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「冗談ばっかり!」
君は笑い出した。
「朝ごはん出来てるわよ。早く食べて会社に行かないと」
そう言って、僕の手を取り、ぐいっと引っ張った。
僕の体はやすやすと起こされる。
「さ、早く」
食卓には、朝からたくさんの料理が並んでいた。
パンに卵にサラダに‥‥‥
でも、品数が多すぎる。
サラダだけでも、数種類のレタス、10種類以上のチーズ、10種類以上のハム、かぼちゃ、じゃがいも、ラディッシュ、セロリ、数種類の海藻、トマトが10種類以上、きゅうり、10種類以上の豆、コーン‥‥‥
色とりどりのサラダの具材が小さな鉢に詰め込まれぎゅうぎゅうと所狭しと並び、テーブルに乗りきらない食材は床にまで置かれている。
たった2人の食卓には多すぎる。
言葉を失ったまま椅子に座る僕。
君は上機嫌で僕にサラダを取り分けてくれる。
透明な取り皿に、きっかり4種類ずつ。きっかり四等分に。
ロースハム、レーズン入りのホワイトチーズ、かぼちゃ、セロリ
「はい、どうぞ」
そしてまた次の皿を作り始める。
僕は、フォークに手も触れずに、彼女が食材と取り分けるその指先を呆然と見つめ続けていた。
トマト、かぼちゃ、カッテージチーズ、ベーコン
「はい、どうぞ」
彼女は僕の反応を気にもせずに、また次の皿を作り始め‥‥‥
「やめてくれ!!」
僕は思わず彼女の手と皿を手で払いのけた。
鈍い感触。
皿の硬い感触。
ガシャン。ドン。ごろり。
皿が床に落ちて、粉々に割れた。
そして、その真ん中に、君の右の手首がころがり落ちた。
転がり落ちた手首の真ん中にはまるで卵の殻のように真っ白な骨がのぞいていた。
骨の周りには赤い肉がうようよと蠢き、真っ赤な雄しべにも見える細い何かが結合先を探すように床を這い出していた。
なのに、血は一滴も、落ちていない。
「いやだ、もう」
君はカラリと笑いながら床に落ちた手首をもう一方の手で拾い上げた。
「だめよ。手が痛むでしょ。接合部は脆いんだから気をつけて」
そう言いながら、手首のない右腕と右手首を近づける。
腕と手首からは互いにうねうねと赤い紐状の肉が伸び、絡まりあう。
腕と手首の中央に見える白い骨はまるで遠く離れていた恋人に再開したとでもいうように、引き合うように結合した。
ガシャリ。
金属音が響く。
赤い肉は一滴の血を流すこともなく、互いに溶け合い融合し、元から一つの存在であったように絡み合い編み上げられていく。
真っ赤だったそれは少しずつ肌色の、彼女の皮膚の色に変化していった。
今はケロイドのように見えるそれは、あと5分もすれば跡形もなくなるだろう。
彼女は鼻歌を歌いながら、その様子を眺め、満足そうに微笑み、そして僕を見た。
「健康にいいんだから、野菜をたくさん食べてね?」
そういうと、自分の口に真っ赤なトマトを運ぶ。
彼女が口を開けて、見えた舌の色がやけに赤く見える。
食べるという行為がまるで拷問でもあるかのように、僕の体は彼女の言葉を受け付けなくなった。
目の前にあるまるで工場で詰められたように皿の上できっかり四等分された野菜たちを見ると、ゾクゾクと寒気が背中を走り抜ける。
これは、人間の食べ物なのか?
頭に浮かんだ言葉はそれだけ。
ほぼパニック状態の僕の頭は考えることを拒否し、体は食べることを全身で拒絶していた。
まるで真綿で首を絞められたように気管がぎゅっとつまり、呼吸が苦しくなる。
おかしいだろ、おかしだろ。人間の手首はそんな風に外れるわけないだろ。
なんで、そんな平然としてるんだよ。
当たり前のように話してるのはなんでだよ。
しかも、その手は、さっきまで温かかった。
間違いなく本物の手だった。
「なんで‥‥‥どうして‥‥‥」
絞り出した言葉はたったそれだけ。
「ん?どうしてって、なにが?」
「だって、君は8年前に死んだじゃないか」
「もう。ダメでしょ。そんなこと言っちゃ」
彼女は笑いながら手を目の前でひらひらと振った。
何か僕がつまらない冗談でも言ったかのように。
僕の目の前に揺れる彼女の白い手は、もうただの、普通の手にしか見えない。
血が通った、温かい手にしか見えない。
彼女はいつもその指先で僕を起こし、その手で僕のために食事を作ってくれた。
寒い日は互いに握り合い、暑い日は笑いながら小指を絡めた僕が大好きな彼女の手。
いま、ここにあるのは、一体‥‥‥
目の前にいる、彼女は、一体‥‥‥
「ひと」なのか?
ゾッとするような思念に身体中を支配されたその瞬間、鋭い痛みが目の奥を閃光のように駆け抜けた。
そうだ、そうだった。
‥‥‥思い出した!!
