ、確かに国境から近い帝国側の山にある鉱山は魅力的だよ。でも戦争の理由には弱いかな。あそこの鉱山は古いし、採掘量が減っているとも聞いたしね。これが50年前なら仕掛けるのもありかなと思うけれど、今はないなぁ。費用対効果が悪すぎる。それにあの国は瘦せている土地が多いし、他に鉱山があっても山をいくつも越えないとならないほど遠いし。欲しいものがない」
「・・・」

 悪魔は悪魔でした。
 思わず絶句した私へ、殿下がニヤニヤしながら続けます。

「でもこちら側の国境に近い穀倉地帯へ、しばらくちょっかいかけられないように牽制しておくのはありかな」

 うん。殿下を敵に回すのだけはやめよう。適当に言う事を聞いて、長いものに巻かれよう。
 そう心の中で決心していると、殿下が真剣な表情になって見つめてきました。

「今、この国、モノクロードは乗りに乗っている。西の荒野に住む蛮族たちとの小競り合いはあっても、大きな問題ではない。多少の貧富の差はあれど民が飢えることもなく、平民たちも富んでいる。私は帝国と戦争をして無駄に国を疲弊させる気はないのさ。だから・・・ねえ、カム。お願いがあるんだ」
「・・・何でしょうか」

 嫌な予感しかしませんが、ついさっき巻かれようと決心したばかりです。眉間に皺を寄せながらも、背筋を伸ばして聞く姿勢を見せました。
 殿下が満足げに目を細めて、口角を軽く上げます。

「兄上へ身を守る術を授けて欲しい」

 どういう意味かと考えかけてすぐ、その意味に気が付きました。

 武術の授業で手合わせしたから分かりますが、フランツ王子殿下はそれなりに強いです。しかしクラウドほど無敵に近いわけでもなく、ルーカスほど手の内が多くもありません。それに今から仕込むにも無理があります。
 と、いう事は武力的にではなく、魔法的な意味でしょう。
 そうしてフランツ王子殿下が危険にさらされる、または暗殺されることによって起こりかねない、帝国との戦争を避けたいという。厄介なことに、どこの国にも争いを好む輩はいますからね。

「それは精霊と契約させて欲しい、ということですか?」
「うん、そう」

 あー。確かに精霊が契約してくれれば、手っ取り早いですけどね。
 まぁ、ダメなら身に付けていれば「障害無効」になるような、何かをお詫びと称してお渡ししてしまえばいいか。

 期待を込めて私を見る殿下から目をそらしながら考えていたら、私の影の中でオニキスがうごめいた気配がしました。

『カーラ、あの王子へは必要以上に近づくな。闇魔法の付与も無しだ。真白が降りて来かねない』

 なんですと?!
 驚きのあまり、思わず自分の影へ視線を向けてしまいました。そこに私の精霊がいることを知っている殿下に不審がられはしませんでしたが、オニキスの声は聞こえていなかったようで首を傾げています。

 一々、説明するのは面倒ですね。オニキス、殿下にも聞こえるように話してください。
 影の中から肯定の意を感じた所で、確認の為に質問をします。

「つまり今、フランツ殿下には精霊が寄生していないという事ですか?」
『そうだ。ここ数日、私が近いからか、王子の付近に真白の気配がある。奴らは何人かに目を付けておいて、そのまま放置していることが多い。だから気がそれている間ならば妨害して隠すことができるが、今、下手に手を出すと確実に降りてくるだろう』

 殿下は今まで、興奮して実体化してしまったオニキスの姿を見たことはあっても、声を聞いたことはありませんでしたからね。一瞬、硬直しましたが、すぐに回復して呟きました。

「真白・・・は光の精霊だったね。フランツ兄上は、使徒なのか」

 光の精霊が寄生することでなれる治癒術師は、光教会が崇める光神アクティスヘリオーティスの使徒と呼ばれています。
 このモノクロードが建国する前から存在するという、光教会。その起源は曖昧で、二千年以上前とも言われています。
 私はオニキスが嫌がりますし、テトラディル領の光教会は戦争を避けて私が産まれた頃から撤退していますので、近付いたことがないばかりか、簡単な教義ぐらいしか知りませんが。

「正確には、これからなる可能性があるという事ですよ」
「あぁ・・・だが、まずいな」
「なぜですか?」
「光教会は国を跨いでいる。そして国へ介入させないように、使徒となった王族は、王位継承権を剥奪されるのが常だ」

 険しい表情の殿下がテーブルへ両肘をつき、組んだ手の上へ顎を乗せました。
 なるほど。王位継承権を剥奪されてしまえば、フランツ王子殿下は人質としての価値を失います。そうなれば今度はヘンリー殿下が、人質として帝国へ差し出されることになりますね。

 しかしゲーム主人公である、大公令嬢の例があるように、権力で何とかできないこともありません。もしくは、そうせざるを得ない状況に陥った場合もありえます。
 例えば王太子殿下とヘンリー殿下が亡くなった場合、フランツ王子殿下の王位継承権は復活するでしょう。大公家のゲーム主人公が継承権を持ったままなのも、その例です。

「阻止することはできないかい?」
「どういうことですか?」

 問い返した私へ、殿下が言葉を換えます。

「レオのように他の精霊を降ろすことはできないかい?」
『トゥバーンは我の気配を追ってきた。我が近くにいて誘導すれば可能であろう。しかし真白を押しのけて降りてくるのだ。真白へ喧嘩を売る覚悟がある精霊でないと、無理だろうな』

 答えを持たない私に変わり、オニキスが淡々と答えました。それを受けて殿下が考え込みます。
 光の精霊へ喧嘩を売ってもいい精霊となると・・・ん? では魔物は? 彼らは光の精霊どころか、すべての精霊へ喧嘩を売っていますよね?

