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㉘彼女を守れないなら
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フォートが医務室を出てしばらくすると、ユーグスト殿下が向こう側から駆けてくるのが見えた。
医師は熱が出たとだけ伝えただろうが、ユーグスト殿下なら、それが魔力暴走故の……ということは、すぐに察することが出来るだろう。
魔力暴走は下手したら昏睡状態。
最悪なのは、植物状態となる事だ。
昏睡ならまだ目覚める可能性は高いが、
植物状態は……脳死である。
さて、どうしたものだろうか。
そうこうしているうちに、彼が目の前にきて、立ちどまる。
てっきり、すぐに彼女の元へ向かうとばかりに思っていたが。
……あぁ。
途中で気づく。
俺がここにいるからアリセアが無事だということが分かったのか。
癪な確かめ方をされ、少しだけ気分を害する。
確かにアリセアに重篤な何かがあったなら、俺はきっと傍を離れない。
取り乱すことさえ、あるだろう。
医師から状況は聞いていて、なおかつ俺がいたから……。
殿下に、全て見抜かれているとは。
「フォート・セフィオル……」
「はい、ユーグスト殿下」
初手から敵意剥き出しだ。
殺気も隠す気がない。
だが──
「医師から聞いた。アリセアがお世話になったらしいな。助かった、ありがとう」
意外な言葉が、ユーグスト殿下の口から紡がれた。
……へぇ、そうくるか。
やるじゃないか、殿下。
「しかし、どうやって助けたか聞いてもいいかな」
「特に何もお伝えすることはありませんよ」
自分でも白々しいなとはおもったのだが。
これが俺のやり方だ。
「何も、……本当に?」
やはり突っ込まれた。
「……。熱があったので慌てて連れてきました」
「……それを、本当に信じろと?」
殿下の低い声に鋭い眼差しで、こちらを見つめてくる。
「何を疑っているのかさっぱり分かりませんが、流石に気絶されたら誰でも慌てて連れてくると思います」
誤魔化しきれない。
が、このまま堂々とシラを切ることにする。
そう言うと、ユーグスト殿下は、ふっと笑った。
「君でも、慌てることがあるんだな」
「っ……」
こいつ。
皮肉のように聞こえる。
……いや、実際皮肉なのだろうな。
普段は穏やかで理性的な彼だったが、本当の素顔はこっちなのだろう。
とはいえ名声名高いユーグスト殿下でも、この国の王子だ。
普段俺たちにも見せないような裏の一つや二つ持っていても不思議ではない、むしろ、人としても当たり前である。
俺のように……。
その時ふと、気がつく。
周りが静かだ。
(防音結界……?)
空気が変わったことに気づいた瞬間、背筋を冷たい指でなぞられたような感覚が走る。
青く揺れる結界は、まるで「ここから先は、嘘も誤魔化しも通用しない」と告げているようだった。
……なるほど。
ならば、こちらも遠慮なく、本音をぶつけさせてもらおうか。
長くため息を吐く。
これは言わないつもりだったが。
「ユーグスト殿下、俺から1つ、言わせて頂きたい」
「なんだ……」
じっとユーグストに強い視線を送る。
きっと傍から見たら真剣な表情になっているのだろうな。
妙に冷静な自分がいて。
まるで俯瞰しているかのように、この光景がありありと思い浮かぶ。
「 貴方が彼女を、……これ以上守れないのなら、
アリセア嬢は……俺がもらう」
いつだって心の垣根を飛び越えて、こちらの心を掻き乱してくる彼女。
今までも面白くて、楽しくて、そばにいたのだが。
その彼女の曇った顔は見たくない。
なら、俺がその笑顔を守るしかない。
「フォート……どういうつもりだ」
静かに、怒りを押し殺したような低い声。
青い光が張り巡らされた空間の中、彼の拳が小さく震えているのが見えた。
「宣戦布告ですよ。殿下。国家なんて関係ない。これは1人の男として話しています」
ふっと口元に笑みを作り、彼の心を出来るだけ逆撫でする。
「何を、言っている。アリセアにも、意思がある。そもそも、……その考え自体、王族反逆に等しい」
全くその通りだ……彼女にも意思はある。
それに……王族の婚約者を奪うなんて、そんな馬鹿な発言、公で言う者を見たことがないって顔かな。
だが残念ながら。
俺は……本当に欲っしたものは、周りに関係なく。
自ら手に入れる性格なんでね。
「でも。きっと、貴方はアリセアにはこの事は言わない。貴方はそういう人だから」
「っ、フォート」
ピシッ……!
