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もう15歳
30
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レオンと共に森から現れた方々によって、襲撃者たちはあっという間に、遺体も含めてどこかへ連れていかれました。
ちなみに今回オニキスさんが与えた「眠り」は、顔に水をかけると目が覚める仕様になっております。
私はと言うと、殿下たちを起こして説明するのも面倒だし、遺体を見たためか食欲もなかったので、早々にダリア様と同じテントにもぐりこんで寝てしまいました。何かあったら起こすように頼んで、後は起きていたクラウドとレオンにお任せで。
そして翌朝。
夜明けとともに目が覚めた私と一緒に、全員の眠りを解いてもらったわけですが・・・。
絶対に私の仕業だと思っているようで、後で聞けばいいかと素知らぬ顔をしている殿下たち。「なんだかよくわからないけれども何かあったんだな」と思いつつ、ここで口にするのはまずいかと思案しているっぽい先生と、ツヴァイク様。私が怪しいけれども、問いただしたところで答えないだろうなと予測したらしく、聞きたそうにこちらを見つめてくる帝国組。
はい。何も言いませんでした。
だって、面倒ですもの。
微妙な空気の中、とりあえず森を抜けましょうというレオンに従って、チーズが挟まったパンという簡単な朝食の後、とっとと森を出ました。最短ルートを選んだために行き当たった岩場と、幅3メートル、ひざ下くらいの水位の川を渡る時に、ゼノベルト皇子殿下がぶーぶー言いましたけど、無視。
最後に出発したのに、翌日の昼前にゴールするという快挙を遂げた私たちは、先生に順次解散の指示を受けて颯爽と馬車に乗り込み、学園へと帰りました。
で、本日はもう授業もなく自由ですから、とっとと別館へ逃げ込み、入浴して、本来ならば森の中で摂るはずだった昼食を、今食べ終わったわけでございます。
「あー。疲れたねぇ・・・」
過去形でよろしゅうございました。私は現在進行形で疲れていますよ。
ようやく解放されたと、いつもより各段に長い入浴後、清々しい気分で談話室へ降りてこればこれです。一仕事終えた後くらい、ダラダラさせていただけませんか。
私はクラウドが入れてくれた食後の紅茶を飲みながら、ソファの肘掛けへぐったりと体を預けるヘンリー殿下に、ジト目で念を送りました。
その視線を無視して、にっこりと私へ相づちを求めるのは止めてください。可愛くしても駄目です。疲労のあまり、今にも暴言に近い本音が漏れそうなのですよ。
「結局、誰が本命だったんだ?」
疲れを全身で表現するヘンリー殿下とは対象的に、アレクシス様は疲れを微塵も見せない姿勢で腰掛けてみえます。しかし私を見ては視線をそらすので、威厳が半減してしまっていて、残念臭も漂っていました。これさえなければ、未来の宰相様としてなんの問題も感じさせない方なのですが。
本命が私や弟のルーカスだった場合、たぶん遭遇する前にオニキスが排除しているでしょうから、私たち兄弟は除外できると思います。
そうですよね? オニキス。
『・・・あぁ。そうだ』
1拍の間があったのは、すでに許可なく何度も実行していて後ろめたいからかな。私のためにしていることなのですから、咎めませんよ。
オニキス、ありがとうございます。
「対象になりそうな者が揃っていましたから、現時点で予測するのは難しいと思います」
発言したルーカスへと視線を向けると目があって、彼はほわーっと笑いました。かわゆす。
チーム「濃ゆい」は、誰がターゲットでもおかしくありませんからねぇ。
王族、皇族、公爵、侯爵、伯爵の子息ばかり。貴族の子息でも家督から遠い、先生は除外できるとしても、ヘンリー殿下の護衛であるツヴァイク様も伯爵家の四男ですし。王子の側にいるだけで妬みの対象になりますから、完全に除外することはできません。
まぁ、あの気合いが入った人数からして、恐らく王族、皇族がターゲットでしょうけれど。
「大丈夫! 暗部へは僕がやったことにしておいたから、心配しないで。何か収穫があったら教えるね!」
くいくいと私の袖を引きながら、レオンが褒めてとばかりに勢い込んで言いました。
今、言外に私が関わっているとばらしましたね? どうせ私が何かやったのだと、全員が断じているのでしょうから、別に構いませんけれども。
何か言いたそうに私を見るクラウドを、目で制しました。私がやったことにした方が面倒が少なそうなので、誤解は解かない事にします。
そんなやりとりの間に、レオンが私の腰へさりげなく腕をまわしていました。それをルーカスが、冷笑を浮かべながらつねります。
ルーカスは握力がありますから、結構痛いはず。案の定、十数秒ほどでレオンが手を引きました。
私を逃がすまいとしているのか、私は今、レオンとルーカスに挟まれて三人掛けのソファへ腰かけています。その向かいにヘンリー殿下と、アレクシス様。
クラウドは昼食の後片付けをしていて、ツヴァイク様は「またヘンリー殿下がターゲットかも」ということで、学園警備と会議中。もちろん帝国組はいません。
というか、私の仕業だと断じているのなら、今さら説明する必要も無いのでは?
