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プロローグ②
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俺が迷わず”素早さ”を選択すると伝えると女神は困惑を隠せない。
「す、素早さに......全てですか?」
「当然だ」
俺はそう言い迷わずポイントを素早さに全て注ぎ込んだ。
HP: 10
MP: 10
攻撃力: 5
防御力: 5
素早さ: 105
運: 5
完璧だ。我ながら完璧な配分だ。
「あの、理由を聞いてもよろしいでしょうか」
女性が恐る恐る尋ねてくる。声が震えている。いい質問だ。これは説明のしがいがある。
「早ければ早いほど、色々な痛みに出会える」
「......」
「考えてみろ。のろのろ歩いていたら出会える痛みも限られる。せいぜい目の前の敵に殴られるくらいだろう。でも早く動ければ、より多くの敵に、より多様な攻撃を受けられる」
女性が何も言わない。いや、言えないのか。だから続ける。
「例えば戦場を想像してくれ。鈍足の戦士は一体の敵と戦う。でも俊足の戦士は三体、四体の敵の間を駆け抜けられる。単純計算で痛みの機会が三倍、四倍になる。理に適っているだろう?」
「理に......適って......」
「それに素早さがあれば、逃げることもできる。いや、逃げるというのは語弊があるな。戦術的撤退だ。一度に全ての痛みを味わってしまうのはもったいない。小出しに、計画的に痛みを享受する。そのためには素早さが必要不可欠なんだ」
我ながら完璧な理論だ。隙がない。
「あとな」
まだ続けるのかという顔をされたが、構わず続ける。
「素早さがあれば、痛みの『質』も変わってくる。ゆっくり受ける攻撃と素早く受ける攻撃では、痛みの性質が異なる。高速で移動しながら攻撃を受ければ、その衝撃も変化する。バリエーションが増える。これは非常に重要だ」
「あの――」
「それから、素早く動けば風を感じられる。風を切る感覚は爽快だ。その爽快感と痛みのコントラスト。これがまたいい。快と痛のバランス。陰と陽。ポジティブとネガティブ。この両極を同時に――」
「分かりました」
女性が手を上げて俺の言葉を遮った。
「分かりました。もう十分です」
「でもまだ説明の三分の一も――」
「結構です」
きっぱりと言われてしまった。残念だ。まだ素早さのメリットは山ほどあるのに。運動エネルギーと痛覚の相関関係とか、加速度と衝撃の関数とか、語りたいことは尽きない。
「次に、職業を選択していただきます」
女性が疲れた顔で続ける。
目の前に新しいパネルが現れた。
【職業選択】
・戦士:前衛職。高い攻撃力と防御力を持つ
・騎士:前衛職。仲間を守ることに特化
・魔法使い:後衛職。強力な攻撃魔法を使える
・僧侶:後衛職。回復魔法と補助魔法を使える
・盗賊:中衛職。素早さと器用さに優れる
・タンク:前衛職。敵の攻撃を一身に受ける役割
ほう。色々あるんだな。
「通常は戦士か騎士を選ぶ方が多いです。バランスが取れていて――」
「タンクにする」
即答した。
「......説明を聞いてからでも」
「いや、タンクで」
「どうしてですか」
女性が警戒するような目で俺を見ている。そりゃそうだ。さっきのステータス振りを見ていたら、俺の選択を疑うのも当然だろう。
「敵の攻撃を一身に受けるんだろ?完璧じゃないか」
「タンクは防御力が高くないと務まりません。あなたのステータスは――」
「防御力5だが何か?」
「......まさにそれが問題なんです」
女性が頭を抱えている。大袈裟だな。
「タンクは敵の攻撃を受け止める役割です。防御力が低ければ一撃で倒れます」
「倒れない。素早さが105あるから」
「素早さは関係ありません。いえ、避けるという意味では関係しますが、タンクは避けてはいけないんです」
「なぜだ?」
「仲間を守るために、自分が攻撃を受けるのがタンクの役割だからです」
やはり完璧じゃないか。
「つまり攻撃を避けずに受け続けるんだな」
「そうですが――」
「最高だな。タンクにする」
女性の表情が曇る。いや、曇るどころか絶望に近い。
俺の顔はきっと赤く染まっているだろう。