防音結界に、亀裂が走る。
ほんの一瞬、空間がひずむような錯覚。
王族の血が、本気で牙を剥いた瞬間だった。
殿下の拳が、ついに限界を迎えたかのように、強く握り込まれる。
眉を寄せ激情を抑え込もうとする殿下に、多少同情する。
あの殿下が、本気で怒るところが見れるとは。
王族や貴族は自分の感情を公の場で素直に出せない人が多い。
本来、ここは激高する場面だ。
だが。
こんな人が多い校舎でそれをしてしまったら、品位に関わる。
悪目立ちもしてしまうだろう。
そうなったら自然にアリセアの耳にも入ってしまう。
そんなことはユーグスト殿下が望むはずがない。
つくづく彼には同情する。
「フォート……君は何を知っている」
「何も?せいぜい頑張ってください。あ、たまに困った時は、手伝ってあげてもいいですよ」
ヒラヒラと、フォートは手を振り、後にする。
思った通り、……彼は追ってこない。
ユーグストが歩き始めたのを確認して、ため息をつく。
果たして……殿下の誇りに、火を点けれただろうか。
それにしても。
「あーぁ、……。俺の楽しい学園生活が……」
終わりを告げた気がした。
「ま……アリセアの笑顔と引き換えなら、惜しくもないけどな」
何かに巻き込まれている──そう感じる彼女の変化。
あの日を境に、明らかに変わってしまった。
彼には、どうしてもアリセアを守ってもらわなければならない。
「損な役回りだな」
けれども。
誰かがやらなければ、彼女は守れない。
なら、俺がやるしかない。
そう思いながら、フォートは歩き出した。
医師は熱が出たとだけ伝えただろうが、ユーグスト殿下なら、それが魔力暴走故の……ということは、すぐに察することが出来るだろう。
魔力暴走は下手したら昏睡状態。
最悪なのは、植物状態となる事だ。
昏睡ならまだ目覚める可能性は高いが、
植物状態は……脳死である。
さて、どうしたものだろうか。
そうこうしているうちに、彼が目の前にきて、立ちどまる。
てっきり、すぐに彼女の元へ向かうとばかりに思っていたが。
……あぁ。
途中で気づく。
俺がここにいるからアリセアが無事だということが分かったのか。
癪な確かめ方をされ、少しだけ気分を害する。
確かにアリセアに重篤な何かがあったなら、俺はきっと傍を離れない。
取り乱すことさえ、あるだろう。
医師から状況は聞いていて、なおかつ俺がいたから……。
殿下に、全て見抜かれているとは。
「フォート・セフィオル……」
「はい、ユーグスト殿下」
初手から敵意剥き出しだ。
殺気も隠す気がない。
だが──
「医師から聞いた。アリセアがお世話になったらしいな。助かった、ありがとう」
意外な言葉が、ユーグスト殿下の口から紡がれた。
……へぇ、そうくるか。
やるじゃないか、殿下。
「しかし、どうやって助けたか聞いてもいいかな」
「特に何もお伝えすることはありませんよ」
自分でも白々しいなとはおもったのだが。
これが俺のやり方だ。
「何も、……本当に?」
やはり突っ込まれた。
「……。熱があったので慌てて連れてきました」
「……それを、本当に信じろと?」
殿下の低い声に鋭い眼差しで、こちらを見つめてくる。
「何を疑っているのかさっぱり分かりませんが、流石に気絶されたら誰でも慌てて連れてくると思います」
誤魔化しきれない。
が、このまま堂々とシラを切ることにする。
そう言うと、ユーグスト殿下は、ふっと笑った。
「君でも、慌てることがあるんだな」
「っ……」
こいつ。
皮肉のように聞こえる。
……いや、実際皮肉なのだろうな。
普段は穏やかで理性的な彼だったが、本当の素顔はこっちなのだろう。
とはいえ名声名高いユーグスト殿下でも、この国の王子だ。
普段俺たちにも見せないような裏の一つや二つ持っていても不思議ではない、むしろ、人としても当たり前である。
俺のように……。
その時ふと、気がつく。
周りが静かだ。
(防音結界……?)