私は黙りをきめこむ事にして、空に近いカップから、ちびちびと紅茶をすすりました。
私に説明する気がないのを感じ取ったのか、談話室が沈黙に満たされます。そのまま様子を窺ってみると私以外の誰も紅茶へ手を付けず、また言葉も発しないで互いに顔を合わせては目で会話していました。大方どうやって私に白状させようか考えながら、その役目を押し付けあっているのでしょう。
そうして続く沈黙を破ったのは・・・やはりというか、ヘンリー殿下でした。
「私たちの記憶が急に途切れたのは、カムのせいだろうからよしとして・・・やっぱり王位継承争いかな」
私に白状させるのを諦めたようです。でしたら私を開放していただきたいのですけれども・・・。
隣に座るルーカスへ顔を向けると、ほわーっと笑ってくれました。私も笑みを返しましたが、立ち上がって道を譲ってくれる気配はありません。
さすがに彼の膝とローテーブルの隙間を無理に通るわけにもいかず、私は眉間に皺をよせつつ、空になったティーカップをテーブルへ置きました。すかさずクラウドが紅茶を追加してくれます。
こうなったら、必殺「お手洗い」でフェードアウトしましょう。早速、水分補給に勤しむことにします。
「うちのは、側妃様のとりまきたちの暴走か、もしくは・・・」
アレクシス様が言葉を切って、私をちらりと見ました。
あぁ・・・私が巻き込まれることを嫌うって知っていらっしゃいますから、情報を与えない方がいいかと考えてみえるみたいですね。さすが、アレクシス様。お心遣いありがとうございます。
感謝を込めて微笑むと、アレクシス様と目が合います。するとすぐに胸を押さえながら、俯かれてしまいました。
申し訳ない。恐怖を与えてしまったようです。そんなに怪しげな笑みでしたかね。
頬が引きつっていたかと両掌で円を描くように解していると、レオンが身を乗り出して言いました。
「今回は人数がいたから、前回よりかは確実に情報が得られると思うよ! ただ、うちじゃなくて、帝国側の争いに巻き込まれた可能性もあるけどね」
そうなんですよ。
今、帝国は近々内乱が起きるのではないかと、囁かれています。
ゼノベルト皇子殿下の異母姉である新しい皇帝は、ここモノクロード国の南にあるガンガーラ国に習い、和平条約を結ぼうとしているようです。
まあ、元々そう頻繁に争っていた国ではありませんし、どちらかと言うとモノクロード国へ攻め込まないという意思を示すのではなく、攻めてこられると困るからなのだろうと思われます。
ですからゼノベルト皇子殿下は、親善大使も兼ねているらしいのですが・・・意外なことに、学園外ではまともにやっていると聞きました。
ただ、ゼノベルト皇子殿下がこちらへやってきたのにはもうひとつ理由がありまして。
一言で言うと「避難」ですね。
「やはりトゥリ領を母の出身地とする第二帝位継承者、ソスラン・アンブロ・トゥリ・バリーノペラ皇子が、和平条約へ異を唱えているようですね」
ルーカスが優雅に紅茶を口にします。私の視線に気付いて微笑んでくれましたが、やはり退いてはくれませんでした。
北の隣国グレイジャーランド帝国とは、北の守りテスラ侯爵領、北西の守りテクスノズ侯爵領が接しています。そしてトゥリ領は帝国の真南に位置し、テクスノズ侯爵領と接しています。
「あそこはさ、鉱山の採掘量が減ってきてからずっと、テクスノズの農地を欲しがっているからなぁ」
ヘンリー殿下がめんどくさそうに、ソファのひじ掛けへ頬杖をつきました。
以前のちょっかいをだしてきたというのは、トゥリ領のことみたいですね。本気で牽制する気でしょうか。
「トゥリは鉱山が見つかるまで農地だったんだから、また開墾すればいいのにね」
レオンがクッキーへ手を伸ばしながら言いました。
そうは言っても、この世界で開墾となるとやはり人の手でとなります。魔法はあっても大規模な魔法となると呪文も長いので、扱える人は少ないですからね。
さらに賢者ジウ・ヴァイスセットの恩恵を受けているこの国と違い、呪文を精霊によって変える必要があることを他国は知らず、定例句しか継承されていません。それが当てはまる精霊ならば魔法が発動しますが、そうでなければ魔法は使えないのです。よって魔法が使える人間が、モノクロード国よりも圧倒的に少ない。