「あなたは本当に理解していますか?タンクは苦痛を伴う職業です。常に最前線で攻撃を受け続ける。体中傷だらけになる。普通の人間なら避けたがる役割なんです」
「何を言っているんだお前は? だから素晴らしいんじゃないか」
「素晴らしい......?」
「考えてもみてくれ。魔法使いや僧侶は後方にいる。攻撃を受ける機会が少ない。盗賊は素早いから避けてしまう。戦士や騎士は程々に攻撃を受けるだろうが、防御力が高いから痛みが軽減される」
女性が何も言わない。続ける。
「でもタンクは違う。最前線にいる。攻撃を避けない。それどころか積極的に受けに行く。しかも俺は防御力が5しかないから、全ての攻撃をダイレクトに味わえる。完璧だ。非の打ち所がない」
「......」
「それに素早さが105あるから、色々な敵の攻撃を集められる。高速で戦場を駆け抜けながら、あらゆる攻撃を浴びる。想像しただけで震えてくる」
女性が本当に頭を抱えた。両手で顔を覆っている。
「もう一度確認させてください」
女性が顔を上げた。目が死んでいる。
「あなたは素早さ105、防御力5、攻撃力5という、タンクとして最悪のステータスで、タンク職を選択する。そういうことでよろしいですね?」
「最高のステータスだ」
「最悪です」
「最高だ」
きっとこの女神と分かり合えることは一生ないのだろう。残念だ。
「素早さがあれば、より多くの攻撃に体を晒せる。防御力が低ければ、その全てを存分に感じられる。これ以上の組み合わせがあるか?」
「あります。いくらでもあります」
「ないな。これ以上の組み合わせは存在しない」
女性が深い溜息をついた。もう説得を諦めたらしい。
「分かりました。あなたの選択を尊重します」
「賢明だ」
「賢明ではありません。諦めただけです」
正直でよろしい。
「では、最後に職業の特殊スキルを一つ付与します」
新しいパネルが現れた。
【特殊スキル】
・痛覚共有:パーティメンバーが受けるダメージを自分が代わりに受けられる
「これは......」
思わず声が出た。
「痛覚共有スキルです。仲間の痛みを肩代わりできます。タンク職に与えられる特殊スキルの一つで――」
「最高だ。 考えていた貴様への暴言を心から謝罪しよう」
「......はい?」
「最高のスキルだ。仲間の痛みを全部俺が受けられる。つまり痛みが何倍にも増える」
女性の顔が再び曇る。でも構わず続ける。
「考えてもみてくれ。普通なら自分が受ける痛みだけだ。でもこのスキルがあれば、仲間四人分の痛みを味わえる。単純計算で五倍だ。五倍の痛み。素晴らしい。完璧だ」
「そういう使い方をする人は初めてです」
「光栄だな」
「光栄じゃありません」
また同じやり取りになった。でも気にしない。
「このスキルには制約があります」
女性が真剣な顔で説明を始めた。
「痛覚共有を発動すると、あなたは仲間の痛みを完全に引き受けます。ダメージも含めて。つまり仲間は無傷になりますが、あなたは複数人分のダメージを同時に受けることになります」
「完璧だ」
「完璧ではありません。非常に危険です。下手をすれば一瞬で死にます」
「でも素早さが105ある」
女性がまた頭を抱えた。
「もう一度確認します。本当にこれでいいんですね?」
「くどい。完璧だ」
「......分かりました。では、転生を開始します」
女性が手を掲げる。周囲の白い空間が歪み始めた。
「最後に一つだけ」
女性が真剣な表情で言った。
「この世界には、世界を脅かす『魔王』という存在がいます。いずれあなたも関わることになるでしょう。その時、どうか――」
言葉が途切れる。いや、聞こえなくなった。体が光に包まれていく。
視界が真っ白になる。
そして。
―――
目を開けると、森の中だった。
緑に囲まれている。木々の間から差し込む陽光。鳥のさえずり。草の匂い。全てが鮮明だ。
「転生、完了か」
体を確認する。25歳くらいだろうか。前世よりかなり若い。体も軽い。素早さ105の効果か。
それにしても―—
「何も持っていないのか」
完全に手ぶらだった。武器もない。防具もない。服は粗末な布地のシャツとズボンだけ。靴すらない。裸足だ。
「転生者への初期装備とかないのか、この世界」
まあいい。どうせ防具は要らない。武器も攻撃力5じゃ意味がない。
この苦難………
最 高 だ !!!
