溶ける背徳、秘め事の灯

春夏冬

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溶ける背徳

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その笑みには昨日のような穏やかさはなかった。やわらかいままなのに、どこか違う。優しさという名の仮面の下に隠されていたものが、少しずつ顔をのぞかせていた。

「……な、んで」

なんとか声を出したが、それは思っていたよりもずっと小さく、震えていた。

けれど清澄は追い打ちをかけるように、さらに言った。

「そんなの──君と二人きりになる口実を作るために決まってるじゃん」

笑いながら、何でもないことのように言い切る。

逃げるように距離を取ろうとし、あまねは思わず椅子を引いた。しかし清澄に回り込まれ、椅子の背に手をつき挟まれる。

決して早くはない動きだったのに、何ひとつ反応できなかった。

「ひさしぶりだね。……あまねちゃん」

柔らかく名前を呼ばれた瞬間、全身が硬直した。遠いはずの記憶に、直接手を突っ込まれたようだった。

気づけば、清澄の指先が触れていた。逃げる間もなくするりと手を取られ、乾いた指先が、掌の中でゆっくり絡まる。

「せん、せい……」

言葉は、息の間から漏れるようにしか出てこなかった。けれどその頼りなさを見透かすように、清澄の目が細められる。

「やっぱり覚えててくれたんだ。嬉しいよ」

絡みつくような視線。熱を帯びた空気が、すぐ近くで揺れている。

それは、“いま”だけのものではなかった。

十年前に交わした、たった一度のキス。秋の夕暮れ、大切にしまいこんでいたその記憶がいま、皮膚の奥からじわじわと蘇ってくる。

「ねえ、あまねちゃん。あの時はキスだけで終わったけど……」

そっと、清澄の端正な顔が耳元に寄せられる。

「……あの日の続き、知りたくない?」

低く甘い声で囁かれた瞬間、視界がわずかに揺れた。

そして──次の瞬間、唇が塞がれていた。

ふれるだけの、それでいてすべてを思い出させるようなキスだった。

肩が震える。声も、拒絶も、何もかもが追いつかない。まるで記憶の続きに、現実が繋がってしまったような錯覚に陥る。

清澄の指が頬にふれ、顎のラインをなぞる。その動きひとつひとつが、あまねの理性を追い詰めていく。

「んっ…ふ、ぅ…っ」

唇の隙間から、熱を押し込むように深く侵入してくる。口の中全体を撫でるように、ゆっくりと舌をからめとられ、苦しさから細く息が漏れた。

清澄の手がゆっくりと頬に触れ、首筋にすべらせるように熱を落としていく。

(だめ……にげなきゃ)

頭のどこかでずっと警鐘が鳴っているのに、身体が動かなかった。それどころか、まるで引き寄せられるように身を任せてしまっていた。



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