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51:譲れぬ想い~対抗戦~
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「さぁ、いよいよ決勝です!ここまで勝ち上がってきたのは……予想通りでしょうか、騎士科3年ユーグスト・アルゼイン殿下!」
魔法科生徒が、再び風魔法で会場全体に声を届ける。
わあああっと歓声が上がる中、アリセアはドキドキと胸を高鳴らせながら、記録係の所定の席に座っていた。
「ユーグ……ここまで本当に凄かったな」
ユーグストは2回戦で魔法科2年生と戦い勝ち上がり、フォートは不戦勝でのし上がり決勝へと進んだ。
(ユーグは絶対決勝まで行くだろうと予想していた。…………でも)
ユーグストと、フォートが決勝で戦うなんて、今日この時まで誰が予想しただろうか。
「さぁ、皆様、誰が予想したでしょうか、ユーグスト殿下の対戦相手はなんと、魔法科1年!! 1年生ですよ、代表はフォート・セフィオル!」
わあああ!!と、これまた歓声が上がる。
2人とも黄色い声援が飛んで、人気っぷりがよく分かる。
アリセアも負けじと「頑張ってー!!」と応援するけれども声がかき消されるほどで。
「すごい人気...、聞こえてるわけないか」
苦笑した。
ふぅ、と短く息を吐き、髪を耳にかけーー
それから、二人をそれぞれ見つめる。
ユーグストは、いつになくピリッと頬が強ばっている。
自然体なようで、緊張感ある真剣な眼差し。
それは確かにアリセアにだけ分かった彼の些細な変化。
それに気がついた時、アリセアの心はドキッとした。
「あんな表情はじめてみる……」
なぜだか胸がいっぱいになって、泣きそうになる。
(なんでだろう……凄く、ユーグが……いつも以上に格好良い)
きっと、ユーグストは騎士として誰かを守る時も、あんなに真剣な表情になるのだろうな。
そうして、反対に、フォートを見てみる。
彼もまた、真っ直ぐにユーグストに、視線を向けていた。
そこには初戦の時と違って、彼の軽やかな微笑みすらなく、ただ、静かな波のような、凪いでいる真剣な眼差しがあった。
その横顔を見て、ふと、胸がざわめく。
(あんな顔、フォートもできるんだ……)
普段は冗談ばかりの彼が、今はただ静かに、真っ直ぐに立っている。
それが、どうしようもなく綺麗に見えた。
(フォートも、……真剣なんだわ)
何が彼をあそこまで駆り立てるのだろう。
いつもとは違う表情なのは彼も同じで、アリセアの心は静かに揺れた。
ベールに包まれているから大丈夫とはいえ、痛みや衝撃は感じるわけで……二人の心配は尽きない。
(どっちも……勝って欲しい)
なんて言ったら、欲張りだと誰かに怒られるだろうか。
膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。
でも、私からしたら2人とも大切な人なのだ。
どちらかが、とかではなく、どちらにも勝って欲しい。
これが今の本音だった。
……けれど、勝負には勝者と敗者がいる。
どちらかが笑って、どちらかが……傷つくかもしれない。
(そんな未来なんて、見たくないのに)
「でも、2人ともどうか無事でありますように」
アリセアは、両手を握って、祈った。
********
所定の位置に着いたフォートは、チラリとアリセアを見つめる。
目があった彼女はどこか不安そうな眼差しで……。
(やっぱり、まだ体調が万全では無いのが勘づかれてるか)
ふっと、微かに笑った。
...…アリセアは、本当に、そういうところは鋭い。
俺がいつも通りの顔してても、ちょっとした変化を見逃さない。
鈍感なようで、妙に気づく。
(……ずるいよな、ほんと)
たしかに、今このときも、校舎内に魔法で監視の網目を巡らしており、術は発動中……しかも、完全には魔力が回復してない。
「けど......」
アリセアに対しての、想いの覚悟だけは自信がある。
