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㉗どうしたら君のそばにいられる?
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『アリセア……』
「っ……ん、だれ?」
誰かに呼ばれた気がして、アリセアは、ゆっくりと瞼を震わせ、目を開けた。
「アリセア!」
目の前には、整った顔立ちのクラスメイトーーフォートが、ほっと安堵した表情で覗き込んでいた。
その肩越しには、晴れ渡った青空が広がっていて。
「よかった……。もしかして、もう目を開けてくれないんじゃないかと思ったよ」
額に汗をにじませた彼が、焦りを滲ませながらも優しい声で語りかけてくる。
「ん……フォート……?」
アリセアは自分が、地面に座ったフォートの腕の中にいることに気づいた。
「本当に、気がついてよかった。演習中に倒れたんだけど、……立てそうにない、って感じだな」
その様子じゃあな、とフォートは苦笑しながら、わたしの目にかかっていた髪を避けてくれる。
「ごめん、妙に、眠くて……」
そういえば、倒れたのだった。
……でも、何故?
抗えない睡魔を感じて、うまく考えがまとまらない。
アリセアは、今、まだ夢の中にいるような、ふわふわとした感覚に包まれていた。
さっきまでユーグストがそばにいてくれた気がしたけど、夢?だったのかな。
それに、誰かの唇を感じた気がして……。
フォートの目から見ても、アリセアは、まだ、うつらうつらした、傾眠状態で。
目を閉じたことに対して、フォートが驚いたのだろうか。
「アリセア!」
「ふふっ……ごめんね、フォート」
少し焦ったようなフォートの声に、申し訳ないけど、なぜだか、おかしくて笑ってしまう。
フォートでも焦ること、あるんだな……。
後で、謝らなくちゃ……。
それにしても。
彼の手の温もりを……遠い昔に、知っている気がした。
ねぇ、私たち、……どこかで?
そんな風に考えていたのだけど。
フォートの温もりに包まれながら、アリセアは再び意識の底へと引き込まれていった。
***********
消毒薬の匂いが鼻をくすぐる。
ふっと、まぶたの裏に光を感じて、アリセアはゆっくりと目を開けた。
「ここに、制服と、タオルや水を置いてますね、私は1度お伝えしてきます」
優しそうな女性の声……この声は、確かお医者様だ。
「ありがとうございます」
こっちの低く落ち着いた声は、……フォート?
はじめ、天井が滲んで見えた。
「ここ、どこだろう……」
ぽつりと小さな声がでる。
ぐるりと周辺を見渡すと。
黒髪の……男性。
よく見ると、フォートがそこには立っていて……。
扉の方を向き背を見せていた彼は、
私が目を覚ました気配に気が付き、振り返った。
「あ、気がついた??」
フォートの言葉と表情からは、安堵がにじむ。
アリセアは、思考がまだぼんやりとしていて、そのままじっと彼を見つめた。
「医務室だよ、演習施設寄りの」
「あ……医務室」
ここはーー医務室。
貴族校舎内の演習施設に近い位置。
アリセアも見覚えがあった。
生徒が怪我をした際によく使われる場所だ。
……校舎の向こう、図書館寄りにある保健室とは違って、こちらは本格的な医療設備が整っている。
ここに運ばれるということは、それだけ状態が悪かったということだろうか。
水回りがあり、医薬品の揃ったこの部屋に、どうやら私は寝かせられていたらしい。
「今昼休みだから、そのまま少し寝てても大丈夫だって」
にっと、不敵に笑む彼に、アリセアは尋ねた。
「フォート……私なんでここにいるんだっけ」
「アリセア覚えてない?……倒れてから1度、目を覚ましたんだけど……。また、熱のせいか気を失ってさ。結局ここに連れてきたって感じ」
私のすぐ横の椅子に座わり、彼がいつもの調子で薄く笑いながら、優しく額に触れてきた。
「うん、熱は収まったみたいだな」
「熱……そうだ。私、身体が熱くなって、それで」
その言葉に、段々と意識がハッキリしてくる。
きっと魔力暴走してしまったのだ。
あの焼き尽くされるような熱さと痛み……。
外じゃなくて中から……まるで心さえも燃やし尽くされる様な。
胸の奥がぐるぐると焦げるみたいで……自分の中にある何かが壊れていくような、そんな感覚で……怖かった。
その時の事を思い出したアリセアの心が、不安と恐怖でいっぱいになり……。
勝手に瞳が潤んでしまう。
「泣くなって」
そう言って彼に目尻の涙を拭われる。
どうしてフォートがそんなに切なそうな顔をするのだろう。
「ごめん、……びっくりしちゃって」
と、涙のわけを、誤魔化したのだが。
「……。」
フォートの沈黙に、ほんの一拍の逡巡が滲んだ。
何かを呑み込むように、微かに目を伏せ……。
「ま、びっくりもするか。流石にアリセアが倒れた時は俺も驚いたよ」
そう言って、苦笑しながら、前髪を優しくといてくれる。
今は、その優しさが身に染み入る。
「うん、本当にごめんね」
「あの時は身体全体熱かったみたいだけど、今はすっかり良くなったみたいだな」
「……フォートが、助けてくれた、んだよね」
彼はこの熱が、魔力暴走故だと知っているのだろうか。
もしかして、ユーグスト殿下が、持っていた指輪型の魔道具でも、持っていた?
