戦いに負けた魔王はヤンデレ勇者に囲われました

雪雲

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ヤンデレ勇者と新生活

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「二人が致している事を期待して来たのも本心ですが、本国の様子を伝えに来ました」

 なんだ、マルガレーテか。どうしたの?
 と別段興味無さそうにした勇者に向かい、欲望に正直な魔術師は告げる。やはり重要な案件も有ったか……と頭を切り替える。

「俺の前でそんな話をしてもいいのか?」

 迂闊なマルガレーテに、呆れた様に嘲笑混じりの尋ねる。

「別にいいですよ。貴方にも関係ある話です。ここから先は座って話しましょう」

 何故そんな事を聞くのだとでも言う様に、当たり前だとでも言い切るマルガレーテに促され少し上等程度の、ダイニングセットの席に着く。
 さも当たり前、とばかりに椅子をがたがたと鳴らし勇者は魔王のすぐ隣に陣取りさらさらと銀色の髪を撫でる。

「無意味に触るな」

「意味ならあるよ。あんなにこがれた君に触れられて、触れて確かに存在する君をしっかりと認識できる。ふふっ君に触れてる……夢みたい」

「よし分かった。言い直す。触るな」

 うっとりと宝石でも眺める様な調子で髪を梳く手を止めない勇者に、すっかり据わった目で言い直す。心なしか金色の虹彩がくすんでいる。

「凄いね。何でも斬れる鋭い刃みたいに綺麗なのに、こんなにさらさらで柔らかい」

「話を聞け。そしてそこ、拝むな」

 残念ながら触れる手は離れない。仰け反る様に身を引いてもじりじりとにじり寄って来るだけだ。
 そして真面目な話を持ち出した当のマルガレーテは、噛みしめる様に目を閉じ胸の前で祈る形に手を組んでいた。
 ただの人間よりも頑丈な魔族の筈なのに、胃が痛む気がする。

「……私勝手に話すのでそのまま触れ合って居てください。やる気がでるので」

 こほん、とひとつ作り物の咳ばらいをして改めて話を再開する。

「本国の方ではやはり早々に捕えたのなら魔王を差し出せ、早急に処刑すべきという声が強いです」

 どうやら予想の通りにアタマオカシイ勇者の独断らしい。
 
「え? ヤだよ? 僕の存在意義を奪う奴ら殺して回ろうかな?」

 何でそんな事言うの? とばかりに間抜け声を出しつつ物騒な事を述べる。

 普通の思考回路を持っていれば、数世代にわたりいがみ合い、相互理解不能な怨敵の親玉など早々に消し去りたいと思うだろう。そもそも勇者など、大規模な戦闘を避け少数を敵陣本拠地に放り込み、敵の王を殺そうなどと言う蛮行の産物だ。
 この現在進行形で擦り寄って来る勇者に、故国への想いは無いのだろうか。

 因みに魔王の方は微妙だ。そもそも人間に『魔族』と一括りにされた種族の癖が強すぎて、国主の心労がとんでもねぇ事になる。当然親しい者や思い入れのある地や理想と信念があっても、それが追い付かない程の過労が全力で追いかけてくる。

「ですが、現在魔族の方でも指導者不在でありながら死んだ訳でもなく、という事で内部で荒れに荒れているようです。そしてこちらは完全に魔王の力を抑え込んだ上で手中に収めている状態。こちらに害は無く直ぐ傍で打倒した当の勇者が見張り、あちらは混乱で勝手に国力をそいでいる……」

 なるほど……、勇者当人の思考はともかく都合の良いカタチに収まったという事か。
 それに、不明だった自国の状態を僅かにだが知り、顔を顰める。
 さもありなん。
 基本的に、あいつら全員我が強い。一番上の重しが消えれば、それは燥ぎ回るだろう……。
 ずつうがいたい。

 完全に苦虫を噛みつぶしたような顔の魔王と、得物に飛び掛かる瞬間の猫よろしく瞳孔を広げて口元だけで笑みの形を作る勇者が並ぶ。
 異様な光景だ。

「と、養父おとうさんが苦し紛れの言い訳をして、一応議会を納得させました」

 言い訳かっ……!
 
「なのでいまの所、殺して回る必要はないですよ。ユーちゃん」

「そう? 良かった! 出来るだけ君が視界に入る所に居たいからね」

 心底嬉しそうに、物騒な表情をしまい喜色いっぱいの声を上げて改めて魔王に抱き着く勇者の図。
 誰にも渡しはしないとばかりに全身で触れ合おうとする。接する体に害意も悪意もなく、ただただ『好きだ』という主張の熱しかない。

 悍ましい程の圧で、根源も分からずに一方的に押し付けられる薄ら寒い好意だ。なのに、一瞬その熱を日だまりの温もりの様だと誤認しそうになるのは、疲れているせいに違いない。

「一応、私も軍部と議会に乗り込んで『ユーちゃんに危害を加えたらこの場で催淫魔法ぶちまけて強制乱交会場にします』と脅して来ましたが、刺客などには気を付けてください」

 あんまりにも品のない上に、悲惨過ぎる脅しにゴホっと咽る。本当にこの魔術師は害悪にしかならないようだ。

養父おとうさんが言いくるめても、こちらは無力化された魔王に期待されて居なかった使い捨ての勇者の子孫二人です。手練れ数人で殺せると思われて居るので、気を付けてください」

「……お前たちが俺を囲ってる理由が尚更分からないな……」

 自国の者についでとばかりに殺されそうな立ち位置に居ながらも何故、という疑問が増す。

「そんなの、すきだからだよ。君に会う為だけに僕は『勇者』になったんだから。大丈夫絶対絶対絶対ぜったい、僕が死ぬか『魔王』に殺されるまでずーっと守ってあげる。あいし続けてあげるから、安心して」

 執念の様に縋りつき微笑む顔には何一つ安心できる要素がない。
 利害や思惑もなく、ただ『好きだから』なんて幼子のような衝動でも表情が不穏なのだ。
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