「ユーグスト殿下の、お手並み拝見だな」
そう、わざと軽口を言って、自分を奮い立たせた。
そして……。
数メートル先に立っていた彼。
伏し目がちのユーグスト殿下が、こちらを真っ直ぐ見据えてくる。
視線が、ーーぶつかった。
その瞬間。
ざわめいていた周囲の音が――スッと、消えた。
風の音も、
観客の気配も、
すべてが遠のく。
世界から色が抜け落ちたように、視界に映るのはただひとり。
ユーグスト・アルゼイン。
彼の眼差しが、絡め取るようにフォートを貫いた。
鋼よりも冷たく、澄んだ光。
一切の迷いも、動揺もない。
――ただ、まっすぐ。
こちらの心を、底の底まで見透かしてくるような視線だった。
「はっ......さすがだな」
ぞくりと、背筋が震えた。
これは“強さ”の気配ではない。
“王”としての在り方そのものが、あの男の中に根づいている。
自然と、息を呑む。
(なるほどな……アリセアが、惹かれるわけだ)
彼の纏う気迫が、他の生徒と明らかに違う。
王族としてーー人としての格が、まるで違った。
(それでも、俺は……)
胸の奥で、何かが強く跳ねる。
勝てるかどうかなんて関係ない。
俺は、俺の全てを懸けて、立っている。
絶対に――負けられない。
「試合開始ーーーー!!!」
アナウンスが、決戦の幕を高らかに告げた。
開始と同時に後方へ跳躍し、フォートは詠唱をする。
本来なら詠唱なしでも魔法は展開、発動できる。
それでも彼は、形式に則り、あえて唱えた。
観客の目、ルール、そして何より——ユーグストと、対等に戦いたかったから。
アリセアを想う者同士ーー。
その間にも、ユーグストは剣を構え、一気に距離を詰める。
予想していた通りだが。
「早すぎな!」
叫ぶフォートの周囲に、半円上に、炎が舞い上がる。
三メートルを超える灼熱の炎——だが、ユーグは一歩も止まらない。
低い姿勢のまま、無言で横一線に薙ぎ払った。
それだけで、風を伴った剣圧が炎を吹き飛ばした。
「……剣圧、か」
たった一撃。それだけで、ユーグストの実力の片鱗が見えた。
フォートは、知らず笑っていた。
この高揚感……感じるのは、いつぶりだろうな。
(……面白くなってきたな)
魔法科生徒が、再び風魔法で会場全体に声を届ける。
わあああっと歓声が上がる中、アリセアはドキドキと胸を高鳴らせながら、記録係の所定の席に座っていた。
「ユーグ……ここまで本当に凄かったな」
ユーグストは2回戦で魔法科2年生と戦い勝ち上がり、フォートは不戦勝でのし上がり決勝へと進んだ。
(ユーグは絶対決勝まで行くだろうと予想していた。…………でも)
ユーグストと、フォートが決勝で戦うなんて、今日この時まで誰が予想しただろうか。
「さぁ、皆様、誰が予想したでしょうか、ユーグスト殿下の対戦相手はなんと、魔法科1年!! 1年生ですよ、代表はフォート・セフィオル!」
わあああ!!と、これまた歓声が上がる。
2人とも黄色い声援が飛んで、人気っぷりがよく分かる。
アリセアも負けじと「頑張ってー!!」と応援するけれども声がかき消されるほどで。
「すごい人気...、聞こえてるわけないか」
苦笑した。
ふぅ、と短く息を吐き、髪を耳にかけーー
それから、二人をそれぞれ見つめる。
ユーグストは、いつになくピリッと頬が強ばっている。
自然体なようで、緊張感ある真剣な眼差し。
それは確かにアリセアにだけ分かった彼の些細な変化。
それに気がついた時、アリセアの心はドキッとした。
「あんな表情はじめてみる……」
なぜだか胸がいっぱいになって、泣きそうになる。
(なんでだろう……凄く、ユーグが……いつも以上に格好良い)
きっと、ユーグストは騎士として誰かを守る時も、あんなに真剣な表情になるのだろうな。
そうして、反対に、フォートを見てみる。
彼もまた、真っ直ぐにユーグストに、視線を向けていた。
そこには初戦の時と違って、彼の軽やかな微笑みすらなく、ただ、静かな波のような、凪いでいる真剣な眼差しがあった。
その横顔を見て、ふと、胸がざわめく。