つい、視線は彼の指先に向くが……。
「いや、助けたといっても、俺は慌ててここに、連れてきただけ」
「そうなんだ……」
手を振って否定するフォートの指には、確かに指輪は見当たらなかった。
それならなぜ魔力暴走が収まったのか、謎は残る。
けれど、本当に無事で良かった。
「フォートに、迷惑をかけてごめんなさい。しかも、演出中だったのに」
アリセアはすっかり落ち込んでしまった。
これが模擬訓練だからよかったものの、実技ならシャレにならない。
それに、下手したらユーグや皆に何も伝えられないまま魔力暴走で、どうかなってしまっていたかもしれない。
「気にするなって。いざと言う時はお互い様だろ」
「ふふ、ありがとう、フォート……」
そう言いながら、まだ、体がだるいが、なんとか身を起こす。
「え、起きて平気なわけ?」
驚きに目を開いたフォートが、背中を支えてくれる。
その慌てっぷりがなんだかかわいくて、心がぽかぽかと温かくなった。
「うん、少し……まだダルいけど」
それにしても、なんだかフォート。
気のせいかな、どことなく元気がないように見える。
「ね、フォート……」
と、私が問いかけようと口を開いた時……。
「あ、そういえば、アリセアが倒れたこと、今頃ちゃんと殿下に伝わってると思う」
思い出したかのように、フォートが口を開く。
「え?」
私のキョトンとした表情を見たフォートは、頭を掻きながら苦笑する。
「あのさ、アリセアに何かあったら一番に心配するのは、間違いなく彼だろう。さっきの、医師が伝えに行ってくれたから、ユーグスト殿下も、そろそろ来るかも」
「……フォート、ユーグスト殿下と会って大丈夫なの?」
「いや……。ま、もう昼休みだし、俺も今のうちに教室帰って、飯食いに行くかな」
とフォートは帰ろうとしたので。
アリセアは慌てて。
「助けてくれて本当にありがとう、フォート」
お礼を伝え、微笑んだ。
感謝の気持ちを込めて、そう言ったのだけど。
それに対して、フォートが急に立ち止まり、ふと真面目な表情になった。
「“ありがとう”…か……」
その言葉をわざわざ強調されて。
その瞬間、胸の奥がドクンと跳ねる。
次第に、波立つような感情が広がっていって。
気づけば、大きく心が揺さぶられていた。
「え……。なに。ダメな言葉だった?」
戸惑う私に、フォートは静かにそこに立っている。
「今のアリセアは、気づいてないかもしれないけどさ……」
ふっと、笑うようにしてフォートの口は弧を描く。
「" 以前のアリセア ”は、自分の気持ちや、感謝の気持ちを伝えるのが、とっても下手だったんだよね」
彼の、紫の瞳が、じっと私を見つめていて……。
「……っ。フォー……ト?」
知らず、冷や汗が流れる。
ドキドキとした鼓動が、飛び出しそうになり。
緊張で、
知らず、……ギュッと掛け布団を掴んでいた。
フォートはそれを見て、ふっと苦笑いを浮かべながら、そっと私の手を取った。
熱の引いたその指先が、布団の上で静かにほどかれていく。
フォートが、なんだか急に、知らない人みたいな、不思議な感覚にとらわれる。
「アリセア、力入れすぎ。指を痛める」
「だ、だって、フォートが」
変な事言うから……。
まるでなにもかも。
知っているような。
「なら……教えてくれる?」
フォートが静かに問いかける。
