機械仕掛けの最終勇者

土日月

文字の大きさ
22 / 45
連載

第?章 神界最強の刃 その二

しおりを挟む
 ガガの腕がレーザーブレードで切り落とされて、草原に落下する。その音を聞いて、老いた輝久は感動で打ち震えていた。 

(神剣ラグナロクは消えてはいない! あれこそ、神界最強の刃が、戴天王界の覇王達を倒す為に特化した姿! 神と人が合わさった究極の――!)

 不死公ガガを凌駕する反応速度と攻撃力。黒流魔弾を未然に防ぎ、攻撃に転じる『グレイテストライト・オールレンジ』。炎魔の心核を封殺する『パノラマジック・メタルフィールド』。かつて、仲間達と語り合った覇王を倒す為の攻略が洗練、或いは昇華され、ラグナロク・ジ・エンドの技となって、ガガを迎え撃った。

(押している! 覇王を!)

 それでも、いや、それだからこそ、老いた輝久は歯噛みする。

「敵がガガでさえ、なければ……!」

 不死公ガガの本体は別次元にある。体を完全に破壊したところで、別の体が転送されてしまう。事実、光の神撃マキシマム・ライトが破られた後、ティアは、ガガを倒すのは理論上不可能だと言い切った。

 しかし――。

『時空壁破壊の遠隔強襲撃……』

 ジエンドの胸から、ティアの冷徹な声が響く。レーザーブレードを後方に引き、居合い斬りの体勢をとるや、ジエンドと合体している若い輝久が叫ぶ。

「マキシマムライト・ブレイクディメンション!」

 ジエンドが、レーザーブレードで『∞』の軌道を空中に描いた、その時だった。

【ほほほほほ! 何をしようが、届くものか!】

 突如、老いた輝久の耳に、ガガの心の声が聞こえた。

 半霊半物質の思念体である輝久は、ガガの声の元を辿るように意識を集中させる。すると次の瞬間、老いた輝久の思念体は、アルヴァーナと異なる空間に存在していた。

 それは、六畳程の薄暗く狭い部屋。僅かな明かりがデスクに置かれたモニターから漏れており、チェアには誰かが腰掛けている。

 老いた輝久は一瞬、そこが地球かと勘違いした程だった。だが、よくよく見れば、デスクもチェアも骨のような物質で出来ており、モニターに繋がれている太いケーブルは、ミミズのようにモゾモゾと動いている。『進化した魔導具』とでも呼べば良いのだろうか。輝久はそんな風に思った。

 モニターの前に座っているのは、かぎ鼻の醜い老婆だった。デスクには小さな髑髏が置かれており、それに手を当て、マウスのように動かして操作している。

 老婆が眺めるモニターにアップで映し出されているのは、ラグナロク・ジ・エンドであった。背後にはアルヴァーナの光景が広がってる。

 思念体である自分が傍にいることに気付かず、老婆は「ほほほ」と、しわがれた声で笑っていた。姿形は違えど、聞き慣れた、あの独特な笑い声で。

(これが、不死公ガガの本体!)

 老いた輝久は理解する。ガガは、こうやって安全な場所から、まるでゲームを楽しむように自分と仲間達を殺してきたのだ。

 モニターの前で、勝ち誇った笑いを続けるガガ。だが、その背後の空間に突如、輝く『∞』の文字が出現する。

 ガガは、何かが背後で光っていることに気付くと、モニターから目を離し、訝しげに振り返って光源を眺めた。途端、メビウスの輪から、光る両腕が現れ、無限の文字を引き裂く。そして、そこから光り輝くジエンドが姿を現した。

 ガガは絶叫しながら、チェアから立ち上がり、後ずさりした。

「こ、こ、この次元界に侵入されるなんて!!」

 分身した光のジエンドは輝く剣を携えたまま、ガガに迫る。

「来るな! 来るなあああああああああ!」

 老婆は部屋の隅まで移動して、ガタガタと震えていた。絶叫し、わめきちらし、手元にあった物をなり振り構わず投げつける。しかし、投げた物は全て、分身のジエンドの体をすり抜けた。

 ジエンドは、ガガの目前で光り輝く剣を大上段に構えると、何の躊躇もなく振り下ろした。熱線が物体を焼き切る音と共に、ガガの顔に一筋の赤い線が刻まれる。

「ありえない……ありえない……ありえ……ない……」

 そう呟いた直後、ガガの体が正中線に沿って分離した。二つに分かたれたガガの体が、音を立てて、床に落下する。

 ガガの意識が潰えると同時に、老いた輝久の思念体はアルヴァーナへと戻った。草むらから様子を窺うと、ジエンドは既に変身を解除しており、若い輝久とマキに戻っていた。その近くには、灰がうずたかく積まれている。もはや、再生も復活もできない不死公ガガの灰が。

 老いた輝久の脳裏を、覇王に玩具のように虐げられ、殺されてきた過去が一気に駆け巡った。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 人目も憚らず絶叫して、嗚咽する。

(六万回以上繰り返す世界で、一度たりとも倒せなかった覇王を倒した! 時空の壁を乗り越え、ガガ本体を斬った! 殺され続けたティアと、仲間達の仇を遂に討ったのだ!)

 老いた輝久の目から、涙が止まることはなかった。やがて、若い輝久がこちらを見て、話し掛けてきた。

 老いた輝久は、ようやく我に返る。

(見えるのか! この姿が!)

 ギクリとした。確証はないが、自分が若い輝久に同一人物だと認識されれば、パラドックスが起こるのではないだろうか。もし仮に、触れられでもしたら――。

 若い輝久とマキが喋っている間に、老いた輝久は慌てて意識を集中させて、一瞬でアルヴァーナ上空へと移動したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。