(あんな顔、フォートもできるんだ……)
普段は冗談ばかりの彼が、今はただ静かに、真っ直ぐに立っている。
それが、どうしようもなく綺麗に見えた。
(フォートも、……真剣なんだわ)
何が彼をあそこまで駆り立てるのだろう。
いつもとは違う表情なのは彼も同じで、アリセアの心は静かに揺れた。
ベールに包まれているから大丈夫とはいえ、痛みや衝撃は感じるわけで……二人の心配は尽きない。
(どっちも……勝って欲しい)
なんて言ったら、欲張りだと誰かに怒られるだろうか。
膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。
でも、私からしたら2人とも大切な人なのだ。
どちらかが、とかではなく、どちらにも勝って欲しい。
これが今の本音だった。
……けれど、勝負には勝者と敗者がいる。
どちらかが笑って、どちらかが……傷つくかもしれない。
(そんな未来なんて、見たくないのに)
「でも、2人ともどうか無事でありますように」
アリセアは、両手を握って、祈った。
********
所定の位置に着いたフォートは、チラリとアリセアを見つめる。
目があった彼女はどこか不安そうな眼差しで……。
(やっぱり、まだ体調が万全では無いのが勘づかれてるか)
ふっと、微かに笑った。
...…アリセアは、本当に、そういうところは鋭い。
俺がいつも通りの顔してても、ちょっとした変化を見逃さない。
鈍感なようで、妙に気づく。
(……ずるいよな、ほんと)
たしかに、今このときも、校舎内に魔法で監視の網目を巡らしており、術は発動中……しかも、完全には魔力が回復してない。
「けど......」
アリセアに対しての、想いの覚悟だけは自信がある。
「ユーグスト殿下の、お手並み拝見だな」
そう、わざと軽口を言って、自分を奮い立たせた。
そして……。
数メートル先に立っていた彼。
伏し目がちのユーグスト殿下が、こちらを真っ直ぐ見据えてくる。
視線が、ーーぶつかった。
その瞬間。
ざわめいていた周囲の音が――スッと、消えた。
風の音も、
観客の気配も、
すべてが遠のく。
世界から色が抜け落ちたように、視界に映るのはただひとり。
ユーグスト・アルゼイン。
彼の眼差しが、絡め取るようにフォートを貫いた。
鋼よりも冷たく、澄んだ光。
一切の迷いも、動揺もない。
――ただ、まっすぐ。
こちらの心を、底の底まで見透かしてくるような視線だった。
「はっ......さすがだな」
ぞくりと、背筋が震えた。
これは“強さ”の気配ではない。
“王”としての在り方そのものが、あの男の中に根づいている。
自然と、息を呑む。
(なるほどな……アリセアが、惹かれるわけだ)
彼の纏う気迫が、他の生徒と明らかに違う。
王族としてーー人としての格が、まるで違った。
(それでも、俺は……)
胸の奥で、何かが強く跳ねる。
勝てるかどうかなんて関係ない。
俺は、俺の全てを懸けて、立っている。
絶対に――負けられない。
「試合開始ーーーー!!!」
アナウンスが、決戦の幕を高らかに告げた。
開始と同時に後方へ跳躍し、フォートは詠唱をする。
本来なら詠唱なしでも魔法は展開、発動できる。
それでも彼は、形式に則り、あえて唱えた。
観客の目、ルール、そして何より——ユーグストと、対等に戦いたかったから。
アリセアを想う者同士ーー。
その間にも、ユーグストは剣を構え、一気に距離を詰める。
予想していた通りだが。
「早すぎな!」
叫ぶフォートの周囲に、半円上に、炎が舞い上がる。
三メートルを超える灼熱の炎——だが、ユーグは一歩も止まらない。
低い姿勢のまま、無言で横一線に薙ぎ払った。
それだけで、風を伴った剣圧が炎を吹き飛ばした。
「……剣圧、か」
たった一撃。それだけで、ユーグストの実力の片鱗が見えた。
フォートは、知らず笑っていた。
この高揚感……感じるのは、いつぶりだろうな。
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