「“もう一度”聞くね。休んでる間に……何か、あった?」
「……!」
アリセアは言葉を失って、茫然とフォートを見上げた。
胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。
「アリセア……」
優しくも真剣な声が、促すように降りてくる。
……でも。
「……い、言えない……」
声が震える。
心の奥でごめんね、と何度も謝った。
やっぱり、フォートは私の異変に気がついていたんだ。
本当は、何も無いよ、って誤魔化したかった。
そう、言いたかったけど。
フォートが真剣な眼差しでこちらを見るから、
これ以上嘘をつく事が今は出来なかった。
アリセアの泣きそうで、青ざめた顔色に、フォートは、ふっと優しく、どこか切なそうに、息をつく。
「ごめん、病み上がりに言う事じゃなかった。……アリセア、でもこれだけは覚えておいて」
「……な。なに?」
何を言われるのかとアリセアは内心酷く狼狽する。
「いつか、おれも……、アリセアの世界の一部に、いれてよ」
目を細め、一瞬、優しい眼差しになる彼。
その言葉は心の奥に、ふわりとおちてきた。
"味方”だけじゃなく、“心”にも。
もっと近づきたい、もっと側に。
そう願っているような眼差し。
でも、何故こんなにも。
私を眩しそうな目で見てくるの。
「フォート?」
「じゃ、またな」
「えっ、フォート……!ねぇ、待って」
アリセアの呼びかけには答えず、フォートは部屋を後にしたのだった。
「どうしよう……」
アリセアは、どうしたらいいのか分からず、途方に暮れた。
「っ……ん、だれ?」
誰かに呼ばれた気がして、アリセアは、ゆっくりと瞼を震わせ、目を開けた。
「アリセア!」
目の前には、整った顔立ちのクラスメイトーーフォートが、ほっと安堵した表情で覗き込んでいた。
その肩越しには、晴れ渡った青空が広がっていて。
「よかった……。もしかして、もう目を開けてくれないんじゃないかと思ったよ」
額に汗をにじませた彼が、焦りを滲ませながらも優しい声で語りかけてくる。
「ん……フォート……?」
アリセアは自分が、地面に座ったフォートの腕の中にいることに気づいた。
「本当に、気がついてよかった。演習中に倒れたんだけど、……立てそうにない、って感じだな」
その様子じゃあな、とフォートは苦笑しながら、わたしの目にかかっていた髪を避けてくれる。
「ごめん、妙に、眠くて……」
そういえば、倒れたのだった。
……でも、何故?
抗えない睡魔を感じて、うまく考えがまとまらない。
アリセアは、今、まだ夢の中にいるような、ふわふわとした感覚に包まれていた。
さっきまでユーグストがそばにいてくれた気がしたけど、夢?だったのかな。
それに、誰かの唇を感じた気がして……。
フォートの目から見ても、アリセアは、まだ、うつらうつらした、傾眠状態で。
目を閉じたことに対して、フォートが驚いたのだろうか。
「アリセア!」
「ふふっ……ごめんね、フォート」
少し焦ったようなフォートの声に、申し訳ないけど、なぜだか、おかしくて笑ってしまう。
フォートでも焦ること、あるんだな……。
後で、謝らなくちゃ……。
それにしても。
彼の手の温もりを……遠い昔に、知っている気がした。
ねぇ、私たち、……どこかで?