これが大国に挟まれていて、小さくはないけれども比較的歴史の浅いモノクロード国が、容易に侵略されない理由でもあります。
ちなみにそんな理由から、帝国組は魔法学を履修できないのですが、今は関係ない話でしたね。
「150年かけて鉱山で吸った甘い汁を捨てきれず、方向転換をしなかったから窮地に陥っているんだ。あそこは思っていたより状況が悪いらしい。そして何より悪い事に、領民は開墾する気が全くない。あと3年もすれば領民が飢え始めるぞ」
私ではなくレオンへ視線を向けながら発言するアレクシス様は、きりっとしていてとてもかっこいいです。昼食をとっている時からすっと伸びている背筋に、隙はありません。
ふむ。自業自得な人々へ興味はありませんが、戦争は嫌だなあ。
それに隠しキャラの出身国で起きるかもしれない内乱と、起こすかもしれない戦争が、私の知らない隠しキャラルートと無関係とは思えません。
私が予想するに、ゼノベルト皇子殿下が隠しているつもりで、全く隠しきれていない想い人、ダリア様に何かある。・・・想像するのも嫌ですが、ダリア様が亡くなり、その隙間をゲーム主人公が埋める的なシナリオなんでないかと予測したわけです。
こっそり何かしてしまいましょうか。
うぅ・・・聞き役に徹し、ひたすら気配を消しつつ、水分を摂り続けた成果が出たようです。
「あ、あの・・・」
もじもじと膝をすり合わせながら視線を落とせば、察したルーカスがさっと立ち上がって道を譲ってくれました。私は立ち上がり、ソファの横で略式の礼をとります。
そしてついて来ようとするクラウドを談話室へ留めてトイレへ行き、その後は部屋へ引きこもることにしました。
ちなみに今回オニキスさんが与えた「眠り」は、顔に水をかけると目が覚める仕様になっております。
私はと言うと、殿下たちを起こして説明するのも面倒だし、遺体を見たためか食欲もなかったので、早々にダリア様と同じテントにもぐりこんで寝てしまいました。何かあったら起こすように頼んで、後は起きていたクラウドとレオンにお任せで。
そして翌朝。
夜明けとともに目が覚めた私と一緒に、全員の眠りを解いてもらったわけですが・・・。
絶対に私の仕業だと思っているようで、後で聞けばいいかと素知らぬ顔をしている殿下たち。「なんだかよくわからないけれども何かあったんだな」と思いつつ、ここで口にするのはまずいかと思案しているっぽい先生と、ツヴァイク様。私が怪しいけれども、問いただしたところで答えないだろうなと予測したらしく、聞きたそうにこちらを見つめてくる帝国組。
はい。何も言いませんでした。
だって、面倒ですもの。
微妙な空気の中、とりあえず森を抜けましょうというレオンに従って、チーズが挟まったパンという簡単な朝食の後、とっとと森を出ました。最短ルートを選んだために行き当たった岩場と、幅3メートル、ひざ下くらいの水位の川を渡る時に、ゼノベルト皇子殿下がぶーぶー言いましたけど、無視。
最後に出発したのに、翌日の昼前にゴールするという快挙を遂げた私たちは、先生に順次解散の指示を受けて颯爽と馬車に乗り込み、学園へと帰りました。
で、本日はもう授業もなく自由ですから、とっとと別館へ逃げ込み、入浴して、本来ならば森の中で摂るはずだった昼食を、今食べ終わったわけでございます。
「あー。疲れたねぇ・・・」
過去形でよろしゅうございました。私は現在進行形で疲れていますよ。
ようやく解放されたと、いつもより各段に長い入浴後、清々しい気分で談話室へ降りてこればこれです。一仕事終えた後くらい、ダラダラさせていただけませんか。
私はクラウドが入れてくれた食後の紅茶を飲みながら、ソファの肘掛けへぐったりと体を預けるヘンリー殿下に、ジト目で念を送りました。
その視線を無視して、にっこりと私へ相づちを求めるのは止めてください。可愛くしても駄目です。疲労のあまり、今にも暴言に近い本音が漏れそうなのですよ。
「結局、誰が本命だったんだ?」
