~記憶喪失の私と魔法学園の君~甘やかしてくるのはあの方です

Hikarinosakie

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㊹むずかしい恋をする

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エルリオが、貴族校舎に、立ち寄ったのは偶然だった。

魔道具作りに必要な薬草を採取しようと、校舎裏手にある丘になっている所へ顔を出しただけのこと。

(そうだった……こちらも昼休みか)

少し高い丘からは、食堂の中の様子がよく見える。
生徒が思いおもいに昼食を楽しみ、
料理に使用したハーブや、シチューの
香りが風に乗ってこちらにも届いてくる。

ふと、目の端にキラリと光るものが入った。

ピアスだーー。

ひとりの生徒が、食堂には入らず、裏庭へと出ていく。

そんな彼の様子を見て、エルリオは頷いた。



「あぁ……きっと、彼だ……」




導かれるように、エルリオは、足元の草を踏みしめ、
その人影にどんどん近づいていく。

自分でも驚くほど、無意識だった。

普段、魔道具作りの為の行動に集中するエルリオが珍しく。


魔道具制作に関係のある薬草の採取もせずに、『寄り道』をするのは。



「君……!」


何も考えないまま、気がついたらその人影に声をかけていた。

思ったよりも大きな声が出てしまい、エルリオは内心舌打ちをする。


だが、食堂付近にいた生徒たちは、皆喋るのに夢中で、こちらの声に気がついていない。



しかし、彼だけは違う。


「は……え?…俺?」


背を向けていた彼が、声に驚いたように振り返る。
間違いない。


「名前は……?」

「え?…………どなたでしょうか」


警戒するその目に、エルリオは眼鏡を外して答えた。

「君が……フォート?」


脳裏に蘇った記憶を頼りに、名前を呼んでみる。



「なんで名前……」



そう言うと、目の前の彼は、目を丸くしつつも、次第に警戒感を顕にした。



「アリセア嬢が、以前君について話してくれたことがあったから……黒髪に赤いピアス、名前はフォート。当たった?」


「は?……アリセアが?なんで……」


「私はエルリオ、宜しく。彼女とは共同研究をしていて、その時に、彼女の話の中に、出てきたのが君だよ」



「……それで?……何か用か?」



「……ああ、大ありだ」



エルリオは静かに頷く。
「……アリセア嬢の中にあった魔力……あれは君のものだな?」



「……は? 何言って……」



フォートが一瞬瞠目し、次に、低く唸る。


その様子を見て、エルリオは穏やかに笑った。


「何が……」
「彼女を助けたのは……君だ。そうだろう?」

魔力量が増えた彼女、そして彼独特の……痕跡。

ユーグスト殿下の、あの焦り。

2人の様子を見て、導き出されたもの。

それが意味するものは…………おそらく。

ーー魔力暴走ーー

ユーグスト殿下が躍起になっている理由は十中八九、この事についてだろう。


きっと、彼女の魔力暴走を止めるために、目の前の男、フォートは力を使ったのだ。


彼女の体にまとわりついていた"もうひとつの精霊の気配”

「なんの事だか……」
「君の"独特”な気配……わたしには分かるんだ」

「……」


フォートはしばらく目を伏せ、それからふっと息を吐いた。


「……エルリオって、言ったな。お前……アリセアは、このこと知ってるのか?」


「彼女は知らないだろう。……だが、ユーグスト殿下はどうだろうね。彼は聡明だから……」


「そうか。知っているのは……お前だけ?」


「あぁ、言っておくが、わたしに君の力を行使はする必要が無い。……私はただ、君に伝えたかったんだ」


「何をだ」







「アリセア嬢を、今後も助けてやってくれ、と……」






「は?」




フォートは一瞬、間の抜けたような顔でこちらを見た。



その表情に、エルリオはふっと優しく目を細めた。



(……なるほど。彼女が惹かれるのも、分かるな)




アリセアはきっと自覚していない。

けれど、話題に上るほど気にしているのなら……無意識に惹かれているはずだ。


「2人とも助けてくれれば、文句もないんだけれど」


「……言われるまでもない。……でも、俺が助けたいのはアリセアだ」


そうだろうな、と、エルリオは思う。

ユーグスト殿下が光であれば、目の前のフォートは影……対比的だ。


彼女の身も心も真綿で包み込むように護るのがユーグスト殿下。

それに対してきっと彼は……人知れず、静かにその身を挺して護るのだろう。



「それと……多分、君のお友達かな」




詠唱し、魔法の杖をひとふりすると、ポンっと鳥かごが現れ。




なんとそこには、フォートの使役獣……リュセルが中に入っていた。




「りゅ、リュセル?!」





これにはフォートも目を剥いた。



『主様~ウロウロしてたら捕まっちゃいました』

「帰ってこないと思ったら……おまえ」

「あぁ、良かった。やっぱり……君のだったかい?
魔法塔の窓から入ってきて飛び回っていたから。あやうく研究対象になる所だった」

「人間には見えないはずだ……」

「わたしには、特殊な隠れている"モノ”が、見える魔道具があるので……。それに引っかかったのだろうね」


フォートはエルリオをじっと見つめたあと、真剣な声で言った。


「エルリオ……お前に言われなくても、彼女は護る。……例えそれが、命の危険にさらされることでもな」


「……さすが、アリセア嬢の“友達”だ。心意気が男前だな」


「……じゃあな」


「……またいつか」


フォートが小鳥とともに、去っていくのを見て、
エルリオはふっと笑った。





「君も……難しい恋をするな」





彼の精霊の気は、あまりにも優しい。

あんなにひたむきで、温かい“想い”は……きっと恋以外の何物でもない。

彼らのアリセアを、想う気持ちを見ると、自分の恋なんて勝てる気がしない。



「私は……勇気がなかった。ただそれだけの事」



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