「それはつまり、魔物ならば可能かもしれませんか?」
『あぁ。そうだな。奴らは真白をも嫌っている者が多い。だが交渉は難しいと思うぞ? それに今から探していたのでは間に合わぬだろう』

 魔物。しかも今のフランツ王子殿下の金髪に近い色であることが望ましいとなると・・・。
 一応、心当たりがないわけでもありません。本人(?)が無理でも、お友達を紹介してくれるかもしれませんし。まあ、聞くだけ聞いてみましょうか。

「殿下、少しお時間をいただきます。後ほど、フランツ王子殿下とご一緒に、別館へ来ていただけますか?」
「わかった。しかし、食事を終えてからでも・・・」

 話に付いて行けていないようで、戸惑いを露わにする殿下へ向かって、にっこり笑って立ち上がります。面倒に巻き込まれてしまいましたが、この気まずい二人きりのディナーから逃げられるチャンスを、逃すわけにはいきません。

「いいえ。急いだほうがよさそうですので、これで失礼いたしますわ」

 そそくさと扉まで移動した私は、略式の礼をして部屋を後にしました。クラウドを伴って走らない程度に急いで別館へ戻り、目的の場所へ転移します。

 そして砂漠のオアシスにて。

「ねえ、鳥。光の精霊・・・えっと、真白に目を付けられている人に、真白を押しのけて寄生して欲しいんだけど、無理? 無理ならお友達」
『構わないそうだ』
「・・・って、いいの?!」

 そんな思っていたよりも簡単なやり取りの後、小鳥サイズになってもらった魔物を連れて、別館へ帰ってまいりました。
 私は直前まで近づかない方がいいので、フランツ王子殿下の説得はヘンリー殿下にお任せ。無事、了解を得たとのことで、夕食を食べ損ねたための空腹をお茶菓子で埋めながら、王族たちを待っております。

「しかしフランツ王子殿下も、あっさりと了承されたのは意外でした」

 時刻はまだ、ゆっくり食事をしていたら今頃食後の紅茶を飲んでいるかな、という時間です。と、いう事はあのままヘンリー殿下が食事を中断して、食事中のフランツ王子殿下の元へ突撃晩御飯したとしても、ほぼ即決に近い状態ですよ。

「フランツ王子殿下は、呪文構築の才能がない事を気に病んでいたようです。だからではないでしょうか」

 胃の隙間的に次が最後だと、クッキーかマドレーヌか迷う私へ、向かいに落ち着かない様子で腰かけているクラウドが言いました。

 精霊がいないのですから、どんな呪文にも反応を示さないのは当たり前のことです。しかしこの世界では、「精霊がいない」人間などいないと思われています。
 オニキスによると、光の精霊にキープされている人間以外には漏れなく精霊が寄生しているらしいのですが、光の精霊1体がキープする人間は複数いるのだとか。
 見た目では精霊がいないことなど分かりませんから、普通は精霊がいなくとも気付くことがありません。学園で呪文を学ばなければ魔法が使えないため、ほとんどの平民は魔法を使うことなく一生を終えますし。
 しかし魔法を使ってみれば分かると思いきや、精霊にあった呪文を組まないと魔法が発動しないため、呪文が未完成なのだと思われて、精霊がいないということに気付かないのです。

「なるほど。・・・あれ? 鳥は?」

 いつの間にか、私の肩に止まっていたはずの鳥の魔物がいません。見回した後に、問いかけるようにクラウドへ視線を向けると、彼の足元にお座りしていたモリオンが首を傾げました。

『さっき、ちょっと死んでくるって外へ行ったっすよ』
「・・・」

 鳥へは簡単に説明したものの、まだフランツ王子殿下はお見えでないというのに、気が早くないですかね。大丈夫でしょうか?

『我を見失うなどありえない。それにこの付近に、王子以外の真白から目をつけられている人間はいない。心配するな』

 私の膝の上に頭を乗せているオニキスが、機嫌良さげに尾を揺らしながらふんすと息を吐きます。
 うん。まあ、目の前で「殺やってください」って体を投げ出されても嫌なので、寧ろありがたいのですけれども。
 最後と決めたマドレーヌをモグモグしながら、そんな事を思っていると、クラウドが立ち上がりました。その足元にいたモリオンと、ソファに寝そべっていたオニキスが影へ溶け込みます。

「おみえになったようです」

 そのまま玄関の方へ向かうクラウドの後を、王族たちを出迎える為に付いていきます。扉を開ければ、ちょうど林を抜けてこちらへ向かってきているところでした。 
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