疲れを全身で表現するヘンリー殿下とは対象的に、アレクシス様は疲れを微塵も見せない姿勢で腰掛けてみえます。しかし私を見ては視線をそらすので、威厳が半減してしまっていて、残念臭も漂っていました。これさえなければ、未来の宰相様としてなんの問題も感じさせない方なのですが。
本命が私や弟のルーカスだった場合、たぶん遭遇する前にオニキスが排除しているでしょうから、私たち兄弟は除外できると思います。
そうですよね? オニキス。
『・・・あぁ。そうだ』
1拍の間があったのは、すでに許可なく何度も実行していて後ろめたいからかな。私のためにしていることなのですから、咎めませんよ。
オニキス、ありがとうございます。
「対象になりそうな者が揃っていましたから、現時点で予測するのは難しいと思います」
発言したルーカスへと視線を向けると目があって、彼はほわーっと笑いました。かわゆす。
チーム「濃ゆい」は、誰がターゲットでもおかしくありませんからねぇ。
王族、皇族、公爵、侯爵、伯爵の子息ばかり。貴族の子息でも家督から遠い、先生は除外できるとしても、ヘンリー殿下の護衛であるツヴァイク様も伯爵家の四男ですし。王子の側にいるだけで妬みの対象になりますから、完全に除外することはできません。
まぁ、あの気合いが入った人数からして、恐らく王族、皇族がターゲットでしょうけれど。
「大丈夫! 暗部へは僕がやったことにしておいたから、心配しないで。何か収穫があったら教えるね!」
くいくいと私の袖を引きながら、レオンが褒めてとばかりに勢い込んで言いました。
今、言外に私が関わっているとばらしましたね? どうせ私が何かやったのだと、全員が断じているのでしょうから、別に構いませんけれども。
何か言いたそうに私を見るクラウドを、目で制しました。私がやったことにした方が面倒が少なそうなので、誤解は解かない事にします。
そんなやりとりの間に、レオンが私の腰へさりげなく腕をまわしていました。それをルーカスが、冷笑を浮かべながらつねります。
ルーカスは握力がありますから、結構痛いはず。案の定、十数秒ほどでレオンが手を引きました。
私を逃がすまいとしているのか、私は今、レオンとルーカスに挟まれて三人掛けのソファへ腰かけています。その向かいにヘンリー殿下と、アレクシス様。
クラウドは昼食の後片付けをしていて、ツヴァイク様は「またヘンリー殿下がターゲットかも」ということで、学園警備と会議中。もちろん帝国組はいません。
というか、私の仕業だと断じているのなら、今さら説明する必要も無いのでは?
私は黙りをきめこむ事にして、空に近いカップから、ちびちびと紅茶をすすりました。
私に説明する気がないのを感じ取ったのか、談話室が沈黙に満たされます。そのまま様子を窺ってみると私以外の誰も紅茶へ手を付けず、また言葉も発しないで互いに顔を合わせては目で会話していました。大方どうやって私に白状させようか考えながら、その役目を押し付けあっているのでしょう。
そうして続く沈黙を破ったのは・・・やはりというか、ヘンリー殿下でした。
「私たちの記憶が急に途切れたのは、カムのせいだろうからよしとして・・・やっぱり王位継承争いかな」
私に白状させるのを諦めたようです。でしたら私を開放していただきたいのですけれども・・・。
隣に座るルーカスへ顔を向けると、ほわーっと笑ってくれました。私も笑みを返しましたが、立ち上がって道を譲ってくれる気配はありません。
さすがに彼の膝とローテーブルの隙間を無理に通るわけにもいかず、私は眉間に皺をよせつつ、空になったティーカップをテーブルへ置きました。すかさずクラウドが紅茶を追加してくれます。
こうなったら、必殺「お手洗い」でフェードアウトしましょう。早速、水分補給に勤しむことにします。
「うちのは、側妃様のとりまきたちの暴走か、もしくは・・・」
アレクシス様が言葉を切って、私をちらりと見ました。
あぁ・・・私が巻き込まれることを嫌うって知っていらっしゃいますから、情報を与えない方がいいかと考えてみえるみたいですね。さすが、アレクシス様。お心遣いありがとうございます。
感謝を込めて微笑むと、アレクシス様と目が合います。するとすぐに胸を押さえながら、俯かれてしまいました。
申し訳ない。恐怖を与えてしまったようです。そんなに怪しげな笑みでしたかね。