こうして俺の異世界での生活が始まるのだった。
「す、素早さに......全てですか?」
「当然だ」
俺はそう言い迷わずポイントを素早さに全て注ぎ込んだ。
HP: 10
MP: 10
攻撃力: 5
防御力: 5
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「あの、理由を聞いてもよろしいでしょうか」
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「理に......適って......」
「それに素早さがあれば、逃げることもできる。いや、逃げるというのは語弊があるな。戦術的撤退だ。一度に全ての痛みを味わってしまうのはもったいない。小出しに、計画的に痛みを享受する。そのためには素早さが必要不可欠なんだ」
我ながら完璧な理論だ。隙がない。
「あとな」
まだ続けるのかという顔をされたが、構わず続ける。
「素早さがあれば、痛みの『質』も変わってくる。ゆっくり受ける攻撃と素早く受ける攻撃では、痛みの性質が異なる。高速で移動しながら攻撃を受ければ、その衝撃も変化する。バリエーションが増える。これは非常に重要だ」
「あの――」
「それから、素早く動けば風を感じられる。風を切る感覚は爽快だ。その爽快感と痛みのコントラスト。これがまたいい。快と痛のバランス。陰と陽。ポジティブとネガティブ。この両極を同時に――」
「分かりました」
女性が手を上げて俺の言葉を遮った。
「分かりました。もう十分です」
「でもまだ説明の三分の一も――」
「結構です」
きっぱりと言われてしまった。残念だ。まだ素早さのメリットは山ほどあるのに。運動エネルギーと痛覚の相関関係とか、加速度と衝撃の関数とか、語りたいことは尽きない。
「次に、職業を選択していただきます」
女性が疲れた顔で続ける。
目の前に新しいパネルが現れた。
【職業選択】
・戦士:前衛職。高い攻撃力と防御力を持つ
・騎士:前衛職。仲間を守ることに特化
・魔法使い:後衛職。強力な攻撃魔法を使える
・僧侶:後衛職。回復魔法と補助魔法を使える
・盗賊:中衛職。素早さと器用さに優れる
・タンク:前衛職。敵の攻撃を一身に受ける役割
ほう。色々あるんだな。
「通常は戦士か騎士を選ぶ方が多いです。バランスが取れていて――」
「タンクにする」
即答した。
「......説明を聞いてからでも」
「いや、タンクで」
「どうしてですか」
女性が警戒するような目で俺を見ている。そりゃそうだ。さっきのステータス振りを見ていたら、俺の選択を疑うのも当然だろう。
「敵の攻撃を一身に受けるんだろ?完璧じゃないか」
「タンクは防御力が高くないと務まりません。あなたのステータスは――」
「防御力5だが何か?」
「......まさにそれが問題なんです」
女性が頭を抱えている。大袈裟だな。
「タンクは敵の攻撃を受け止める役割です。防御力が低ければ一撃で倒れます」
「倒れない。素早さが105あるから」
「素早さは関係ありません。いえ、避けるという意味では関係しますが、タンクは避けてはいけないんです」
「なぜだ?」
「仲間を守るために、自分が攻撃を受けるのがタンクの役割だからです」
やはり完璧じゃないか。
「つまり攻撃を避けずに受け続けるんだな」
「そうですが――」
「最高だな。タンクにする」
女性の表情が曇る。いや、曇るどころか絶望に近い。
俺の顔はきっと赤く染まっているだろう。
