祝福のキスが、婚約コースに!?【番外編追加】

Hikarinosakie

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想いをのせて【R18】

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*****



いつもより、少しだけ早い、太陽が上がる頃。

リィナはベッドから起き上がり、アリスに身支度を手伝ってもらっていた。
その時だった。
妙にお腹が熱くなったのは……。
「……え?」
驚いて、思わず座り込んでしまう。

「リィナ様……!?」
アリスのあわてた声に、大丈夫だと告げ、立ち上がろうとしたのだが。

「あ……きちゃったみたい」
じわりとスカートを血で濡らしていたことに気がつく。

女の子の日……。

(そういえば……この国に来てから……最近は止まっていたのよね……)

(妊娠しているかな?ってどこか期待していたのに……すごく残念……)

「すぐに、お着替え用意しますね」

「ごめんね、アリス。お世話かけて」
仕事の量を増やして申し訳ない。
完全に油断していた。


そして、着替え終わったタイミングで、ヒューが訪れた。
珍しく顔色が冴えず疲労感残る重い足取りで。



「……え?敵が見つかった?」
「はい……アストエル殿下にはお伝えしましたが……」
少し遠い目をする。

ヒューがなめらかな手さばきでリィナの髪型を纏めていく。
今日は髪を全て上げてもらって動きやすくしてもらった。

「驚いたわ……1週間で突き止めて、……犯人は隣国のもので……しかもこの国まで連れてきたですって!?」

「まぁ……どんな理由で呪いに、手を出したのか。後でリィナ様も直にお聞きください。アストエル殿下から……」

先程までのことを思い出して、ヒューは込み上げてくる激情を無理やり抑えていた。


(まさか……あんな理由で……)

(それに……)

ちら、と、目の前に座るリィナに、目を向ける。


殿下の尋問に立ち会った時の事を思い出して、拳に、自然と力が入る。

よくも大切な俺の姫君に。


(殿下に知らせる前に……俺が犯人を屠れば良かった……いや、今からでも遅くはない……?)

一瞬、ヒューの瞳に暗い陰がちらつく。

(何にせよ、リィナ様に、"これ以上”危害を加えられる前に、敵を捕まえることが出来た事だけは良かったのだが……)


「ヒューは、有能すぎるわ」
ふっと、投げられたリィナ様からの光の言葉。

リィナは、信じられないという表情で、目の前でパチパチと瞬きをしていた。

その顔があまりにも可愛らしく感じて、ヒューのその闇さえも軽々と吹き飛ばされ。

つい、口元が緩んでしまう。

「……殿下が執務室でお待ちです」

たった一つの願い。

それさえ、叶えられれば、何もいらない。

(貴方がどうか幸せでありますように……)

そっと、ヒューはリィナへと向けて、祈った。

「分かったわ……」
リィナはヒューに促され、アストの元へと向かった。





アストがいつも仕事で使う執務室にやってきた。
「リィナ……よくきてくれたね」
「うん、ヒューに軽く聞いたけれど、犯人が捕まったようね?」

きょろきょろと周りを見るも、執務室には私とアストしかいない。

「あぁ、ここには連れてきていないよ。立ち会わせようと思ったけれど、犯人に会わせる状況じゃなくてね。リィナには目の毒だし」

「犯人がどうかしたの?……それに毒って……一体どなただったの?」


(私に会わせられないほどの、凶悪犯だったのかしら)

心臓の鼓動が早くなり、ドキドキと鳴るのが自分でもわかる。

「根源は隣国の宰相だ」

「へ?……ほんとなの?」
(あ……わたしったら、はしたない)
咄嗟に口を手で抑えるも、もう遅い。

「"宰相はちょうど我が国に潜んでいて、何か企んでいたところ、不運にも暴漢に襲われたらしい。……酷い有様だった"」
そういう体にする。
今までどんな状況でも祝福のキスで救済業務をおこなってきたリィナ。

そんな女神のような彼女の目や、耳には、これからは綺麗なものだけ映っていてほしい……そんな思いで嘘をつく。

(え……?ヒューは連れてきたって言っていたけれど……聞き間違いだったのかしら)
違和感を感じながら、リィナは首を傾げる。


アストは静かに手を差し出した。

「リィナ、おいで」
「……え?」

恥ずかしすぎて抵抗したのだが、気がつけば、ちょこんとアストの膝の上にいて、ぎゅうっと力強く抱きしめられていた。

「どうしたの?……なんだか変よ?甘えたくなったとか?」

「違う……まぁ、確かに取調べがキツくてね……見たくないものを見た」

(強い快楽に支配されすぎたのか、身体を震わしながらも奇妙な動きをするものだから、思わず蹴ってしまった)