頬が引きつっていたかと両掌で円を描くように解していると、レオンが身を乗り出して言いました。
「今回は人数がいたから、前回よりかは確実に情報が得られると思うよ! ただ、うちじゃなくて、帝国側の争いに巻き込まれた可能性もあるけどね」
そうなんですよ。
今、帝国は近々内乱が起きるのではないかと、囁かれています。
ゼノベルト皇子殿下の異母姉である新しい皇帝は、ここモノクロード国の南にあるガンガーラ国に習い、和平条約を結ぼうとしているようです。
まあ、元々そう頻繁に争っていた国ではありませんし、どちらかと言うとモノクロード国へ攻め込まないという意思を示すのではなく、攻めてこられると困るからなのだろうと思われます。
ですからゼノベルト皇子殿下は、親善大使も兼ねているらしいのですが・・・意外なことに、学園外ではまともにやっていると聞きました。
ただ、ゼノベルト皇子殿下がこちらへやってきたのにはもうひとつ理由がありまして。
一言で言うと「避難」ですね。
「やはりトゥリ領を母の出身地とする第二帝位継承者、ソスラン・アンブロ・トゥリ・バリーノペラ皇子が、和平条約へ異を唱えているようですね」
ルーカスが優雅に紅茶を口にします。私の視線に気付いて微笑んでくれましたが、やはり退いてはくれませんでした。
北の隣国グレイジャーランド帝国とは、北の守りテスラ侯爵領、北西の守りテクスノズ侯爵領が接しています。そしてトゥリ領は帝国の真南に位置し、テクスノズ侯爵領と接しています。
「あそこはさ、鉱山の採掘量が減ってきてからずっと、テクスノズの農地を欲しがっているからなぁ」
ヘンリー殿下がめんどくさそうに、ソファのひじ掛けへ頬杖をつきました。
以前のちょっかいをだしてきたというのは、トゥリ領のことみたいですね。本気で牽制する気でしょうか。
「トゥリは鉱山が見つかるまで農地だったんだから、また開墾すればいいのにね」
レオンがクッキーへ手を伸ばしながら言いました。
そうは言っても、この世界で開墾となるとやはり人の手でとなります。魔法はあっても大規模な魔法となると呪文も長いので、扱える人は少ないですからね。
さらに賢者ジウ・ヴァイスセットの恩恵を受けているこの国と違い、呪文を精霊によって変える必要があることを他国は知らず、定例句しか継承されていません。それが当てはまる精霊ならば魔法が発動しますが、そうでなければ魔法は使えないのです。よって魔法が使える人間が、モノクロード国よりも圧倒的に少ない。
これが大国に挟まれていて、小さくはないけれども比較的歴史の浅いモノクロード国が、容易に侵略されない理由でもあります。
ちなみにそんな理由から、帝国組は魔法学を履修できないのですが、今は関係ない話でしたね。
「150年かけて鉱山で吸った甘い汁を捨てきれず、方向転換をしなかったから窮地に陥っているんだ。あそこは思っていたより状況が悪いらしい。そして何より悪い事に、領民は開墾する気が全くない。あと3年もすれば領民が飢え始めるぞ」
私ではなくレオンへ視線を向けながら発言するアレクシス様は、きりっとしていてとてもかっこいいです。昼食をとっている時からすっと伸びている背筋に、隙はありません。
ふむ。自業自得な人々へ興味はありませんが、戦争は嫌だなあ。
それに隠しキャラの出身国で起きるかもしれない内乱と、起こすかもしれない戦争が、私の知らない隠しキャラルートと無関係とは思えません。
私が予想するに、ゼノベルト皇子殿下が隠しているつもりで、全く隠しきれていない想い人、ダリア様に何かある。・・・想像するのも嫌ですが、ダリア様が亡くなり、その隙間をゲーム主人公が埋める的なシナリオなんでないかと予測したわけです。
こっそり何かしてしまいましょうか。
うぅ・・・聞き役に徹し、ひたすら気配を消しつつ、水分を摂り続けた成果が出たようです。
「あ、あの・・・」
もじもじと膝をすり合わせながら視線を落とせば、察したルーカスがさっと立ち上がって道を譲ってくれました。私は立ち上がり、ソファの横で略式の礼をとります。
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