空気が変わったことに気づいた瞬間、背筋を冷たい指でなぞられたような感覚が走る。
青く揺れる結界は、まるで「ここから先は、嘘も誤魔化しも通用しない」と告げているようだった。
……なるほど。
ならば、こちらも遠慮なく、本音をぶつけさせてもらおうか。
長くため息を吐く。
これは言わないつもりだったが。
「ユーグスト殿下、俺から1つ、言わせて頂きたい」
「なんだ……」
じっとユーグストに強い視線を送る。
きっと傍から見たら真剣な表情になっているのだろうな。
妙に冷静な自分がいて。
まるで俯瞰しているかのように、この光景がありありと思い浮かぶ。
「 貴方が彼女を、……これ以上守れないのなら、
アリセア嬢は……俺がもらう」
いつだって心の垣根を飛び越えて、こちらの心を掻き乱してくる彼女。
今までも面白くて、楽しくて、そばにいたのだが。
その彼女の曇った顔は見たくない。
なら、俺がその笑顔を守るしかない。
「フォート……どういうつもりだ」
静かに、怒りを押し殺したような低い声。
青い光が張り巡らされた空間の中、彼の拳が小さく震えているのが見えた。
「宣戦布告ですよ。殿下。国家なんて関係ない。これは1人の男として話しています」
ふっと口元に笑みを作り、彼の心を出来るだけ逆撫でする。
「何を、言っている。アリセアにも、意思がある。そもそも、……その考え自体、王族反逆に等しい」
全くその通りだ……彼女にも意思はある。
それに……王族の婚約者を奪うなんて、そんな馬鹿な発言、公で言う者を見たことがないって顔かな。
だが残念ながら。
俺は……本当に欲っしたものは、周りに関係なく。
自ら手に入れる性格なんでね。
「でも。きっと、貴方はアリセアにはこの事は言わない。貴方はそういう人だから」
「っ、フォート」
ピシッ……!
防音結界に、亀裂が走る。
ほんの一瞬、空間がひずむような錯覚。
王族の血が、本気で牙を剥いた瞬間だった。
殿下の拳が、ついに限界を迎えたかのように、強く握り込まれる。
眉を寄せ激情を抑え込もうとする殿下に、多少同情する。
あの殿下が、本気で怒るところが見れるとは。
王族や貴族は自分の感情を公の場で素直に出せない人が多い。
本来、ここは激高する場面だ。
だが。
こんな人が多い校舎でそれをしてしまったら、品位に関わる。
悪目立ちもしてしまうだろう。
そうなったら自然にアリセアの耳にも入ってしまう。
そんなことはユーグスト殿下が望むはずがない。
つくづく彼には同情する。
「フォート……君は何を知っている」
「何も?せいぜい頑張ってください。あ、たまに困った時は、手伝ってあげてもいいですよ」
ヒラヒラと、フォートは手を振り、後にする。
思った通り、……彼は追ってこない。
ユーグストが歩き始めたのを確認して、ため息をつく。
果たして……殿下の誇りに、火を点けれただろうか。
それにしても。
「あーぁ、……。俺の楽しい学園生活が……」
終わりを告げた気がした。
「ま……アリセアの笑顔と引き換えなら、惜しくもないけどな」
何かに巻き込まれている──そう感じる彼女の変化。
あの日を境に、明らかに変わってしまった。
彼には、どうしてもアリセアを守ってもらわなければならない。
「損な役回りだな」
けれども。
誰かがやらなければ、彼女は守れない。
なら、俺がやるしかない。
そう思いながら、フォートは歩き出した。
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