「あ、そういうこと……取調べなんて、優しいアストがするにはきついわよね……」

そう言うと、アストの指先がぴくりと動いた。

「アストのことだから、私情と切り離して、きちんと丁寧に取調べを行ってそうだけれど」


「そ、そうだ……優しく、丁寧に調べた。当たり前じゃないか」

(嘘だ……本当は徹底的に、逃げ道も残さず追い詰めた……)

(けど、呪いの詳細を聞いた、その瞬間ーー)

何かがぷつりと切れた。

気づけば剣を引き抜いていた。

いや、抜いていたことにすら気づかなかった。

ただ視界が跳ね、宰相の首筋から細い赤い線が滲むのを眺めていた。

(……理性が、残っていたらしい)

薄皮一枚だけを裂いたその刀は、まだ「殺してはいけない」という自制心が働いていた証拠。

それでもーー


淡々と、どこか自分ではないような、そんな感覚で。

頬を張り、指を砕き、肋骨を蹴り上げてしまった。

呻く声が響くたび、冷たく硬い自分の胸の内が、ますます暗く染まっていくのが分かった。


(それでも、自分の"尋問”は本当に……生ぬるい。……きっと長兄ならば……もっと残虐な方法で……)


ヒューにとめられなかったら、あやうくーー。

しかし、その彼も込み上げてくる激情に、耐えていたようだった。


「アスト……?なんだか顔が、強ばっているわよ、大丈夫?」
ふっと、暗く、冷たい視線を落としていたアストは、リィナに顔を向ける頃には、いつもの優しいアストの顔になっていた。


「実は……リィナ。宰相の動機を伝える前に、ひとつ悪い知らせがある」

「な……なに?」

「だが、これだけは先に知っていてほしい。もう解呪はさせた。安心して欲しい」

「…………え?」


アストの言い方に違和感を覚える。

その言い方だとまるで…………。


(まさか……)

私の青ざめた表情を見て、アストも、言いづらそうに言葉を発する。

「リィナ……君にも呪いがかかっていた。恐らく、俺と同じ日に」

「え……!?そんな、どうして?私は別に元気だったわよ?」

「……子供を授からなくなる呪いを……かけられていたようなんだ。」

アストの言葉に、頭を殴られたかのような衝撃が走る。

リィナは驚きに目を見開いて、唇が震えた。

「え……じゃあ、今朝、お腹がじわっと熱くなって……それで……。それは、解呪したから?」


「……そうだと思う」
アストの低く慎重な声が返ってきた瞬間、リィナの瞳に涙がじわりと滲んだ。

「ご、ごめんなさい、気が付かなくて。私……どうしよう」


アストの肩に置いていた手が震える。

「アストとの赤ちゃん、授からなかったのは、私のせい……?」

普段は明るく気丈なリィナだったが、流石にこれは青天の霹靂で動揺してしまった。

だからか、アストの前で涙を流してしまったのは。

静かに頬を伝う涙が、泣くつもりはなかったのに流れていく。

「え……あ……ごめんなさい。違うの、泣くつもりなかったのに」

アストも、驚きに目を見張る。
「リィナ…………!君のせいじゃない」


「でも……でも、アストとの赤ちゃん……本当は、そこに来てくれてたかもしれないのに……」

リィナは自分のお腹にそっと手を置いて、震える声で言った。

「リィナ……」

アストはリィナの優しさに胸をうたれた。



「私のせいで、居られなくなっちゃった……?こんなに、こんなに……欲しかったのに……」

その小さな手を、アストが両手で包み込む。

「リィナ……違う。君は何も悪くない。全部……俺が……」
(本当に、早く対処出来ていれば……)



アストに、震える肩を優しく抱き込まれた瞬間、リィナの張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
「違うの……違うのよ……。アストはいつも私を守ってくれてるじゃない……。
でも……それでも……私、どうしても……赤ちゃんに謝りたいの……ごめんねって……」

