戦いに負けた魔王はヤンデレ勇者に囲われました

雪雲

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ヤンデレ勇者と新生活

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 伝える事は伝えましたので、本当に気を付けてください。と心配する言葉を吐きながらも淡白に、マルガレーテは帰って行った。
 どこへ、というのは不明だが。
 勇者当人も、わざわざ忠告しにやって来た仲間に、大して興味もないように、うん、とだけ頷いて見送りもしない。

「そうだ。僕朝ごはん作ってたんだった」

 マルガレーテのせいで忘れてた、と呟く。
 因みにそこでようやく魔王から離れる。ああ、そう言えば、訳の分からないタイミングで意味の分からない照れ方をしての逃走時にそんな事を言っていたな、と思い出す。

「そもそもお前調理なんかできるのか?」

 頭おかしい、と言う認識しかない勇者だ。常人が行う通りの営みを行っているイメージが無い。
 
「加熱すれば過食可能になるんじゃないの?」

「……よし。俄然不安になってきた」

 やはり変人は変人だった。と腑に落ちる感覚と、当然の様に不安が這い寄ってきた。毒を盛られた位でどうという事は無いが、普通に不味いモノは避けたい。

 当然の様に立ち上がり、屋敷の広さにしては控え目なキッチンへ向かう。
 何をどう考えても虜囚である筈なのに、勝手に動こうが気にした風も無く後をついて来るだけだ。
 それ程この首輪と鎖の性能を信じ切っているのか、自身の腕の方か……。
 
 意味の分からない執着から来る勢いは無駄に有るが、正直こいつ強いのか? という疑問には普通にウチに居た奴の方が腕が立つ、という感想だ。

「思った以上に酷いな」

 実体がない癖にしゃらしゃら鳴る鎖と、無言のまま追従してくる勇者を引き連れてやって来たキッチンで溜息を吐く。

 鍋の中身は色のついて居ないお湯だし、浮いた野菜は大きすぎるか小さぎるナニカだ。ついでに皮を剥いた形跡もなく、調理台には点々と血が落ちている。

「えっと、えっと、普段はもう少しマシなの! 違うの! ほんと! ちゃんとできるんだけど……、君の口に入る物だと思ったら緊張しちゃって……」

 再び恥じ入る様にわたわたとしながら顔を覆って言い募るが、正直そのあたりに散っている血液の出所が気になって仕方ない。
 この惨状を恥ずかしがっているのなら、うっかり切ってしまった、と言うのが妥当だろうが、まさか故意に混入させたなんて事はないだろう。というかそんな事有って欲しくない。

 はぁ、と一つため息をついて放置されたままの包丁に手を伸ばす。
 一応ちっぽけな、調理の為の器具だとは言え刃物は刃物だ。人間は脆い。この程度の刃物でも死ぬときは死ぬ。
 それを目の前で掴んだ所、勇者と言う名の変人は別段身構える事もなく興味深そうに除き込むだけだ。

「君は料理した事あるの?」

 凄く意外そうな顔で見上げて来る。
 ふわふわと隙だらけの気の抜けた顔だ。つられて毒気が抜けそうになるが、心の内のみで首を振ってその思考を振り払う。

 落ち着け。相手は毒気が形を取って服着て歩いてるような類の人間だ。

「ある訳ないだろ。そんな物に割く時間、無いからな」

 こちとら政務と内輪もめに忙殺されていた。調理どころか食事だって時間を惜しんで魔力でドーピングする事もちらほら。
 それでも作れないことは無い。むしろ何をどうしたらこんな惨状になるんだ。

「料理なんか、物体の特性と味を知ってればどうにでもできるだろ」

 これは加熱すればこうなる、苦みがある、一度食べたがあの調味料と熱が加わりあんな味だった。では、この辺りを組み合わせればあの味になるだろう……。そんな風に組み立て道具の使い方を推察すれば料理に成るだろう。

 現に、勇者の生み出した憐れな残骸鍋の中身にちょいと爪の先を浸し、そっと口に運び、どう修正していけば良いかを組み立てていく。

「……君天才……? 凄い、そんな事、普通出来るの!?」

 よしこれならまだ料理という単語の冒涜にはならない程度の味だと頷けば、うろうろとただ見ていた害悪勇者がきらきらとした目で見ている。

 あんまりにも、混じりっ気なしの賞賛一色の視線だ。
 魔族の主宰に祭り上げられていた時で、ここまで邪念無しにきらきらとした目でを向けられた事はない。

「凄い、すごい! これ、多分美味しいって事でしょう? 君は本当にすごいんだなぁ」

 面白みのない、ただ黒いだけの虹彩がこんなにも綺麗に映る物だろうかと細められた瞳を見詰めてしまう。

「って他人の指を舐めるな……!」

 心底嬉しそうに、ただただ純粋な視線にさらされて、一瞬こんなに心の底から打算なく褒めらるのは悪くない、なんて思った所で正気に戻る。
 あろうことか勝手に手を取り、味見にちょんと突いた爪先、どころか指先を口に含んで舐められていた。
 ヒトの体温が直に伝わる、何とも言えないぞわりとした感覚に絆されそうになったほんわりした心境と一緒に、害悪変人の腕を振り払って叫んだ。

 やっぱりこいつは毒気の塊だ。

 振り払われた当人は、少し残念そうにしているだけだ。
 
 目覚めてから既に何度目に成るかの叫びを発した、威厳が何処かに行ってしまった魔王は若干の涙目で、全力で手を洗いだした。
 無駄に指先を撫でる様に絡み付いた舌の感覚を洗い流す為と、うっかり変人に絆されそうになった自身への戒め的にそれはもうがしがしと全力で洗った。
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