「あなたは本当に理解していますか?タンクは苦痛を伴う職業です。常に最前線で攻撃を受け続ける。体中傷だらけになる。普通の人間なら避けたがる役割なんです」
「何を言っているんだお前は? だから素晴らしいんじゃないか」
「素晴らしい......?」
「考えてもみてくれ。魔法使いや僧侶は後方にいる。攻撃を受ける機会が少ない。盗賊は素早いから避けてしまう。戦士や騎士は程々に攻撃を受けるだろうが、防御力が高いから痛みが軽減される」
女性が何も言わない。続ける。
「でもタンクは違う。最前線にいる。攻撃を避けない。それどころか積極的に受けに行く。しかも俺は防御力が5しかないから、全ての攻撃をダイレクトに味わえる。完璧だ。非の打ち所がない」
「......」
「それに素早さが105あるから、色々な敵の攻撃を集められる。高速で戦場を駆け抜けながら、あらゆる攻撃を浴びる。想像しただけで震えてくる」
女性が本当に頭を抱えた。両手で顔を覆っている。
「もう一度確認させてください」
女性が顔を上げた。目が死んでいる。
「あなたは素早さ105、防御力5、攻撃力5という、タンクとして最悪のステータスで、タンク職を選択する。そういうことでよろしいですね?」
「最高のステータスだ」
「最悪です」
「最高だ」
きっとこの女神と分かり合えることは一生ないのだろう。残念だ。
「素早さがあれば、より多くの攻撃に体を晒せる。防御力が低ければ、その全てを存分に感じられる。これ以上の組み合わせがあるか?」
「あります。いくらでもあります」
「ないな。これ以上の組み合わせは存在しない」
女性が深い溜息をついた。もう説得を諦めたらしい。
「分かりました。あなたの選択を尊重します」
「賢明だ」
「賢明ではありません。諦めただけです」
正直でよろしい。
「では、最後に職業の特殊スキルを一つ付与します」
新しいパネルが現れた。
【特殊スキル】
・痛覚共有:パーティメンバーが受けるダメージを自分が代わりに受けられる
「これは......」
思わず声が出た。
「痛覚共有スキルです。仲間の痛みを肩代わりできます。タンク職に与えられる特殊スキルの一つで――」
「最高だ。 考えていた貴様への暴言を心から謝罪しよう」
「......はい?」
「最高のスキルだ。仲間の痛みを全部俺が受けられる。つまり痛みが何倍にも増える」
女性の顔が再び曇る。でも構わず続ける。
「考えてもみてくれ。普通なら自分が受ける痛みだけだ。でもこのスキルがあれば、仲間四人分の痛みを味わえる。単純計算で五倍だ。五倍の痛み。素晴らしい。完璧だ」
「そういう使い方をする人は初めてです」
「光栄だな」
「光栄じゃありません」
また同じやり取りになった。でも気にしない。
「このスキルには制約があります」
女性が真剣な顔で説明を始めた。
「痛覚共有を発動すると、あなたは仲間の痛みを完全に引き受けます。ダメージも含めて。つまり仲間は無傷になりますが、あなたは複数人分のダメージを同時に受けることになります」
「完璧だ」
「完璧ではありません。非常に危険です。下手をすれば一瞬で死にます」
「でも素早さが105ある」
女性がまた頭を抱えた。
「もう一度確認します。本当にこれでいいんですね?」
「くどい。完璧だ」
「......分かりました。では、転生を開始します」
女性が手を掲げる。周囲の白い空間が歪み始めた。
「最後に一つだけ」
女性が真剣な表情で言った。
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