「リィナ……」

アストは堪えきれずに、その額を自分の額にそっと寄せた。

アストの瞳にも光が揺れた。
リィナの優しさ、悲しみ、そして見えない命への想い。
すべてを受け止めるように、もう一度強く彼女を抱き締めた。

(そうか……リィナは、そんなふうに思ってくれるんだな)

胸がぎゅっと熱くなる。
この愛しい人を、もっと守りたいと思った。


「もう……二度と、そんな悲しい想いをしないように……する。ふたりで頑張ろう」

「うん……うん、ごめんね、アスト」


しばらく、ふたりで静かに抱きしめあっていた。


(やっぱり、アストとの赤ちゃん欲しいな……だって、こんなにも優しい人との子だもの、きっと素敵な子が、生まれる気がする)



「それで……結局……動機はなんだったの……?」
涙を拭いながら、アストに問いかける。


「それが……」

アストはなんとも言えない苦い表情になった。




****
それは1年半前のこと。

ファルベルス王国の宰相は、ベーグ国にやって来ていた。

王族や貴族、騎士が集まる謁見の最中……。

緊張していた彼は、ぎこちないながらも頭を垂れた。

「ベーグ王国におかれましては、聖女の花の祭典の儀式、無事に終わりましたこと、まことにおめでとうございます」

彼の言葉が言い終わらないうちに、どこからか、息を飲む気配が複数立ち上がった。

(……なんだ?)

(挨拶には間違いがないはず……ならば、一体なにが)


そう思った瞬間、彼の頭から、ズルリとそれが床に落ちた。



それはーー銀髪のカツラ。


「んな……!!」


咄嗟に掴んで頭にのせるも、おそらく上手くはまっていなかったようで。


周囲から、堪えきれない、かすかに笑う吐息がもれる。

(なんたる屈辱……!!)

(こういう時は見て見ぬふりが礼儀だろうに……!)


ベーグ国の王は、眉をしかめただけ。
隣にいた王子たちは目を伏せ、宰相に配慮している様子が伺えた。

だが、宰相にはそうは見えなかった。

(馬鹿にしおって……!!)

「そなた……いや。大義であった。皆の者、静かに。この方は国賓だ。丁重にもてなすように。宰相……この国の者が無礼を働いた。許して欲しい」


「……いえ。私の方こそ、無様な失態を演じてしまい……お詫び申し上げます」


(ぇえい、そう言うしかあるまい!許せん……この国のもの達に……どうにか意趣返しを……!)



「だ、そうだ」
アストの語りに、リィナは涙が引っ込んでしまった。

「……へ?」
ふたたび、姫らしくない言葉が口から出てしまう。


「何よそれ……そんな理由で……?」

一気に脱力してしまい、アストの肩にぐったりともたれ掛かる。

「リィナ……!?」


「ごめんなさい……動機はどうであれ、……解決したと思ったら……安心しちゃって」

(うさ耳。猫耳。にゃん言葉……可愛いだなんて思って呑気に考えていた自分も許せそうにないわ、反省しなきゃ)


「正直……確かにそんな事もあったなと、覚えているくらいで」

「そうよね……まさか、こんな事になるとは誰も思わないわ」

「我が国で彼の尊厳が傷つけられたことは間違いない。……だからといって呪いに手をつけるのは許されることではない」

「その通りだわ……」

「それに、無関係だったリィナにまで手を出すとは、許せない。……きっとヒューが調べてくれなかったら。俺たちは今も犯人が分からなかったままだろう。ヒューに、感謝している。もちろん、リィナにも。」


「……ありがとう。それに、私の代わりに怒ってくれて……。そうね……ヒューの柔軟な考察力には感服しちゃう」

「あぁ。そして、どうやら宰相の実家は裏では呪術家としても有名だったらしいんだ……」

「え……そんな家系があるだなんて」

(呪いに特化した職業があるということ……?それはつまりーー必然的に依頼する人も居るということ)


「今回のことでこちらもきちんと防御する事は大事だと教わった。有識者会議を行い、さらなる新しい呪術にも対抗出来るように、他国から専門家を呼び、その方面でも強化していくことになった。身を引き締めておかなければならない」