彼女は‥‥‥
君は笑い出した。
「朝ごはん出来てるわよ。早く食べて会社に行かないと」
そう言って、僕の手を取り、ぐいっと引っ張った。
僕の体はやすやすと起こされる。
「さ、早く」
食卓には、朝からたくさんの料理が並んでいた。
パンに卵にサラダに‥‥‥
でも、品数が多すぎる。
サラダだけでも、数種類のレタス、10種類以上のチーズ、10種類以上のハム、かぼちゃ、じゃがいも、ラディッシュ、セロリ、数種類の海藻、トマトが10種類以上、きゅうり、10種類以上の豆、コーン‥‥‥
色とりどりのサラダの具材が小さな鉢に詰め込まれぎゅうぎゅうと所狭しと並び、テーブルに乗りきらない食材は床にまで置かれている。
たった2人の食卓には多すぎる。
言葉を失ったまま椅子に座る僕。
君は上機嫌で僕にサラダを取り分けてくれる。
透明な取り皿に、きっかり4種類ずつ。きっかり四等分に。
ロースハム、レーズン入りのホワイトチーズ、かぼちゃ、セロリ
「はい、どうぞ」
そしてまた次の皿を作り始める。
僕は、フォークに手も触れずに、彼女が食材と取り分けるその指先を呆然と見つめ続けていた。
トマト、かぼちゃ、カッテージチーズ、ベーコン
「はい、どうぞ」
彼女は僕の反応を気にもせずに、また次の皿を作り始め‥‥‥
「やめてくれ!!」
僕は思わず彼女の手と皿を手で払いのけた。
鈍い感触。
皿の硬い感触。
ガシャン。ドン。ごろり。
皿が床に落ちて、粉々に割れた。
そして、その真ん中に、君の右の手首がころがり落ちた。
転がり落ちた手首の真ん中にはまるで卵の殻のように真っ白な骨がのぞいていた。
骨の周りには赤い肉がうようよと蠢き、真っ赤な雄しべにも見える細い何かが結合先を探すように床を這い出していた。
なのに、血は一滴も、落ちていない。
「いやだ、もう」
君はカラリと笑いながら床に落ちた手首をもう一方の手で拾い上げた。
「だめよ。手が痛むでしょ。接合部は脆いんだから気をつけて」
そう言いながら、手首のない右腕と右手首を近づける。
腕と手首からは互いにうねうねと赤い紐状の肉が伸び、絡まりあう。
腕と手首の中央に見える白い骨はまるで遠く離れていた恋人に再開したとでもいうように、引き合うように結合した。
ガシャリ。
金属音が響く。
赤い肉は一滴の血を流すこともなく、互いに溶け合い融合し、元から一つの存在であったように絡み合い編み上げられていく。
真っ赤だったそれは少しずつ肌色の、彼女の皮膚の色に変化していった。
今はケロイドのように見えるそれは、あと5分もすれば跡形もなくなるだろう。
彼女は鼻歌を歌いながら、その様子を眺め、満足そうに微笑み、そして僕を見た。
「健康にいいんだから、野菜をたくさん食べてね?」
そういうと、自分の口に真っ赤なトマトを運ぶ。
彼女が口を開けて、見えた舌の色がやけに赤く見える。
食べるという行為がまるで拷問でもあるかのように、僕の体は彼女の言葉を受け付けなくなった。
目の前にあるまるで工場で詰められたように皿の上できっかり四等分された野菜たちを見ると、ゾクゾクと寒気が背中を走り抜ける。
これは、人間の食べ物なのか?
頭に浮かんだ言葉はそれだけ。
ほぼパニック状態の僕の頭は考えることを拒否し、体は食べることを全身で拒絶していた。
まるで真綿で首を絞められたように気管がぎゅっとつまり、呼吸が苦しくなる。
おかしいだろ、おかしだろ。人間の手首はそんな風に外れるわけないだろ。
なんで、そんな平然としてるんだよ。
当たり前のように話してるのはなんでだよ。
しかも、その手は、さっきまで温かかった。
間違いなく本物の手だった。
「なんで‥‥‥どうして‥‥‥」
絞り出した言葉はたったそれだけ。
「ん?どうしてって、なにが?」
「だって、君は8年前に死んだじゃないか」
「もう。ダメでしょ。そんなこと言っちゃ」
彼女は笑いながら手を目の前でひらひらと振った。
何か僕がつまらない冗談でも言ったかのように。
僕の目の前に揺れる彼女の白い手は、もうただの、普通の手にしか見えない。
血が通った、温かい手にしか見えない。
彼女はいつもその指先で僕を起こし、その手で僕のために食事を作ってくれた。
寒い日は互いに握り合い、暑い日は笑いながら小指を絡めた僕が大好きな彼女の手。
いま、ここにあるのは、一体‥‥‥
目の前にいる、彼女は、一体‥‥‥
「ひと」なのか?
ゾッとするような思念に身体中を支配されたその瞬間、鋭い痛みが目の奥を閃光のように駆け抜けた。
そうだ、そうだった。
‥‥‥思い出した!!
彼女は‥‥‥
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