そんな風に考えていたのだけど。
フォートの温もりに包まれながら、アリセアは再び意識の底へと引き込まれていった。
***********
消毒薬の匂いが鼻をくすぐる。
ふっと、まぶたの裏に光を感じて、アリセアはゆっくりと目を開けた。
「ここに、制服と、タオルや水を置いてますね、私は1度お伝えしてきます」
優しそうな女性の声……この声は、確かお医者様だ。
「ありがとうございます」
こっちの低く落ち着いた声は、……フォート?
はじめ、天井が滲んで見えた。
「ここ、どこだろう……」
ぽつりと小さな声がでる。
ぐるりと周辺を見渡すと。
黒髪の……男性。
よく見ると、フォートがそこには立っていて……。
扉の方を向き背を見せていた彼は、
私が目を覚ました気配に気が付き、振り返った。
「あ、気がついた??」
フォートの言葉と表情からは、安堵がにじむ。
アリセアは、思考がまだぼんやりとしていて、そのままじっと彼を見つめた。
「医務室だよ、演習施設寄りの」
「あ……医務室」
ここはーー医務室。
貴族校舎内の演習施設に近い位置。
アリセアも見覚えがあった。
生徒が怪我をした際によく使われる場所だ。
……校舎の向こう、図書館寄りにある保健室とは違って、こちらは本格的な医療設備が整っている。
ここに運ばれるということは、それだけ状態が悪かったということだろうか。
水回りがあり、医薬品の揃ったこの部屋に、どうやら私は寝かせられていたらしい。
「今昼休みだから、そのまま少し寝てても大丈夫だって」
にっと、不敵に笑む彼に、アリセアは尋ねた。
「フォート……私なんでここにいるんだっけ」
「アリセア覚えてない?……倒れてから1度、目を覚ましたんだけど……。また、熱のせいか気を失ってさ。結局ここに連れてきたって感じ」
私のすぐ横の椅子に座わり、彼がいつもの調子で薄く笑いながら、優しく額に触れてきた。
「うん、熱は収まったみたいだな」
「熱……そうだ。私、身体が熱くなって、それで」
その言葉に、段々と意識がハッキリしてくる。
きっと魔力暴走してしまったのだ。
あの焼き尽くされるような熱さと痛み……。
外じゃなくて中から……まるで心さえも燃やし尽くされる様な。
胸の奥がぐるぐると焦げるみたいで……自分の中にある何かが壊れていくような、そんな感覚で……怖かった。
その時の事を思い出したアリセアの心が、不安と恐怖でいっぱいになり……。
勝手に瞳が潤んでしまう。
「泣くなって」
そう言って彼に目尻の涙を拭われる。
どうしてフォートがそんなに切なそうな顔をするのだろう。
「ごめん、……びっくりしちゃって」
と、涙のわけを、誤魔化したのだが。
「……。」
フォートの沈黙に、ほんの一拍の逡巡が滲んだ。
何かを呑み込むように、微かに目を伏せ……。
「ま、びっくりもするか。流石にアリセアが倒れた時は俺も驚いたよ」
そう言って、苦笑しながら、前髪を優しくといてくれる。
今は、その優しさが身に染み入る。
「うん、本当にごめんね」
「あの時は身体全体熱かったみたいだけど、今はすっかり良くなったみたいだな」
「……フォートが、助けてくれた、んだよね」
彼はこの熱が、魔力暴走故だと知っているのだろうか。
もしかして、ユーグスト殿下が、持っていた指輪型の魔道具でも、持っていた?