「アスト……」


真剣な眼差しのアストに、胸がきゅっとなる。

ーーでも、それは一瞬だった。





****



「……え?なに?……どういうこと?」

防御が大事だからとその練習を……そんな風に言われて連れてこられたのは。


白と、金縁を基調とした、一見、とても可愛らしいお部屋。

白いテーブルに、白いレースがふんわりとかかる窓辺。

「わぁ、可愛らしい」


リィナは目を輝かせた……。


けれど、ふと、違和感を覚えた。

鎖付きの大きなベッドに、壁の1面のみ鏡張り。


「……え?」



何故か不安が込み上げる。

戸惑っている中、アストがゆっくりと背後の扉を閉めた。

カチリと錠の下りる音に、小さく肩が跳ねる。

(なんで鍵をしめたのかしら……)

「アスト……?なぁに、これ、鎖……?何かのパーツかしら。不思議な部屋ね」


周りを見渡すと、可愛らしい調度品と、よく分からない道具が並べられている。

「リィナ……ほんと。そういう、何も分からない無垢なところが可愛いな……」

(リィナのこの純粋無垢なところを、きっとヒューが守ってきたんだろう)

そう思ったら強い嫉妬心を感じてしまう。


「また無垢だなんて言って……私はもう立派なレディよ。ここ、どなたの部屋?」


「1番上の兄上……キースがくれた部屋だよ、私たち用に」

「え?……キース様が?……それなら、お礼を言わなきゃ」


「兄は人を弄んだり、からかうのがすきで……拷問……あ、いや、尋問も得意なんだが……ここはそんな兄が良かれと思って俺たちのために用意してくれたらしい」

(え……?……ごうもん?……今の聞き間違いかしら)


リィナはアストの言葉を理解しないまま、彼から優しく左手をとられた。

そして、アストは。

そんなリィナに優しく笑いかけながら、手首にその鎖をひとつ繋いでみせた。

ーーカシャン。


「へ?…………これって」

じゃらり……金属が擦れ合う音が鳴る。


一瞬、自分の手首に繋がった鎖を見て思考が停止した。


その鎖は何度観ても、ベッドに繋がっている。


(……まさか……!この鎖って……!?)


ユリウス様といい、キース様といい、なんで弟夫妻にこんなものを……!?


「リィナ……ダメじゃないか、油断したね?防御は大事だと言っただろう??」


「え?……え?まさか……?」



(アストは扉の鍵をかけていた……つまり、ここで……?)

唇が恥ずかしさで震える。


「リィナ……俺たちの子供のためにも、仲良くするのは大事だと思うんだ」

「ここで愛を育んだら、きっと俺たちの元へきてくれる」

「リィナとなら、どんな場所でも絆を感じられると思うんだ」

「え……?口が上手い?……言ってなかったか?俺、外交の交渉役としてよく活躍してるんだ」

(アストが、こんなに必死になるなんて)

(ちょっとだけなら、いいのかしら)


なんて、絆されたのが悪かったらしい。

ベッドに寝かされると、目隠しまでされてしまった。


「あ、ちょっ……どこ触って」


暗闇の中ではアストの息遣いや、たまに触れられる指先の刺激に、意識が集中する。

「……リィナ……どこが感じやすい?」
唇、顎、胸……そっと撫でられるように、つつかれるように、焦らされながら触れられる。

「ひゃあ……っ」
自然、甘い吐息を零してしまう。


「……君の……悶えてる姿……本当に可愛いな」


優しさと甘さ、それでいてどこか意地悪な笑い声に、下腹部がきゅんとしてしまう。


けれど、どこか、いつものアストでは無い気がした。

先程の、一瞬だけ垣間見えた、冷たく、どこか固い表情のアストを何故か思い出す。


「はぁっ……あっ……アスト……?」

(雰囲気が……)