つい、視線は彼の指先に向くが……。
「いや、助けたといっても、俺は慌ててここに、連れてきただけ」
「そうなんだ……」
手を振って否定するフォートの指には、確かに指輪は見当たらなかった。
それならなぜ魔力暴走が収まったのか、謎は残る。
けれど、本当に無事で良かった。
「フォートに、迷惑をかけてごめんなさい。しかも、演出中だったのに」
アリセアはすっかり落ち込んでしまった。
これが模擬訓練だからよかったものの、実技ならシャレにならない。
それに、下手したらユーグや皆に何も伝えられないまま魔力暴走で、どうかなってしまっていたかもしれない。
「気にするなって。いざと言う時はお互い様だろ」
「ふふ、ありがとう、フォート……」
そう言いながら、まだ、体がだるいが、なんとか身を起こす。
「え、起きて平気なわけ?」
驚きに目を開いたフォートが、背中を支えてくれる。
その慌てっぷりがなんだかかわいくて、心がぽかぽかと温かくなった。
「うん、少し……まだダルいけど」
それにしても、なんだかフォート。
気のせいかな、どことなく元気がないように見える。
「ね、フォート……」
と、私が問いかけようと口を開いた時……。
「あ、そういえば、アリセアが倒れたこと、今頃ちゃんと殿下に伝わってると思う」
思い出したかのように、フォートが口を開く。
「え?」
私のキョトンとした表情を見たフォートは、頭を掻きながら苦笑する。
「あのさ、アリセアに何かあったら一番に心配するのは、間違いなく彼だろう。さっきの、医師が伝えに行ってくれたから、ユーグスト殿下も、そろそろ来るかも」
「……フォート、ユーグスト殿下と会って大丈夫なの?」
「いや……。ま、もう昼休みだし、俺も今のうちに教室帰って、飯食いに行くかな」
とフォートは帰ろうとしたので。
アリセアは慌てて。
「助けてくれて本当にありがとう、フォート」
お礼を伝え、微笑んだ。
感謝の気持ちを込めて、そう言ったのだけど。
それに対して、フォートが急に立ち止まり、ふと真面目な表情になった。
「“ありがとう”…か……」
その言葉をわざわざ強調されて。
その瞬間、胸の奥がドクンと跳ねる。
次第に、波立つような感情が広がっていって。
気づけば、大きく心が揺さぶられていた。
「え……。なに。ダメな言葉だった?」
戸惑う私に、フォートは静かにそこに立っている。
「今のアリセアは、気づいてないかもしれないけどさ……」
ふっと、笑うようにしてフォートの口は弧を描く。
「" 以前のアリセア ”は、自分の気持ちや、感謝の気持ちを伝えるのが、とっても下手だったんだよね」
彼の、紫の瞳が、じっと私を見つめていて……。
「……っ。フォー……ト?」
知らず、冷や汗が流れる。
ドキドキとした鼓動が、飛び出しそうになり。
緊張で、
知らず、……ギュッと掛け布団を掴んでいた。
フォートはそれを見て、ふっと苦笑いを浮かべながら、そっと私の手を取った。
熱の引いたその指先が、布団の上で静かにほどかれていく。
フォートが、なんだか急に、知らない人みたいな、不思議な感覚にとらわれる。
「アリセア、力入れすぎ。指を痛める」
「だ、だって、フォートが」
変な事言うから……。
まるでなにもかも。
知っているような。
「なら……教えてくれる?」
フォートが静かに問いかける。
「“もう一度”聞くね。休んでる間に……何か、あった?」
「……!」
アリセアは言葉を失って、茫然とフォートを見上げた。
胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。
「アリセア……」
優しくも真剣な声が、促すように降りてくる。
……でも。
「……い、言えない……」
声が震える。
心の奥でごめんね、と何度も謝った。
やっぱり、フォートは私の異変に気がついていたんだ。
本当は、何も無いよ、って誤魔化したかった。
そう、言いたかったけど。
フォートが真剣な眼差しでこちらを見るから、
これ以上嘘をつく事が今は出来なかった。
アリセアの泣きそうで、青ざめた顔色に、フォートは、ふっと優しく、どこか切なそうに、息をつく。
「ごめん、病み上がりに言う事じゃなかった。……アリセア、でもこれだけは覚えておいて」
「……な。なに?」
何を言われるのかとアリセアは内心酷く狼狽する。
「いつか、おれも……、アリセアの世界の一部に、いれてよ」
目を細め、一瞬、優しい眼差しになる彼。
その言葉は心の奥に、ふわりとおちてきた。
"味方”だけじゃなく、“心”にも。
もっと近づきたい、もっと側に。
そう願っているような眼差し。
でも、何故こんなにも。
私を眩しそうな目で見てくるの。
「フォート?」
「じゃ、またな」
「えっ、フォート……!ねぇ、待って」
アリセアの呼びかけには答えず、フォートは部屋を後にしたのだった。
「どうしよう……」
アリセアは、どうしたらいいのか分からず、途方に暮れた。
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