アストが、リィナの頬にキスをしながら、ドレスを脱がしていく。

「リィナ……ドキドキしてるみたいだな」

その手つきは優しいのに、することは酷く羞恥心を煽るものだった。

「ん……リィナ、今度こそ、可愛い赤ちゃん作ろうな」

耳元で低く、けれども甘い言葉がかけられる。

「え……それは、……もう、アストったら」

照れたような笑みのリィナに、どこか楽しそうに笑うアスト。

「でも、リィナ……まずは俺から逃げるところを練習しないとな」

「ひゃっ……!」

アストの手が、リィナの身体に触れていく。
その触り方はどこまでも私の熱情を高めてくる触り方で。
決定的な愛撫ではないのに、身体の奥が疼いてくる。

アストに、精神すら犯されているかのような、不思議な感覚だった。

「あっ……ふぁ……やぁ……」

リィナの声が、甘く、どこまでも部屋に響く。

「リィナ……その左手の鎖はね……実は、リィナなら簡単に解けるんだ」

「え……?」

「それに気が付かない時点で……リィナは俺に囚われたいって事であってる?」

ふっと、目隠しを外される。

急に明るくなって咄嗟に目を閉じるーーけれど、目を開けた次の瞬間、アストが優しい眼差しで、こちらを見ていて……。
きゅうっと胸が締め付けられ、リィナの心がアストに捕らわれた。

アストの、顔が近づき。

ーーキス、される。

「はぁっ……んん、アスト」

「今日はもう、祝福のキスないから、ゆっくりキスを楽しめるな……」

舌を絡められ、吸われ、舐め合う。

(こんな……溺れるようなキス……恥ずかしいのに……)

「はぁ……アスト、好き」

「俺も……好きだよ」

息が触れる距離で言われ、リィナはまた心臓をくすぐられる。

アストの唇が首筋を這い、ちゅっと音を立てて何度もそこに口づけを落とす。
大きな手が胸を優しく揉みしだき、くりくりと頂きを弄ぶ。

「あっ……や、……」
快感を逃がそうと身体をねじりたくても、鎖が邪魔をして上手くいかない。

「リィナの感じるところ、いっぱい見せて」

「そんな……恥ずかしいわ……あっ!……んん」


アストが首筋や胸に執拗に吸い付いていく。


「リィナは俺のもの……だから印をいっぱいつけておきたい……」

アストは嬉しそうに笑う。
手つきは、いつもと変わらず優しいのに……、こちらを見る彼の眼差しや言葉は、いつも以上に熱がこもり、獰猛な肉食獣が宿っているかのようだった。

「リィナ……本当に、どこもかしこも食べたくなる……」

今度は胸の先端を執拗に舐める。

ちろちろと舐めるよりも、大きく舐める方がどうやらリィナは好みらしい。
(小さくて……可愛い……)


「ああっ……やぁ……そこ、気持ちいい……」
舐める度に太ももを摺り合わせ、羞恥に顔を歪めるリィナに、ぞくりと昂りが反応する。

(……さっきまで尋問していたせいか……妙に高ぶって、リィナを可愛がりたくなるし、同時に虐めたくなる……)


「だめっ……感じすぎちゃう……ぁあっ」

身動ぎすると、じゃら……と鎖が鳴る。
引っ張っても、とれない。
けれど、アストはわたしなら簡単に外せるという。

どういうこと?


「逃げないのか?」
唇を拭い、そっと太ももの内側に手を伸ばす。
優しく、さするような手のひらの動き。
(リィナ……濡れてる……)



「あ……!!」
たまに、大事な秘所にアストの指先があたった。

(わざとしてるの……?)


それでも、リィナは羞恥に苛まれながらも、想いをのせた、小さな声を上げる。

「だ、だって……こうしてる方が……アスト、私に夢中になってくれるかなって」

(言ってしまったわ)


かぁっと顔が熱くなり、視線を逸らす。

アストは一瞬、目を大きく見開いて、息を呑んだ。

「……は……?」

その驚き顔が可愛くて、だけどますます心臓が早鐘を打った。

「本当は、私がアストにつけたい」

「アストを、閉じ込めて、わたしだけのものにしたいの」

「でも、貴方はこの国の王子様だから……皆のものでしょう?……だから、こういうプライベートの時間だけは、貴方を独占できるから……逃げたくないの」

アストが、言葉に詰まったかのように、黙り込む。

「……はぁっ……」

アストの息が荒くなり、そのままベルトを外しズボンを腰までずらした。
硬く昂ったそれが太腿に触れた瞬間、リィナはびくっと震える。

リィナの太ももに割って入ると、濡れていたそこに自身の昂りを、激情のままにあてがう。


「ひゃっ……アスト??」

大きなそれにリィナは目を奪われる。


「リィナ……ほんと、俺を翻弄させるのがうまい」


ゆるゆると浅く入口を刺激する。
くちくちと音がなり、リィナの、耳元にもそれが届く。

「あっ……やぁ……そこ触っちゃ……」
指でリィナの粒を刺激すると、びくびくとリィナの腰が跳ねる。

生理的な涙がリィナの、瞳からこぼれ落ち、その潤んだ瞳に、そこでもアストは気持ちが高揚しさらに高ぶってしまう。


「あっ……やぁ……っ、そんな……」

「可愛い……可愛すぎて、もう我慢できない…………っ」

アストの荒い息と共に、ぐっと深く押し込まれる。

「……っぁあっ!!」

腰を奥まで打ちつけられ、頭が真っ白になる。

アストの苦しそうな、それでいて嬉しそうな顔が視界に焼き付く。


「リィナ……リィナ……ごめん、余裕が無い」


アストが腰を深く打ちつけるたびに、リィナの中で熱が掻き混ぜられ、甘い声が勝手に零れた。

「やっ……あっ……アストっ……そこ……つ、突かれると……っ」

「んっ……きゅうって……締めて……リィナ……」

浅く、深く。
リズムを変え、執拗に奥を突き上げられ――

「やぁ……またっ……またいっちゃう……っ」

アストに抱き込まれるようにして腰を揺すられ、リィナは何度も小さく震えた。

その度にアストも奥で熱を吐き出し、小さく震える。

「はぁ……っ、まだ……まだ足りない。リィナ……っ」


アストがくちゅ、と自分の昂りを押し込み直し、また突き込む。

「やっ……あ……!もう……だめ……」

繋がったところからいやらしい音が響き、その音が耳に届くだけでまた奥がきゅうっと収縮する。

「リィナは…………俺のものだ。……ここは、おれだけの形になってるかな」

「っ……そんなこと……いわないで」

祝福のキスもないのに、アストの荒い息遣いと熱い体温、それに囁かれる愛おしい言葉だけでーー
リィナは何度も、甘く高みに攫われてしまう。

腰を深く打ちつけられるたびに、幸福な痺れが全身を駆け抜けていった。
小さく震えながら、奥からせり上がる快感に溺れていく。

「リィナ……リィナ……っ」

名を呼びながら奥を深く貫かれ、リィナは何度も息を詰め、小さく啼き、縋り付くようにして抱きしめる。

「んっ……あっ……やぁ……もうっ……」


アストも必死に堪えるように肩を震わせ、その熱をまた奥深くに吐き出す。

「リィナ……まだ……奥が、俺をきゅうってしてる……」

ふわっと口元を緩ませる彼。
その言葉だけでまた身体が小さく震えてしまい、潤んだ瞳でアストを見上げる。

どうしても、言いたかった。


「アスト……愛してる……」

「リィナ……っ」

まるで堪えきれないというように、アストはリィナを抱きしめ、さらに奥まで繋がった。

「俺も……愛してる……っ」
掠れた声で何度も囁いた。


***
ーーカシャン。

鎖が外される。

それを見てリィナは驚きに目を見張った。


「鍵……かかってなかったの?」

「そうだよ。……それに、鍵がかかってたとしても、リィナは俺にたった一言言えば良かったんだ」


「鎖を外してって」


「そしたら、外してあげたんだけど……」
困ったように笑うアスト。
けれど、その口元は緩んでいた。

「わ、私……そんな」
かぁっと頬が染まる。
どれだけアストと一緒にいたかったのか、その気持ちが知られて恥ずかしくなった。

「可愛い……」
そんなリィナの恥ずかしがる様子を見て、アストが頬にキスを贈る。

「リィナとまだいたい」
眉を寄せながら愚痴をこぼした。

「アスト……でも……お仕事あるわよね?」
「くっ……言わないでくれ」
「で、でも、あれから結構な時間が経つと思うの……皆アストを探してないかしら……」
「分かってる……ただ、もう少しだけそばにいさせて」
「アストったら……ふふ、少しだけね」

二人で静かに抱き合い、キスをした。
「これからも、アストと一緒に過ごせるように、私もアストを支えるからね」

「あぁ、ずっと……一緒に生きよう」

アストは嬉しそうに目を細める。
そうして、もう一度深くリィナに口づけた。
まるでこの幸せを永遠に閉じ込めるように。






ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでありがとうございました
【お知らせ】現在 半分吸血鬼、の幼なじみもの小説を書き溜めしている最中です。それも今後お楽しみに

感想、ハート応援等、反響がありましたら、またいつか……^^

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サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

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